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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
89/121

84: 友人(上)

 

「このような大きな建物、私は見た事がないぞ」

 校舎の所まで辿り着くと、アーラは下から見上げるように視線を送った。

 ビリザド一の大きさを誇る、ギルドの支部よりも二回りは大きい。

 もし、この校舎の屋上から落下した場合、重傷を負うことは間違いないだろう。

 そんな事を考え、アーラはブルッと、身震いする。


「そう言えば、人を探してるって事だけれど、何かその人の情報は持ってるの?」

 建物の入り口の前に立ったコニーが、振り返りながら尋ねた。


 アーラは真面目な顔で答える。

「ああ。先ず、その人物は女性だ。そして、その父親は医者だった」

「そう……他には?」

「それだけだ」

「え?」

「だから、それだけしか情報はない」

「…………」

 キッパリと断言するアーラを見ながら、コニーは黙り込んでしまう。


 二の句が告げない様子だったが、何とか気を取り直したようだ。

「で、でも、この学校に女性は三百人以上はいるわよ? それだけじゃあ、難しいんじゃないかしら? 名前や、出身地とかは分からないの?」

「名前は分からないが、出身は……モンスールか?」

 アーラは折檻によってまだ頭をふら付かせているリシャールに話を振った。


 リシャールは二、三度頭を振り目を瞬かせると、おずおずと話し始める。

「い、いえ……それは分かりません。確かに、お医者さんはモンスールに居たようですが、出身は別の場所だろうって、村の人も言ってましたし。出身地はモンスールではないと思いますよ」

 ”医者”という単語が誰を指しているのか分からなかったが、探し人の出身地がモンスールではない、という部分だけを把握したコニーは、はぁ、と溜息を吐く。

「それじゃあ、本人に関する情報は、性別しかないって事ね……それは厳しいわね」

「うむ。だが、それでも探さねばならん」

「どうやって?」

「全員を集めて、話を訊いていく他ないだろうな」


 さも当然、という風に考えを話すアーラに、コニーは目を大きく見開いて驚く。

 そして、同行者達は引き攣った顔で、驚愕の声を上げる。

「ええっ!?」

「本気ですかっ!?」

 二人とも、顔に”面倒””嫌だ”の文字が張り付いている。


 アーラは二人の叫びに、不快そうに眉を顰め、逆に質問する。

「仕方ないだろう。他に良い方法があればそれを採用するが、何か思いつくか?」

「それは……」

「……直ぐには思いつきませんけど」

 二人の声は小さくなっていく。

「だから話を聞いていく以外、方法はないのだ」

 アーラは二人に言い捨てると、今度はコニーの方に体を向けた。

「コニー師よ。この学校の女生徒を、一同に集めて頂きたい」


 頭を下げ殊勝に頼み込むアーラだったが、コニーは間髪入れず毅然とした表情で首を横に振った。

「申し訳ないけれど、それは出来ないわ」


 アーラが”何故”を問う前に、コニーは理由を話し始める。

「実は、『試験』まで、そう間が無いの。生徒達はその為の準備で懸かりっきりだから、そんな手間を取らせる訳にはいかないわ」

「……試験?」

 聞き慣れない単語に、首を傾げていたアーラに気付いたコニーは「ああ。ごめんなさい」と謝罪した後に説明する。

「試験は、生徒が自分の研究の成果や、鍛錬の成果を発表する場の事よ」

「だ、だが、そんなに時間は掛からないと思うのだが……」

「ごめんなさい。一同に集めようとしたら、結局それなりに時間は掛かると思うし、質問時間も合わせるともっと……。きっと皆も不満を抱くわ。”何でこんな忙しい時に”って。それに、試験は彼らの将来が懸かっているの」


 試験の優秀者には、その後の進路が約束されている。

 将来が懸かっているという言葉も、決して誇張ではない。

「お嬢さん、ここは……」

 それを知るマリッタの促しもあって、アーラは渋面を浮かべながら納得した。


「ならば、一人一人話を訊いて廻る分には、問題ないのか?」

「まぁ、それなら生徒達個人が判断する事だから……」

 渋々といった表情で、コニーは話す。

 コニーとしては本当はそれすら止めて欲しい所だったが、彼女達も人命がかかっているという。無碍(むげ)には扱えない。

 それに――――マリッタも居る。


「そうか。ならば、そうさせて頂こう。説明すれば、話くらいはして貰えるだろうしな」

「…………」

「…………」

 希望を話すアーラだったが、何故かコニーとマリッタの表情は曇っていた。



「じゃあ、最初はどこに行くんです?」

 三百人に話を訊いて廻る事になりそうで、グラストス達と一緒に残ってれば良かったと、早くも内心後悔していたリシャールが、諦観を顔に滲ませながら尋ねた。

「ふむ……コニー師よ。どこか生徒が集まっている場所はないか?」

 コニーは人差し指を頬に当てながら答える。

「お昼頃なら食堂が良かったのだけど……今なら実習室を廻っていくしかないわね」

「実習室?」

「生徒達が魔法の勉強を行なっている部屋の事よ」

「なら、その場所を教えてくれ。そうしたら、後は自分達で廻るから」

 コニーに余り迷惑を掛ける訳にはいかない、と気遣ったアーラだったが、当の本人は小さく首を振る。

「……外部から来た人には、学校関係者の誰かが付いていないといけない、という決まりがあるの。申し訳ないのだけれど、貴女達だけで行動させる訳にはいかないわ」


「なるほど……済まない。そういうことであれば、お手数をお掛けする」

「気にしなくていいわ。今日は時間があるから」

 頭を下げたアーラに対して、にこやかに微笑みながらコニーは言った。

 アーラを気にしての言葉ではなく(もちろん、多少はあったが)、今日の予定は朝の用事で大部分が終わっていた。

 時間があるというのも、嘘ではなかった。



「あっ、こんな所に居た!」



 突然、一人の少女が、校舎の中から走り出てくる。

 短い茶色の髪を頭の後ろで左右に分けた、体中から”元気”を溢れ出しているようなその少女は、コニーに明るい笑顔を向ける。


 そして、その少女の背後からもう一人。少女が息を切らせながら現れた。

 おさげの少女より一回り小柄な、栗色の柔らかそうな短い髪の少女である。

 運動は苦手なのか辛そうに顔を歪めて、胸を片手で押さえながら呼吸を整えている。


 コニーは二人の少女を見るなり、眉を顰めた。

「貴女達。何を抜け出してきてるの? 今はまだ実習時間中よ?」

「違うよ。先生に報告」

 コニーの指摘に少女は明るい笑みを浮かべたまま、顔の前に挙げた右手の平を大きく左右に振る。

「さっき学長が、コニー先生を探して教室まで来たよ?」


「学長が? 何かしら……」

 理由が思い当たらないのか、コニーは首を傾げる。

「分からないけど、何か急用だったみたいだよ?」

「そう……」

 少女の言葉遣いは、教師に対して適切なものとは言えない。

 だが、コニーは生徒の礼儀には余り気にしない性質なのだろう。特に咎める様子はなかった。

 コニーは思い出したように、アーラ達を振り返る。


「あ、ごめんなさい。急用が入ったみたいだから、少しだけ席を外させて貰っていいかしら?」

「ああ。それは構わないが、私達に誰か付いている必要があるんじゃなかったのか?」

「そうなのよね……」

 アーラの問いに、コニーは右手の親指を顎に軽く押し当てるようにして考え込む。

 ふと視線を横にやると、不思議そうな顔で自分を見つめている、少女達の姿が視界に映った。

 コニーは小さく頷くと、少女達に柔らかく微笑みかける。

「貴女達。悪いんだけど、私が戻るまで、彼女達を学校案内して貰えない?」

「え?」

 先程から気にはなっていたようで、チラチラとアーラ達に視線を送っていた二人の少女達だったが、コニーに頼まれた事で、初めて三人をまじまじと見つめた。


 鷹揚に構えている金髪の少女。

 明るく微笑みかけてくる美少年。

 そっぽを向いている為、顔が分からない長身の黒髪の女性。


 二人の目には、そんな三人の姿が映っていた。

 同じ位の歳で、何より何故コニーと一緒に居たのか、という事に好奇心が沸き、明るい少女は、はーい、と右手を上げて了承する。

「私は良いよ~~。頭煮詰まっちゃってたし。息抜きにもなるし。先生のお墨付きで、実習抜け出せるしね」

 続いて、小柄な少女の方もコクリと小さく頷いた。

 彼女としては、初対面の人と接するのは苦手だったが、信頼しているコニーのお願いでもある。断われようも無かった。


「ごめんなさい。じゃあ、後はお願いね」

 二人の同意を聞いて、コニーは申し訳なさそうに後を任せると、颯爽と校舎の中に消えていった。



 コニーの後姿が完全に消えるのを目で追った後で、おさげの少女はアーラ達に向き直った。

「ええと、任されたものの、よく事情が分からないんだけど……どういう話になってるの?」

 アーラが答える。

「ああ、済まない。少し、人探しをしていてな。生徒の居る場所に案内を頼みたい」

「へーー。名前とかは分かる? だったら、私が連れてきてあげるよ?」

 おさげの少女の提案に、アーラは情けない笑いを浮かべる。

「いや……それが、女という事だけしか分からない」

「あと、父親が医者、という事もありますよ」

「ああ、そうだった。その二つだけなのだ」

 アーラはリシャールの補足に頷いた後、少女達を見つめながら言い切った。


 おさげの少女は、うーん、と考え込む。

「女の子で、お父さんがお医者さん……カリーヌ、誰か心当たりある?」

 話を振られた、カリーヌと呼ばれた小柄な少女は、小さく俯く。

「…………ごめんなさい。私はあんまり他の人のこと、詳しくないから……」

「うーーん、そっかぁ。私も知らないなぁ」

 ごめんね、と謝罪してくる少女に、アーラは、分からないのも無理はない、と左右に首を振る。

「なので、コニー師には、実習室とやらに案内してもらう所だったのだ」


「あ、そうなんだ。じゃあ、適当に案内するよ」

 おさげの少女は、にっこりと微笑んで言った。

 どうやら、この少女は非常に明るい性格らしい。

 それを好ましく思いながら、アーラは小さく目礼をする。

「済まない。申し訳ないが、お願いする」

「いいって、息抜きでもあるんだし」

 改まった感じは苦手なのか、少女は照れ臭そうに手で髪を撫でる。


 そして、唐突にパンと、手を合わせた。

「あっと、そうだ。先に名前を教えてくれない? 呼ぶのに不便だから」

「うむ。そうだな」

 アーラは、尤もだ、と頷く。

 心なしか胸を張ると、先ず自分から名乗った。

「私はアーラ・フォン・ロメルと言う。名は好きに呼んでくれ」


 アーラは威嚇する訳でもなく、普通に名乗ったつもりだった。

 しかし、その名を聞くなり、少女達の表情は曇った。


「…………」

「…………」

 暫く、無言でジッとアーラ見つめると、おさげの少女が恐る恐る口を開く。

「……もしかして、由緒正しき家柄の人?」


 二人が気圧されたのは、”フォン”という称号に対してだった。

 この国パウルース(・・・・・・・・)では、”ド”や”フォン”といった称号は、古くから続く名門貴族にしか、名乗る事を許されていないからである。

 その為それを名乗るという事は、少なくとも侯爵家以上の家柄の人間という事の証明でもあった。

 並みの貴族とは品格が違う。

 少女達の緊張も、そうした理由からのものだった。


 そんな二人の反応に、アーラの顔に一瞬寂しそうな表情が過ぎる。

 ただ、直ぐに元の力強い光を瞳に宿すと。努めて朗らかに言った。

「家のことは気にしなくてよいぞ。名前は好きに呼んでくれ」

「で、でも……」

 二人は逡巡し、黙り込んでしまう。

 そのまま、アーラの顔をジッと見つめる。


 やがてこうした空気を嫌ったのか、おさげの少女は吹っ切るように、にっこり微笑んだ。

「……分かったよ。じゃあ、アーラって呼ばせて貰うね」

 少女の思いがけない気安さに、アーラは目を丸くする。

 そして、破顔一笑した。

「お、おお……そう呼ぶが良い!」

 

 何やら照れているアーラの横で、リシャールは二人の少女を交互に見ながら一歩前に進み出た。

「僕は、リシャールって呼んでください」

 言われて、二人の少女はリシャールの顔をマジマジと見つめた。

 学校には三百人以上の男子生徒がいる。

 それでも少女達は、リシャールほど整った顔立ちの少年は見た事がなかった。


「随分、美形な子だねぇ」

 リシャールは笑みを浮かべたまま、当たり前の事のように頷く。

「よく言われます」

「あははっ、正直でいいね!」

「それもよく言われます」

 思ったことを正直に答えるリシャールを面白がって、おさげの少女はカラカラと笑った。

 カリーヌは少し警戒しているような様子だったが、嫌悪感はその顔に見出せない。

 ただそれを聞いていたマリッタだけは、イライラしながら舌打ちする。


 そんなマリッタに、少女達は視線を移す。

「で、そっちの長身の彼女は…………」

「…………」

 マリッタは決まりの悪そうに、そっぽを向いた。


 その仕草に、何か記憶に触れるものがあったのか、少女達はマリッタの横顔を凝視する。

 僅かの時も置かずに、二人は同時に声を上げた。

「…………あっ!?」

「あ、え、嘘…………もしかして……マリッタ?」


 二人は我を忘れたように、急いでマリッタの前へ回り込む。

 再び今度は真正面から、マリッタの顔を穴が開くほどジッと見つめた。

 二人の熱の篭った視線に、マリッタの顔は一層気まずさで覆われる。

 マリッタは面倒そうに数度頭を掻くと、ふぅ、と吐息を漏らす。

 観念したように薄く微笑んだ。

「……久しぶりね。二人とも」

 

 おさげの少女、オレリアはパァと、顔を明るくする。

 続けて顔を紅潮させ、興奮したように叫ぶ。

「やっぱりっ!! マリッタ!! マリッタなの!?」

「ま、マリッタさん……」

 カリーヌも、体の前で組んだ手が真っ赤になる程ギュッと握り締めながら、マリッタの姿を瞳に捉えて離さなかった。


「なんだマリッタ。二人とは知り合いか?」

「ええ。まぁ……ちょっとした知り合いです」

 アーラが尋ねると、マリッタは気まずそうに淡々と答える。

 その説明が気に障ったオレリアは、頬を膨らませた。

「ちょっ、酷い! 知り合いっていうか、友達だったじゃん!」

 その隣ではカリーヌがコクコクと、何度も首を縦に振っている。


「なんと、そうだったか。何だマリッタよ。友人も居たのではないか」

 照れ隠しだったのか、とアーラはしたり顔になる。

 それにリシャールも同意する。

「本当、意外ですね」

「ああ!?」

 瞬時にしてマリッタの体が緑色の発光に包まれたのを見て、リシャールは震え上がった。

 先程の受けた痛みを思い出したのか、頭を抱えて小さく蹲る。


「あはは! 変わってないなぁ」

 そんなマリッタとリシャールのやり取りを見て、オレリアは手を叩いて喜んだ。

 無論、リシャールの怯えが面白かったのではなく、マリッタが昔と変わっていないことが嬉しかったのだった。

 そして、カリーヌも同じく、マリッタが昔と変わっていないのを感じて感激していた。

 ただその感情が高ぶりすぎたのか、小さな目からポロポロと大粒の涙をこぼし始める。

「ちょっ、カリーヌ、何泣いてるの!?」

 突然の友人の奇行に、オレリアは目を丸くして驚きの声を上げる。


「……マリッタさんが……私…………ずっと、会いたくて……」

 嗚咽を繰り返しながら、カリーヌは俯いたまま、か細く呟く。

 よく聞き取れないほど小さな声だが、その中には深い感情が込められている。

 そんなカリーヌを、マリッタは何とも言えない目で見つめていた。

 カリーヌの気持ちが分かるオレリアは、優しい眼差しで友人を見つめ、その小さな頭をそっと撫でる。


 カリーヌの秘めていた想いの吐露に、全く理解が及ばないアーラは不思議そうな顔でオレリアに尋ねた。

「どうしたのだ、彼女は?」

 優しげな空気を醸し出していたオレリアだったが、アーラに問われるなり、一転してその顔にニヤケた笑みを浮かべる。

「ああ、簡単に説明するとね。この娘はマリッタの事が大好きで大好きで――――」

「オ、オレリアちゃん!!」

 身も蓋もない言い様に、カリーヌは涙で赤くなった目を擦りながら、ガバッと顔を上げて友人を叱責した。

 顔は茹蛸のように赤くなっている。


「おお、怖い」

「ふむ。マリッタは、人気者だったのだな」

 アーラは感心したように、マリッタを見上げた。

 その称賛に、マリッタは顔を引き攣らせて呻く。

「お嬢さん、何変なことを……」

 何か言おうとするが、言葉にはならない。

 その代りに、オレリアが愉しそうに口を挟む。

「うひひっ、そうだね。良くも悪くも人気者だったよ」

「オレリアっ!」

「ホンとの事じゃん」

 オレリアは全く悪びれずぺロッと舌を出すと、怒るマリッタから距離を取るようにアーラの背後に隠れた。


 オレリアの言葉に、蹲っていたリシャールがピクリと反応する。

 満面の笑みを浮かべながら立ち上がると、オレリアに訊いた。

「そこのところ是非聞きたいですねぇ。マリッタさんは学校に通ってた時の事を、全く話してくれませんから」

 マリッタの眉間がピクッと蠢く。

「何故、お前に話さないといけない」

 一瞬にしてリシャールとの間合いを詰めると、血管の浮き出た右手をリシャールに伸ばす。

 親指と小指が、丁度こめかみに当たるようにリシャールの頭を掴むと、渾身の力を込めて握った。

「あ、あ、頭が割れちゃうっ!!」

「こんな空っぽの頭なんか、割れてしまえっ!」


 ジタバタ暴れる二人を尻目に、アーラは真面目な顔でリシャールの言葉に同意する。

「ふむ、だがリシャールの言う事にも一理あるぞ。私も聞いてみたい」

 リシャールの頭は掴んだまま、マリッタは嫌そうに顔を歪めた。

「お嬢さんも、止めて下さいよ!」

「まぁまぁ、その事はおいおい話すとして」

 アーラの背後から顔を出したオレリアが、マリッタを宥める。

「話さなくていい!」

 全力で拒否した事で腕に力が込められたのか、リシャールは白目を剥いて口から泡を吹き出していた。

 それに気付いたマリッタは「汚い!」と、リシャールをポイッと投げ捨てた。


 

「分かった分かった。それより自己紹介の続きだけど、私はオレリア」

 オレリアは気を取り直すように、一指し指で自分を指して名乗った。

 そして、次はカリーヌの背後に回ると、ポンと肩に手を置いて彼女の事を紹介した。

「で、この娘はカリーヌだよ」

 紹介に合わせて、カリーヌが小さく頭を下げる。


 アーラは二人を順番に眺めると、

「オレリアにカリーヌか。うむ、覚えたぞ」

 と、大きく頷いた。

「では、二人とも、付き添い宜しく頼む」

「あはは。こっちこそよろしく。アーラは昔のマリッタの話が聞きたいようだけど、私達も今のマリッタの話を聞きたいしね」

「ぜ、是非!」

「うむ。等価交換だな」

「オレリアっ!!」


 話を蒸し返すオレリアに、マリッタが眉間に皺を寄せて怒鳴る。

 その怒りを笑顔で躱しながら、オレリアはゆっくりとマリッタの前に移動した。

「マリッタと、二人の関係が気になる所だけど…………その前に」

 オレリアとカリーヌは、曇りの無い笑顔で微笑みながら、一度互いの顔を見る。

 同時に頷くと、マリッタに友愛の込められた眼差しを向けて、言った。



『おかえりなさい』



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