#5 ハーレムパーティー(仮)になってしまった
「ギョーザのオッサン。どこまで行くんだよ?」
「クギョウ=トウザだ略すな。まずは軽くオーグリンでも討伐してもらう。後クギョウ教官な」
グレン達は試験としてオーグリン討伐に赴き、勇士の厳しい現実を知る事になる。
「オーグリン討伐って……む、無理ですよ教官! 村にいた時、僕とグレンが2人がかりでやっと一匹倒せたモンスターなのに!」
「じゃあ帰るか? オーグリンなんて、勇士にとっちゃ、強さは下から数える方が早いぞ。その程度1人で倒せないんじゃ、勇士になるなんて無理だ」
「う……」
え? ゴブリン系の敵なんて大した事ないって? 答えは否だ。
群れで行動し、言語や武器を扱う知能もある。気性が荒く、咬筋力や握力も人間の何倍もあるモンスターだ。
現実世界で言えば、武器を持ったチンパンジーが群れで行動してるようなもの……脅威じゃないわけがない。地球にいたら、間違いなくオーグリンの惑星となっていただろう。
「さて、そろそろここらで野営するか。暗くなってきたしな」
日が暮れた頃、道中の森でキャンプをする事に。
火を起こし、狩ってきた肉を焼く。なんか、原作では見なかった描写って新鮮だな。
だが焚き火を囲んで漂ってきたのは、肉が焼ける匂いではなく、鼻を突き刺す獣臭だった──
「ゲゲゲ……」
木々のあちこちから覗く小さな影。
尖った耳に、赤錆色の肌。身体は腰の曲がった老人のようだが、その四肢は筋肉質そのもの。鋭い目付きをした野性的で凶悪な風貌──間違いない。オーグリンだ。オーグリンの群れが俺達の前に現れた。
「な、囲まれた……!?」
グレンはすぐに臨戦態勢を取る。フランはグレンの後ろに隠れつつ、手持ちのナイフを構える。メイザーは静かに手のひらをかざした。
ていうかくっさ! ジジイの鼠径部みてえな臭いがする! 鼻で呼吸するのも辛い獣臭だ。
だが俺はオーグリンに囲まれた恐怖心より、ある疑問が浮かんできていた。
「オーグリンが……人前に?」
俺の呟きに反応したのは、冷静に傍観していたクギョウ教官だった。
「確かに妙だな。オーグリンは基本的に警戒心が強く、人前に現れたりはしない。それに奴らの瞳……」
よく見ると、オーグリンの瞳は濃いピンク色に染まっている。
「まさか……魅了魔法!? って事は闇魔法か!」
「ほう、よく見抜いたな。その通り。コイツら、誰かに操られているぞ」
闇魔法──一般的に知られる魔法とは違い、魔竜の力を必要としない特殊な術式。魅了、回復、幻惑、時止め……現実世界で一般的に知られる魔法は、ほぼ全てこの闇魔法に分類されるという訳だ。
だが闇魔法は、魔法より更に才能を必要とする。魔法は強さを度外視すれば、理論上誰でも取得可能だ。
しかし闇魔法は完全に血統に依存する。因子を持たない者は、どう努力しても取得は不可能。ヒョウガは闇魔法を使える血筋ではない。
火や水といった属性を持つものは魔法。それ以外を闇魔法。それがアイス・オブ・グレンでの魔法論なのだ。
「……予定と違うが、向こうから出てきたのなら丁度いいか。お前ら、倒してみろ」
「そ、そんな簡単に!?」
「いいじゃねえか。分かりやすくてよォ。上等だぜ!」
拳を叩き、背の棍棒を握るグレン。
そしてその場から飛翔し、目の前にいたオーグリン目掛けて棍棒を振り下ろす。その打撃はオーグリンの顔面に直撃する。
「ギャアアア!」
「っしゃ! 当たったぜ!」
「ギ……ガァーッ!」
オーグリンはすぐに体勢を整え、ギリッとグレンを睨む。
だがグレンに向かっていくことはなく、なんとこちらに駆けてきた。
「え?」
「がァァァーッ!!」
少し離れた場所で孤立していたフランに、オーグリンは狙いを付ける。
怯えて少し逃げていたのが仇となったようだ。くそ、コイツ本当に狡猾な野郎だ。逃げるのではなく、ひ弱で孤立していたフランに向かっていくとは。
「フラン!」
「い、いやああああぁぁーっ!!」
フランに襲いかかるオーグリン。
クソ、間に合わねえ。このままじゃフランが──だが、その心配はすぐ杞憂になる。
「やあああああぁぁーッ!!!!」
「ゲエエエェェェーッ!?」
フランが目を瞑ったまま、オーグリンを殴りつける。
すると、オーグリンははるか後方まで吹っ飛び、木へと叩きつけられ動かなくなる。
な、なんだ今の……武道家が見せるような美しく洗練された動きは!? 身躱しから転じる掌底突きが完璧な流れだった。
「やだぁ、怖いよお!」
目に涙を浮かべるフラン……それを唖然と見守る俺とクギョウ教官。
フランは原作だと後衛でサポートする立ち位置なんだけど、これ多分普通に前線で戦った方が強いんじゃないか……?
「……とりあえずよくやった」
教官は倒れたまま動かないオーグリンの元に行き、腰のナイフを抜く。
「悪く思うなよ──」
「デ、ウロ……シルフェ……リア……」
ナイフがオーグリンの喉を貫く。俺はオーグリンが最期に言い放った言葉を聞き逃さなかった。デウロ……シルフェリア?
シルフェリアと言えば、四大国家の一つであるシルフェリア連邦か。うーむ、何故オーグリンがそんな言葉を?
「まだまだいやがる。普通は逃げ出すはずなんだが、魅了魔法のせいで殺意剥き出しだな」
仲間の死など意に介さず、残りのオーグリンたちが一斉に襲いかかってくる。
数は十体以上。流石にグレンとフランだけじゃ捌ききれない数だ。俺も加勢しようと、腰の剣に手をかけた時だった。
「下がってて。邪魔よ」
冷ややかな声と共に、メイザーが前に出る。
彼女はゆらりと腕を上げると、まるで指揮者のように指先を振った。
「水魔法──」
刹那、空間に生じたのは無数の水球。
いや、それは瞬く間に鋭利な杭へと形を変え、高圧洗浄機のような凄まじい噴出音と共に放たれた。
「ギ、ギャアアアアッ!?」
物理法則を無視した水の凶器が、オーグリン達の身体を容易く貫通する。
回避する暇などない。前衛にいた数体はハチの巣にされ、後衛にいた個体も水圧で木々ごと薙ぎ倒された。
一瞬だ。たった一瞬で、狂暴なモンスターの群れが全滅したのだ。
「……お前、魔法使えたのかよ」
これには流石のクギョウ教官も呆れたように口を開けている。
「末恐ろしいガキだ。魔力量も桁違いじゃねえか」
髪をかき上げ、涼しい顔をするメイザー。
すげえ……序盤でもこんな強かったんだな。
本来ならもっと後の展開でお披露目される技だが、この状況なら使うしかないよな。
「ふん。口ほどにもないわね」
メイザーは倒れ伏したオーグリンたちに背を向け、興味なさそうに踵を返す。完璧な勝利。誰もがそう思った。
だが──俺だけは見ていた。水たまりと化した血の海の中で、まだ瞳を怪しく光らせる一匹が残っていることを。
(マズい、まだ息がある……!)
魔法を撃ち尽くし、完全に油断しているメイザー。その背中へ向けて、死にぞこないのオーグリンが最後の力を振り絞り、飛びかかろうとしていた。
声を出して警告する? いや、間に合わない。魔法で迎撃? いや、出し方なんて知らねえし。なら──!
「危ないッ!」
思考するより先に、俺の身体は動いていた。
貴族として鍛えられた基礎体力、そして火事場の馬鹿力。俺はメイザーにタックルするように飛び込み、その身体を抱きかかえて地面へと転がる。
「きゃっ!? な、何すんのよ……!」
「ガアアアアッ!」
直後、メイザーが立っていた空間を、オーグリンの鋭い爪が切り裂いた。
もし俺が突き飛ばしていなければ、彼女の細い首は飛んでいただろう。
俺とメイザーは重なり合うように倒れ込む。俺の背中越しに、オーグリンが着地する音が聞こえた。
「死に損ないがァッ!」
すぐに反応したグレンが、すかさずオーグリンの脳天に棍棒を叩き込む。今度こそ、トドメの一撃だった。
「ギュ……」
断末魔と共に、オーグリンは息絶える。
ひとまず危機は去ったみたいだ……メイザーと目が合う。だが俺はそこで気付く。メイザーに覆いかぶさるようにしているこの状況、ちょっとやばくね?
「な、な……」
「あ、ごめんメイザー」
「何するの……!? 何する気……!?」
いや、助けたんだけど。混乱しているのか、メイザーは少し顔が赤い。
だが、問題はここからだった。オーグリンの身体から、どす黒いピンク色の霧が噴出したのだ。それは行き場を失った『魅了魔法』の残滓。
闇魔法は魔法と違い、世界から逸脱した存在。魔竜の影響を受けない闇魔法は、強く世界に残留してしまうのだ。
術者を失った魔力は、最も近くにいる生命体かつ、魔力の濃度が高い存在──つまり、俺の下敷きになっているメイザーへと降り注いだ。
「え……?」
「しまっ──メイザー!」
俺の叫びも虚しく、メイザーはその霧を真正面から浴びてしまう。
甘たるい香りが辺りに充満する。俺は慌てて彼女から身を離し、様子を伺う。
「あ、ああああぁぁ……っ!!」
「おい、大丈夫か!?」
メイザーはぺたんと地面に座り込んだまま、うつむいていた。
肩が小刻みに震えている。マズい。魅了魔法の直撃だ。魅了魔法が移ってしまったら……メイザーが敵に──
「……て」
「え?」
「どうして……どうして私なんかを……」
メイザーが顔を上げる。
その瞳は、さっきまでの冷徹な氷のような色ではなかった。
とろりと潤み、熱を帯びたピンク色。頬は朱に染まり、荒い呼吸を繰り返している。彼女は震える手で、俺の頬に触れた。
「貴族なんて……大嫌いだったのに……どうして、命がけで私を守ってくれたの……?」
なんだ? 様子がおかしい。俺に迫るメイザーを制止しようと手を出したが、彼女はその手をガシッと掴んできたではないか。
「ヒョウガ様……♡」
メイザーは恍惚とした表情で、俺の名前を呼んだ。
その声色は、甘く、重く、そしてどこか危険な響きを含んでいた。
思考が停止する。嘘だろ……メイザーの魅了魔法の対象が俺に!?
「あー……ヒョウガ? お前、なんかしたか?」
クギョウ教官がドン引きしながら尋ねてくる。
俺は天を仰ぎたくなった。
これ、もしかして原作より厄介なことになってないか……?
アイス・オブ・グレンを見るときは
部屋を明るくして テレビから離れて
ブックマークを押してから見るんだぜ! グレン




