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【完結】悪女の悪女の婚約者で結構です  作者: ましろゆきな
第一章:悪女の誕生と契約 

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第四話:秘密の学び舎

 夕食を挟み、時計は夜九時を指し示そうとしていた。


 昼間のサロンでの教育は、「光の仮面」の制作だった。侍女頭ガブリエラの目から見ても、ライラはすでに完璧な令嬢としての形を備え始めていた。だが、ルシアンとライラにとって、それは単なる前座に過ぎない。


 約束の時間五分前、ライラは自室を出て、ルシアンの執務室へと向かった。廊下に響く足音は静かで、微かな躊躇や緊張さえ感じさせない。彼女の体内時計は、「復讐のための合理的な行動」を正確に計測していた。


 執務室の重厚な扉をノックすると、すぐにルシアンの許可が響いた。


「入りなさい、ライラ」


 ルシアンはすでに外套を脱ぎ、執務机には分厚い資料の束が広げられていた。その柔和な微笑みは昼間と変わらないが、ライラにはその瞳の奥に、獲物を前にした狩人のような冷たい熱が宿っているのが見て取れた。


「ようこそ、私の秘密の学び舎へ。さあ、こちらへ」


 ルシアンは立ち上がり、ライラを奥の書棚へと案内した。彼が特定の装丁の本に手をかけると、書棚は重々しい音を立てて横にスライドし、隠された通路が現れた。中から漏れる空気は、公爵邸の華やかさとは無縁の、冷たく古い紙とインクの匂いが混じっていた。


「ここが、私がこの国の闇を管理している場所だ。君の復讐に必要な、『真の知性』は全てここに揃っている」


 通路の先にあったのは、小さな部屋ではなく、広大な秘密の書斎だった。壁一面には、公的な文書では決して手に入らないような、裏帳簿、政敵の記録、法典の抜け穴に関する古書が隙間なく並んでいる。中央のデスクには、蝋燭の炎が静かに揺れ、闇を払っていた。


 ルシアンはライラをデスクに座らせ、初日の教材を提示した。


「今夜は、君の最初の標的――クレール一族の不正会計記録の分析だ。君の復讐には、彼らの存在そのものを、社会的に消し去るだけの論理的根拠が必要となる」


 ルシアンが指し示したのは、血のような深紅のインクで一部がマークされた、クレール伯爵家の分厚い会計帳簿だった。


「ただの簿記ではない。これは『悪の記録』だ。彼らが君から奪った一連の金銭の流れ、その全てに感情ではなく、論理で断罪を与えなさい」


 ルシアンはライラの隣に椅子を引き寄せ、彼女のノートに自らペンを走らせ、不正な資金洗浄の「法的抜け穴」を示す複雑な数式を書き込み始めた。


 二人の距離は近い。ルシアンの冷たい体温と、彼の吐く退廃的な知識が、ライラの周囲を満たす。それは、昼間のダンスと同じく、知的な支配と、歪んだ親密さが交錯する時間だった。


 ライラは、ルシアンの顔を見ることなく、その知識を感情を排したデータベースとして、頭の中に正確に記録していく。


(この男の知識は、私の復讐を完遂させる最高の武器だ。私は、この武器を完璧に使いこなす)


 ルシアンは、ライラの無表情な集中力を見て、満足げに微笑む。


「フフッ。さすがだね、ライラ。君は、闇を恐れず、ただ合理的に知識を吸収する。君のその冷徹な頭脳こそが、私の最高の創造物だ」


 彼にとって、これは「教育」ではなく、「愛する悪女への、最も濃密な献身」だった。こうして、ライラの背徳の英才教育の夜は、深く、長く続いていくのだった。

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