第六話:光の仮面
「ライラ、今日は君のために素敵なゲストを招いているんだよ」
ルシアンがいうところの「悪女」としての準備が終わって数日後、上機嫌なルシアンがライラの部屋まで迎えに来た。彼のプラチナブロンドは朝の光を浴びて輝き、その完璧な笑顔は、まるでこれから最高に面白い悪事を始める子供のようだった。
ライラは、ルシアンの「上機嫌」が、すなわち「彼の計画が次の段階に進む」ことのサインであると理解していた。彼女のライラック色の瞳に、期待や興奮の色は浮かばない。ただ、合理的な興味だけが宿っていた。
「どなたを招かれたのですか、ルシアン様?」ライラは尋ねた。
「フフッ。君の『光の仮面』を、誰もが羨む最高の芸術作品として完成させるために、この国で一番の才能が必要だろう? さあ、早く行こう。彼は、君たちの背徳的なロマンスに最高の彩りを与えてくれるだろうよ。」
ルシアンに導かれ、向かったのは公爵家の広間の奥にある特別応接室。部屋には、すでに一人の男性が優雅にティーカップを傾けていた。
その男性は、鮮やかな青緑色の生地に金糸の刺繍が入った衣装をまとい、優雅な扇子を指先で遊ばせている。その華やかで、どこか芝居がかった雰囲気は、この冷徹な公爵邸では異質な「色彩」を放っていた。
「あら、ルシアン様、お待たせしましたわ! そしてそちらが、噂の蜂蜜色の天使ね!」
男性は、一瞬でライラの全身を鋭利な観察眼で値踏みした。彼の名は、アルベール・ルヴェル。社交界で最高の地位を誇る、天才的なオネエ系デザイナーだった。
「初めまして、ライラ様。まあ! 噂以上に、無表情の下に秘めた闇が美しい方。私、ゾクゾクいたしましたわ!」
アルベールは扇子で口元を隠し、ニヤリと笑った。彼は、ライラの「光の仮面」の奥に、ルシアンと同じように「悪女の才能」を見て取ったのだ。
ルシアンは、ライラの隣に立ち、アルベールに告げる。その声には、所有権を主張する冷たい響きが混ざっていた。
「アルベール。ライラのドレスは、私の衣装と完璧に呼応するように頼む。色は、私の光の色。誰から見ても、彼女が私の『鎖』に繋がれた、最も美しい存在だと分かるようにね。」
アルベールは、その支配的な言葉に目を輝かせ、扇子をパチンと閉じた。
「もちろんですわ、ルシアン様! 私、『清廉な支配者の光に包まれた、無垢な悪魔』をテーマに、最高の鎖を作らせていただきますわ。ああ、私にとって、こんなに背徳的な芸術はありません!」
こうして、ライラの「光の仮面」を完成させるための、悪女の衣装オーダーが始まった。それは、ルシアンの支配欲と、ライラの復讐の計画を、公的に世界に宣言する最初の一歩だった。




