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第7話:リオンの散歩、あるいは効率的な種まき

 翌日、僕はハンスが手配した白詰草の種を持って、リーゼと一緒に村の視察に出かけることにした 。

 ずっしりと重い袋を抱えて歩くのは、事務屋の僕にとっては少々骨の折れる仕事だが、隣で「お兄様、楽しみですわね!」とはしゃぐリーゼの笑顔を見れば、足取りも自然と軽くなる……ような気がする 。


「さて、リーゼ。このあたりから始めていこうか。君が望む『花いっぱいの村』にするための、最初の大切な仕事だよ」 「はい、お兄様! 私もお手伝いしますわ!」


僕は袋から適当に種を掴むと、ひび割れた土の上へ、パラパラとリズムよく放り投げた 。


 一箇所に留まって丁寧に穴を掘るなんて、非効率なことはしない 。

 歩きながら、目についた場所へ均等に広がるよう、手首のスナップを利かせて撒いていく 。

 僕にとっては「リーゼの願いを叶える」という重要タスクを、最小限の工数で最大範囲に適用させる、極めて合理的な「一括処理」だった 。


◇◇◇


 村の道を進んでいくと、農作業の手を止めてこちらを恐る恐る見つめる農民や、洗濯物を抱えたその妻たちの姿があった 。

 彼らはまだ、王都から来た新しい領主一団をどう受け入れていいか分からず、どこか身構えているようだった 。


「あら、こんにちは! 良いお天気ですわね」


リーゼは臆することなく、一番近くにいた農家の女性にふわふわとした足取りで寄っていった 。


「ひっ、は、はい……。お、お初にお目にかかります、姫様……」 「まあ、そんな風におっしゃらないでくださいませ。これから一緒に過ごす家族ではありませんか」


リーゼの、春の陽だまりのような微笑み 。

 毒気のないその言葉に、女性の強張っていた肩が目に見えて緩んでいく 。


「私はリーゼ、この方のいもうとですの。今は春を呼ぶためのお手伝いをしていますのよ。……その赤ん坊、とってもかわいらしいですわね。お名前は何ておっしゃるの?」

「……ア、アニタと申します。……まあ、姫様にそうおっしゃっていただけるなんて」

「ふふっ、可愛いですわね。ほら、今アニタが笑いましたのよ」


いつの間にか、リーゼの周りには村人たちが集まり始めていた 。

 彼女は一人ひとりの目を見て、何気ない世間話を交わし、子供たちの頭を優しく撫でる 。

 その光景は、殺伐としていた村の空気を、一瞬で和やかなものに変えてしまった 。


 僕はその様子を横目に、「よし、リーゼがみんなと仲良くしている間に、残りの仕事も済ませてしまおう」と、さらに軽やかな手つきで種を広げていった 。


 特に、人がよく通る道端や、リーゼが立ち止まった場所の近くには重点的に 。

 ここが真っ白な花で埋まれば、リーゼもきっと満足し、僕への信頼スコアも維持されるはずだ 。


◇◇◇


 少し離れた場所で、事務官のハンスがその様子をじっと観察していた 。


「(……なるほど。殿下はリーゼ様に民の慰撫いぶを任せ、その間にご自身は、人の流れや土の状態を瞬時に見極めて種を配置しておられるのだな)」


ハンスは感銘を受けたように手帳にペンを走らせる 。


「(一見、無造作に撒いているように見えるが、あれは村人の歩行によって種が自然に土に踏み込まれることまで計算に入れた『省力型かつ高効率』な散布法か。事務官として、この現場主義の最適化……学ばせていただくことが多すぎる)」


ハンスは独りごちて頷き、リオンの「散歩がてらの種まき」を、高度な管理戦略として記録に留めた 。


◇◇◇


 館に戻る頃には、僕の手元の袋はすっかり空になっていた 。


「お兄様、今日はとっても楽しかったですわ! 村の皆さんも、とっても良い方たちばかりでした」 「それは良かった。種は4分の1ぐらい撒き終えたし。数日作業すれば、春を待つだけだね」


僕は心地よい疲れと共に、館の椅子に深く腰掛けた 。

 リーゼは村人との交流に満足し、僕は重要タスクを無事に完遂した 。


 僕にとっては、リーゼの笑顔と平穏な生活を守るための、ごく当たり前の「事務的な配慮」に過ぎなかったけれど 。


 庭先に撒かれた無数の小さな種が、これからどんな「春」を連れてくるのか 。

 窓の外の静かな大地を見つめながら、僕は少しだけ、芽吹きの時が楽しみになったのである 。

読んでいただき、ありがとうございます。


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