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#22 魔物のランク付けはワクワクする

 バチバチバチッ!!

 空気が焦げる臭いと、鼓膜をつんざくような雷鳴。

 俺の視界は真っ白に染まり、全身を駆け巡る激痛に意識が飛びかけた。


「ぐ、あぁぁぁぁっ!!」

「オラどうした。動きが止まってるぞ」


 クギョウ教官の指先から放たれた雷撃が、容赦なく俺達を焼く。

 これ……魔法の特訓というより、ただの電気拷問じゃね?

 回避行動を取りながら魔法を構築する──そんな芸当、この雨あられと降り注ぐ稲妻の中でできるわけがないって!


「はぁ、はぁ……畜生……ッ!」


 俺は地面を転がり、無様に攻撃を躱すのが精一杯だった。

 横を見れば、グレンも黒焦げになりながら大の字で倒れている。


「へへっ。強えなぁ、オッサン……」


 グレンは痙攣する体で空を見上げ、ニヤリと笑った。


「一発も入れられねえ……勇士ってのは、こんなに遠い場所にいんのかよ……」


 絶望的な実力差。普通なら心が折れてもおかしくない状況だ。

 だというのに、グレンの目は死んでいない。むしろ、遥か高みにある頂を見て、武者震いしているようにすら見えた。

 夢が遠くても、だからこそ燃える──その清々しい横顔に、俺は痛みを忘れて内心で苦笑した。やっぱお前、主人公だよ。


「……教官。質問してもいいですか?」


 フラフラと立ち上がったフランが、息を切らしながら尋ねた。


「僕達って、世間の勇士だとどれくらいの強さなんですか? まだ一番下の『黒紋』にも届いていませんか……?」


 その問いに、クギョウ教官は雷撃を止め、しばし空を仰いだ。


「……世間一般の基準で言えば、魔法が使える時点で『黒紋』の実力はあると見なされるだろうな」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。だが勘違いするなよ。俺から言わせれば、魔法が使える程度じゃスタートラインに立ったに過ぎん」


 教官は冷たく言い放つ。


「勇士協会はデカくなりすぎた。組織が肥大化すれば、腐敗は必然的に蔓延する。紋章を金で買って勇士になる貴族、勝手に紋章を刻んで勇士を名乗るゴロツキ、果てには罪人が勇士を殺し、その紋章を剥いで成り代わるケースすらある」


 教官の言葉に、俺達は息を呑んだ。


「それがまかり通るのは下級紋だけだがな……今の協会はザルだ。玉石混交の掃き溜めと言ってもいい」


 俺は内心で納得していた。

 ここは前世のような高度な情報管理社会じゃない。ネットもデータベースもない時代だ。地方に行けば本人確認なんて適当だろうし、なりすましも横行するだろう。

 『勇士』というブランドが強すぎるが故の弊害か……どこまでいってもダークな世界だ。


「つまりだ……」


 教官が俺達を睨みつける。


「魔法もまともに使えんお前らはヒヨッコ以下だ。学園最優秀パーティーだなんだと浮かれてると、外の世界じゃすぐに屍になるぞ」


 その言葉は、冷や水のように俺達の慢心を洗い流す……そうだ。俺達はまだ何も成し遂げていない。マインに遊ばれただけの子供だからな。いや、まだ15歳だし子供だけどさ?


「ヒョウガ。次はお前だ。前回掴んだ感覚、忘れてないだろうな?」

「はいッ!」


 俺は前に出た。

 深呼吸をして、意識を研ぎ澄ませる。


(イメージしろ……熱運動の停止。絶対的な静止命令)


 以前、指先に小さな結晶を作った時の感覚。あれを応用し、拡大する。

 俺は右手を前に突き出した。対象は、10メートル先に置かれた岩。

 大気中の水分、魔力、そして分子の運動。全てを俺の計算式ロジックで支配する。


(止まれ……!)


 その命令は前回よりも遥かに速く、そして広範囲に伝播した。

 パキィィィィンッ──っと、硬質な音が響き渡る。

 俺の手のひらから放たれた冷気は、瞬時に大気中の水分を凝固させ、一本の巨大な『氷の槍』を形成した。


「や、やった!」


 白く濁った氷塊じゃない。向こう側が透けて見えるほど透明度が高く、鋼鉄以上の硬度を持った完全なる氷の凶器。

 よし、なんとなく掴んできたぞ。これなら、実戦で使える……! 

 氷槍は一直線に飛び、岩に深々と突き刺さると、着弾点から一気に凍結を広げ、岩全体を粉々に砕き割った。


「す、すげえ……!」


 グレンが目を丸くする。ただ凍らせるだけじゃない。運動エネルギーごと凍結させる貫通力。

 やっと……やっとヒョウガの背中が見えてきたぞ。魔法の魔の字も知らなかった現代人の俺でも、意外となんとかなるもんだな。


「……ふん。形にはなってきたようだな」


 クギョウ教官は短く評価すると、すぐに次の標的標的()を用意した。


「だが遅い。実戦なら今の詠唱の間に3回は死んでるぞ。次は走りながら撃て」

「は、はいッ!」


 特訓終了後──俺達は水を浴びる気力もなく、いつものように教練場の固い床で雑魚寝をしていた。

 ベッドも枕もないが、今の俺達にはこの冷たい石畳すら羽毛布団に感じる。唯一休める時間だから。


「なぁ……」


 夜空の星々を見上げながらグレンが呟いた。


「マインを最初に見たときにいたデカブツ……キュクロープスだっけ? あいつに俺達の魔法って通じるのかな」


 アルドールでクギョウ教官とやり合った一つ目の巨人。

 俺が答える前に、隣で横になっていたメイザーが即座に答えた。


「無理ね」

「即答かよ! 火傷くらい負わせられるだろ!」

「はぁ……」


 メイザーは呆れたようにため息をつき、寝返りを打ってグレンの方を向いた。


「あんた、魔物のランク付けを知らないの?」

「ランク?」

「勇士協会が定めた危険度の指標よ。魔物はS、A、B、Cの四段階に分類されているの」


 メイザーが指を折りながら説明する。

 あるある……あったなあ。資料集や図鑑、ネット記事とかでも何回も見るほど好きなんだよなあ魔物一覧って。

 ファンタジーの魔物ってだけでワクワクしたな。恐竜図鑑を眺める子供に近い感覚かも。


「まず『Cランク』。オーグリンなんかがこれね。大規模な死傷者を出す危険性は低くて、下級紋が複数いれば倒せるレベル」

「ふむふむ」

「次に『Bランク』。大きな町や集落を壊滅させられる力を持つ魔物。環境によっては上級紋でも苦戦するわ」

「町一つか……ヤベェな」

「そして『Aランク』。これは国を滅ぼす力を持つ魔物よ。極めて危険で、上級紋はもちろん、赤紋や青紋の勇士が結集しないと討伐は難しいわね」

「国を……」

「最後に『Sランク』。世界を滅ぼす力を持つ魔物。紫紋の勇士が結集しないと無理……まあ、現状これに該当する魔物は確認されていないけど」


 メイザーはそこで言葉を区切る。うむ、説明ありがとうメイザー。まるで書物のように分かりやす〜い説明でしたっ!


「ちなみに、キュクロープスは『Aランク』に該当する超強力な魔物よ。私達が束になっても、擦り傷一つつけられないから」

「げぇっ! あのデカブツ、そんなに強いのかよ!」


 グレンが顔を引きつらせる。

 Aランク──国崩しの化け物だ。そんな化け物をいとも容易く操るマインも大概だが。

 重い沈黙が流れる。

 絶望的な戦力差に、場の空気が沈みかけた時──俺は体を起こし、グレンの肩に手を置いた。


「……一人じゃ難しくても、力を合わせれば勝てる相手さ」

「ヒョウガ……」

「俺達はチームだろ? クギョウ班全員で挑めば、きっと何か活路はある」


 グレンは目をパチクリさせた後、ニカッと歯を見せて笑った。


「へっ、そうだな! お前が言うなら勝てる気がしてきたぜ!」

「おう」


 ヒョウガじゃ絶対言わないセリフだけどな。俺は苦笑いしてまた横になった。

 そうだ。原作のヒョウガは、このあと孤立し、協力を拒んだ。その結果、多くのクラスメイトが死んだ。

 シキ教官、ハル、ナツキ、マフユ──原作でも、あの時ヒョウガが協力していれば、知識を共有していれば救えた命がいくつもあった。だから俺は、今度こそ力を合わせるんだ。絶対に、誰も死なせない。


「……明日も早い。備えて寝ようぜ」

「おう! おやすみ!」


 俺達は眠りに落ちた。運命の卒業試験まで、あと僅かに迫っていた──

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