第二十三話:愛と論理の永久契約
湖畔での告白から二年後。ヴァイス公爵邸は、黄金の装飾と薔薇に埋め尽くされ、王都始まって以来の豪勢な結婚式が執り行われていた。招待された貴族たちは、清廉な公爵の愛の物語に酔いしれ、ハンカチで涙を拭っている。
ライラが身に着けているのは、雪のように白い最高級のドレス。その胸元と指元で、冷たい光を放つホワイトサファイアの装飾が輝いていた。
傍聴席の最前列には、ライラの復讐劇を支えた協力者たちが並び、それぞれの思いで感動していた。
ミラベル(情報統括官) (ライラ様は、公爵様という最高の権威と結ばれた。これは、ライラ様の知性の功績であり、公爵家にとって最高の資産を確保されたのだ。公務の効率は、今後も飛躍的に向上するだろう。ライラ様、末永く効率的な公爵夫人でいてください!)
エミール(護衛騎士団長) (公爵様は、ライラ様を心から愛しておられる。あの純粋な心を、私は生涯、剣に誓って守り抜く。ルシアン様のあの尋常でない愛を、ライラ様だけが受け止めることができる。お二人の運命的な愛に、心から敬礼を!)
ガブリエル(執事長) (公爵様の長年の愛の試練が、ついに実を結んだ。ライラ様もまた、公爵様の複雑で深い愛情を、論理的に受け止めるという究極の献身を示された。これで公爵様も奇行を収められ、公爵邸に安定が訪れるだろう(と信じたい)。お二人の幸福な生活を、誠心誠意サポートさせていただきます。)
祭壇の前に立つ二人は、絵画のように美しく、誰の目にも「運命の二人」に映った。
神父が、二人に永遠の誓いを問いかける。
「ルシアン・ヴァイス公爵。あなたは、ライラ・クレールを妻とし、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
ルシアンは、世界中の支配を成し遂げた男の顔で、最高の微笑みを浮かべた。
「誓います」
(ああ、誓うとも! 君の知性という光を永遠に支配し、君の論理を非合理な愛の鎖で繋ぐことを誓う! この愛の奴隷契約こそが、私の永遠の退屈を殺す、唯一の愛だ!)
「ライラ・クレール。あなたは、ルシアン・ヴァイス公爵を夫とし、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
ライラは、感情を排した、静謐な美しさで微笑んだ。
「誓います」
( 誓います。ルシアン様は、私の知性の最高の安定と効用の最大化をもたらす、最も価値の高い資産です。彼の非合理な「愛」という要求を最優先タスクとして論理的に遂行することが、私自身の存在価値を保証し、最も合理的で幸福な生を構築することになる。)
神父の「誓いは成立しました」という言葉が、豪勢な式場に響き渡る。
ルシアンは、歓喜と陶酔に満たされた瞳で、ライラを抱き寄せた。その耳元で、彼は支配的に囁いた。
「私の愛しい悪女よ。君は今、公爵夫人という最高の地位と、私という名の愛の奴隷を手に入れた。さあ、言ってみろ。君は、誰の伴侶になった?」
ライラは、ルシアンの支配的な要求を、論理的な結論として受け入れ、微かな微笑みを浮かべた。
「ルシアン様。私は、貴方の目的の達成を最優先の論理として遂行いたします。その結果、周囲からは私が『悪女』と呼ばれるのであれば、それは私の最高の役割です」
彼女は、静かに、そして力強く宣言した。
「私は、悪女の悪女の伴侶で結構です」
この論理的な自己肯定こそが、ルシアンにとって最高の愛の証明となった。
誰もが、これは「清廉な公爵と、苦難を乗り越えた悪女令嬢の愛の成就」だと信じていた。
だが、これは彼らの論理的支配と服従によって結ばれた、『悪女令嬢とヤンデレ公爵の論理的ロマンス』の大団円だった――。




