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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【3章 生命の代償】
51/121

48: 天啓

 

 剣を構えたグラストスは、怒号を浴びせられる。

 目の前に立つ巨漢の頭領からではない。

 声の主は、背後のアーラからだった。


「私は何もしないで、黙って控えていろと言うことか!!」

 どうやら、"後ろに下がっていろ"、という言葉が良くなかったらしい。

 足手まといの小娘扱いされているようにでも感じたのだろうか。

 それは半分以上正しかったが、当然それを言える訳も無い。


 グラストスは頭領から視線を外さずに、

「いや……そうじゃない。俺の背中を護ってくれ、と言っている。流石に、これ相手に背後まで気は廻らないからな」

 アーラに告げる。

 その言葉をどう感じたのか――――いや、その心なし緩んだ笑みからすると、間違いなく喜んでいるのだろう。

 「それならば仕方ない」と、アーラは殊勝に頷いた。

 "背中を護る"と部分に、騎士としての喜びを見出したに違いない。

 喜び勇んで剣を抜き、グラストスから少し離れ背を向けるようにして、周囲を伺い始めた。


 ただ、そこでアーラは気づく。

 ――――周囲に敵の姿が全く無い事に。


 よく見ると、前方の地面に男が倒れているのが見える。

 警戒しながら近づいていくと、その男はマリッタを蹴りつけた小男だった。

 ただし、それには"恐らく"という前置きがつく。

 何故なら、男の顔が元の原型が分からないほど、丸く腫れ上がっていたからだ。

 マリッタに倍返し……いや三倍返しにされたのだろう。

 死んではいないようだが、当分目覚める事は無いに違いない。

 まだマリッタと別れて、ほんの少しの時間しか経ってない。

 一体いつの間に、この小男を嬲ったのか……。


 どこからか破砕音が聞えてくる。  

 恐らく、マリッタだ。

 顔を蹴られた怒りを晴らすのに、小男だけでは事足らず、盗賊で晴らしているのだろう。

 アーラはマリッタの怒りを思い、冷たい汗が流れるのを感じた。


 他の盗賊達は一人として姿は見えず、建物の傍に居るのはアーラとグラストスと、頭領の三人だけだった。

 アーラはどうしようか迷ったが、仕方なくグラストスと頭領の戦いを見守る事にした。

 それは"何もしないで控えている"のと全く同じだったが、残念ながらアーラは気づいていなかった。

 なので当然、グラストスの策略に嵌められたのだ、という事にも気づかなかった。


 

 アーラが大人しく後ろに控えているのを背中で感じながら、グラストスは頭領と向かい合っていた。

 互いに目を逸らさない。

 両者とも、少しでも逸らせばその瞬間襲われると確信していた。

 その為、二人は完全に硬直状態に陥った。


 頭領はグラストスとは頭一つ分は違う。

 グラストスはどうしても見上げる形になる。

 腕の長さも違う。

 従って、間合いは頭領の方が随分広かった。


 加えて、グラストスは左手を骨折している。

 グラストスが斬りつけた傷さえなければ、頭領優位は間違いなかった筈だ。

 頭領がいっこうに襲ってこないのを、グラストスはそう解釈していた。


 ただ、実は頭領は傷の痛みから動かないのではなかった。

 傷は確かに痛いが、行動を抑制されるほど深い傷ではない。 

 理由はグラストスの構えにあった。


 盗賊稼業をしているだけあって、頭領は戦闘経験は豊富だった。

 メイジとも何度も殺り合ったことがある。

 単純に剣だけなら、例え騎士相手でもそこいらの奴に遅れを取らないと自負している頭領だったが、流石にメイジは容易な相手ではなかった。

 魔法を併用されては、メイジで無い者にはどうしようもないからである。


 そして、メイジの騎士に最も多い構えが、片手に剣を持ち、もう片方を空ける――――

 そう、今正にグラストスがしている構えだった。


 昼間であれば、手を空けているのが骨折によるものであると、腕に巻く包帯から気づいただろうが、今は生憎夜である。

 松明の灯りは、建物付近を赤々と照らしてはいる。

 だが、その薄明かりでは、グラストスの腕に巻かれているものが包帯である事には気づけなかったのだ。

 それが、二人が硬直している理由だった。


 とは言え、それも二人が剣を合わせるまでの事だろう。

 剣を結んで尚、一向に魔法を使わないグラストスを、疑わない訳が無いからだ。

 そして、その時はもう間もなく迎えられようとしていた。



***



「大人しくしろ。さもなけりゃ、コイツを殺すぞ……」

 リシャールを盾にして、大男がドレイクに怒鳴る。

 首筋に剣が押し当てられており、ほんの少し男の手が狂えば、リシャールはあえなく天に召されることになるだろう。

 ガチガチと、歯を咬み合せる音が聞えてくる。

 恐怖からリシャールが震えているのだ。

 

 ドレイクは、そんなリシャールを困ったように見つめていた。

 "このままでは助けられない"、と言う困惑ではない。

 この程度の相手から抜け出せない、リシャールの力量を嘆いていた。

(本来の力を出せば、十分可能なんだがなぁ……)

 そんな事を内心思っていた。


 リシャールの問題は、やはりあの臆病さにある、と言うことを再認識する。

 "仕方ない。旅中に鍛え直してやるか"

 ドレイクがそう考えていたかどうかは定かではない。

 ただ、今の内に何とかしておかないと、後々困るだろうと考えていたのは確かだった。

 対処できる人間がいつも傍に居るのであれば良いが、そんな保障がある訳も無い。


(坊主の親父もいねぇしなぁ……)

 本来ならば、その役はリシャールの父親の役回りである。

 ドレイクがその役所を担う義務は無いのだが――――

 根本的に人の良いドレイクは、どうにもほっとけないのだった。

 ――――特に優秀な自由騎士になると、確信している相手であれば……。


 ぼんやりと思考していたドレイクの様子が気に障ったのだろう。

 大男はしきりにドレイクに怒鳴っている。

「…………どいつもこいつも」

 似たような反応だな。と、ドレイクは半ば呆れていた。

 いつも一緒に行動していると、そうなってしまうのだろうか。

 とは言え、この状況のままでは、手詰まりである事には変わりは無い。


(さて、どうするか……)

 何とかしてリシャールを解放する必要があった。

 そして、ドレイクはその方法を幾つか思い浮かんでいる。

 後はその内のどれを選択するかだったが……。

 

「てめぇ! そこを動くんじゃねえぞ!? 動いたらこいつを殺すからな!!」

 大男はドレイクに対してそんな恫喝をする。

 続いて、大男は仲間に合図を出した。

「お前ら殺っちまえ!!」

 盗賊達は、剣を抜いて凄惨な笑みを浮べて近づいてくる。

 無抵抗の相手を斬り刻める、とでも喜んでいるのだろう。

 

 そんな盗賊達を見ながら、頭の悪い取引だな、と、ドレイクは呆れていた。

 それでは、リシャールをドレイクが見捨てる、と言う選択肢が発生してしまう事に気づかないのか? 

 せめて、アーラかマリッタも連れて来るべきだろう。

 そうすれば命に釣り合いが取れず、ドレイクが人質を見捨てるという可能性を抑えられるのに……。

 ドレイクは自分の事でありながら、まるで他人事のように考えていた。


 まあともあれ、そろそろ行動しないと拙い。

 盗賊達は徐々にドレイクに迫っている。

 リシャールの命を見捨てる振りをしようかと考えていたドレイクだったが、頭の悪い盗賊達とやり取りするのは何となく面倒だと思ってしまい――――

 手っ取り早い方法を選択することに決めた。


「坊主」

「は、はいっ!?」

 突然口を開いたドレイクに、リシャールはどもりながら反応する。

 盗賊達も何だ? と警戒を露にしていた。

 恐らく”坊主”の意味も、良く分からなかったに違いない。


 そんな彼らに向かって、

「避けろよ~~」

 と、のんびり言葉を告げるドレイク。

 何の事か分からず、怪訝な表情を浮べた彼らは、その表情を直ぐに驚愕に変える事になる。


 ドレイクは背中の大剣の柄を両手で握り、片足を上げ大きく振りかぶると――――

 思い切りそれを、投げ放ったのだ。

 ――――大男に向かって。


 ただ、剣の大きさからすると、間違いなくリシャールも巻き込まれる。

「へっ?」

 声を漏らしたのが、リシャールだったのか、はたまた大男の方だったのか。

 他の者には判別できなかった。

 しかし、その行為の結果を見届ける事は出来た。


 物凄い勢い投擲された大剣は、唸りを上げながらリシャールと大男に迫り……。

 恐らく、予想外の事態に大男の手が緩んでいたのだろう。

 リシャールは男の手を離れ、その場に頭を抱えてしゃがみこんだ。

 盾が消失した大男は、そのまま何の抵抗も出来ずに、大剣の突進をその身にを浴びる事になった。


 刃ではなく、腹の部分が男の顔面に直撃する。

 低く鈍い音を上げると、大男は後方に吹き飛び仰向けに倒れ込んだ。

 完全に気絶しており、白目を剥いている。

 剣は玉突きの要領で大男と入れ替わるように、リシャールの手前の地面にドサッと落ちた。


 ドレイク以外の誰もが呆然とする。

 そのまま静寂は続き――――

「坊主、その剣持ってきてくれ」

 ドレイクがのんびりと告げた事により、時が動き始めた。


「な、な、な、な……」

 最も早く立ち直ったリシャールが、律儀にドレイクの言葉に従い大剣を運ぶと、何か言いたげに口を開こうとする。

 ただ衝撃が強すぎたのか、言葉にならない。

 その様子から、リシャールが今の行動に対して不満を抱いていると気づいたドレイクは、

「ほら、助かったんだから良いじゃねえか」

 等と、悪気も無く口にしたので、リシャールはようやく落ち着いたようだ。

 もちろん、怒りによって、である。


「な、何するんですか!! 危うく僕もああなる所でしたよ!!」

 リシャールは気絶した大男を指差しながら怒鳴る。

「だから、避けろって声かけただろ」

 ドレイクはあくまで泰然自若としている。

 ただ、その態度が一層リシャールの癇に障るのか、その後暫く非難し続けた。


 ここでようやく、自分達が人質を一人失った事に思い至ったのか、盗賊達は口々に罵りの声を上げている。

 ただ、最初からドレイクと対峙していた男達は、再び顔を青ざめさせていた。

 罵っているのは、後から追加された連中だった。

 ドレイクの実力を見ていない彼らは、もう一度奪い返せばよいと楽観している。

 なので彼らは怒声を上げながら、ドレイクに斬りかかっていった。


 その後の光景は、これまでの焼きまわしだった。

 ドレイクの一閃、二閃で、それらは綺麗に片付けられた。

 残ったのは、挑みかからなかった青ざめていた連中だけだった。

 盗賊達は一層顔を青くし、まるで地面に縛り付けられたかのように、その場から動けなくなった。


 リシャールはその様子を横目で見ながらも、別に驚きはしなかった。

 ドレイクの凄さは、良く知っているのだ。

 なので、ずっとドレイクに対する文句を続けていた。

 ドレイクを盗賊の盾にするような位置で、だったが。


 そのまま対峙して、再び時が経つ。

 ドレイクは特に向かってこない相手を相手取るつもりは無いのか、その場に突っ立ったままだった。

 だが、盗賊達は動けば自分が標的にされるのでは、という恐れから誰もその場から動けなかった。

 リシャールも苦情は一旦中断し、今はドレイクの背に隠れていた。

 そうして、場が硬直していたが、

「何だ、この有様は!!」

 再び建物内から新手の盗賊達が現れた。


 ただもう仲間はいないのか、この場の盗賊全員含めても先程の人数に達していない。

「ち、人質を奪われてるじゃねえか!!」

「相手は一人じゃねえか!! 何してやがった!!」

 新手の男達は、一体ここで何が行われていたのか分からない。

 人質が奪い返されたのは、仲間の怠慢が原因だと思っているか、残っていた男達を責め立てる。


 だが、その場に居た盗賊達も非常識なドレイクを相手にしてないから、そういう台詞が吐けるのだ、と、仲間に怒りをぶつけ返した。

 元々が気の荒い者達である。

 仲間であろうと嘲られるのには耐えれなかったのだろう。

 二人の目の前で、両者は仲違いを始めてしまった。

 震えていた盗賊達も、ドレイクが相手でなければ元の調子を取り戻せるらしい。

 強い口調で仲間を口撃する。


「てめえら、いい加減にしろよ!!」

 新手の盗賊が遂に剣を抜く。

 相手も剣を構えて――――両者間で斬りあいが始まった。



「何やってるんだ、こいつら」

「……張本人のくせに」 

 二人は殺し合いを始めた盗賊達を、唖然とした様子で眺めていた。

 呆れ返っている口調だったが、どちらの頭にもあったのは、"このまま共倒れにならないかな?"というものだった。

 そうすれば楽できると思っていた。


 今いる位置からは樹々が陰になって建物前の様子は見えないが、恐らくグラストスは既にアーラを救出しているだろう。

 なので自分の仕事はもう終わりだ。

 と、ドレイクは大剣を背中に担ぎ直し、「よっこらせ」と、その場に腰を下ろした。

(酒でもあると良いんだが……)

 などと思いながら、盗賊達の乱闘の様子をぼんやり眺めるのだった。



***



 頭領の剣が、上段から振り下ろされる。

 グラストスはそれは受けずに、躱すに努める。

 片手では、両手持ちの剣は受けきれないからだ。

 後ろに跳んで間合いを外す。

 だが、頭領も直ぐに間を詰め、次の一撃を放ってくる。

 横への薙ぎ、袈裟斬り、突き。

 何とか直撃は避けているが、グラストスは確実に傷ついていた。

 

 頭領は既に、グラストスの左手が何らかの理由で負傷していることに気づいていた。

 且つ、メイジで無いことにも。

 もし魔法を使っていればとっくに形は着いている。そうでないという事はつまり、魔法を使えないということに他ならないからだ。

 だからこそ、このように攻め立てる事が出来ていた。

 最初にあった緊張の表情は消え、残ったのは傷を付けられた怒りだった。

 空を斬る剣は、まるで風を斬っている様な錯覚を覚えるほど鋭さを持っている。

 その身に受ければ、致命傷は免れないだろう。


「くっ!! はっ!!」

 グラストスは必死に剣を躱しているが、避けるだけでは何れ限界が訪れるのは間違いない。

 とはいえ、この一方的な展開を打破する案はなかった。

 いくら魔法剣が使えるといっても、純粋な剣のやり合いでは全く意味を成さない。

 その事と、左手が使えないという事の深刻さを、グラストスは今改めて身を持って実感していた。


「おらあああああ!!」

 左からの強烈な横薙ぎの一撃が来る。

 避ける事が出来ず、仕方なく剣をかざして盾にするが……。

 あまりの剛剣に完璧には受けきれなく、そのまま大きく吹き飛ばされてしまう。

 加えて、剣戟を受けた自分の剣で、自分を傷つける事になった。

 片手では圧力に耐えられず、自分側の刃が身を削ったのだ。


 左腕からぽたぽたと血が滴り始める。

 右手も今の一撃で痺れている。

 剣は何とか握れるが、さりとて力は込められそうにない。


「グラストス!!」 

 アーラの悲鳴が聞える。

「だ、大丈夫だ」

 何とか立ち上がりながら、アーラに言葉を返す。

 ただ、心底安心させる事が出来るような調子ではなかった。

 それ以外に返す言葉が無い、という類のものだ。

 なので、アーラも更に不安そうな表情になる。


(拙いな……このままでは、アーラ嬢が変な事を言い出しかねない)

 と、グラストスが考えた矢先に、

「グラストス!! 片手では無理だ! 私と代われ!!」

 などと、アーラが叫んだ。


 グラストスの顔に、微かな笑みが浮かぶ。

 予想通りであったことが面白く、またそれを言わせた自分が情けなかったのだ。

 そして、その発言を面白がったのは頭領も同じだった。

「がっはっは。そうだ、貴様じゃ相手にならん。その小娘に代わったらどうだ? 俺もその方が色んな意味で楽しめる」

 頭領の言葉に、自嘲の笑みを浮べながらグラストスが返す。

「……悪いな。その楽しみは与えてあげられん。俺で我慢しとくんだな」

 アーラに相手をさせて再び捕らえられたら、折角救い出したのも水の泡だ。

 人質にされてはもう手が出せない。


「グラストス!! 意地を張るな!!」

 アーラの怒号が響く。

 それには何も返さずに、グラストスはギュッと剣を握り締める。

 完全には握力が戻ってはいないが、それでも体中の力を込めて。

「まあ、俺を傷つけた借りは、死を持って償わせるつもりだがな……」

 代われと口では言いながらも、グラストスがそうしない事は分かっていたのだろう。

 頭領は凄絶な笑みを浮べ、剣を持つ両腕に力を込めた。


 しぶとく粘る男だが、後数合も斬り結べば決着は着くだろう。

 頭領はそう考えていた。

「じゃあ、そろそろ死ね」

 

 その短い言葉を皮切りに、再び頭領がグラストスに襲い掛かる。

 迫ってくる頭領を見ながらも、グラストスは必死で考えていた。

 自分が生き残れる方法を。

 受けても駄目。避けるのも限界がある。

 斬りかえした所で片手では弱く、簡単に防がれる。

 斬り下ろしですら効果が無い。

 反動をつけての横斬りなら通じるかもしれないが、そんな隙は容易に訪れるものじゃない。

(どうする……どうするっ!)

 


 その時アーラも、必死に考えていた。

 どうすれば、グラストスを救えるのかを。

 自分と代われとは言ったものの、自分では頭領の相手にならない事は、重々承知していた。

 グラストスよりももっと早く、敗れ去る事だろう。

 そうして、再び捕まえられたらもうどうしようもなく……。

 だからこそグラストスは、必死に立ち向かってくれているのだという事も分かっていた。


 ならば、二対一で頭領を相手にするか。

 否である。

 アーラのちっぽけな騎士道として、いくら外道の者が相手とは言え、それは認められない。

 などという事でない。


 もちろん騎士道が無い訳ではなかったが――――グラストスの命には代えられない。

 仮にそうした所で、かえってグラストスの邪魔になる事が分かっていたのだ。

 では、どうすれば良いか。

 アーラは必死に考えた。

 何か答えはないか、今までの出来事を思い返しながら、そして何か使えるものが無いか周囲を見回しながら……。

 

 その時、ある物が視界に入ってくる。

 瞬間。過去のある人物の教えが、天啓の如く脳裏に閃いた。

 位置は遠く、下手をすればそれはグラストス達の行動を気泡に返すかの如く、無謀な行いになる。

 だがそれしかない。アーラはそう思った。


 一度思い決めたら、アーラの行動は素早い。

 猪突猛進。

 それがアーラの天性である。


 グラストスと頭領の斬り合いは、一層激しさを増している。

 押されているのは、言うまでもなくグラストスだった。

 頭領の一撃は重くて、速い。

 剣を受ける度に、グラストスの身体がぐらついていた。

 このままでは直ぐに決着が着くだろう。

 アーラの望まない形で。


(ジェニー……力を貸してやってくれ)

 グラストスの持つ本来は自分の剣に、アーラは願う。

 まるで、故人に祈るかの如く……。

 そして、二人の衝突が建物から離れた時を見計らい、アーラは建物の中に足を踏み入れていった。

 そこにこそ、アーラの望むものがあった。


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