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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
92/121

87: 食堂

 

 アーラ達がオレリアの先導の元、生徒達のいる教室を渡り歩いていた頃。

 本日の宿を探す為に学校から離れたグラストスとオーベールは、既に学校から一番近い村に到着していた。

 特に急いだわけでもないが、時間にして半刻もかからなかった。


「それにしても大きな村だな」

 通りに立ち、村の中心部を眺めていたグラストスが驚きを(にじ)ませながら、そう一人ごちる。


 グラストスが呟いた通り、この村はかなりの広さがあった。

 モンスールの村は元より、ビリザドを出てから通過してきた村々とは比較にならない。

 これまでの村々は大凡農業中心の自給自足の生活で日々を暮らしており、商業は全くと言っていいほど発達していなかった。

 しかし、この村には宿もあれば、食堂らしき建物も見える。

 村の中央はそれなりに活気があり、小さいが市も立っているようだ。


 グラストスとしては独り言のつもりだったが、丁度宿から出てきたオーベールがその言葉を拾い、隣に並びながらにこやかに説明する。

「ええ。ここは公爵領ですからね」


 一概に村といっても、その規模は千差万別である。

 人口が百名に満たない村も有れば、千名以上も人が住んでいる大きな村もある。

 そして、今二人が立っている村はその括りでいくと後者だった。

 ただそれも、公爵領下の村というなら頷ける。

 と、グラストスはオーベールの説明に納得していたが、実はこの村は公爵領下の村の中でも特別大きいという訳でもない。


 公爵領となっている地域は、凡そパウルースにおける要所でもあり豊かな土地が広がっている。

 王都からも比較的近く、人口数も多い。

 パウルースには公爵領が全部で五つ存在するが、その五つの領地の総人口だけでパウルース総人口の五割近くに達している。

 自然、公爵領の中枢の街はもちろんの事。周辺の村々も辺境とは比較にならない程発達していた。


 どうやらその様な事情をグラストスは知らないらしい。

 オーベールはそこまで説明しようか迷ったが、今は報告を優先することにした。

「お待たせしました。宿の手配が終わりました。三人部屋と二人部屋の二部屋です。それで良かったですよね?」

「ああ。こっちも馬車を預け終わった所だ。助かったよ」

「いえいえ、当然の事ですから」


 切ないことに殆ど金を持っていないグラストスは、ここの払いを全てオーベールに任せざるを得なかった。

 その事に対しての礼だったが、オーベールは「気にしないで下さい」と優しく微笑む。

 グラストス達は、自分の母親の為に手伝ってくれているのである。

 こういった諸経費を賄う事は、オーベールとしては当たり前のことだった。


「それより、これからどうしましょうか?」

「そうだな……」

 グラストスは返答に詰まる。


 『神の医師』の子供の情報を掴もうにも、ここは学校ではない。

 村人に尋ねて廻るにしても、一体何と説明すればよいのか。

 まさか「モンスールで『神の医師』と呼ばれた医者の娘を知っているか?」などと尋ねても、答えが返ってくるとは思わない。

 こことモンスールは遠く離れている。

 それにグラストスは口には出していないが、懸念している事もあった。

 ただ、それはオーベールやアーラの意欲に水を指すようなことだったので、指摘するのは忍びなかった。


「……とりあえず、食堂にでも行って情報を集めるか」

 ともかく本音は別として、グラストスはそう提案しオーベールの賛同を得ると、二人は村の中心部に向かって歩き始めた。


+++


 昼も大分過ぎていた為か、食堂は閑散としている。

 情報の収集には適さないが、腹ごなしをするには待つ時間が少なくて済み、うってつけだとも言える。

 加えて、二人は朝食を少量食べただけで、それから何も摂っていない。

 注文を取りに来た愛想のいい中年のおばさんにお勧めの料理を頼むと、料理が来るなり情報収集をそっちのけで貪ってしまったのは仕方のない事だろう。



 空腹ということもあって、二人は出された料理を瞬く間に平らげた。

 皿の上は綺麗なもので、野菜の切れ端すら残っていない。


「美味しかったです」

「ああ、こんなにまともな料理を食べたのは久々な気がする」

 今の料理の値段がパウルース銀貨一枚だと言われても、今なら惜しみなく払ってしまうだろう。

 二人がそんな満足感に浸っていると、


「あの……食器をお下げしてもよろしいでしょうか?」

 注文時のおばさんではなく、十五・六程の少女が申し訳無さそうに話しかけてきた。

 ここの看板娘だろうか。

 貴族に多い上品で綺麗な容姿ではないが、日々を精一杯生きている事が伝わってくるような好感を覚えやすい顔立ちの少女である。


「ええ、お願いします」

「は、はい」

 そうニッコリ微笑んだオーベールの非常に整った顔を間近で見た為か、少女は上気したように顔を赤らめる。

 暫しほうっとした後、思い出したかのように食器を集め始めた。

 その手が微妙に震えている所を見ると、緊張しているのだろう。

(無理もない)

 そんな少女を苦笑しながら眺めていたグラストスは、食器を集め終わり一礼した後で奥に戻ろうとした少女に何気なく声をかけた。

 別に軟派な思惑からではなく、折角なので情報収集でもしようと思ったのだ。


 少女は「はい?」と振り返り、

「すまない、少し尋ねたい事があるんだが…………どうした?」

 尋ねたグラストスの顔を真正面から直視するなり、手に持っていた食器をボロボロと地面に落とした。


「大丈夫ですか?」

 オーベールは、少女が急に振り返った所為で手を滑らせたのだと思った。

 なので、粗相をしてしまった少女を咎める意志はないことを示すように、穏やかな声で問いかけた。


 だが、それにしては少女の反応はない。それどころか、固まったまま身じろぎ一つしない。

 そんな少女を不思議に思いながらも、オーベールは落ちた食器を代わりに拾い上げると「はい、どうぞ」と微笑を浮かべながら少女に手渡した。

「あ……そ……あ…………」

 ただ少女は食器を受け取ることなく、グラストスを見つめたまま形にならない言を漏らし続ける。

 その顔は真っ青で、唇は小さく震えている。

 そして、二人が何を問いかけても反応しない。


 自分の顔をまともに見た瞬間の変貌だったので、流石にグラストスは困惑していた。

 グラストスは仕方なく席を立ち、正気に戻そうと少女の肩に手を伸ばす。

 その時だった。

 

「あ、あ、いや、いや、いや、いや、いやあああああああああああああああああああああっ!!」


 ずっと固まっていた少女は瞳を大きく見開くと、劈くような悲鳴を上げた。

 その場にしゃがみ込み、まるで何かから逃れるように両手で顔を覆い隠す。

 その瞳からは涙が後から後から流れ出ている。


 そんな過剰な反応が返ってくるとは思っていなかった二人は、突然の事に身を竦ませていた。 

 驚きで声の出せない二人に、震える少女。

 そんな異様な空間に、悲鳴を聞いたらしい先程の中年の女性が割って入ってきた。

 その背後には店主と思われる男も続いている。


「どうしたのっ!? 何があった? 何をされたんだいっ!?」

 女性は少女を覆い被せるようにして抱きしめると、必死な表情で少女に問いかけた。

 だが、少女の震えをその身で感じると、キッと顔を上げる。


「アンタ達! この子に一体何を……」

 グラストス達が少女に何か不埒な事をしようとしたと考えたのだろう。

 怒りの形相で二人を睨みつけようとした女性だったが、視線がグラストスを捉えるとそのまま固まってしまった。

 信じられないものを見るような目でグラストスを見つめ続ける。

 その背後では、店主も同じくグラストスを凝視していた。


「ば……馬鹿な……。な……何で、お前が…………」

 そんな愕然とした呟きを漏らしながら。

 

+++


 それからかなりの時間が経過し――

 根気強いオーベールのお陰で、三人がグラストスを別の人物と誤解しているのが分かり、ようやく落ち着かせる事に成功した。


 落ち着く決め手となったのは、グラストスの名前と、グラストスがこの村を訪れた事がないことをオーベールが証言した事である。

 当然の事ながら最初は信じてもらえなかったが、オーベールの真摯な説得により徐々に彼らは理性を取り戻していき、最後には信じてくれた。

 或いは、信じたかったのかもしれない。

 ともかく何にせよ、店主にいたってはグラストスに襲い掛からんばかりの様相だったので、平静を取り戻してくれた事に二人は心底ホッとしていた。


 ただ、オーベールは一つの真実を隠していた。

 それは、グラストスが記憶喪失、ということをである。

 もしその事を聞けば、三人が恐れる人物とグラストスは同一人物かもしれない。

 そう三人が考えてしまう可能性がある。それもかなり高い確率で。

 それをオーベールは避けたかったのだ。

 仮に真実を告げたとしても誰も喜ばない。

 三人も心休まらないだろうし、グラストスは疑惑の目を向けられ続けることになる。

 ならば、真実は告げない方が誰の為にも良い。

 そういう判断からのことであり、オーベールの優しさでもあった。

 グラストスはもちろんそれに気付いていたが、今は何も言うことなくオーベールの話に乗る形にしていた。


 しかし、表面上こそ落ち着いた三人だったが、内面はまだ激しく揺れているのだろう。

 一体誰とグラストスを勘違いしたのか、その人物が一体何をしたのか、それらは口を噤んで決して語ろうとはしなかった。

 余程の事をされていたのは間違いなく、別人と納得しても尚グラストスを視界に入れたくないのか、少女は女性に付き添われて奥に消えていった。

 どうやらそれほどまでに、グラストスとその人物の顔は似ているらしい。


 そして、一人残った店主は、先程から二人に対して何度も謝罪の言葉を繰り返していた。

「た、大変申し訳ありやせんでした。とんだ勘違いをしまして……。お騒がせしやした」

 非常に驚かされたとはいえ、別に腹を立てる程のことではない。

 グラストスは店主達の言動については、全く気にしていなかった。

「ああ。別に気にしなくていい」

 グラストスの取り成しに、店主はもう一度深々と頭を下げた。


「本当に本当に申し訳ありやせんでした。あ、お騒がせしたお詫びとして、お代は結構ですので……」

「え? あ、そういう訳には……」

 勘違いだったのだから、そこまでされるのは申し訳ない。

 オーベールが気にしなくていい旨を告げるも、

「いえいえ。是非そうさせて下せえ。お願いしやす!」

 店主は「是非に」と繰り返す。


 オーベールは「どうしましょう?」という視線をグラストスに送った。

 グラストスは困ったように頭を数回掻くと、ふぅと息を吐く。

「まあ、いいんじゃないか? 俺は全く気にしてないが、今回は店主の気持ちとして有難く受け取っておこう」

「…………は、はい。ぜ、是非に……」


 店主の脂汗の浮かんだ必死な顔を見て、オーベールも翻意を促すことを諦めることに決めた。

「……分かりました。ではご馳走になります。有難うございます。本当に美味しかったです」

 代わりに謝辞を述べ店主達を恐縮させると、二人は食堂の入り口に向かう。


「ほ、本当に、申し訳ありやせんでした……」

 そうして、何十度目かになる謝罪をその背に受けながら、二人は食堂を出たのだった。



***



「はぁはぁ……よ、ようやく撒けた」

 呼吸を荒げ小声でそう呟いたのは、女生徒達によって何処かに連れて行かれた筈のリシャールだった。

 ただ今は独りきりで校舎の廊下の影に身を潜めており、周囲に女性徒達の姿はない。


「ま、まさかあんな事をしようとするなんて……」

 リシャールは先程の出来事を思い出して、ブルッと身震いする。


 始めこそ皆で校舎を散策しながら楽しくお喋りをしていたのだが、何気なく誰も居ない教室に案内された直後。

 少女達は変貌した。

 全員でリシャールを押さえ込むと、次々にしなだれかかってきた。

 その後の鬱屈の貯まった少女達の振る舞いは、リシャールの知る常識とは大きくかけ離れていた。

 女性は皆優しいと信じている少年にしても、全く理解が出来なかった。

 我を忘れたように襲い来る少女達に怯えたリシャールは、何とか拘束から逃れると、怯えながらも必死の思いで逃げ出したのだった。


「は、早くアーラ様と合流しなきゃ……」 

 というより、今は一刻も早くアーラと合流したかった。

 女生徒達に常識外の行動をとられたことの影響か、最初はもの珍しかったこの大きな学び舎も、今は何か異様なものにしか映らない。

 ただし、自分がどこにいるのかはよく分からなかった。

 そのままどちらに行けば良いのか、考えていると――


『……リシャール……探し……』


 どこからか少女達の声が響いてくる。

 それはこちらの方に確実に近づいて来ており、リシャールが思っていた程距離はないようだった。

「うわっ! もうこっちに来た!」

 思わず飛び上がったリシャールは、行き先に迷いその場で右往左往する。


『……こっちは探した!?』

『……そっちは、まだ!』

 

 ドタドタと足音が聞えてくる。

 もう迷っている時間はない。

 リシャールは他に選択肢もなかったので、自分の目の前の教室に隠れる事に決めた。

 そして、素早く中に体を滑り込ませた。


+++


 窓からの光を黒い布で遮っている為か教室の中は暗く、明るい場所から入ったばかりのリシャールにはよく足元が見えない。

 色々と物が散雑に置かれているようで、何度も足で踏んでしまっていた。

 ただ物は多いようだが、身を隠せるような遮蔽物が見当たらない。

 もし少女達が教室の中に入ってくれば、たちどころに見つかってしまうだろう。


(ど、どこか、何かないのっ!?)

 リシャールは周囲を目まぐるしく見廻し――――隣の部屋に続く扉を見つけた。

(あ、あそこに!!)

 急いで扉に身を寄せると、取っ手を掴んで勢いよく回す。

 だが、開かない。

(あ、鍵が!?)

 顔を近づけてみると、施錠らしき物をされているのが分かった。これでは開く訳がない。

 叩き斬ろうにも、剣は馬車に置いたままだ。


『居たっ!?』

『いや向こうには居なかったよ』

『なら、多分ここら辺の教室に逃げ込んだんじゃないかな?』

『そうね。見て廻ろう!』

 

 教室の直ぐ前の廊下から、少女達の声が聞えてくる。

(うわああああああぁぁぁぁっ!)

 リシャールは必死の形相で周囲を手探りで探し、偶然何かの金属を触った。

 それを縋るように両手で掴み、目の前に掲げる。

 どうやら小剣のようだった。

 だが刃の部分は丸まっており、これで人体を傷つけるには余程の技術が必要だろう。

 堅い物であれば尚更である。

 

 リシャールはそれを迷うことなく右手に持ち直すと、施錠に向かって振り下ろした。

 虚空に線が描かれる。

 キィン。

 そんな音を残して、施錠はゴトリと地面に落下する。


 それを見届けることなく、リシャールは素早く扉を開けると中に入り静かに扉を閉めた。

 ほぼ同時に、少女達が今の今までリシャールが居た教室に押し入ってくる。

 間一髪だった。

 リシャールは、ふぅ、と息を漏らす。


『リシャール君!』

『居るんでしょ!?』

 少女達は飛び込むなり叫んだが、直ぐにリシャールの姿がない事に気付いて悔しがる。

『外れかぁ』

『居ない……ここだと思ったんだけど』

『うーーん……』


(そ、そのまま、他の場所に行って下さい~~~~)

 リシャールの必死の願いが届いたのか、女生徒達は他の場所に行こうか、などと話している。

 しかし――――


『あ! あそこに扉があるよ』

『本当だ、隣の部屋怪しくない?』

 女生徒達も隣部屋の存在に気付いたらしい。

 リシャールは思わず声を上げそうになり、必死に両手で口を覆った。

 女生徒達が近づいてくる気配がする。

 リシャールはもう駄目だ、と目を瞑った。


『……あ、そこは鍵がかかってるから無理だよ』

「え?」

 一人の少女の言葉に、女生徒達が立ち止まった。

 揃って不思議そうな視線を少女に送る。


『……アンタ。何で知ってんの?』

『いやその……この前、隠れて出来る場所を探そうと思って……』

『探し廻ったの!? うはぁっ、アンタ頑張りすぎっ』

『あははっ、サイテー』

 きゃはは、と女生徒達の笑い声が響く。

 それから少しの間女生徒達はその場で雑談していたが、次第に声は遠ざかっていき、やがて薄っすらと消えていった。

 隣の教室から女生徒達の気配が消える。


(……何だかよく分からないけど……助かった……?)

 暗さのお陰か、施錠が壊されている事には気付かなかったようだ。

 リシャールは手に握り締めていた小剣を床に放ると、安堵でその場に崩れ落ちた。

「少し休んだら、アーラ様のところに行こう……」


 危機を逃れたことが分かると多少余裕が生まれたのか、リシャールは今自分が居る場所を知ろうと周囲を見回す。

 こちらの部屋は隣の教室よりも一層暗かったが、自由騎士を長年やっているリシャールは暗闇に目を早く慣らす方法も知っている。

 ハッキリとではないが、既にある程度は見通す事が出来た。

 その経験によって培われた瞳で、リシャールは部屋の中のモノを見つめ――――


 そして、絶叫した。


 そこには明らかに魔物と思われる生物の死骸、または骨が所狭しと置かれていた。

 更に燻製になった犬型の魔物の円らな瞳が、こちらをジッと見据えている。

 壁の棚には小型の魔物の標本が飾られ、中には魔物の脳を模ったと思われる模型も存在した。



 職業柄、魔物や獣の死骸は見慣れている。

 だが、それは生きる為や食の為である。

 互いに命をかけあった戦いの結果であり、その事に感傷は生まれない。

 決して、ここに置かれている魔物のように燻製にして飾る為に襲うのではない。

 自由騎士という職業が染み付いた少年には、その事がどうにも生理的に受け付けなかった。


 リシャールは得体の知れない恐怖で震える。

 そして、腰砕けになったリシャールに追い討ちをかけるように、部屋の隅で"ガタガタ"という物音がした。

 臆病な少年に、これ以上の滞在は不可能だった。

 

「う、うわあああああああああああああああああっ!!」


 リシャールは再び絶叫しながら部屋を飛び出し、教室を走り抜ける。

 途中、何かを踏んづけて転んだがそんな事は全く気にせず、ともかくこの場を離れたい一心でがむしゃらに教室を飛び出した。

 廊下に出るなり派手に転倒する。


 そこに、

「あ、リシャール君!」

「見つけた! 皆こっちに居たよっ!」

 リシャールの叫び声が聞こえたのか、女生徒達がワラワラと集まって来る。

 一息吐く間もない。


「うへぇっ!?」

 リシャールは再び飛び上がると、全力で走り始めた。

 目的地などない。

 ともかく、この教室から遠い場所に。

 ともかく、女生徒達の居ない場所へ。


「あ、逃げた!」

「追いかけるのよ!」

「追えっ!」

 もはや少女達もリシャールをどうこうする事よりも、リシャールを捕まえる事の方に熱がいっているようだ。

 黄色い声は怒声となり、両者の追いかけっこは再開された。



 そうして、リシャールと女生徒達の姿が無くなった後。

 どこか特徴のある鳴き声が教室奥の部屋から微かに廊下に流れていたが、それを聞く者はいなかった。


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