第12話:王都への帰還、あるいは二度目の呼び出し
カスピでの「実務教育」という名目の左遷生活が始まって数ヶ月。
ある日の昼下がり、館に一人の伝令がやってきた。
「殿下、王都よりお知らせです。予定の期日となりましたので、一度王都へ戻り、進捗を報告せよとのことです」
それを聞いた僕は、内心で小さくガッツポーズをした。
よかった、やっとこの不毛な地での「働いているふり」が終わる。村の緑も増えてリーゼも喜んでいるが、これ以上の面倒が起きる前に引き上げて王宮でヌクヌクするのが一番だ。
「……あー、やっと帰れる。ハンス、荷造りをして。王都に帰ったら今度こそ、誰にも邪魔されずに有給休暇を消化するんだ」
◇◇◇
王都に戻ってからの数ヶ月、僕はカスピでの出来事など忘れたかのように、王宮の片隅で「目立たない皇太子」としてリーゼと共に平穏な日々を過ごしていた。
カスピについて何やらハンスが報告書を提出しているようだが、まあ、所詮は辺境の小さな村の話だ。誰も気に留めないだろうと思っていた。
……だというのに。
「殿下! 国王陛下より至急の呼び出しです! 謁見の間へ!」
突然部屋に飛び込んできた使いの者に、僕は飲んでいたお茶を吹き出した。
「えっ、何……? 僕、何かしたかな……?」
心当たりがありすぎて逆に分からない。
カスピで適当に散歩していたのがバレた? それとも、事務予算でちょっといい茶葉を買ったのが横領だと思われた?
(いや、僕はただリーゼのためにクローバーの種を撒いていただけなんだけど……!)
僕はガクガクと膝を震わせながら、数ヶ月ぶりに父である国王の前に引きずり出された。
◇◇◇
謁見の間には、なぜかルネとハンス、そして不機嫌そうなシルヴィアまで揃っていた。
玉座に座る国王の横では、グレモリー公爵が「チッ」と舌打ちしそうな顔でこちらを睨んでいる。
「リオンよ……カスピの村から届いた続報、そしてこの絵画。汝の成し遂げたことは、もはや隠し通せるものではないぞ」
国王の前には、ルネが描いたあの大作が置かれていた。
恥じらう女神と、天から祝福を授ける僕の姿。
「……あー、父上。それは、その……ただの現場の記録というか」
僕は冷や汗を拭いながら、必死に場を収めようと言葉を繋ぐ。
「ちょうどシルヴィアが、ゼノビア帝国の皇帝陛下……お義父様に手紙を書きたいと言っていたので。どうせなら、この絵も一緒に送ってあげてはどうでしょう? 向こうのご家族も、彼女が元気にやっている姿を見れば安心するでしょうし。……まあ、ちょっとした家族に送る絵葉書みたいなものです」
僕としては、この恥ずかしい絵をさっさと国外に放り出して、自分の視界から消したかっただけなのだが。
「…………絵葉書か?」
国王が絶句した。
グレモリー公爵にいたっては、目を見開いて僕を見ている。
「よい。ゼノビア帝国の皇女と家族のように仲良くやっているという、いい喧伝になるであろうな。」
シルヴィアは「家族って……誰が貴方の家族よ!」と口をパクパクさせながら真っ赤になって叫んでいるが、手紙と一緒に絵を送ること自体は否定しなかった。
「よかろう! ゼノビア帝国へ、リオンの親書とともにこの絵画を贈ろうではないか! これぞ、我が国の平和の象徴である!」
国王の宣言により、事態は僕の預かり知らぬところで「高度な外交工作」へと昇華されてしまった。
◇◇◇
王宮からの帰り道。僕はハンスを振り返った。
「ねえハンス。僕、ただ静かに暮らしたいだけなんだけど、なんでどんどん話が大きくなってるの?」
「殿下、それこそが『事務』の本質にございます。小さな一歩が、適切な回覧を経て、巨大な実績へと書き換わる……。まさに完璧な処理ではありませんか」
ハンスは眼鏡をキラーンと光らせそう言った。
カスピの村を緑にした「サンポ」の噂は、この絵画とともに街道を越え、帝国にまで届こうとしていた。
僕の平穏な隠居生活は、開始早々、致命的な「成功」という名で崩壊しそうだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。続きが読みたいと思ったら、
ブックマークと下の☆の評価、よろしくお願いします。
作者のモチベーションが上がります!!




