53: 夫人
マリッタが外出した後で、アーラは夫人の寝室を訪れていた。
侯爵はあれから直ぐに準備を始めたようで、その対応に追われた使用人たちの声が、館の中を駆け巡っている。
そんな騒々しい物音を聞きながら、アーラは夫人の扉を軽く叩く。
中からの入室の許可を得て、足を踏み入れた。
夫人は既に寝床についており、その寝台の隣にある椅子には、先程の小間使いの女性が腰掛けていた。
アーラが入室すると、夫人は沈んでいた顔をパァと明るくする。
まるで幼子のような振る舞いに、アーラの顔も知らずの内に綻んでしまう。
小間使いは立ち上がってアーラに席を譲り、一礼すると夫人の寝室を退室していった。
アーラは恐縮しながらも椅子に腰を下ろして、夫人の方を向きやった。
「寝たままで御免なさいね」
そんなことを夫人は詫び、「私は大丈夫なんだけれど、こうしてないと怒られるの」と付け加え、苦々しく笑う。
そんな夫人に対して、アーラは「当然です」と、困った顔で頷いてみせた。
ただ、先程ふらついていたのは少しだけ心配だったが、夫人が思っていた以上に元気そうで、少しホッとしてもいた。
そうして、アーラは夫人と互いの近況を話し合うことになった。
夫人の方は特に何事も無かったようで、主に語り手になっているのはアーラである。
以前最後に会った時から、一年以上の月日が流れている。
話したい事は沢山あった。
なので、アーラは次々に自分が体験したことを話し続けた。
アーラの話の中で夫人が興味を示したのは、この前のドーモンの騒動の事だった。
"まあ!"と瞳をまん丸にしながらも、しきりにアーラに話の続きを促していた。
急かされるままに、アーラの知りうる経緯を一通り話して聞かせた。
そして、あの二人組みの末路以外の殆どを話し終えると、夫人は最後に、
「アーラさん。良い経験をしたわね」
と、しっとりと微笑んだのだった。
それからアーラも興が乗り、熱を帯びた口調で話をしていると、突然夫人がクスリと声を漏らした。
「どうしました?」
尋ねるアーラに、夫人は優しく相好を崩す。
「ふふふっ。ごめんなさい。いえ、昔とは立場が反対ねって思って……」
夫人が言っている『昔』とは、まだアーラが幼かった頃の話である。
ビリザドのアーラの屋敷に、バレーヌ侯爵一家は度々訪れていた。
流石に領主であるバレーヌ侯爵が頻繁に訪れる事は叶わなかったが、まるでその代りと言わんばかりに、夫人が息子と二人だけで逗留することは珍しくなかった。
当時、アーラの母親であるベッケラート侯爵夫人は既に亡く、母親の温もりを知らぬアーラの事を、まるで我が娘のように可愛がっていたのが夫人であった。
なればこその、滞在であったのだろう。
夫人は幼かったアーラに対して、よく寝床で添い寝をしながら話をして、寝かしつけてあげていたのだった。
夫人はその時のことを思い出していたのである。
「そうですね……本当に」
アーラも夫人が何を言っているのかを悟り、当時の事を思い返しながら優しく頷く。
幼かったアーラにとって、時折尋ねてくれる夫人はまるで母のような存在だったのだ。
「ふふっ。懐かしいわね……」
夫人は昔を懐かしむように、柔らかく微笑む。
「ええ……」
アーラも自然に笑みがこぼれる。
そうして、話は次第に過去の話に移り変わっていった。
二人だけの空間は、優しい穏やかな空気で包まれていた。
+++
それから暫くして、夫人が眠気を訴え始めたので、アーラは辞去する事にした。
「また、お話しましょう?」
去り際、夫人がどこか寂しそうにアーラを見上げて言う。
「……ええ、また伺わせて頂きます。なので今日は安静にお休み下さい」
アーラ達は十日はここに逗留する事は決まっている。
夫人もその事を侯爵から聞かされている筈なのに大袈裟だな、とアーラは内心可笑しくなりながらも、そう答えた。
その答えに安心したように頷くと、やがて夫人は静かに瞳を閉じていった。
夫人の寝室を出た後、とりあえずアーラが居間に向かうと、そこには老齢の執事だけがひっそりと立っていた。
侯爵の姿は見えない。
館内の使用人達の騒ぎも収まっており、もしかしたら既に旅立ったのかもしれない。
「侯爵はもう旅立たれたのか?」
「はい。今しがた……」
念のために確認すると、やはり同意が得られた。
(随分、性急な事だ……)
アーラはそう思わずにはいられない。
よほどの事が、父の文には書かれていたらしい。
それをアーラが思いやっていると、執事が唐突に頭を下げて礼を言った。
「アーラ様がいらして下さったお陰で、旦那様も安心して旅立つ事が出来ました。それに奥様のことも……」
「やめてくれ。私が望んでした事だ。礼を言われる筋合いはない」
照れ臭そうに、アーラは首を振りながら答える。
そして、ふと何かを思い出したようにアーラは執事に尋ねた。
「そう言えば、夫人は一体何の病なのだ? とても元気そうに見えるが……?」
アーラの何気ない確認だったが、その効果は大きかった。
執事は浮べていた穏やかな笑みを、すぐさま暗い影で覆い隠してしまったのだ。
「ど、どうしたのだ?」
執事の変化に、アーラは戸惑う。
だが、執事が重そうな口を開いてそこから紡ぎ出したのは、
「……いえ、奥様はただ体調を崩されただけでございます。ここ数日は、気温が安定しませんでしたからな」
そんな当たり障りのない言葉だった。
嘘だ。と、アーラは思った。
自分に心配をかけないように、偽りを告げている。そう感じた。
ただそれは分かったが、本当のことを聞き出す事はアーラには出来なかった。
恐れたのだ。何かとても重大な真実が語られることを。
アーラにとっては珍しい事だが、それ程夫人の存在が少女の中では大きい事の証明でもあった。
「……そうか、それならば暫く安静にしていれば、きっと直ぐに良くなるな」
「ええ。その通りでございます……」
互いに、自分を誤魔化していた。
そして、二人が話題に詰まった時、丁度居間にマリッタが入ってきた。
マリッタはアーラの姿を居間の中に見出すと、声をかける。
「あ。お嬢さん。話は伝えてきましたよ」
「あ、ああ。そうか。済まない。ご苦労だったな」
「いいえ……何かあったんですか?」
二人の雰囲気が暗いことを感じたマリッタは、眉を顰めながら確かめる。
だが、アーラは無理やりに笑いながら、その問いを一蹴する。
「いいや。何でもない。それよりも少し小腹が空かないか?」
「え? あ、ああ。そう言えばそうですねぇ。今日は強行軍でしたからね」
話を強引過ぎるほど唐突に変えたアーラに、マリッタは戸惑いながらも頷く。
確かに腹は空いていた。
というのも、アーラがホモンの村に今朝の自分達の分の食料も全て置いてきてしまった為、今日はまだ何も口にしていなかったのだ。
「執事殿。良ければ何か軽く作って貰える様に、頼んでもらえないだろうか?」
「ああ! これは大変失礼致しました。直ぐに伝えて参ります。暫しこちらでお待ち下さい」
アーラの頼みに執事は慌てて頷くと、足早に奥に消えていった。
「慌しい事だ」
老齢の執事の様子に、二人は口元を緩める。
それから二人は夕飯が用意されるまで、男どもの宿の事や、フォレスタの街について談笑したのだった。
+++
流石、数多くある侯爵領の中でも、一、二を争うほど裕福な土地の領主の館だけはある。
用意された食事は、とても豪勢なものだった。
ただ、こうした贅沢は普段毎日行われている訳ではない。
あくまで、アーラのもてなしの為に振舞われた食事であった。
アーラ達は恐縮したが、バレーヌ侯爵に言いつかっている、と強く言われると何も言えない。
家の主人が訪れた客をもてなす必要があるように、客の方もそれを喜んで受ける事こそが心遣いであるからだ。
仕方なく――――というと語弊があるが(美味い食事は望む所でもあったので)、二人は出されたものを全て綺麗に平らげたのだった。
「こればっかりは、あいつ等も損をしましたね……」
「うむ。…………ん? こればっかり?」
そんなやり取りを交わしながら、二人が満足気に自分の成果を見つめて、食後の休憩をしていた時。
「きゃあああ!! 奥様!? 奥様!!」
そんな叫び声が、廊下から響いてきた。
だらけていた顔を途端に引き締めて、アーラは食堂を飛び出す。マリッタもその後に続いた。
廊下に飛び出したアーラの目に飛び込んできたのは、若い小間使いの女性と、その女性に抱えられながら介抱される夫人の姿だった。
だが、その夫人には先程アーラと別れる前の穏やかな表情ではなく、力ない、まるで死人のような表情が張り付いていた…………。
+++
「執事殿……話してくれるな?」
アーラ達は一先ず協力して倒れた夫人を抱きかかえ、丁寧に寝室に運んだ。
夫人が廊下で倒れていたのは、浅い眠りから覚めた夫人が夕食をアーラ達と摂りたいと主張し、食堂に向かっていた時に発作が起こったという事らしい。
再び寝床に付いた夫人は、昏々と眠り続けている。
苦しそうでないのが、せめてもの救いだった。
アーラとしてはずっと付いていたい気持ちもあったが、夫人の身体に障るといけないと思い、その場を夫人の世話役の小間使いに任せて、今は居間に移動していた。
そこにはマリッタの他、執事や、叫び声によって集まった、館の使用人達が沈んだ表情で立ち尽くしている。
「執事殿」
もう一度アーラは促す。
夫人の様子を目の当たりにすれば、流石にアーラが病状を確認せずにはいられなかった。
その催促に、執事は苦渋の表情を浮べて俯いた。
見ると、他の使用人たちも皆同じような悲痛な顔をしている。
今、この場で表面上平静なのはマリッタだけだった。
もちろんマリッタも心配はしてはしていたが、夫人とは出会ったばかりであるので、他の皆ほど深刻にはなれなかったのだ。
ただ、そうして冷静だった分、マリッタはアーラより先にある事に気づけていた。
マリッタはそれを告げようかどうか迷ったが――――とりあえず、この場の事態の推移に任せる事に決めた。
やがて、アーラの視線に耐え切れなくなったように、執事が口を開いた。
その重々しい表情には、諦観といった感情が見え隠れしている。
「…………アーラ様には内密にするように、申し付けられていたのですが……」
「小父様からか?」
余裕を失っているアーラは、『侯爵』と取り繕うのも忘れ、感情のまま尋ねる。
ただ、執事は首を振る。
「奥様からも……でございます」
「小母様も?」
「……はい」
「……そうまでして隠そうとする。それはつまり……それほど小母様の病は深刻だという事か?」
「…………」
「答えよ!!」
アーラの怒号に、執事は悲しげな面を上げて――――ゆっくりと頷いた。
「くっ。教えてくれ。その病とは何なのだ!?」
悲痛な叫びだった。
アーラは執事から目を逸らさず、真剣に問う。
そのまま少しの時が流れ――――
「……分かりました。お教え致します」
観念する様に執事が言った。
執事の言葉に、使用人達が何か言いたげな、戸惑ったような視線を向ける。
それらに「良いのだ。責は私が負う」と執事は返して、アーラに向き直った。
「では、お教え致します」
「……ああ」
「奥様は……」
そこで短く切った後、執事の顔に何かを逡巡するような表情が過ぎったが、やがて言い切った。
「奥様は……奥様の罹っている病とは…………安死病……なのです」
***
ガタゴトと物音を聞いた気がして、リシャールはゆっくりと意識を覚醒する。
首だけを上げるようにしてその発生源を見ると、丁度ドレイクが扉を開けて部屋に入ってこようとしているところだった。
「あ、ドレイクさん。お帰りなさい」
「おお、坊主。起こしちまったか。すまねえな」
ドレイクは何やら荷物を抱えていたが、それをドカッと雑に下ろすと、リシャールを見て謝った。
「何ですそれ? それを買いにいってたんですか?」
ドレイクはこの部屋を取るなり「ちと用事がある」と言って、自分の大剣を置くなり再び街に出て行っていた。
リシャールの問いに、ドレイクはニヤリと笑いながら短く答える。
「まあな」
様子が気にはなったが、それよりも伝えておく事があることを思い出し、リシャールはマリッタの伝言を伝えた。
「十日か……予定より長げえな」
ドレイクの反応はそれだけだった。
特に嫌がっている訳でもなく、歓迎している訳でもなさそうだ。
「事情があるって言ってましたけど……」
詳しくはリシャールも聞いていないので、それ以上は話せない。
ただ、別に興味は無いのか、ドレイクは「ふーん」と相槌を打つだけだった。
そうして、何かゴソゴソと荷物を仕分けていたドレイクだったが、ふと顔を上げてリシャールに尋ねてきた。
「それより坊主。お前、俺っちと狩りに行く気はないか?」
「狩り……ですか?」
「ああ」
「でも、僕はフォレスタのギルドには登録してませんよ? ドレイクさんだって『専属』でしょ? 依頼なんて受けれないんじゃないですか? それにドレイクさんが受けるような依頼はここにはありませんよ?」
矢次にリシャールが質問する。
だが、ドレイクは”まあ、待て”と手で制して、
「これは、どっちかって言うと、ギルドと言うより個人からの依頼だ。達成した実績は得られないだろうが、まあどうせ十日は暇なんだ。暇潰しにはなるだろ?」
そう話した。
実績というのは、誰がどの依頼を達成したか、というギルド内の風評のようなものである。
他の自由騎士達に対しての箔、または名誉と言い換えてもいい。
ギルド経由の依頼でないという事は格付けもされないので、どんなに難解な依頼だったとしても他の自由騎士達には伝わらないのだ。
それが無いと言うことだったが、リシャールは特にそんな事に拘っている方ではないので、大して気にしなかった。
それより、ドレイクの言う通り暇潰しになるという事の方が重要だった。
街を見て廻るという暇潰し方法もあったが、十日も時間があるのではいずれ見尽くしてしまうだろう。
それを考えると、明日くらいはドレイクを手伝うのも悪い話ではないように思う。
だが、一つだけ問題があった。
「……それ、命の危険があるような依頼じゃないでしょうね?」
ドレイクは依頼を受ける際に、それが楽しそうかそうでないかで選ぶという、リシャールからすれば悪癖以外の何物でもない判断基準を持っていた。
しかも、ドレイクが”楽しそう”と判断するのは、生命の危険が伴いそうな依頼だけである。
リシャールは以前、父親と一緒にドレイクの依頼に付き合った事があるので、身を持ってその悪癖を実感していた。
なればこその疑問だったが、ドレイクはいやいや、と首を振る。
「まさか。……俺っちとしては、あんまり面白い依頼じゃねえんだが、ある筋からのたっての頼みでな」
「……本当ですか?」
「ああ、本当だ」
嘘を言っているようには見えない。
リシャールは考え込む。
ドレイクが面白い依頼じゃない、と言う事は、少なくとも区分A級の依頼でない事は間違いない。
つまり、区分B級以下と言う事になるが……。
区分E、D級なら、まあ問題ない。
C級も、ドレイクがいるなら大して問題にはならないだろう。
問題は、依頼が区分B級だった場合である。
区分B級だった場合は、ドレイクが一緒だと言えど、もしかしたらという事もありえる。
かの『グレーターベア』の群れの討伐の場合区分Bが付けられることもあるが、ドレイクが数体を相手にしている際に、他の奴がリシャールを襲わないとも限らない。
そうなれば、今度こそあえなく『死』が待っているだろう。
そんな事を想像して、リシャールがやっぱり無理だと答えようとする前に、
「獲物は一匹だけだ」
ドレイクがリシャールの思考を読んだかのように、ぽつりと告げてくる。
(一体だけ……)
それならば、対応はドレイクに任せて、自分は後ろに潜んでいれば大丈夫かもしれない。
「……分かりました。それならお付き合いします」
「おお、そうか。そいつぁ良かった。一人じゃ狩りはつまらねえしな」
リシャールの言葉に、ドレイクは嬉しそうに頷く。
その言葉に頷き返そうとして、リシャールはグラストスの事を思い出した。
「あっ。グラストスさんはどうします? 声かけますか? 何か、グラストスさんもアーラ様の所を抜け出したそうなんですけど」
「兄ちゃんも逃げ出したのか。そりゃあ、お嬢さんは怒ってるだろうな……」
そう苦笑してから、「なら誘うか」とドレイクはあっさり告げた。
グラストスが一緒であることは、リシャールとしても嬉しい事だった。
ドレイクの提案に笑顔で頷いてから、リシャールは何気なく尋ねる。
「それで、一体何を狩りに行くんですか? 準備をしたって事は、獲物が何かは知ってるんでしょう?」
素朴な疑問だった。
だが、ドレイクは「あ~~大した奴じゃないよ」とか言うだけで、明言は避けた。
それには、無論理由があった。
ドレイクが狩りに行こうとしている『リザードドラゴン』の討伐は、ギルドの依頼では区分B相当が付けられる魔物である。
ただその凶暴性の為、好んでその討伐依頼を受けようとする自由騎士はいない、と言うほどの危険な魔物なのだった。
討伐難度も区分Aには不足があるが、区分Bと言うには厄介過ぎるという、微妙な相手なのだ。
自由騎士達からすると、割に合わない。という所である。
当然、リシャールもその危険な存在の事は知っているだろうし、魔物の名を出せばこの臆病な少年は間違いなく先程の約束を反故にするのは分かりきっていた。
だからこそ、ドレイクは曖昧に返事をぼやかしていたのだった。
そんなドレイクの企みに、リシャールは気づかなかった。
ドレイクも居るし、グラストスも居るなら大丈夫か、と楽観していたのだ。
なので、深く追求しようとはしなかった。
「そういえば場所は? どこに狩りに行くんですか?」
「ああ。フォレスタの少し北にある、小さな森だ」
「へーー……って、北の森? あ、それって!」
突然、リシャールがパンと手を叩き合せながら声を上げる。
「どうした?」
眉を上げるドレイクに、
「今日、ギルドで小耳に挟んだんですが、何でもその『北の森』には『一角』がいるらしいですよ?」
リシャールは、とっておきの情報を伝えた。
「ほーー、一角がねぇ……」
「それも一緒に探したら良いんじゃないですか!?」
「……んーー。まあ、そいつは現地に行ってからだな」
声を弾ませて提案するリシャールとは反対に、どこか気乗りしない感じのドレイクが、即答を避けるように答える。
自由騎士としては希少な部類なのだが、ドレイクはグラストスと同様に襲ってこない魔物を襲う事には賛同しかねる、という考えを持っていた。
例えそれが、その角を手に入れれば大金が入る事が約束されているような魔物であっても。
「……とりあえず、そういう訳だ。出発時間は……明日の昼前に向かう事にしよう」
ドレイクは話を変えるようにそう告げると、のっそりと扉に向かった。
「あれ? また何処かに行くんですか?」
驚きを含めたリシャールの問いに、ニヤリと笑う。
「ああ。情報収集だ」
それだけを答えると、ドレイクは再び部屋を出て行った。
「……獲物の事は分かっているのに、何の情報を収集するんだろう?」
首を傾げてそんな疑問を呟くリシャールを部屋に残して。