第七話:青白いサファイアの鎖
ルシアンとアルベールが熱心にドレスデザインについて意見を交わす合間に、ライラが淡々と口を挟んだ。
「アルベール様。ドレスは軽く、動きやすいようにお願いします。もしもの時に、邪魔になるのは困りますから」
その言葉は、「ドレスは芸術ではなく、復讐のための道具である」という、ライラの徹底した合理性を表していた。
「もちろんですわ、ライラ様。貴女のような優秀な悪女が、ドレスのせいで失敗するなんて、私の美学が許しません。さあ、最高の鎖を作らせていただきますわ!」
嬉々として答えるアルベールに、ライラは小さく頷いた。
アルベールは扇子の奥で、悦びに身を震わせる。
(ああ、なんと素晴らしい素材なんでしょう。この美しくも排他的な二人の歪んだ愛と悪の計画を、『最高のファッション』として表現できるのは私しかいなくってよ!)
光を纏うルシアンとライラの姿を、アルベールはまるで神々しい芸術作品のように満足気に眺める。
「うふふ、ライラ様の瞳の奥の冷たい炎が、このドレスを最高の邪悪な美しさで輝かせてくれますわよ。ルシアン様、本当に良いものをお選びになった。これはもう、ドレスというより運命の衣装ですわね!」
アルベールの情熱的な称賛は、ルシアンの支配欲を最大限に満たした。
ルシアンはアルベールに向けた柔和な笑みをそのままライラに向け、彼女の蜂蜜色の髪を指先で優しく梳いた。
「そうだね、アルベール。これは運命だ。そして、この運命は、私の手で紡がれたものだ」
ルシアンは、ライラの無表情な瞳を覗き込むように、深く、優しく囁いた。
「ライラ。このドレスは、君が完全に私のものとなった証だ。さあ、次の段階に進もう。君の復讐と、私たちの永遠の共犯関係を確固たるものにする儀式だ」
アルベールは静かに退室し、応接室には再びルシアンとライラだけが残された。
ルシアンは懐から、ベルベットの小さな箱を取り出す。
「君は、私の教育を受け、私の期待を完璧に超えた。君の才能は、私の退屈を殺し、私に最高の喜びを与えた。故に、契約を最終確定しよう」
箱が開けられ、中から現れたのは、ルシアンの薄水色の瞳と同じ色をした、大粒の青白いサファイアが輝く婚約指輪だった。それは、あまりに冷たく、あまりに美しい、強固な「鎖」を象徴していた。
ルシアンは、ライラの左手の薬指にその冷たいサファイアを嵌める。指輪はライラの華奢な指に、吸い込まれるように収まった。
「君は私の悪女だ。世間が君をどう呼ぼうと構わない。私は、君のその冷徹な知性と悪の才能を愛した。だから……」
ルシアンはライラを抱き寄せ、その耳元に、愛の告白とも支配の宣言とも取れる言葉を囁いた。
「私は、悪女の悪女の婚約者で結構だ。さあ、契約のキスを。これは、君の復讐が始まる、誓いの印だ」
ルシアンの唇がライラの唇に触れた。それは熱狂的な愛のキスではなく、二つの冷たい魂が、永遠の悪の契約を交わした、冷徹な儀式だった。
この瞬間、ライラの復讐の旅は、ルシアンとの深淵の共依存という名の、最も安全で、最も危険な道へと、確固たる一歩を踏み出した。




