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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
85/121

80: 決闘

 

 半刻後、六間ほどの間を空けて、二人の少年達は向かい合っていた。


 二人の手には、剣――――の代わりに、木の棒が握られている。

 赤毛の少年は、勇ましく抜き身の剣での闘いを望んだのだが、それはリシャールがキッパリと断わった。口八丁で、あれやこれや言っていたが、間違いなく剣での決闘が怖かっただけだろう。

 他の面々は皆悟っていたが、特に何も言わなかった。

 確かにこんな辺鄙な場所で、どちらの血を流すのも馬鹿らしいと思ったからだった。


 赤毛の少年は最後まで粘っていたが、結局は折れた。

「剣でないと勝てないのか?」

 と、グラストスに指摘されたことが大きかったのに違いない。

 

 それから、二人は適当な木の棒を探す為に周囲に広がる草原を駈けずり廻って、ようやく格好のつく獲物を見つけ出したのだった。

 ただ、両者の得物は共に微妙な弧を描いている。不満はあったが、再び探し回るもの嫌だった為、二人はそれで妥協していた。

 

「俺の名は、ジョルジュ・アダン・ボードレルだ。本当は貴様ら如きに名乗りたくはないが、決闘だからな。特別に教えといてやる。有難く思え」

「ぼ、僕は――――」

 ジョルジュの名乗りを聞いて、慌ててリシャールも自分の名を告げようとする。

 しかし、それを遮るように、ジョルジュは薄笑いを浮かべて、吐き捨てるように言った。

「ふんっ、お前は別に名乗らなくていい。どうせ直ぐ忘れる名だ」

「…………」

 リシャールは流石に気分を害した様子を見せたが、不満は言葉にならず、口の中で飲み込んで消えた。


「はぁ……」

「こら、リシャール! ああまで言われて、少しは言い返さないかっ!」

「落ち着いて下さい。アーラさん」

 マリッタ、アーラ、オーベールの三人は、馬車の後ろに並んで腰掛けて、完全に観戦を決め込んでいる。

 つい先程までは自分が決闘すると息巻いていたアーラも、いざ二人が向かい合う所を見ると、人が闘うところを観戦するのも悪くない、とでも思ったのだろうか。今は必死にリシャールを罵倒――――応援している。

 

「二人とも分かっているな? 今回は純粋に剣の腕だけの勝負だ。魔法は無しだぞ?」

「は、はい」

「ふんっ、当たり前だ。俺はケーレス騎士団の騎士だぞ。何でもありの自由騎士なんかと一緒にするな」

 立会人を押し付けられ、丁度二人の間辺りの道脇に立つグラストスの念押しの問いに対して、両者両様に反応を見せる。

 片や、何かあったら直ぐに助けて下さいよ、という縋るような目を、グラストスに向けて。

 片や、鋭い眼光を決闘相手に向けて、尋ねたグラストスを見ようともしない。

 グラストスは、闘いの帰趨(きすう)を悟ったような気がした。


「……それじゃあ、始めるぞ。二人とも構えて――――」

「あ、あ、も、もう少し時間が……」

「行くぞっ!!」

 何か聞えた気がしたが、グラストスは気にせず、

「始めっ」

 と、短い開始の合図を発した。 



「うおおおおおおおおっ」

 合図と同時に、雄叫びを上げながら突進していったのは、ジョルジュの方だった。

 たちまち間を詰め、直ぐリシャールを自分の間合いに捉える。

「うわあああああああっ」

 対するリシャールは、近づいてくるジョルジュを見ながら、恥も外聞もなく悲鳴を上げていた。

 棒、改め、剣を構えてすらいない。


「叫んでいる暇があったら、構えんかっ!」

 アーラの怒号が響く。

 声に押されるように、リシャールは慌てて剣を持ち直した。


「遅いっ!」

「うわあっ!」

 ジョルジュの渾身の振りは、リシャールの頭上から真っ直ぐ打ち下ろされた。

 助走の勢いを利用しての一振りは鋭く、そのまま受けていたら、いくら木とは言えど傷を負うのは免れないだろう。

 ガキッ、と音が鳴る。

「あいたっ」

 ジョルジュの一撃は、辛うじて差し込まれた、リシャールの剣によって防がれた。

 ただ、片手で持っていた為、勢いを完全には殺せず、受けた剣で自分の頭を軽く叩いていた。


「くっ、このおっ!」

 一撃で勝敗を決めるつもりだったジョルジュは、冴えない感じのリシャールに自分の剣を止められたことに腹を立てていた。

 苛立ちを隠そうともせずに、そのまま何度も剣をリシャールに叩き付ける。


 袈裟斬り、振り下ろし、斬り上げ――――

「うわっ、うわあっ!」

 リシャールは悲鳴を上げながらも、袈裟斬りを受け流し、上段からの一撃は受け止め、下段からの斬り上げには、身を後ろに逸らしてやり過ごし―――辛うじてそれらを受け止めることが出来ていた。

 しかし、その事が更にジョルジュの怒りを誘い、繰り出される一撃に込められた力は徐々に増していった。


 リシャールの悲鳴と、ジョルジュの苛立ちの声と、棒が交差する音が響く中、それらを上回る歓声が辺りに響く。

「~~~~っ、~~~~だ!!」

 早口で何を言っているか分からないが、二人の意外な接戦に、すっかり興奮してしまったらしい。アーラは身を乗り出すようにして、二人を応援していた。


「はぁーー……二人とも凄いですね」

 オーベールも感心したように、何度も頷いている。

 実際にリシャールの腕前を見たのは、これが初めてだったのも影響しているのだろう。

 日頃は明るい少年の意外な一面を見た気がして、二人の闘いから目を逸らす事が出来なかった。

 

 ただ、残るマリッタだけは、二人の闘い様を見てイラついていた。

「ちっ、何やってんのよ……」

 ギルドの調査員として、自由騎士達と行動を共にしてきたマリッタは、多くの騎士を見てきている。その経験からすると、二人の決闘内容は児戯にしか見えなかったのだ。

 その所為で、マリッタはリシャールだけでなく、ジョルジュの不甲斐無さまで気になってしまう有様だった。

 しかし、それでも視線は二人の闘いに固定されている。



 攻撃一辺倒のジョルジュに対し、攻撃を躱すことに全力を費やしているリシャールだったが、なかなかどうして、闘いは拮抗していた。

「くそっ! 当たれっ! 避けるなっ!」

 ジョルジュは既に三十を超える回数剣を振っていたが、未だ直撃は叶わなかった。

 例え、鉄の剣でなかったとしても、渾身の力を込めて剣を振るのは体力を消耗する。

 まして、今は決闘中である。消費は訓練の時のそれより激しい。

 滝の流れのような怒涛の攻撃を続けていたジョルジュも、一旦体勢を立て直す事にしたのか、数歩後退して、リシャールから距離を取った。


(今だ、リシャール!)

 相手が下がった時こそ、反撃をするのに絶好の機だ。

 内心、そう叫けびたいグラストスだったが、立会人の立場もあって、声には出せなかった。


 その心の声虚しく、リシャールはジョルジュの圧力が無くなって、ホッとしたように一息吐いていた。

 何とか攻撃をしのげてはいるものの、リシャールも必死だった。

 防戦一方というのも、疲れを後押ししていた。

 とても、反撃に移ることなど出来なかったのだ。

 

 二間程の距離が開いて、再び二人は対峙する。

 互いに、獲物の握りを確かめるように、ギュッと棒を握り締め直した。

 二人の口から、荒い呼気がもれる。

 特に疲労が目立つのはリシャールである。ジョルジュと比較して、呼吸の回数は明らかに多い。


「くそっ、くそっ、こんな奴に」

 ジョルジュはぶつぶつと、苛立ちを繰り返す。

 こんな小動物のような相手に手間取っている自分が許せなかったのだ。

 そして、相手は自由騎士でもある。

 この国の騎士団に所属する、全ての騎士の代表のような気持ちになっていたジョルジュは、それが最も悔しい点だった。


「くそっ、今度はどうだっ!!」

 いち早く呼吸を整えたジョルジュは、再び間合いを詰めて、剣を振り下ろす。

「ちょっ、待っ……!!」

 咄嗟の隙をつかれたリシャールは、ドタドタと、後ろ歩きで後退した。

「逃げるなっ!」

 それを追うジョルジュ。

「うわあああっ!!」

 体勢を一度立て直したいリシャールは、前を向いたまま、器用に後方に走り続けた。

 剣を上段に構えた体勢で、ジョルジュはその後を追う。

 そうして、二人はどんどん元の場所から離れていった。


「おいっ、どこへ行くんだ!?」

 グラストスは二人を呼び止めながら、急いで後を追いかけた。



「待てよ! 止まりやがれっ!」

「な、なら一旦君が止まってよ!!」

「お前が止まったら止まってやる!」

「いや、君が止まったら止まるよ!」

 二人の間にポンポンと言葉が飛び交う。いつの間にか低次元の言い争いになっていた。

 ただ、その間にも、両者共に剣を構えて走り続けている。

 その様子は、滑稽、の一言に尽きた。

 

「お前が――――」

「君が――――」

 そして、二人は剣の先の部分で、一心不乱にコツコツと結び合わせていた為か、二人の先にいつの間にか一人の男が立ち塞がっているのに気がつかなかった。

 男は鷲の紋様の軽鎧を身に着けている。

 それは、かなり使い込まれているので別の物にも見えるが、ジョルジュの見につけている鎧と同種のものだった。

 

 男は背中を向けて近づいてくる少年(リシャール)に向けて、掌を差し出した。

 程なくして、差し出した手に少年の背中がくっ付く。

 男が力を込めると、少年の後退はピタリと止められた。



「ふへえっ!?」

 突然、岩でも背にしているように、後退出来なくなったリシャールは驚愕した。 

 動揺から固まってしまったリシャールに向かって、ジョルジュは跳躍する。

「貰ったっ!」

 大きく剣を振りかぶり、渾身の一撃を振り下ろした。

 

 しかし、その剣がリシャールに到達する前に、男はリシャールの後頭部を掴むと、ポイッと、道の脇に向けて放り投げた。

「な!? なんなのおおっ!?」

 そして、リシャールに振り下ろされる筈だった、ジョルジュの一撃に対して、自分の腰の剣を鞘ごと抜いて差し出した。その鞘に向けて、ジョルジュの剣が振り下ろされる。

 ガキン、と重たい音が響いたが、男はその衝撃を平然と耐え抜いた。

「なっ!? 誰だ! 俺の邪魔をする…………のは……」

 くわっ、と目を見開いたジョルジュの前にいたのは、太い眉に鋭い眼光が特徴の、ジョルジュがよく見知った男だった。


「思い切りは良いのは認めるが、渾身の力を込める時に目を瞑る癖は直せと、あれ程言っているだろう」

「バ、バイロンさん……どうして?」

「どうして?」

 問われたバイロンは、ふっ、と小さな笑みを口元に浮かべる。

 一呼吸置いて――――


「お前は何でこんな所で道草食ってるんだっ!!」


 バイロンの激しい叱責が、拳骨という形でジョルジュの頭上に落ちた。

「うがっ!」

 傍から見ても重そうな一撃に、ジョルジュは頭を抱え込んで蹲った。

「お前には、先に砦に戻って副団長に調査結果を報告するように言っておいただろうがっ!」

「あ、いや、それは……」

「言い訳は要らん! そんな暇があったら、彼らに謝罪して、とっとと砦に戻れっ!」

「は、はい」

 先程の強気な態度とは一変し、ジョルジュは心なしか小さくなったようにも見える。

 バイロンには全く頭が上がらないのか、ジョルジュは唯々諾々と従った。駆け足で自分の馬の元に向かおうとする。


「ジョルジュッ! 彼らに謝罪してから行かんかっ!」

「そ、それは……」

 ジョルジュは微妙な顔で、リシャールを振り返った。

 バイロンの手前、口を開こうとしているが、そこから謝罪の言葉は出てこない。

「ジョルジュッ!!」

 再度の促しに、追い詰められたような顔になったジョルジュは、ぐむむ、と唸った後、リシャールにビシッと指を差して言った。


「しょ、勝負は預けたぞっ!!」

「ジョルジュッ!!」

 バイロンがジョルジュの態度を咎めるが、赤毛の少年は捨て台詞を残した後、後ろを振り向かずに、一目散に走り去っていった。


 その様子をバイロンは眉を顰めて眺めていたが、呆然とジョルジュを見送っていたリシャールと、二人を追って傍まで来ていたグラストスに視線を移した。

「全く…………申し訳ない。うちの団員が迷惑を掛けた」

 バイロンはそう言って、肩を並べた二人に小さく頭を下げた。

「怪我はしていないか?」

「え、ええ。も、もちろん。一撃も受けてないですよ」

 リシャールは気後れしながらも、胸を張って答えた。

「ほう、それは大したものだ。アイツは騎士としての心構えは全然なっていないが、剣の腕だけはあの歳にしては立つ方だからな」

「あ、あの程度、もう少し時間が有ったら返り討ちに出来てたんですけどね」

「…………そんな風には見えなかったが」

 グラストスのジト目がリシャールを捕らえていたが、バイロンは、大したものだ、と鷹揚に笑った。


「では、怪我もなさそうだし、自分も失礼させてもらうよ。少年、本当に済まなかったな。アイツにはキツク言っておく」

「は、はい。是非そうしてやって下さい」

 バイロンはリシャールに謝罪すると、近くに離していた馬に跨って、ジョルジュの後を追って走り去っていった。


 途中、バイロンとすれ違ったアーラ達は、不思議そうにバイロンを見送っていた。

 やがて、アーラ達はグラストス達に合流する。三人を代表してアーラが尋ねた。

「今のは誰だ? 勝負はどうなった?」

「よく分からんが…………お預け、らしい」

「あと少しだったんですけどね」

 リシャールの言葉には誰も反応しなかった。

 結局、事情はうやむやのまま、一行は旅を再開することになった。


 

***



 それから暫くして、一行は野営の準備を始めた。

 『学校』はもう一刻もすれば到着できるところまで来ていたが、もう辺りは暗かった。

 今行った所で中には入れない、というマリッタの進言に従って、今日はここらで休む事にしたのだった。


 簡素な食事を終えた後、アーラとマリッタの女性陣は馬車内に消えた。

 馬車で休むのが女性陣、外で野宿するのが男性陣だと、一行の間で話し合われたことは無い。

 ごく当たり前のように女性陣が馬車を使うことになっていた。それに対して、男性陣は異論は無かったものの、何か釈然としない気持ちを抱かずにはいられなかった。

 

 そうして、三人は馬車の近くに、草を敷き詰めて寝床を確保する。

 まだ眠気は無かったが、こう暗くては何をする事も出来ない。

 三人とも仕方なく並ぶようにして、寝床に仰向けに横たわり、静かに夜空を眺めていた。 

 この辺りはずっと草原が広がっている為、視界を遮るものはない。一面の夜空がそのまま三人の瞳に映し出されていた。

 まるで手が届きそうな星の光に、三人は魅了された。

 ビリザドでも星はよく見える。ただ、こうして改まって夜空を眺めたことは、三人とも殆ど記憶に無かった。

 特にグラストスは以前の記憶が無い。なので、非常に新鮮な気持ちで、飽きもせずずっと見上げ続けていた。


 そうして、四半刻くらい経過した頃だろうか。

 突然、グラストス達の視界に黒い影が入ってきた。

 それはそのまま視界を横切り、何処かに消える前に一度だけ鳴いた。猫の鳴き声を甲高くしたような、とても印象深い鳴き声だった。


 ゆっくりと身を起こし、黒い影の去ったと思われる方を眺めながら、グラストスが呟く。

「何だ……今のは?」

「随分、特徴的な鳴き声でしたね。鳥でしょうか?」

「いえ、あれは魔物です」

 グラストスとオーベールの疑問に、リシャールが断言する。心持ちか表情は固い。


「まさか、こんな所に生息しているなんて……」

「何だ、もしかして危険な奴だったのか?」

「そうは見えませんでしたが……」

 二人の疑問に、リシャールは首を振った。

「いえ、一体だけなら別に大した相手じゃないです。もし襲われたとしても、僕らで十分対応できます。ですが――――」

 リシャールは、そこでいったん話を区切る。

 反動を付けて一気に身を起こすと、いいですか、と前置きして話を再開した。


「もし、今後遭遇する事になっても、あの魔物は、絶対にこちらから攻撃してはいけません」

「凶暴な奴なのか?」

「いえ、どちらかといえば、臆病な魔物です」 

「襲ってきたりは?」

「何もしてないのに向こうから、襲ってくる事は滅多にない筈です」


 そこまで聞いて、グラストスは安心したように一息ついた。

「なら大丈夫だ。態々挑発するような真似はしない」

「ええ、そうですね。無用な殺生はしない方が良いです」

 二人ならそうだろう、リシャールもそこは心配していなかった。


「でも、何故攻撃してはいけないんだ?」

「はい。あの魔物は、さっきも言ったように一匹なら全然大した事はないんですけど、もし仮に一匹を襲って仕留め切れなかったら……大変な事になります」

「どうなるの?」

「さっきの鳴き声は聞きましたか? あれは仲間との連絡の為に発していると言われているんですが、その声は…………そうですね、ここからフォレスタ近くまで届くらしいんです」

 ここからフォレスタまでとは、かなりの距離がある。自分達の例で挙げるなら、馬車で一日移動したほどの距離だ。

 リシャールの言葉に、驚きながらも、グラストスは疑問を返す。


「それは言いすぎじゃないか? そこまで大きな声ではなかったぞ?」

「ええ、その通り、人間の耳では聞き取れないんですが、同じ種族の仲間ならその位の距離まで聞き取ることが出来るんだそうです」

「なるほど……」

 オーベールが納得したように頷く。

「で、もしその声で助けを呼ばれたら…………その仲間が一斉に襲い掛かってくる…………らしいです」

「仲間って……どのくらい数の?」

「詳しくは知りませんが、それはもう”沢山”としか言えないぐらいの数だそうです」


 リシャールの話を想像して、二人はゾッとした表情を浮かべた。

「それは……恐ろしいな」

「絶対に怒らせてはいけない相手って事ですね」

「はい。ただ滅多に見ない魔物なので、遭遇する事は稀なんですけどね」

「ビリザドには居ないのか?」

「ええ、幸いな事にビリザドには生息していないようです。ネムース大森林の奥深くにもいないか、と言われると断定は出来ませんけど」


「そうなんだ……でも、それならリシャール君はよく知っていたね」

 オーベールが称賛するように言う。

 グラストスもリシャールのこうした知識は素直にすごいと思っていたので、同様の視線を送っていた。

「え、あ、いえ。以前、父上に教わった事がありまして……」 

 リシャールは満更でもない顔で頭を掻く。

 その様子を微笑みながら見ていたオーベールは、最後に一つだけ尋ねた。


「後学の為に聞いておきたいんだけど、さっきの魔物の名前は何て言うの?」

「それはですね…………」

 リシャールは暫しそのまま固まった。渋面を浮かべ、考え込むように腕を組む。

 どうやら名前は覚えてなかったらしい。

 そのまま考え込んで、オーベールが、もういいよ、と申し訳なさそうに告げようとした時。

「思い出しました!」

 リシャールは、ポン、と手を叩いて叫んだ。

 そして、二人が見つめる中、魔物の名前を告げる。



「あの魔物の名前は、確か『ウォーバット』です」



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