85: 友人(下)
オレリアはとにもかくにも、先ずはマリッタを昔の学友達と引き合わせたいと思い、行き先を明かさないまま、自分の教室に三人を誘導した。
しかし、教室に入る直前に、マリッタはその思惑を悟った。
マリッタとしては、ここを辞めた人間である自分が、平然と顔を出せる訳が無い。
気まずい空気になる位なら、行かない方が良い。そう思っていた。
そもそも二度と学校に来る事は無い筈だったのだ。
その為中に入る事を激しく拒否し、教室前の廊下で待っていると主張するマリッタと、どうしても友人達に引き合わせたいオレリアの意見は対立し――――
腕の引っ張り合いに発展したのは、ある意味当然の流れであった。
オレリアは元気印の少女ではあるが、どちらかと言えば小柄で、年頃の少女然とした体系である。
一方、マリッタは女性にしては背も高く、手足も長い。
また、体は引き締まっており、余分な肉などは胸にしか存在しない。
なので二人の引っ張り合いは、マリッタの圧勝で終わった。
――――かに思われたが、その二人の闘いに、無粋にも乱入した者が居た。
「何を嫌がっているのだ。久しぶりの学友との再会なのであろう? 何を嫌がる必要がある。ほら、中に入ろう」
その人物はそう言って、マリッタの反論に聞く耳を持たずに、背中を押して教室の中に足を踏み入れていった。
***
唐突に、教室の扉が開け放たれる。
室中で作業していた生徒達の視線は、突然の闖入者達へ向けられた。
入ってきたのは五名で、二人はよく知る教室の仲間だった。
しかし、その内三人は見知らぬ人間で、自然、彼らの視線はその三人に集中したが、それから間もなく彼らは気付いた。
三人の内の一人の外見が、彼らの記憶の中にある人物と一致していた事に。
「もしかして……マリッタ、マリッタじゃないか?」
誰かが唖然とした声で呟く。
それを皮切りに、教室内の至るところで驚きの声が上がり、教室の中にいた十数名の生徒達は、久しぶりに再会した、かつての学友の元にワラワラと集まっていった。
そして、
"どうしたんだ?""まさか復学するの!?""あれからどうしてたの!?"
等、矢次の質問が開始された。
その光景を、オレリアは満足そうに眺めていた。
マリッタは微妙に顔を引き攣らせたまま、自分を取り囲む、かつての学友達に曖昧に言葉を濁して答えている。
そうして、似たような質問を繰り返す彼らの事を、内心面倒に思い始めた時――――
それまで遠巻きに眺めていた一人の男子生徒が、周囲の生徒を押しのけるようにして、意を決してマリッタの前に立った。
「ひ、久しぶりだね。マリッタ。げ、元気にしていたかい?」
その男子生徒の顔は紅潮しており、緊張がありありと伺えた。
声も上擦っており逆立てている赤茶の髪の毛は、平素以上にツンツンになっている。
周囲の誰の目にも、彼がマリッタの事を意識しているのが分かった。
一方、声を掛けられたマリッタは、男子生徒の顔を思い出そうとしているのか、つり上がり気味の目を僅かに細める。
暫く見つめていたが…………やがて首を少し横に傾けた。
「…………誰?」
オレリアが、プーっと、吹き出す。
続いて、爆発するように笑い始めた。
「わ、笑うなオレリア!」
「い、いや、だってさ……『げ、元気にしていたかい』だって! 似合わなさ過ぎ! しかも、忘れられてるしっ! あはははっ」
「くっ……」
男子生徒の決死の想いで言葉を掛けたのにもかかわらず、当のマリッタは全く覚えていなかった事が面白く、オレリアは腹を抱えて笑い続けた。
そんなオレリアを見ながら、男子生徒は顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに俯く。
ひとしきり笑うとようやく発作が収まったのか、オレリアは眦に残る涙を指で拭いながらマリッタに言った。
「ああ……面白かった。マリッタ。彼はベルナルドだよ。覚えてない?」
「ベルナルド……?」
男子生徒の名前を出せば、流石のマリッタも思い出すだろう。
そう思っていたオレリアだったが、マリッタの顔に変化は無い。
オレリアは、憐憫の眼差しをベルナルドに向ける。
「あ、こりゃ駄目だ。脈ないね。諦めなよ、ベル」
「う、うるさい! そんなんじゃない! 黙ってろオレリア!」
そのまま二人は言い合いを始めた。からかうオレリアに、怒るベルナルドという構図である。
マリッタは変なものを見るような目で二人を見ていたが、急に背後から声を掛けられ、"またか。今度は誰だ?"という露骨な忌避を顔に浮かべながら振り返った。
「……ディアナ」
少女の顔を見るなり、マリッタの口から独りでに、呆然とした呟きが漏れた。
「お久しぶりね。マリッタ」
そこには可憐な少女の姿があった。
マリッタが最後に見た時からすると、目の前に立つ女生徒ディアナは随分大人っぽくなってなり、美しく成長していた。
白磁のようなきめ細やかな肌をしており、腰まである綺麗な鳶色の髪が動くたびにサラサラと揺れる。
そんなディアナは、昔と変わらない柔らかい微笑みを浮かべて、マリッタに話しかけてきた。
「会いたかったわ。変わりは……無さそうね。元気そうで何よりだわ」
ディアナの外見からは想像できない、特長的な低い声を聞くなり、マリッタの中で様々な記憶が湧き上がった。
まるで水泡の様にいくつも浮かんで弾け、浮かんでは消えていく。
ようやく出せた言葉は、
「そう……」
それだけだった。
何故か、"私もよ"という追従は、マリッタの口からは出なかった。
+++
その間、アーラは入り口付近に立ったまま、興味深そうに教室内に視線を巡らせていた。
メイジ達の教室は、縦横、三十歩歩いたら端に着いてしまう程の広さで、思いのほか物は少なかった。
大きな作業台と思われる机が二つ、教室の中央にデンと、置かれている位である。
後は、生徒が座るのだろう椅子が、その周囲を囲んでいる。
机の上には生徒達のものだと思われる羽ペンと、手帳らしき物が散らばっていた。
どんな内容なのかはアーラには全く予想もつかなかったが、ここが座学を行なう場所であることだけは分かった。
アーラは生徒達に視線を移す。
先ず気付く事として、生徒達は皆同じ服装をしていた。
男物と女物で多少作りは異なっているようだが、ゆったりとした紺色の法衣であるのに違いはなかった。
ここの学生であるという証も兼ねているのかもしれない。
実はオレリア達を見た時から思っていたが、ひらひらと、正直動きにくそうだとアーラは思った。
見ている分には良いが、自分が着るのはごめんだった。
ただそれ以外に目立った特徴はない。ビリザドに居てもおかしくない、少年少女ばかりである。
当たり前かもしれないが、それがアーラには少し驚きだった。
そんな風に何気なく教室を眺めていると、マリッタが何やら真剣な顔で目の前の少女と話し込んでいるのを捉えた。
アーラは何となく気になり、少女の事を尋ねようとオレリアに顔を寄せた。
「なぁ、オレリア――――」
しかし、オレリアはまだベルナルドと口論中だった。アーラに気付く様子はない。
なので、今度は同じく隅でマリッタの事を見つめていたカリーヌに話し掛けた。
「カリーヌよ、あの娘は誰だ?」
「…………」
「ん? おい、カリーヌ」
聞えていないのか、カリーヌはマリッタとディアナをジッと凝視しているだけで、アーラの言葉に反応しなかった。
更に数度耳元で声を掛けて、ようやくカリーヌはアーラの事に気付く。
「…………え? は、はい。な、何か……?」
「はぁ。ようやく気付いてくれたか……」
アーラは苦笑した後、ディアナの方を向いてもう一度同じ質問を繰り返した。
「マリッタと話している、あの娘は誰だ?」
「は、はい。あ、あの人はディアナさんっていって………マリッタさんがここに居た頃、一番仲が良かった人です……」
カリーヌは、か細い声で説明すると、再びマリッタに視線を戻した。
「マリッタさんとは、まるっきり正反対な感じですね。上品でおしとやかそうで。よく性格が反対の人との方が、馬が合うって言いますもんね?」
傍に居たリシャールが、何かを悟っているかのように呟く。
アーラはウンウン頷いていたが、
「…………」
カリーヌはただ黙って、マリッタとディアナを見つめていた。
「そうそう、そんな事より」
本来の目的を思い出したのか、ベルナルドとの口論を一方的に中断したオレリアが、突然大きな声をあげて、室内の注目を集めた。
一呼吸置いて、全員に確認する。
「ねえ皆。ちょっと人探しをしてるんだけど、この中に親が医者な人って居る?」
皆いきなりの質問に当惑していたが、返答は口々に行なった。
全員の返答を聞き終わると、オレリアは苦笑いを浮かべる。
「居ないみたいだね」
アーラも残念な気持ちはあったが、まだ探し始めたばかりで、いきなり見つかるなんて事は期待していなかった。
なので、ただ頷き返すだけだった。
その時、少し離れて様子を伺っていた女生徒数名が、オレリアに走り寄ってきた。
その女生徒達はちらりとリシャールの方を見てから、顔を寄せて相談した後、その中の一人がオレリアに話しかけた。
「……ねぇ、オレリア」
「何?」
「そっちの子、ちょっと紹介してくれない?」
女生徒達の視線の先には、もの珍しげに教室の中を見回しているリシャールが居た。
それに気付いたオレリアは、念のために尋ねる。
「何で、リシャールを?」
「リシャール君って言うんだ……。いや、すっごく美形だし、話をしてみたいな~~と思って」
返答は明快だった。
薄々そんな事じゃないかな、と察していたオレリアは、小さく溜息を吐いた。
彼女達はこの学校の中でも、殆ど最低辺にいる生徒だった。
実はこの魔法学校に入る事自体は、さほど難しくは無い。
もちろんある程度の魔法の腕は必要だが、言い変えればある程度で良いのだ。
そこから進級する事も、普通にやっていれば先ず問題なく、多少成績が悪くても退校処分になるような事もない。
しかし、卒業は別だった。
この魔法学校の卒業生は、皆優秀であると世間に認識されている。
当然ながら、ここで魔法の知識や技術を深めるのは、外部の人間にはできない事である。
魔法学校の生徒が、そういった人間よりも、魔法の腕自体も上である事に間違いはなかった。
ただ、卒業生全てが優秀であるというのには裏があった。
この学校を出た人間が優秀なのではなく、優秀な人間しか卒業出来ないのである。
毎年百人は居る卒業生徒の中で、卒業できるのは例年凡そ四十名程度。
優秀な人材しか卒業生として世に出さない為、世間がそう誤認識してしまうのも仕方がなかった。
なお卒業できない人間は、数年も学校で学びながらも卒業の資格は得られず、そのまま退校扱いとされてしまう。
その為、皆何とか卒業できる中に入ろうと必死に修練を積むのだが、中にはどうしても落ちこぼれは存在する。
初めは頑張る気はあっても、周りに居るのは優秀な者達ばかりなので、どうしても自分の無力さを悟る事になり、次第に卒業への熱が冷めていってしまうのである。
そうした生徒達は、卒業試験までに退校にならない程度に修練を積み、後は己の好きなように時間を潰すようになる傾向にあった。
ただ、この敷地内からは外に出る事は出来ない。
娯楽もなく、酒なども入手する術はない。
なので必然的に生徒達の意識は、ただ一点に向かう。異性への関心である。
ただし、学校としては生徒同士の交際などは認めてはいない。
発覚した場合、きつい処分を受ける事になっている。
だがそうした処分も、逆に生徒達の冒険心を擽る事になっており、教師たちの目を掻い潜っての逢瀬は、常日頃から行なわれていた。
そして、オレリアに話しかけた女生徒らも、今最大の関心事は異性の事だけであった。
辛うじて退校処分にされないものの、このまま卒業時期を迎えた所で間違いなく卒業できないだろう、という事は自分達でも理解出来ていたからである。
生徒の中には、彼女達のような"脱落者"達の事を、悪し様に言っている者も多い。
オレリアはまだ彼女達ほど卒業を諦めていなかったが、年頃でもある為彼女達の心情も理解できた。
なので一応、律儀にもリシャールに確認を取ることにした。
「……って、言ってるけど、どうする?」
リシャールは持ち前の明るい笑顔を、女生徒達に向けてはっきりと答える。
「ええ。光栄です。僕で良ければ、お話くらい全然構いませんよ」
その返答を聞いて、女生徒達の輪から高く黄色い歓声が上がった。
「良かった! じゃあ、ちょっと休憩にして、屋上ででもお話しましょ!」
「そうしましょ!」
まるで輝くような神々しい笑みを浮かべながら、女生徒達はリシャールを取り囲む。
「え、あ、へ!?」
戸惑うリシャールの腕を抱えこむようにして掴むと、
「じゃあ、後よろしくね!」
「ほら、こっちよ」
「あ、ちょっと、やっぱり僕は……って、うわあああああああぁぁぁぁ……」
教室の学友達に声を掛けてから、怒涛の勢いで、教室の外に駆け出していった。
抵抗する間もなく連れ去られたリシャールの悲鳴は廊下に響き渡っていたが、それもどんどん小さくなっていき、やがて聞えなくなった。
アーラは、開け放たれた教室の扉を呆然と見つめる。
「何だったのだ?」
「あはは……彼、連れて行かれちゃったけど、いいの?」
オレリアは身内の行動に恥じ入りながら、誤魔化すようにアーラに尋ねる。
「う~~~む……」
アーラは暫し考え込――――まないで、あっさりと結論を出す。
「全然問題ないな」
「あ、そうなんだ……」
オレリアは、躊躇いもなく見放されたリシャールを不憫に思った。
何気なくオレリアは教室内に視線を戻すと、一人、重い空気を発している男が視界に映った。
思わず呆れた表情になる。
「ベル! まだ落ち込んでるの?」
「う、うるさい…………」
ベルナルドの声は力ない。
続いて、オレリアはその隣にちょこんと立っている少女を見る。
「カリーヌも! いつまでマリッタを見つめてるの!?」
「……………………え? 何か言った?」
「……なんでもない」
オレリアは疲れたように、ガックリと肩を落とした。
そんなオレリア達の様子を眺めていたアーラは、
「いや。思ってた以上に、ここは賑やかで楽しそうだな。私はもっと厳粛な雰囲気で、殺伐とした空気なのだとばかり思っていた」
と、どことなく晴れやかな顔で呟く。
魔法の未熟なアーラにとって、魔法学校に居る人間は自分とはまるで精神構造の違った人間が集っている。そんな風に思っている部分があった。
しかし、こうして実際に中に入ってみると、居心地も悪そうではない。
そうした感情から、思わず口から出た言葉だった。
だが、逆にオレリアの顔は曇っていった。
「……ええと、そうだね。その認識は、概ね間違ってないかな」
「ん?」
「この教室が特殊なだけで、他の教室の生徒達は、アーラの想像通りの感じだよ」
アーラは首を傾げる。
「この教室にいる生徒は特殊なのか?」
「まあ、良く言えばね。悪く言えば、落ちこぼれって事」
オレリアは自嘲の笑みを浮かべる。
「落ちこぼれ?」
「そう。この学校の最底辺。って思ってくれたらいいよ」
オレリアの後ろ向きな発言を聞いて、アーラは眉を顰める。
アーラとしては、あまりそういう自分を貶めるような発言は好きではなかった。
身近な者達の発言だったら諌めるぐらいはするが、流石のアーラも出会ったばかりのオレリアにそんな注意をするのは憚られた。
なので、アーラは少し話を変える。
「むぅ……そういえば、マリッタも元はこの教室に居たのか?」
「一応ね」
「ならば、この教室の面々は知り合いばかりという事か?」
「まぁ、厳密に言えば違うんだけど……大体はそうかな」
進級しているので、マリッタが居た時の教室とは若干人員の変更はある。
ただ殆どは顔見知りの筈なので、そういう言い方になった。
それを聞いて、アーラはふと疑問が浮かんだ。
言葉が悪いがここは"落ちこぼれ"の教室で、以前はマリッタも同教室に居たという。
という事は――――
(マリッタも……落ちこぼれだったのか?)
アーラは何気なく、マリッタの方を見た。
すると先程までの位置にマリッタは居らず、そこに居たのはディアナだけだった。
視線を横に移すと、いつの間にかマリッタはアーラの目の前に立っているのに気付く。
マリッタのことを考えていた為か、アーラは余計に驚いた。
「な、なんだ!? どうした!?」
明らかにアーラの態度は不審だったが、いつもの事だとマリッタは対して気にせず言った。
「お嬢さん。ここには居ないようですから、そろそろ次に……」
「あ、ああ、もう良いのか? 久しぶりの友人との再会なのだろう?」
「気にしなくていいです」
マリッタの答えはにべもない。
「……そうか。分かった。ならば次に行こう」
「あ、もう行くの? じゃあ、案内するね」
オレリアはアーラを先導しようと、先頭きって入り口に向かう。
アーラとマリッタは、その後に続いた。
「わ、私も……一緒に」
その後ろをトコトコとカリーヌが後を追った。
教室を連れ立って出て行こうとする四人を見て、ベルナルドが不思議そうに声を掛ける。
「どこに行くんだ?」
「ちょっと人探しに」
振り返った四人を代表して、オレリアが返答する。
それを聞くなり、ベルナルドは表情を一変させた。
「ぼ、僕も行くぞ!」
「ええ~~」
嫌そうな顔をするオレリアに、ベルナルドは更に声を張る。
「い、いいじゃないか! 僕も彼女達の力になりたいんだっ!」
熱を込めて話すベルナルドだったが、その思惑はオレリアにはハッキリと見てとれた。
だが、そういう感情に疎いアーラは、感心した顔で何度も頷く。
「ふむ。それは有り難い事だ。感謝する」
どうやら、アーラはベルナルドは困っている人を放っておけない人間なのだと、勘違いしているようだ。
ベルナルドは我が期を得たり、と勢いに乗る。
「ほら! 彼女もこう言っている」
そんなベルナルドを面倒臭そうに見つめたオレリアは、大きな吐息を漏らす。
「はぁ……仕方ないなぁ。じゃあ、五人で行こうか。……ディアナはどうする? 一緒に行く?」
オレリアは、感情の読めない笑みを浮かべているディアナに話しかける。
「…………」
考え込むディアナを、マリッタは黙ったまま見つめていた。
ディアナは僅かに考える素振りを見せた後、「ええ」とだけ答えた。
その瞬間、マリッタが小さく嘆息した。が、誰も気づかなかった。
「次はどこに行くんだ?」
「こっちの校舎から、順番がいいかなって思ってるんだけど……」
アーラの問いかけに、オレリアが答えるが、反応はどこか鈍い。
カリーヌ、ベルナルド、ディアナも難しい顔をしている。
何かあるようだったが、アーラは気にしても仕方ない、と楽観することにした。
「そうか。済まない。私には分からないから、案内してくれ」
そうオレリア達に頭を下げてから、
「では、我々はこれで失礼する。邪魔したな」
教室に残った生徒達に声を掛けて、今度こそ教室を出て行った。
僅かの逡巡の後、他の五人も後を追った。