第十二話:華麗な終幕
ルシアンは、ライラの隣に控えるように立ち、彼女に無言の権威を与えている。彼の存在そのものが、「この裁判の結果はすでに決まっている」と、傍聴席の全てに宣言していた。
検事席に着いたのは、ルシアンが裏で手を回した敏腕の論理派弁護士だ。彼は形式的な挨拶を終えると、すぐさまセシリア一族の不正な資金移動と、ライラの遺産横領の全貌を、淡々とした声で読み上げ始めた。
その膨大な証拠と、ルシアンの知性によって補強された「法的抜け穴のない論理」の前に、セシリア側の弁護士は、ただうろたえるばかりだった。
そして、原告であるライラに、証言台に立つことが促された。
ライラは、証言台に上がり、感情を一切交えずに、自分の人生から何が、どう奪われたのかを、事実と数字で、冷徹に語り始めた。
「クレール伯爵家が、故父の死後、いかにして私の財産を不正な手段で流用し、私を不当に追放したか。その資金は、被告セシリア・クレール夫人の個人的な贅沢と、一家の虚飾を支えるための裏帳簿へと消えています」
彼女の正確な数字の列挙と、感情のない淡々とした証言は、法廷全体を凍りつかせた。それは、「復讐に燃える被害者」の涙ではなく、「論理によって悪を断罪する機械」の宣告だった。
セシリアは、ライラの無表情な、しかし圧倒的な知性と、裏で完璧に手を回したルシアンの権力の前に、顔を覆い、小さく呻いた。
(嘘よ、こんなはずはないわ!あの娘が、こんな知識をどこで…点!まるで、ルシアン公爵そのものじゃない!)
ライラは、冷たい視線をセシリアに向けた。これが、君の復讐だ。
ルシアンは、ライラの隣に控える席で、完璧な微笑みを浮かべながら、心の中でライラに拍手喝采を送っていた。
(素晴らしい。感情的な復讐は、ただの自己満足に過ぎない。だが、君のそれは違う。論理と数字という、最も冷徹な武器で、敵の存在そのものを社会的に否定する。
わずか数ヶ月という短期間で家財産すべて失った没落令嬢が、悪魔かのごとく知的に冷徹に、全てを取り戻そうとしている。 これほど完璧な復讐を遂げられる人間がいるだろうか)
自らを除いて、感情を捨て、自らを道具として振るえる稀有な才能に、ルシアンは惚れ惚れするばかりだった。
ルシアンの脳内では、ライラの知性の光と、彼の権力という闇の鉄槌が美しく協調する歓喜のメロディが響いていた。彼にとって、これは単なる訴訟ではなく、愛する創造物の完成披露宴だった。
ライラの証言は続く。彼女は、セシリア一族が行った不正の全てを、ルシアンが裏で補強した法的な根拠と、偽造の余地のない裏帳簿のコピーを突きつけながら、断罪していく。
被告席のセシリアは、もはや抵抗する気力も失い、その肩は激しく震えていた。彼女が想像していた「みすぼらしい復讐者」ではなく、立ちはだかっていたのは、ルシアン公爵の知性と権威に裏打ちされた、完全無欠の冷徹な断罪者だった。そして、最終弁論。ライラは再び顔を上げた。その瞳には、一切の憎悪はなく、ただ論理的な結論だけが宿る。
「被告クレール一族の行いは、金銭的な横領に留まりません。それは、貴族社会の信用を根底から揺るがす行為であり、この国の法と秩序への挑戦です」
検事側が、ライラの論旨を完全に受け継ぎ、最も重い有罪判決を要求する。
裁判官は、ルシアンの裏からの圧力と、ライラが提示した完璧すぎる証拠の前で、もはや判決を覆すことは不可能だと悟った。
静寂の中、裁判官は重々しい声で宣告した。
「被告セシリア・クレール及びクレール一族に対し、すべての財産の没収、爵位の剥奪、及び国外追放を命ずる」
一刀両断の断罪だった。
ライラの第一の復讐は、完全な形で達成された。彼女は、ルシアンに向かって一瞬、満足したことを示す、微かな頷きを送った。
ルシアンは、その頷きに最高の愛の証を見出し、彼の心は歓喜と陶酔に満たされた。
裁判官の重々しい宣告が響き渡ると、傍聴席は一瞬の静寂の後、熱狂的なざわめきに包まれた。セシリア一族は、その場で崩れ落ち、助けを求める醜い悲鳴が法廷に響いたが、誰一人として彼らに同情する者はいなかった。
ルシアンは、ライラが自分に送った微かな頷きという「論理の勝利の報告」に満たされ、静かに立ち上がった。
「ヴァイス公爵! 貴方はそんな性悪女が婚約者でよいのですかっ?!」
「ええ、もちろん!」セシリアの叫びにルシアンは美しい笑みを浮かべてみせた。
「悪女の悪女の婚約者で結構です」
そして、ライラの腰に手を回し、裁判所を後にする。
ライラの第一の復讐劇は、完全な形で、華麗に終幕した。




