第五話:私の悪女
ライラの英才教育は、朝の「光のレッスン」と夜の「闇の学習」という二つの顔を持って続けられた。
朝は侍女頭ガブリエラによる優雅な令嬢マナーと社交界の常識。ライラは与えられる知識を、綿が水を吸い込むように貪欲なまでに取り込み、自らのものにしていった。表情一つ変えずに完璧な笑顔を作り、足元の小さな石の配置まで計算されたかのような優雅さで歩く姿は、ガブリエラを幾度も驚嘆させた。
夜はルシアンによる背徳的な知識の注入。秘密の書斎で、ライラは不正会計記録の解析、貴族法の抜け穴、裏社会の構造といった、この国で最も暗く、最も力を持つ知識を学んだ。ルシアンの支配的な熱意に晒されながらも、彼女の頭脳は感情を遮断したまま、全てを効率的なデータとして分類し、記憶した。
三ヶ月は短いようだったが、ライラが最高の悪女として復讐を遂げ、公爵の隣に立つために必要なマナーと知識を身に付けるには、論理的に見て十分すぎる時間だった。
ある夜。ライラが、ルシアンが以前課した「政敵の会計記録から、決してバレない不正の証拠を見つけ出し、法的、経済的にその存在を消すための設計図」を完璧に提示した時、ルシアンは初めて口を開けたまま沈黙した。
その設計図は、ルシアン自身が教えた全ての知識を応用し、さらにその先を行く、極めて冷徹で、もはや芸術的な完璧さを持っていた。
「……フフッ。ああ、ライラ」
沈黙の後、ルシアンは笑い出した。その笑いは、いつもの柔和なものではなく、歓喜と陶酔が入り混じった、歪んだ熱狂を帯びていた。
「素晴らしい! 私の予想を、一ミリも狂わせずに、そして、私の退屈を根こそぎ殺してくれるほどの刺激をもって超えてくれた。君は、私の期待に値する唯一の存在だ!」
ルシアンはライラの手を取り、その手の甲に熱いキスを落とした。彼の薄水色の瞳は、今や熱に浮かされた狂気を帯びていた。
「もう教育は終わりだ。君は完全に『私の悪女』として、世に出る準備が整った。さあ、ライラ。次の段階に進もう」
ルシアンの言葉と共に、ライラの復讐劇は、「教育」という名の支配から、「婚約」という名の共同の悪事へと、その舞台を移すことになる。




