第十八話:最終課題
ルシアンは、ライラの顎を力強く持ち上げ、その瞳の奥まで覗き込んだ。
「私からの最後の命令だ、ライラ。君の『道具』としての役割は、今日で終わる」
彼の声は、甘く、そして恐ろしいほどに冷たい支配を含んでいた。
「君は、私の『公爵夫人』として、私だけの愛の奴隷となれ。私が望む全ての感情的な要求を、論理を捨てて、絶対的に満たせ。これが、君の新たな義務だ」
ライラはただ呆然と、瞳をギラつかせるルシアンの顔を見つめることしか出来まなかった。
(「愛の奴隷」? 「感情的な要求」? 「論理を捨てろ」?)
ルシアンの命令は、ライラの知性にとっては、欠片も理解できないものでした。彼女の頭の中では、論理的な回路が激しくショートしていた。
「ルシアンは私の『公爵夫人』と言ったが、そもそも私はまだ16歳のデビュタントを終えたばかりで、法的に婚姻できる年齢ではない。彼の言葉は、客観的な事実と矛盾している。」
彼女は、「公爵夫人」という公的な地位の言葉にさえ、論理的な矛盾を見出してしまっていた。
そして、「愛の奴隷」だの「感情的な欲求」だの、「論理を捨てろ」だの言われても、どうすればいいか全く分からなかった。
(論理とは、思考を最も効率的に最短で結論に導く手段だ。それを捨てて、私は何を基準に行動すればいい? 「愛の奴隷」とは、具体的に何をすれば、そのタスクを完了したと評価できるのか? )
ライラの純粋な知性は、ルシアンの非合理な愛という絶対的な壁に直面し、フリーズ状態に陥っていた。
ルシアンは、ライラの動かない瞳と沈黙を、「最後の抵抗」と解釈し、更なる支配的な行動に出る。
「ライラ。君の『論理的な沈黙』は、もう私を満足させない。いいか、私の愛しい道具。これからは、君の行動の全てが、私を『愛する』という唯一の論理の下に置かれるのだ」
ルシアンは、ライラのサファイアの指輪が光る左手を取り、その指輪に、冷たく、しかし熱狂的な支配のキスを落とした。
「君は、私に永遠に支配される。そして、その支配こそが、君にとって最高の合理的な生だったと、最終的に君の知性で証明してみせろ」
ルシアンの「愛の奴隷」宣言は、ライラにとって、これまでの人生で最も困難で、最も非合理的な「最終課題」として突きつけられたのだった。




