第十話:デビュタントの成功
華やかな舞踏会での時は終わり、ヴァイス公爵邸は夜の静寂に包まれていた。
その中で、ルシアンはライラを秘密の書斎へ誘った。部屋の中は、昼間の華やぎとは無縁の、冷たい知性と秘密の匂いが満ちていた。
「さぁ、記念すべきデビュタントの成功を祝おうじゃないか」
上機嫌のルシアンは二つのグラスに深紅のワインを注ぐ。彼は柔和な笑みを捨て、真の支配者たる素顔を露わにしていた。その薄水色の瞳は、ライラの成功に熱狂的な光を宿している。
「はい、成功と言えます。セシリア一族の社会的地位は回復不能なレベルにまで低下しました。次の法的断罪で完全に消滅させることが可能です」
ライラはグラスを受け取りながらも、勝利の余韻に浸ることはなく、あくまで冷徹な結果報告を行った。彼女にとって、成功は次の段階への足がかりでしかない。
ルシアンはその無感情な報告に最高の満足を得た。彼女が感情に流されなかったことこそが、彼の最高の期待を満たしたのだ。
彼はライラをそっと抱き寄せた。その抱擁は優美ながらも、逃れられない支配の力を含んでいる。
「よくやった、ライラ。君は私の期待を裏切らない、最高の悪女だ」
美しいアルカイックスマイルを浮かべ、囁く。その響きは悪魔の言葉のように甘く、残酷であった。
「次は裁判所で最後の鉄槌を振るわなくてはならない。そのために詳細な準備をしなくてはね」
ルシアンはライラの手に持たせていたワイングラスをテーブルに戻し、彼女のサファイアの指輪が光る左手を自身の胸に押し当てた。
「君の復讐を完遂させるために、我々にはより強硬な手段が必要になる。彼らの不正の証拠は揃っているが、貴族裁判所は時として『論理』よりも『権威』に屈する。」
ルシアンは、公爵としての権限と、彼が掌握する司法界の闇のネットワークの詳細を、ライラに明かし始めた。
「君が用意した完璧な論理的な断罪に加え、私は判事への牽制と、検事側の証拠隠滅を確実に行う。君の知性を100%通すために、私が裏で100%の権力を担保する。これが、我々の契約だ。」
ルシアンは、ライラのライラック色の瞳を覗き込みながら、愛を囁くように、背徳的な計画を口にした。
「この共同作業こそが、私たちの歪んだロマンスだ。君が私に知性を捧げ、私が君に支配を捧げる。美しいだろう?」
ライラは動じず、ルシアンの冷たい体温と支配的な囁きを受け入れた。彼女の脳内では、ルシアンの「裏の権力」と自分の「表の論理」が合算され、セシリア一族の消滅確率が100%に達する計算が完了していた。
「理解いたしました、ルシアン。その権威は、私が用意した論理を、最も効率的に、最短で実現させるための、最高の道具です」
ルシアンは、ライラが自分を「道具」として評価したことに、究極の満足を得た。彼は、彼女の蜂蜜色の髪に、勝利を祝うかのような、冷たいキスを落とした。
「フフッ。ああ、そうだ、ライラ。君は、私にとって最高の道具だ。そして私は、君の最高の復讐のための支配者だ。」
二人の悪の共犯関係は、この静寂の書斎で、さらに深く、強固に結びついたのだった。




