第2話:マントの下の秘密、着膨れのリオン
冬の王宮は、石造りの壁が冷気を蓄え、まるで巨大な冷蔵庫のようだった。
僕の執務室も例外じゃない。吐き出す息は真っ白で、指先の感覚はとうに消え失せている。
「……ねえ、ハンス。僕のファッションについて、率直な意見を聞かせてくれないかな?」
僕は、自分の丸太のように太くなった腕を、ハンスの方へぎこちなく突き出した。
今の僕は、マントの下に秋用シャツを三枚重ね、ベストを二枚着込み、古い布を腹に巻いた「着膨れの要塞」だ。
あのグレモリー公爵が冬服の申請を却下しやがったせいの、涙ぐましい生存戦略である。
「率直に申し上げます。殿下、非常に仕留めやすそうでございますな。殿下がもし魔物でしたら、わたくし、真っ先に狙いを定めます。あと、布同士が擦れる音が先ほどから『シュコシュコ』とうるさうございますな。隠密行動もままなりません」
「……ハンス、君はさっきから僕を暗殺するシミュレーションでもしてるの? というか、僕だって好きでシュコシュコ言わせてるわけじゃないんだよ!」
憤慨して腕を振ろうとしたが、服の厚みで肩が上がらない。
僕が情けない「シュコシュコ」という音を奏でていると、執務室の扉が勢いよく開いた。
「お兄様! お外へ遊びに参りましょう!」
現れたのは、暖かそうなコートに身を包んだリーゼとシルヴィアだった。
「リーゼ、君はいつも可愛いけれど、今日はうさぎさんみたいで特に可愛いね。」
「そうでしょ、お兄様。特にうさぎさんの耳当てが私もお気に入りなのです」
僕がリーゼを褒めていると、シルヴィアも何やらそわそわしている。
(なるほど、そういうことか)
「あー……シルヴィア、君も。なんだか今日の君は、いつもと違って本物のお姫様みたいに見えるね。――あ、それから寒いから、そこ閉めてくれる?」
「……っ! ちょっと、今『いつもと違って』って言った!? それに何よ、開口一番『閉めろ』ですって!? あんたのその格好、シュコシュコうるさいしバカじゃないの!」
シルヴィアは一瞬頬を赤くしたが、すぐにいつもの怒声が飛んできた。
褒めたのは本心なんだけど、物理的な冷気には勝てないんだ。
「ねえ、リーゼ。お兄様はお外で体を動かそうと思うんだけど、リーゼはどう思うかな? 一緒に遊んで、ポカポカにならない?」
僕がそう問いかけると、リーゼはパァッと顔を輝かせた。
「お兄様と一緒に遊びたいですわ! わたくし、お外に行きたいです!」
天使のようなリーゼの返事に、僕のやる気スイッチが入った。
可愛い妹が「やる」と言ったんだ。最高のお膳立てをしなきゃいけない。
「よし。分かった、行こう、中庭へ。ハンス、倉庫から適当な木の端材を持ってきて。あと、ナイフも。リーゼのために、僕が『最高に体が温まる道具』を作ってあげるから」
僕の言葉に、シルヴィアが「……道具?」と怪訝な顔をする。
ハンスは冷徹に「魔物の足音ですな」と呟きながら、主人の奇妙な「冬の戦い」を記録し始めるのだった。
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