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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【4章 神の医師】
78/121

75: 野宿

 

「本当に帰して良かったんですかい?」

「そうですぜ。ありゃあ、中々のタマ()でしたぜ?」

 客が掃け、関係者以外居なくなった閑静な賭場の一室に、男達の姿はあった。どの顔も不満の残る表情をしている。

 男達が敬語を遣う所からすると、この賭場での頭領なのだろう。部屋の置くの机の前に立ち、彼らの不満を浴びている男は、固く目を閉じたまま答える。

「別にウチから出費があった訳ではない。あの小男(デイヴ)の分を含めると、差し引きゼロだ」

「そりゃあ、そうですが……」


 彼らの知る頭領は、別に臆病な男ではない。寧ろその正反対と言っても良い。どんな時でも常に冷静で声を荒げたりはしないが、それが何より恐ろしい。

 以前、頭領に懐いていた店の女が、不正に店の金を使っていたことが判明した時、頭領は懇願する女を眉一つ歪めることなくその手で処刑したこともあった。そのあまりの平然とした様に、部下達は誰もが恐れおののいたものだった。

 

 そんな冷徹な頭領であった為、部下達は今回の対応に違和感を覚えずにはいかなかった。

 頭領の返答がやはり不満だったのか、あからさまに不満そうにする。

「儲けられた金づるを失った事には代わりありませんぜ」

「そうですわ。奴らがイカサマを貼った事にしてりゃあ、今頃は――――」

「――――貴様らの誰一人として、ここに立ってはいられなかっただろうな」


 頭領は瞑っていた目をゆっくりを開く。

「客を嵌めるのは貴様らの勝手にしていいが……相手は選ぶんだな」

「相手って……そんな大層な野郎が居たようにゃあ見えませんでしたが」

「そうですぜ! 全員で囲めみゃあ、あんな奴ら……!!」

 鼻息荒く、気炎を吐く部下たちを、頭領は冷笑する。

「……貴様らに分かりやすい様に言ってやろう」

 憮然とした表情の部下達を見回し、頭領――――この賭場で門番をしていた男は言った。


「何故こんな所にいるのかは分からないが、あの不精髭の男は――――『眠れる熊』だ。随分様子は変わっていたがな」


 頭領の告げた事実に、部下の誰もが声を失った。ここに居る者で、その名を知らぬ者はいない。

「幾らここが『盗賊ギルド』に加盟している組織の運営する賭場であったとしても、そんな余計な手を出そうものなら、奴はここを破壊することさえ躊躇わなかっただろう。……折角寝ているんだ。態々叩き起こす事もない」

 頭領はそう言うと、話は終わったとばかりに机に座り机の上の蝋燭を灯すと、今日の収益勘定を始めた。

 無言で作業を始めた頭領を、部下達はしばらくの間呆然と眺めるのだった。



***



「本当に助かった。恩に着る」

 数刻ぶりに外気を吸う事が出来たグラストスは、外に出るなり改めて三人に礼を言った。

「本当に、有難うございます。有難うございました」

 続いて、グラストスと一緒に囚われていた女性も頭を下げる。完全に救いを諦めていたこともあり、女性の喜びは一入だった。もう二度と会えなくなっていたかもしれない息子にもう一度会える、と言う事もそれに加味されているに違いなかった。

 その事が、女性に何度も何度も頭を下げさせる事に繋がっていた。


 オーベールは涙ながらに感謝の意を述べる女性に、慌てて両手を振る。

「いえいえ。そんな、気にしないで下さい」

「そうだな。アンタが助かったのは、アンタの運が良かったからだ。ただそれだけだよ」

 ドレイクは大剣を背中に担ぎ直しながら言葉を付け足した。困惑しているようにも見えるが、どこか照れているようにも見える。

 そんな中、ただ一人嬉しそうにしていたリシャールは、グラストスの方を見るとニンマリと笑った。

「それに、そもそも、グラストスさんが捕まってなければ、こうやってご一緒することもなかったでしょうしね」

「ちげえねえ」

「だから悪かったって……」

 リシャールの一言に、ドレイクはニヤリと笑いながら同意し、オーベールもにこやかに微笑んでいる。苦笑いを浮かべて謝罪するグラストスを見て、三人は更に笑った。

 そして、その笑い声につられるように、ようやく女性の表情も綻んだのだった。


+++


 それからグラストス達は、宿に置いてある荷馬車を取りに戻る事に決めた。多少の銭を稼ぐ事が出来たので、宿で一泊できる資金は十分にある。

 だが、切り詰めた生活に慣れてしまっていた一行は、別段それを魅力と感じなかった。なので、とりあえず街を出て、いつも通り荷馬車の固い床を枕に夜を明かそうと考えていた。

 

 ただ、女性のことがあった。

 女性は自分の浅はかな行いを悔い。ともかく先ずは息子の元に向かうつもりだった。だが、生憎路銀は尽きている。加えて足もない。

 そんな女性とこのままこの治安の悪い街で別れるのは、流石に忍びなかった。グラストス達が送る事を提案したのは自然の流れだった。

 女性は「助けて頂いた上、そんなことまでして頂く訳にはいきません」と、完全に恐縮してしまっていたが、女性の向かう先がヒルニだという事を聞き及び、どうせ帰り道だから、と説得し連れて行く事になった。


 となると、話は振り出しに戻る。

 流石に女性に野宿をさせる訳にはいかないと思った男衆だったが、彼女は寧ろそちらの方が良いと主張した。これ以上負担をかける訳にはいけないという考えだったのだろう。ならばと、四人はそういった女性の感情を読み取って、結局野宿をすることに決まった。

 そうして、一行は宿屋に戻ると、就寝中だった馬を半ば無理やり起こすと、ムマルの街を後にした。

 むさい男達の中に、一輪の華を乗せて。


+++


 馬達には悪かったが、グラストス達はムマルの街からは少し離れる事にした。色々あったので、少々食傷気味だったのだ。特にグラストスはその思いが強く、出来るならば二度と寄り付きたくないと思っていた。

 なので、以前停泊した場所は通り抜け、その先で休むのに良さそうな場所を探していたが、いざ探すと中々目当ての場所が見つからないのは、野宿の常であった。

 

 その時間を利用して、女性は自分が捕まる事になった理由を他の面々にも伝えていた。

 辛い話なので別に言わなくても良いとグラストスは止めたが、これはケジメだと。グラストスに伝えた話を今度は三人に話したのだった。

 

 女性が語り終えた後、三人は黙り込んだ。なんと言えば良いのか、分からなかったからだ。リシャールさえも余計な事を言わず、気まずそうに俯いている。

 そんなしんみりとなってしまった空気を換える様に、ドレイクがグラストスに話を振った。

「…………で、兄ちゃんは何で捕まってたんだ?」

 グラストスは思わず口ごもる。女性の話と比較されると、自分が経緯(いきさつ)はとても間の抜けた話に思えて仕方がなかったからだ。

 だが、押し黙ったグラストスの様子を怪しく思った二人から(オーベール除く)再三の質問を受け、グラストスは渋々自分のことを話す事になった。

 ――――そして、切ない女性の話とはうって変わって同情し難い話に、三人は脱力したのだった。


 グラストスの話の所為で、沈んでいた空気はすっかり払われてしまった。

 リシャールは、はぁ、と深く溜息を吐くと、したり顔でグラストスに話しかけた。

「もう。今回は本当に感謝して下さいよ? グラストスさんがこうしていられるのは僕達のお陰なんですからね」

 その言いっぷりでは、グラストス達を救えたのは、リシャールの貢献が最も大きかったように聞える。事実とはかなり乖離(かいり)していたが、事情を知らないグラストスが礼を言おうとした所――――


「……何を言ってんだ。お前は金を浪費しただけじゃねえか」


 例によって御者をしているドレイクが馬車内を振り返り、呆れた表情で口を挟んだ。

 事情をバラされて思わず「ぬあっ!」と奇声を発して仰け反ったリシャールだったが、何とか持ち直すと引きつった笑いを浮かべながら言い返す。


「た、例えそうだったとしても、ドレイクさんにだけは言われたくないですねっ!」

「何? 聞き捨てならねえな。俺っちの活躍を忘れたのか?」

「活躍? 所持金をゼロにしたことですか?」

 ドレイクは危うく御者台から転げ落ちそうになった。

「うぐっ……言うじゃねえか……」


「大体ドレイクさんは無駄が有り過ぎなんですよ。無駄な全掛けをしたりして。一体幾ら失ったんですかね。僕を見習って、計画的にですね――――」

「漢だったら全掛けに決まってんだろ。坊主のようなチマチマみみっちい賭けなんかしてられるか……っと、そういえば……坊主」

 ドレイクは不思議そうな顔で一息挟んだ後、リシャールに尋ねる。

「お前……今日一度でも勝ったか?」

「なっ、なにをっ!! そんなこと……っ!」

 リシャールはすぐさま言い返そうとして、言葉に詰まった。ほんの半刻前の記憶を根こそぎ探ってみたが、どうも該当する記憶が見つからなかったらしい。

 パクパクと口だけは開くが、言葉が出てこない。

「ほら見ろ! 何の役にも立ってねえじゃねえか! それでよく人のことが言えたもんだな。どの口が『見習え』なんて、言ってるんだ?」

「ち、ちがっ。ありますよ。ぼ、僕だって勝ちましたよっ!」

 売り言葉に買い言葉なだけで、完全に口からの出まかせだった。ドレイクもそれが分かっているのか、鼻で笑う。

「勝ったっていってるのにっ! ……そ、そんなことより、よくも人のことを売ろうとしましたね! 僕は絶対忘れませんよっ!」

「釈放してやったからいいじゃねえか」

「ふざけないで下さいっ! それに釈放してやったって……ドレイクさんは何もしてないでしょっ! 釈放金を全額稼いでくれたのはオーベール様じゃないですかっ! 何です! それをさも自分のやったことのように……」

「例えそうだったとしても、お前だけにゃあ言われたくはねえ」

「それは聞き捨てなりませんね」

 そして、話は繰り返す。


「…………結局。俺達が解放されたのは、オーベールのお陰だったようだな」

 更に激しさを増した二人のやり取りを冷静な表情で聞きながら、グラストスは隣に座るオーベールに改めて礼を言った。はにかむオーベールを他所に、ギャアギャアと聞き苦しい言い合いをしている二人の声は夜道に響き続けるのだった。



***



 半刻経過した頃、ようやく落ち着けそうな場所を見つけ、一行は馬車を停泊させた。もうそれほどしない内に、朝日が大地を照らしそうな気配が空の遥か先にあったが、既に限界近かった一行には関係が無かった。

 流石に女性は消耗していたのか、いつの間にか馬車の中で丸まるようにして静かに寝息を立てていた。

「僕ももう限界です」

 女性の穏やかな寝顔を見て眠気を誘われたのか、リシャールが当然のように女性の隣に丸まろうとする。

「お前はこっちだ」

 グラストスとドレイクはすかさずリシャールを掴み上げ、外に放り出した。


 そうして、四人は女性を起こさないように荷馬車の帆を閉め切ると、黙々と作業を進めた。

 寝床といっても、布の敷物があるわけでもない。朝露の降りた草木を退かして、地面を露出させただけだった。当然、湿り気のある冷たく固い寝床だったが、眠気が限界近くまで来ていた四人は黙々と作業を続けた。二頭の馬を荷馬車から放し、ようやく自分の寝床を確保すると、すぐさま横になった。


「あ、一応……見張り……立てねえとな」

 そんな声がドレイクが横になった場所から聞えてくる。二人(オーベールを除く)は露骨に嫌な顔になった。

 仕方なく身を起こした三人だったが、言葉を発した張本人のドレイクは中々体を起そうとはしなかった。

「お、おい。ドレイク」 

 グラストスが声をかけるが――――反応がない。

 非常に不安を覚えた三人は顔を見合わせる。仕方なく再びグラストスが声をかけようとした時、ドレイクの場所から騒々しい寝息が聞えてきた。

「…………おい」

「…………寝てらっしゃいますね」

 ドッと疲れた表情で、ドレイクの方を見やる二人だったが、残念ながら咎めるような気力はなかった。

「……ドレイクさんはずっと御者をして下さっていましたから、きっとお疲れだったのでしょう」

「まぁ……そうかもな」

「ここは、残った僕達で順番を決めましょう」

「……そうだな」

 年長者でもあるし、御者を一日やっていたドレイクが疲れているというのは確かにそうだろう。

 グラストスも特に異論はなく、オーベールの提案を認めた。


「なら、俺たちで順番を……」

 ドレイクを視界から外し、三人に意識をやった時、グラストスは違和感に気付いた。

 恐る恐る隣に視線をやると――――


「すぴーーー」

 幸せそうな寝顔のリシャールが居た。


 どこでも迅速に眠りに落ちることが出来る、というのは熟練の自由騎士として持つべき能力である。というより、"熟練"と言われる自由騎士は誰しもが供えている能力であった。

 ドレイクは元より、子供の頃から自由騎士をしているリシャールもまた、そうした能力に関してだけは十分に熟練の域に達していた。

 つまり、リシャールはドレイクが既に寝ているという事に気付くや否や、自分も先に寝てしまえば見張りを免れられるだろうと考え、グラストス達の注意がドレイクにいっていた隙に、眠りについていたのだった。

 オーベールは先に疲れて寝た者を起こしたりしないし、今回グラストスには負い目がある。それらの事も計算に入れての抜け駆けに違いなかった。非常に強かである。

 呆れるより寧ろ、感心するしかなかった。


「…………はぁ。ああ、分かった。今回は俺が見張りをするよ」

「え? あ、いけません。グラストスさんにだけ押し付ける訳には」

 リシャールの逞しさに驚いていたオーベールは、慌ててグラストスに向き直った。

 それをグラストスは手で制する。

「いや、今回俺は迷惑をかけたからな。その償いと思ってくれたらいい」

「でも、それでは貴方が……それに迷惑と言っても、捕まっていたのは貴方の所為という訳では……」

「事情はどうあれ、迷惑をかけたのは事実だ。それに負担は気にしなくていい。明日……じゃなくて、もう今日か。今日の馬車の中で休ませて貰うから」

「でも……」

「こんな事じゃあ、全然返しきれないだろうが、せめてもの恩返しだ。ここは素直に従ってくれ」

「……分かりました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 オーベールはようやく柔らかく微笑むと、上げかけていた腰を再び地面に落ち着けた。


 それきり、言葉が途切れる。

 気まずい、と言うほどではなかったが、二人がこうして二人きりで顔を向かい合わせて話をするのは、この旅でこれが初めてだった。

 しかも、片や貴族。それも侯爵家の一人息子と、片や記憶のない(恐らく)平民である。共通の話題など、そうそう浮かばなかった。

 暫く会話は途切れたが、オーベールはまだ眠ろうとする様子はない。

 何か話を続けたそうにしているような気配を感じ、グラストスはとりあえず思いついた事を口にした。


「……しかし。……アンタも変な貴族だな。まさか、侯爵家のお坊ちゃんが見張りをするなんて、言い出すとは思わなかったよ」

「身分なんて関係ありません。旅の同行者である以上、僕も一員です。しなくてよい道理がありません」

「そういうところがな」

 グラストスは微かに笑う。

 知識として貴族がどんなものかは知っているものの、実際に接した事があるのはオーベールとアーラだけだった。二人とも貴族……それも侯爵家の人間という立場にありながら、それを鼻にかけたりはしない。

 もしかしたら、パウルースではこれが普通なのかもしれない。と、グラストスが考えてしまうほど二人は気安かった。

 別段貴族に対して敬うような感情はなかったが、この広い世界で始めて知り合った貴族二人が、この心地よい二人であった事は、とても幸運な事だろうとグラストスは思った。


 そんな事を考えていたグラストスを他所に、オーベールは空に輝く星空を見上げながら呟いた。

「僕は……貴族だったんです」

「?」

「僕が貴族になった訳じゃなくて、生まれた時から貴族だったんです」

「それは、そうだろう……が」

 グラストスは視線を夜空から離さないオーベールの横顔を不思議そうに見つめる。

「僕がなろうと思ってなった訳じゃないんです。もちろん、貴族である事が嫌だという訳ではありませんが……」

「まぁ……生まれは選べないしな」

 オーベールは小さく頷く。

「そう……生まれなんです。自分の力で得たものではないんです。貴族という身分は。ですから、そんなものを頼りにして、周囲に驕り高ぶるのは違うと思うんです」

「それはそうかもしれないが……どうしたんだ? 急にそんな事を言い出して」

 グラストスの問いに、オーベールは少し俯く。何かに迷っているような表情で逡巡した後、やがてグラストスに向き直り、頼りない笑いを浮かべた。

「僕にもよく分かりません」

「何だそれは」

 つられてグラストスも苦笑した。つくづく変な貴族だと内心思っていた。


「ただ……貴方は僕を全く特別扱いしないので、気持ちが楽だったのかもしれません」

「よく分からんが……そこの二人もアンタの事を特別扱いなんてしてないだろ?」

 グラストスは隣でグースカ鼾を立てている二人を一瞥する。

「いえ、お二人は細かい所では、色々と気を遣ってくれているのが分かります」

「そうかぁ? リシャールはともかく、ドレイクもか?」

「はい」

 オーベールは頷く。

「とても信じられんが……で、俺は気を遣っていないって?」

「はい」

「……確かにそうかもな。ただそれは、俺が昔の記憶を失ってるからだ。気を遣わないんじゃなくて、貴族に対してどう気を遣えば良いのかが、よく分からないだけだ」

「え、記憶がない?」

「ああ……そういえばまだ言ってなかったか」

 疑問を浮かべるオーベールに、グラストスは自分が目覚めてからの経緯を簡単に説明した。


「そうだったのですか……」

 オーベールは気の毒そうにグラストスを見つめる。そんなオーベールにグラストスは薄く笑い返した。

「別に気にしなくていい。皆もよくしてくれている。今の生活には何の不満も無いよ」

「それは……」

 何と返すべきか判断に困ったオーベールは口ごもる。

 その様子を見たグラストスは、表情を明るくしながら言った。

「気にしなくていいと言ってる。とまあ、それはさておき、そろそろ寝た方がいい。朝まではもうそれほど時間はないしな。軽くでも寝たのと寝ないのでは大きく違うぞ」


 グラストスの勧めに、オーベールは表情を緩めた。

「そうですね……分かりました。では、そうさせて頂きます」

「ああ、おやすみ」

「はい……お先に失礼します」


 今日は一日が長かった。先に休む事を申し訳なさそうにしていたオーベールだったが、流石に疲れていたのだろう。横になってしまうと、それほど時間が経たない内に、小さな寝息が聞えてきた。

 グラストスは軽く微笑むと、徐々に明るさが近づいてくる空の端を見上げた。藍から薄紫へ、薄紫から橙へ。何かを考える訳でもなく、映り往く空の景色をただ見つめるのだった。


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