第十九話:非論理的な暴君
ルシアンの「愛の奴隷」宣言は、ライラにとって、これまでの人生で最も困難で、最も非合理的な「最終課題」として突きつけられました。
ライラは、フリーズした頭をフル回転させ、目の前の「非論理的な暴君」に、論理的な回答を試みようとした。
「……ルシアン様、申し訳ありませんが、仰る意味が……」
ライラは、それ以上言葉を続けることができなかった。ルシアンの要求は、彼女の知性の範疇を超えていたのだ。
(「意味不明」であると報告する以外に、現時点で最も誠実で効率的な回答はない。ルシアン様が失望することは確実だろうが、理解できないものは仕方がない。私は道具として、機能しないという事実を報告しなければならない)
ライラは、その非効率な感情を考慮せず、事実のみを報告する姿勢を貫いた。
ルシアンは、ライラのその一言を聞いた瞬間、最後の理性が完全に砕け散るのを感じた。
(『申し訳ありませんが、仰る意味が……』だと? この完璧な頭脳を持つ女が、私の愛の定義だけは「理解できない」と、論理的に私を拒否するというのか!?)
ルシアンの瞳のギラつきは、純粋な狂気へと変わった。彼は、ライラの論理が、自分の愛を最大の障害として見なしていることを確信した。
「理解できないだと? フフッ、ああ、そうだとも、ライラ」
ルシアンは、冷酷で甘い声で囁く。
「君の論理的な頭では、愛という最も非効率で、最も崇高な感情は、決して理解できないだろう。ならば、私が教えてやる。君の論理回路が、私の愛の支配なしには機能不全に陥ることを、身をもって思い知れ!」
ルシアンは、ライラを抱き上げ、書斎の奥にある「公爵の私室」へと向かう。
「君の『道具』としての役割は終わった。これからは、愛の奴隷として、君の人生の全ての時間を、私への愛の証明に費やせ。そして、君のその賢すぎる頭で、私という非論理的な支配者への絶対的な愛を、最終的に論理で証明してみせるのだ!」
ライラは、抱き上げられる行為の物理的な意味は理解できたが、ルシアンの行動の目的は、最後まで解析できそうになかった。
「愛の奴隷」という非論理的な任務に直面し、ライラの論理的な反撃は、一時的に沈黙した。
ヤンデレ公爵の「愛の命令」と、サイコパス令嬢の「論理的な困惑」の最終決戦が、今、始まろうとしていた。




