表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/52

第1話:公爵の算盤(そろばん)と、黄金の誘惑

 赤々と燃える暖炉を背に、グレモリー公爵は手元の書類へ、力強く一本の横線を引いた。

 それは、第1王子リオン・アルカディアが提出した、極めて正当な――そして今の彼にとっては生存に関わる――『新規冬服支給申請書』申請書であった。


「却下だ。……ふん、農業で煮え湯を飲まされたが、今度はそうはいかんぞ」


 公爵は、使い古された算盤そろばんを無造作に弾く。パチパチという硬い音が、静かな室内で不気味に響いた。

 前回の農業改革により、公爵は長年かけて構築した「農民からの搾取ルート」を一つ潰されていた。その補填先として彼が目をつけたのは、王国の富を物理的に鋳造する「職人ギルド」であった。


「閣下、職人ギルドの長がお見えです」


 控えていた側近の言葉に、公爵は口角を歪めた。

 招き入れられたギルド長のバルトロは、卑屈な笑みを浮かべて頭を下げた。


「……バルトロよ。例の『鋳造計画』の件、手筈は整っているな?」


「はっ、閣下。王立鋳造所に納める『金の延べ棒』の鋳型(型)でございますな。……しかし、これまでのものより一回り大きくするとなりますと、原材料の手配や検査の目が……」


 不安げに目を泳がせるギルド長に対し、公爵はワイングラスを揺らしながら冷徹に笑った。


「案ずるな。現場のことはお前ら職人の専権事項ではなかったのか? 自分の匙加減でどうにでもなる、といつもお前が言っているではないか」


「そ、それは左様でございますが……」


「それに、検査をするのは我が財務局だというのを忘れていないか?」


 公爵の冷え冷えとした視線に、バルトロはごくりと喉を鳴らした。

 今の王国には、長さや重さの厳密な国家基準はない。職人の「匙加減」と、公爵が握る「検査」という二つの闇を重ねれば、数パーセントの黄金を中抜きすることなど容易い。


「……さすがは閣下。恐れ入りました。リオン殿下のような『釘一本の値段も、正確な寸法も知らぬ不器用な王子』であれば、尚更気づくことはありますまいで」


「左様。あの小僧には、せいぜい去年の服を継ぎ接ぎして着させておけばいい。これを見ろ」


 公爵は、リオンの申請書――『新規冬服支給申請書』を指先で弾いた。


「マント一枚を除き、すべて不許可だ。冬服など、去年のものをサイズ直しすれば足りる。……いつ仕上がるかは、ギルドの気分次第だがな。小僧を寒さで無力化している間に、我らは黄金の山を築くのだ」


 公爵は、リオンの申請書と添付書類の購入被服一覧に巨大な「不許可」の赤印を、宣告のように叩きつけた。リオンの不器用さを嘲笑いながら弾かれる算盤の音だけが、豪華な執務室に鳴り響いていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


いかがでしたでしょうか。続きが読みたいと思ったら、

ブックマークと下の☆の評価、よろしくお願いします。

作者のモチベーションが上がります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ