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第3話:凍える中庭の中の試作品

寒風が吹き抜ける中庭。僕は石造りのベンチに腰を下ろし、かじかむ指先で必死に木の端材を削っていた。秋服を何枚も重ね着しているせいで、腕を動かすたびに「シュコシュコ」と妙な摩擦音が響く。


「……ねえ、リオン。あなた、まさかそんな破片を削って焚き火でもするつもり? 効率が悪すぎるわよ」


スタイリッシュなネイビーのコートに身を包んだシルヴィアが、呆れたように僕の手元を覗き込んできた。僕は鼻をすすりながら、力なく首を振った。


「焚き火なんて贅沢言わないよ。火をおこす体力すらないんだ。……運動するとね、体がポカポカするんだよ。でもただ動かすだけだと面白くないから、ちょっとしたものを作るから見てて」


僕は丸太のような腕をぎこちなく動かし、ナイフを走らせる。だが、不器用な僕が削り出したのは、表面はガタガタ、厚みも左右でバラバラな、円形に近い「何か」だった。


「……お兄様。それは、お皿……ですか?」


ピンクのうさぎさんの耳当てをし、淡いピンクのコートにを着たリーゼが、不思議そうに尋ねてくる。


「お皿じゃないんだ。……いいかい二人とも。これを僕が投げるから、ほらシルヴィア、そっち行って」

「ちょっと、なんで私がそんな……。というか、その不格好なものを追いかけろっていうの?」


不満げな声を上げるシルヴィアを無視して、僕は手首をスナップさせた。

 だが、歪な木の板は物理法則に喧嘩を売るような軌道を描き、シルヴィアの頭上をかすめて植え込みへ突っ込んだ。


「あぶなっ! ちょっと、どこ投げてるのよ!」

「ごめんごめん。……ほら、拾って投げ返して! 動かないと、僕、本当にこのまま凍って石像になっちゃうから!」


僕が切実に叫ぶと、シルヴィアは眉を寄せながらもしぶしぶ板切れを拾い上げた。彼女はガタガタな板をまじまじと見つめ、重心を確かめるように軽く放り投げてみせる。


「……こんな感じかしら。いくわよリオン、私が『正しい投げ方』を見せてあげる!」


シルヴィアが鋭く腕を振ると、板切れは僕が投げた時とは比較にならない速度で、真っ直ぐに僕の胸元を強襲した。

 僕は慌てて受け止めようとしたが、着膨れした腕がうまく動かない。板は僕の胸の厚い布に当たり、鈍い音と共に「ボヨン」と弾んで地面に落ちた。


「……ふふ、シルヴィア。僕を仕留めようとしたんだろうけど、この着膨れが天然のクッションになったよ」

「……何よそれ、可愛くないわね! ほら、次はリーゼ様の方に投げてあげなさい!」


ところが、僕がリーゼの方へ投げた板はあらぬ方向へ逸れてしまい、遠くの地面へ落ちた。


「あぁっ! ……あれれ? またあんな遠くまで……。お兄様、飛んでいってしまっています〜」


リーゼは「むぅ」と頬を膨らませると、トコトコとその板を拾いに草むらの中に入っていった。


草むらの中から時折見えるリーゼのうさぎさんの耳当てが、ぴょこぴょこ跳ねていて可愛らしい。


慌てて拾い上げた彼女は一生懸命に投げ返そうとしたけれど、板はヘロヘロと舞い、二人のちょうど中間あたりでポテリと力尽きて落ちた。


(うーん。やっぱりリーゼには、飛んでいるものを掴むのも真っ直ぐ投げ返すのも難易度が高いかな……)


せっかくの遊びでリーゼが飽きてしまったら大変だ。もっと彼女が面白くなるためには……。


「……だったら、こういうのはどうかな。リーゼ、ゲームにしよう!」


僕は地面に突き刺さった一本の短い杭――『ピック(棒)』に目を留めた。


「キャッチするのはお休みだ。今度は、あそこにある棒を狙って投げる競争にしよう。あのピックの一番近くに投げられた人の勝ち……っていうのはどうだい?」


 リーゼの目が、パッと輝いた。

 止まっているものにぶつける、あるいは近づけるというルールなら、彼女の「遊び心」が刺激される。

「あ、それなら私にもできそうですわ! なんだか狙い撃ちみたいで格好いいです!」


 これこそが、僕が考案したゲームの始まりだった。

 「ふふん……どうだい。これこそが、僕が考案したゲーム……」


 リオンが勝ち誇ったような笑みを浮かべたその時。

 ピックを目がけて全力投球し始めたリーゼの「聖母ゆえの熱狂」が、リオンをさらなる地獄へといざなうことになるとは、まだ気づいていなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。


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