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第4話:村長ゴートンの嘆きと、死せる大地

その平屋は村の少しだけ高いところにあり、村を見渡せるところにある。

ハンスが荷解きをしているので、手持ち無沙汰の僕は外の空気でも、とドアから出ると、ちょうど下からトコトコと歩いてくる村長を見つけた


***


僕は、事務官のハンスが整えてくれた椅子に座り、向かい側では、村長のゴートンが石のように固まって座っている。

「……さて。村長。ゴートンさんだったっけ。どうしたのかな?」

僕が促すと、ゴートンは節くれ立った手で、ボロボロの羊皮紙を差し出してきた。  そこには、村の収穫量と、国へ納めた税の記録が並んでいる。

「は、はい……。本来であれば、殿下を豪勢な宴でもってお迎えすべきところなのですが……。今のこの村には、殿下にお出しできるような酒も肉もございませぬ。その不手際のお詫びに、せめて現状のご説明にと……」

ゴートンは力なく、村の窮状を語り始めた。  不作、魔物、そして「どうしても足りない」税金。  だが、僕の意識は、彼の話よりも手元の「数字」に釘付けになっていた。


(……なんだ、この気持ち悪い並びは)


前世で商社の経理財務部にいた僕にとって、この書類は「不快」そのものだった。


計算が合わない。項目の仕訳がデタラメだ。

何より、村の規模に対して税の割合が、明らかに「不自然」な上振れを見せている。


「……村長。ちょっと聞きたいんだけど」


僕が口を開くと、ゴートンはビクッと肩を跳ねさせた。


「は、はい! 何なりと……!」


「この帳簿の数字、おかしくない? ここ、去年の麦の税の合計、間違ってるよね。なんで繰り上げしてるの?あと、この支出の相殺……途中で足し算を混ぜちゃってる。


悪いんだけれど、ちょっと適当すぎないかな。しかも税の支払いが足りないんじゃなくて、相当高く払ってることになってるよ」



「申し訳ございません……。え……? いえ、そんなはずは……」


ゴートンは困惑した表情で、視線を泳がせた。


「わ、わたくしたち平民は、お恥ずかしながら計算というものがさっぱりでして……。

役人様に『これが正解だ。お前たちが納めるべき額だ』と言われれば、そうですかと従うしかございません。先日も何度も確認していただきましたが、『間違いはない。』とのことで……」


「……」


なるほど。計算ができないのをいいことに、やりたい放題やられていたわけだ。


僕は羽ペンを手に取り、無言で帳簿を修正し始めた。  

スラスラと、滞りなく。    


土地が痩せている以前に、管理上の「計算ミス」を装った搾取が、この村を自滅させている。



「……できた。ほら、ここをこう直して整理すれば。実際にはあと三ヶ月分は余剰があるはずだよ。村長、君たちは餓死する必要なんてなかったんだ」


「な……ななな……。あ、で、いや。そうしますと、私たちはどうしたらよろしいのでしょうか。お役人の方に確認いただいておりますので」


ゴートンが目を見開いたまま、パクパクと口を動かしている。  


「大丈夫だよ、ゴートンさん。ここから先は僕の仕事だよ。ねぇハンス。」


横に控えていたハンスが、鋭い視線で帳簿を覗き込んだ。


「……殿下。今の修正、あまりに鮮やかです。しかし、これほど明白なミスを『役人が何度も確認した』というのは……もはや過失ではありませんな」


「そうだね。ハンス、その『役人』を今すぐここに呼んできて。直接、計算式について説明をもらおう」


僕は背もたれに体を預けた。  事務屋としての本能が、この「不自然な上乗せ」の背後にある、どす黒い影を察知していた。

読んでいただき、ありがとうございます。


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