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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【3章 生命の代償】
45/121

42: 夜  ※地図

 

 挿絵(By みてみん)


 村長を乗せた一行の荷馬車は、村を出てから数刻後に村の西方にある、ホモン領主の居る街に辿り着いた。

 既に辺りは暗く、街道を往く者は彼ら以外にはいない。

 街に入ろうとした際に門衛によって止められたが、村長はここの門衛と顔見知りであった為、何とか無事に街に入る事は出来た。


 アーラ達は街の入り口で馬車を降り、領主の館まで歩く事に決める。

 今日はここで泊まりになるので、誰かが宿を確保しなくてはいけないからだ。

「領主の館なんぞに行くのは肩が凝りますからね。勘弁して下せえ」

 そうアーラに主張していたので、ドレイクとしては都合よかったのかもしれない。馬車を操り、そのまま宿のある場所に向かっていった。

 

 ビリザドの街は、夜になると酒場付近を除いては、火の消えたように静まるのだが――――

 この街は、民家や商店から漏れる明かりが、まだ明々と通りを照らしていた。

 街の中心部も街灯で照らされ、人の姿も多く見受けられた。


「ビリザドとは違うな」

 グラストスの称賛するような呟きを聞いて、隣を歩いていたアーラが少し不満そうな顔をする。

「まあ、ビリザドは田舎ですからねえ」

 空気の読めないリシャールが相槌を打つ。

 もちろん、アーラに睨みつけられているのには気づいていなかった。


「王都や、公爵領下の街はこんなものじゃないですよ」

「へぇ、そうなのか……リシャールは王都にも行った事あるのか?」

 これ以上賑やかだとすると、煩くて夜眠れないんじゃないだろうか、そんな事を考えながらグラストスは尋ねる。

「ええ、父上に連れられて滞在していた事があります。まあ、訳あって直ぐに移動しましたが……」

「何かあったのか?」

「宿代が、高かったんです……」

 情け無い顔で、リシャールは答えた。

 少し興味をそそられたグラストスは、ちなみにどれくらいだったのかを確認する。

 リシャールがひそひそと耳打ちした金額を聞いて、グラストスは唸った。

「……なるほど、ビリザドの方が俺には合っているようだな」

 その呟きを聞いたアーラは、どこか満足気に頷いていたが、それに気づいた者はいなかった。



 やがて、一行は街の中央にある領主の館に辿り着いた。

 ホモン侯爵家は、ビリザド侯爵家の二倍程の広さはあろうかという敷地内に、その広大な居を構えている。

 入り口は巨大な鉄の門によって閉ざされており、グラストスはビリザド侯爵家との大きな違いを感じた。


 ビリザドの屋敷は立地が高台の上という事はあったが、屋敷の前に門は無い。

 屋敷の廻りの塀といえば腰まで植木位で、それも侵入者を防ぐというより、庭の景観を良くする為のものである。

 一方、この館の周りは高い塀で囲まれており、明らかに侵入者を防ごうとするものだった。

 グラストスはどうにも、排他的な感じを受けて仕方が無かった。

 ただ、そう感じたのはグラストスだけではなかったようで、マリッタもリシャールも少し腰が引けたような顔をしている。

 そういった動揺が見られないのは、訪れた事があるアーラと村長だけだった。

 しかし、その代りに二人には苦々しい表情が張り付いていたのだが……。


「では、行くか」

 堅く閉ざされた巨大な門を見上げながら、アーラが皆に声をかける。

 そして、扉をけたたましく叩き、中に向かって大声で開錠を求めた。

 それを八度程続け、あまりに反応がなくアーラが苛立ち出し始めていた頃、ようやく扉の横の小窓が開いた。


「こんな夜更けに、何用か!? この館をホモン領主様の館だと知っての狼藉か!?」

 小窓から顔を出したのは、門番と思われる衛士だった。

 しつこいアーラに腹が立ったのか、瞳を怒らせている。


「や、夜分遅く無礼である事は重々承知しております。ですが、どうしても領主様に、火急お頼み申し上げたい事柄があり、こうして参りました」

 アーラの隣に移動した村長が、頭を下げながら面会を訴える。

「お前は?」

「ここより南東にある村にて、相談役をさせて頂いている者でございます」

「……用件とは?」

「はぁ……実は昨夜、村が盗賊団に襲われてしまいまして、幾つかの住居を燃やされ、村の皆が生きていくだけの食料も奪われてしまいました。……どうか、領主様のお力で援助頂けないかという……お願いに、参上させて頂いた次第です……」

「ふんっ、暫し待て」

 そう言うなり、小窓はピシャリと閉まった。


「感じ悪いわね」

 マリッタは今の門番の対応に不快感を抱いた様で、悪態を吐いている。

 普段、ギルドで客対応している身の上からの発言だろうか。

 ただ、マリッタの発言に反論しようとする者は居なかった。

 皆同じ感想を抱いていたに違いない。

 その中で、村長だけは緊張を滲ませた顔で苦笑するのみで、腹を立てた様子は無かった。

 

 それから、四半刻も待たされた頃、ようやく門番が顔を出した。

 しかし、やっと中に入れる、と思っていた一同の期待は裏切られる事になった。

「侯爵様は既にご就寝されている。後日改めて参られよ」

 門番は、そう一方的に告げると、返答を待つ素振りすらなく、ピシャリと小窓を閉じた。


 何が起こったのか分からない一同は、少し呆然とする。

 村長だけは、こうなる事は予測がついていたのか、瞳を閉じるだけだった。

 ただ、とてもそんな事だけで済ませない人物が居た。


「…………な、何を考えている!! 村が、人が襲われたんだぞ!? 食料を奪われたと聞いてなかったのか!? 領主の睡眠など二の次、三の次だろう!!」

 アーラは小窓に向かって、唾を飛ばしながら怒鳴る。

 だが、それは虚しく夜の街に響くだけで、二度と小窓が開く様子は無かった。

「こ、この!!」

 完全に頭にきたアーラは、扉を思いっきり蹴りつけようとする。

 ただ、それはグラストスとマリッタに肩を抑えられて叶わなかった。


「落ち着けアーラ嬢。こうなった以上八つ当たりしても仕方ないだろう」

「お嬢さん、それは侯爵子女の取る態度ではありませんよ!」

「うるさい! そんなの関係ない! 離せ!」

 幾らグラストス達が諭そうとしても、暴れて逃れようとする為、仕方なくグラストスはアーラを右手で肩に乗せるようにして抱え上げた。

「ぬあっ! 何をするグラストス! 下ろせ! 下ろさぬかっ!!」


 グラストスは騒ぎ立て、腕の中でジタバタ暴れ、ポカポカと背中を殴りつけてくるアーラを無視して、

「一旦、ドレイクと合流しよう。ここでこうしていたって仕方が無い」

 と、他の皆に提案する。

「そうね。癪だけど、言われた通り明日出直そう。村長さんもそれでいい?」

「ええ。私は構いませぬ。もとよりこうなる事は分かっておりましたゆえ……」

「そう……まあ、対策は宿で話し合いましょ」

 四人は頷き合うと、街の入り口方面に向かって移動し始めた。


「こらっ! 離せと言っているのに!!」

 そんなアーラの怒声だけをこの場に残して……。



***



 宿の場所は村長が知っていた為、一同は迷うことなくたどり着くことが出来た。

 宿の脇にはアーラの荷馬車があり、ドレイクが御者台で暇そうに座っていた。

「お、意外に早かったな。もう話はついたのか?」

 暢気そうに尋ねるドレイクに、リシャールが首を振って答えた。

 するとドレイクは、やっぱりという表情を浮かべる。

 しかし、それ以上はそれには触れようとせず、

「じゃ、今日はここで一泊って事ですかい?」

 まだグラストスに抱えられているアーラに向かって話しかけた。

 ドレイクは、何故アーラが抱え上げられているのか知らない筈だが、その状況に関してはまるで反応しなかった。


 アーラはまだ怒り冷めやらぬという様子だったが、

「…………そうだ」

 と、不承不承頷いた。


「しかし、そうなると一つ問題がありやしてね。流石にこんな時間からじゃ、二人部屋が一つしか確保出来なかったんですわ」

 ドレイクは頭を掻きながら事情を話す。

「まあ、仕方ないわね。じゃあ部屋組と、馬車組に分かれる訳ね?」

 マリッタの言葉に、

「まあ、そうなるな」

 ドレイクは微笑しながら肯定する。


「僕は外でも構いませんが、どういう組み分けします?」

「まあ、単純に考えるなら、村長と俺っちら三人の誰かが中という組み合わせと、女性陣が中で男性陣が外という組み合わせのどちらかになるだろうな」

 ドレイクの提案にマリッタは一度頷き、アーラに視線を向けた。

「アタシもそのどっちかだと思いますけど、どうします?」

 マリッタの問いにアーラが口を開く前に、村長が部屋を使う事を辞退した。

「村では寝る場所が奪われた者もおります。私だけがのうのうと暖かい寝床に就くわけにはいきません。私も外で構いません」


「しかし……」

 躊躇うアーラだったが、

「まあ、ご老体といえど、この時期なら大丈夫でしょう。掛け布を一枚借りてくれば十分かと」

 と、ドレイクが村長の言葉を認めたので、結局女性陣と男性陣で分かれる事に決まった。



***



 馬車を宿の奥の馬車置き場に納めると、手間賃を払い宿主に馬の世話と馬車の管理を頼んで、一同は食堂に移動する事にした。

 今日は昼に持ってきた乾し肉を少し齧っただけで、後は何も食べていなかったのだ。

 皆、盛大に腹の虫が鳴いていた。

 村長は、村の皆は食料に困っているのに自分だけと、ここでも辞退しようとした。

 だが、それは「明日は重要な話し合いがあるのに力をつけとかないとどうするんだ」と皆に諭され、最終的には従う事になった。


 ビリザドと比較すると値は少し張ったが、値段に値するだけの十分に美味しいものだった為、食堂を出る頃には全員満足げな顔をしていた。

 アーラも既に怒りは忘れたようで、今は食堂で出されたある肉料理について、リシャールと真剣に討論を交わしている。


 ドレイクはその食堂の真向かいに酒場を見つけた為か、「ちょっくら情報収集してくる」と、言葉を残して、一人酒場の中に消えていった。

 無論。何の情報を収集するつもりなのかは、誰にも分からなかった。


 ドレイク以外の面々はそのまま宿に戻り、二手に別れる。

 アーラとマリッタは宿の中に。

 グラストスとリシャール、村長は荷馬車に移動した。


 外のグラストス達は、宿の隅にあった井戸から水をくみ上げると、それで手ぬぐいを濡らして身体を拭いて、身を清めた。

 水はとても冷たく、少し冷えてしまった。

 ただ、徐々に体が暖まってきたのか、リシャールはウトウトと船を漕ぎ出し始め――――

 コトンと倒れると、直ぐに眠ってしまった。

 そんなリシャールに、村長は自分が宿屋の主人から借り受けた布を、優しく掛ける。

 それを見てグラストスは何か言おうとしたが、結局は口を噤み、村長に頭を下げるだけに留めた。

 

+++


 静かな荷馬車の中、どこからか鳥の声が聞えてくる。

 ビリザドではこれに虫の声も加わって、深い夜の大合唱という感じだった。

 しかし、流石にこんな街中では虫の演奏は聞えなかった。

 とはいえ、鳥の鳴きだけでも風情が無いとは思わない。

 グラストスは荷馬車の入り口に腰掛けて、静かに耳を傾けていた。


「今日は……有難うございます」

 静寂を破ったのは、村長のそんな感謝に満ちた言葉だった。

「いえ……俺は、というか俺達はアーラ嬢に付き従っただけに過ぎません。礼など不要です」

「それでも、今日は私にとても親切にして頂けました。本当に感謝しております」

「だからそれは、アーラ嬢が……」

 あくまで自分がお礼を言われる事を否定しようするグラストスに、村長は暖かい眼差しを送る。


「いいえ。貴方自身も私、と言うより我らの事を考えて行動してくださった」

「何を……」

「領主様の館の前で、お騒ぎになるアーラ様をお止め下さいました。あれは、あれ以上騒いだらここの領主様への印象が悪くなるかもしれない、そうお考え下さっての行動でしょう? でなければ、領主様のご令嬢の方を、あのように乱暴に扱う等考えられませぬ……」

「気のせいですよ。俺は訳あって記憶を無くしてましてね。あまり領主とか貴族とか、そんなものに対する実感が少ないだけなんですよ」

 自嘲気味にグラストスは呟く。


 嘘は吐いていなかった。――――半分しか。

 そんなグラストスをどう思ったのか、村長は穏やかに笑うだけだった。


「しかし、アーラ様には驚かされますな」

「何かと、規格外の貴族のお嬢様ですからね」

 グラストスは村長の言葉に、笑いながら頷く。

「ええ。お嬢様があのような方なのであれば、ビリザドの領主様はさぞかし立派な方なのでしょうな」

「そうなんでしょうね」

 グラストスは、その言葉には素直に頷けた。


 記憶を無くし、自分の身体以外何もかもを失ったグラストスにとって、あの場所は掛け替えの無いものだった。

 自分が動揺に壊れることなく、心穏やかに在り続けていられるのは、間違いなくアーラや、その周囲の人間達のお陰だった。

 グラストスとしては、今たった一つの拠り所であると言ってもいい。

 口には出さないが、何があってもあの場所を……その中心であるアーラを護るつもりでいる。

 もし、それに害をなそうとする者が現れたら、どのような手段(・・・・・・・・・・)を用いても、自分は護ろうとするだろう。

 なので、そんな場所を与えてくれたビリザドの領主は、色々な意味でグラストスの恩人なのだ。

 人となりを疑うどころではなかった。


「アーラ様にしてもとてもお優しく、あの方のようなお方が納める地であれば、我らも誇りをもてるのでしょうが…………ビリザドの民が羨ましく思いますな」

「…………?」

「あ、いや。詮無き事を申し上げました。お忘れくだされ……」

 村長は動揺を露にして、グラストスに困ったような笑みを向けた。


「年甲斐なくお喋りが過ぎたようですな。どうやら、私も疲れているようです。もう、休む事に致しましょう」

「そうですね、明日は重要な日です。ゆっくり休んで下さい」

「はい……ただ最後に一つだけ。老人の戯言と思って下さっても良いですが……」

「……何でしょう?」

「どうか、あの方を。アーラ様から目を離さぬよう、お願い致します。あの方のお心はとても真っ直ぐで、尊い。ですが、そこを邪な者に利用されないとも限りませぬ。どうか従者殿。あの方を御守りください」


 どうやら村長は、グラストスの事をアーラの従者と勘違いしていたらしい。

 グラストスはそれが誤認識である事を告げようと思った。

 だが、口から出たのは了承の言葉だった。

 その答えに満足したのか村長はそのまま横になり、疲れていたのだろう。

 やがて、静かな寝息を上げ始めた。


(……まぁ、屋敷を出るまでは似たようなものだからな)

 そんな事を考えて、グラストスは自分を納得させた。


 

 そろそろグラストスも眠気を感じ、横になる前に一度隣を伺った。

 寝入った村長と自分の間に、リシャールが幸せそうな顔で眠っている。

 元々女顔だが、寝ていると一層少女のように見えて、グラストスは苦笑した。


 ズキン。


 と、脳が締め付けられるような痛みを覚えたのは、そんな時だった。

「ぐっ……!!」

 今まで時折感じた中で、最も強い痛みに声を上げそうになる。

 寝ている二人を起こしても拙いと考え、グラストスは必死に耐えながら、急いで荷馬車を飛び出した。

 そのまま宿の敷地から離れ、ふらつく足で街の中央の通りまで駆け出る。


「ぐああああああっ」

 そこでようやくグラストスは痛みを発散しようと、叫び声を上げた。

 夜の更けた通りには、流石に人の姿はなく。

 街の明かりも消えている。

 そんな静寂の空間に、グラストスの苦痛の声だけが響いていた。


 脳裏には先程のリシャールの寝顔……いや、その寝顔から連想された、他の誰かの顔が思い浮かでいた。

 肝心の顔は靄がかかった様にぼんやりとしており、誰だがは分からない。

 ――――例え靄が掛かってなかったとしても、記憶のないグラストスに、誰だか分かる筈はない。

 

 だが、胸を覆う郷愁に似た感情が、その人物が自分にとってとても大切な、そんな人物だったに違いない事を確信させていた。

 そして、それを感じれば感じる程に、グラストスを締め付ける頭痛の酷さは増していくようだった。

 グラストスは通りに倒れ、のた打ち回る。


(か、考えては、駄目だ……)


 思い出そうとするほど痛むのであれば、思い出すことを止めれば良い。

 そう考え、グラストスは必死に思い出さないように努めた。

 昔の記憶によって苦しめられているなら、今の記憶で上書きすれば良い。

 グラストスは必死に、記憶を失ってからの出来事で、頭を埋め始めた。

 

「おい、兄ちゃん。大丈夫か!?」

 突然、グラストスの頭上で声がする。

 何とか顔だけ回す様にして見上げると、そこにはドレイクの姿があった。

 顔は闇の中でも赤いことが分かり、酒を大量に飲んだことが伺える。


「どうした? 何があった?」

 グラストスは深呼吸を繰り返し、何とか息を整えると、

「だ、大丈夫だ。す、少し……頭が痛んだ、だけだ……」

 弱々しく笑いながら、ドレイクに問題ない事を訴えた。

「そうかい? 医者に見せなくて大丈夫かい?」

「あ、ああ。大丈夫だ。直ぐに収まる……」

 実際、ドレイクと話していると徐々に痛みが治まってきた。

 人と話していると、昔の記憶が浮かばなくなっていく。


 少しして、グラストスは一人で起き上がる事に成功した。

 まだ多少痛むが、もう問題ない。

 そう感じたグラストスは、ドレイクに騒がせた事を謝り、もう大丈夫だと言う事を告げた。

「まぁ、本人がそう言うなら、大丈夫なんだろうが……」

 ドレイクは少し納得していない感じだったが、とりあえず静観する事にしたようだ。

 

「で、何があったんだ? 事情は説明してくれるんだろ?」

 元の飄々とした表情に戻ると、ドレイクは事情を尋ねてくる。

「いや、大したことじゃない。……多分、昔の記憶が頭に浮かんだだけだ」

 隠す事でもなかったので、グラストスは理由を説明する。

 それを聞いて、ドレイクの表情は少し曇った。


「昔の記憶が、大したこと無いねぇ……」

 何か意味有り気にドレイクは呟く。

「ま、違いねえ」

 ただ直ぐにそう言って、にやりと笑った。


「出来れば、今のは誰にも言わないでくれ。変な心配はさせたくない」

「ああ。分かったよ」

 グラストスの頼みに、即答したドレイクはそのまま馬車に向かって歩き始めた。


 その道中。

「思い出しそうになるだけで頭が痛むなんて、よほど思い出すことを躊躇うような記憶なのかねぇ……」

 ドレイクは感情の読めない顔でそんな呟きを漏らした。

 しかし、その少し後ろを歩いていたグラストスには、何も聞こえなかった。

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