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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【3章 生命の代償】
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38: 手紙

【3章 生命の代償】 

 

 数日後の午後。

 私室で復興作業に関しての書類作成を行っていたアーラの元に、侯爵である父親から追加の手紙が届いた。

 先日届いたばかりなのに再び送ってくるとは、何か問題でも起こったのだろうか? と、アーラは多少緊張を伴いながら、作業の手を止める。

 二通あった手紙の内、宛名が『アーラ』と書かれている方を先ず開封し、文を読み始めた。



「何だと!?」

 手紙を読み進め――――アーラは思わず、途中で驚きを声に出してしまった。

 それは、先日の『魔法学校』から送られた手紙を読んだ際の驚きとは種類が異なるものだったが、アーラに動揺を抱かせたと言う意味では同じだった。


 主人の様子に、手紙を届けた後その場に控えていたヴェラが、微かに眉を上げる。

 アーラは(ふみ)から目を逸らさず呟くように、自分に驚愕を与えた手紙の内容をヴェラに教えた。

「夫人が病に伏せられたらしい……」


 その言葉を聞いて、表面上は特に変化はなかったが、内心ではヴェラも驚いていた。

 アーラが『夫人』と、名前を省略して呼ぶ相手は一人しか居ない。

 ビリザドより北の領地、『フォレスタ』の侯爵夫人の事である。

 フォレスタの侯爵とアーラの父親である侯爵は、古くからの付き合いで親友と言える間柄であった。

 自然、家族ぐるみの付き合いとなっており、侯爵夫人はアーラにとっても仲浅からぬ相手なのだった。


「命に別状はないようだが……」

「……では、お嬢様」

「ああ。私は見舞いに行かねばならぬ」

 文では、アーラ自ら夫人を見舞いに行く事。もう一通の文をフォレスタの侯爵に届ける事が指示されていた。

 だが、事情を知ればそんな指示が無くとも、見舞いに行かずにはいられなかった。

 夫人はアーラが幼い頃からとても可愛がってくれており、母親を知らないアーラにとってまるで母のような、と言っても過言ではない人物だからだ。


「分かりました。ですが、道中の護衛に関してはどう致しましょう? 屋敷の者は出払っておりますが……」

「私としては、そんなもの必要ないと言いたいが……」

 アーラはそう言いながら、チラリとヴェラの顔を伺う。

 するとそこには、『ふざけた事をのたまうのであれば、私にも考えがある』といった表情を見出す事が出来た。

 この表情は、現在アーラが最も恐れているもの(ヴェラの怒り)への前触れである。

 なので、直ぐに言葉を続けた。


「……と言うのは冗談で、誰か護衛して貰える騎士が居ないか、ホアキン殿に頼んでみ……」

「はい。それが宜しいかと」

 アーラが話しきる前に、ヴェラが淡々と了承する。

 主人に対して礼に適っている態度とは言えないが、アーラに出来たのはそれを咎める事ではなく、

「う、うむ」

 と、頷く事だけであった。



 アーラは書類作業をヴェラに引き継いで、早速ギルドに向かおうと屋敷を出た所に、丁度復興作業から戻ってきたグラストスと鉢合わせた。

 朝からの作業だった為か、グラストスの表情の奥には疲れが見える。


「ん? どこかに出かけるのか?」

「ああ。ギルド長に所用ができてな」

「そうか、なら気をつけて……」

 『行ってくれ』と続けようとしたグラストスの言葉は、宙に浮く。


「さぁ、行くぞ」

 アーラに腕を掴まれ、そのまま引きずられるようにして、街へ戻ることになったからだった。

 「疲れてるんだ」「少しだけ休ませてくれ」と言う悲痛な叫びは、アーラの感銘を得る事は出来ず、その余韻だけを前庭に残すことになった。

 ここに至り、屋敷内における、力関係の構図が見えるようだった――――



***



 二人がギルド支部長の執務室に足を踏み入れると、その部屋には先客の姿があった。 

 退屈そうに部屋の壁に寄りかかっているマリッタと、悪戯を見つかった少年の様な表情で部屋の隅の椅子に腰掛けたドレイクである。


 二人はアーラが尋ねた来た事に少し驚いた顔をしたが、何か言う前に、

「……そろそろお出でになる頃かと思っておりました。どうぞお座りください」

 ホアキン(ギルド支部長)が、そうアーラに話しかけた。


 勧められた通り、部屋の中央の椅子にアーラが座る。

 グラストスは少し迷い――その背後に立つことに決めた。

「どういう意味だ? 私が訪ねて来る事を知っていた様な言いようだが……」

「フォレスタへの護衛の件でありましょう? 侯爵様から文を頂いております」

 それにはアーラも少し驚いた顔をする。

「何だ。父上は貴殿にも文を出していたのか……」

 そうした手回しの良さは、アーラにとって嫌いな事ではない。

 事態を迅速に進めることが出来るからだ。


「それなら話は早い。誰か護衛して貰える者は居ないか?」

「はい。候補者は既に決まっております」

 そう言って、ギルド長はその部屋に居た二人へ視線をやった。

 無論、アーラとグラストスではない。


 話の流れからその事を読んでいたのか、マリッタが『やっぱり』と言いたげな表情で項垂れた。

 マリッタは先程執務室に来るように言われて、仕方なく部屋に来たものの、呼ばれた理由はまだ教えられていなかった。

 マリッタに続いてドレイクが執務室に来ても、ギルド支部長はずっと黙ったままだったのだ。

 思わせ素振りな態度に、何かあるとはマリッタも考えていた。

 ただ、まさかそんな面倒な事だとは思っていなかった。

 それが態度に表れたのである。


「マリッタ。不満か?」

 ギルド支部長(父親)が言う。

 不満なんじゃない。ただ、面倒なのよ。

 余程そう言いたそうなマリッタだった。

 だが、自分を期待するように見つめているアーラの前で、拒否など出来る筈も無い。

 恐らくそれを悟っていた為、父親は内容をアーラが来るまで、自分達に何も告げなかったのだろう。


 その思惑が見てとれて、マリッタは不快だったが、

「……いいえ。お嬢さんの頼みであれば」

 そう言うしかなかった。

 もちろん、父親を睨みながら。


「そうか、マリッタが護衛してくれるのであれば、私も助かる」

 アーラはマリッタの言葉を素直に喜んでいた。

 その様子に、いつもの事ながら思わず毒気が抜かれてしまうマリッタだった。

 それすら計算に入れた行動であったならば、流石に穏やかそうに見えて喰えない男だと評される、ビリザド支部長である。

 

「ちょっと、待ってくれ」

 マリッタと似たような表情で、言葉を発したのはもう一人の候補者であるドレイクだった。

「何か不満が?」

 ギルド支部長は穏やかな表情で尋ね返す。

 それに底知れぬ威圧感を感じて、半ば圧されながらも、ドレイクは言った。

「不満と言うか……。マリッタが行くなら護衛役は、マリッタの師匠の方が良いんじゃねえですかい?」


 アーラの手前、『嫌だ』とハッキリ言えないのは、ドレイクも同じである。

 だが、明らかに面倒ごとを押し付けようとしているのは見え透いていた。

「じょ、冗談じゃないわ……」

 マリッタがそんな事を呟いていたが、ギルド支部長はそれを意に介さず、静かに話し始めた。


「つい先日の事です。街がある巨大な魔物に、壊滅的被害を受けそうになりました…………。もっともそれは、そちらにいらっしゃるアーラ様と、街に居た自由騎士達の奮闘によって、何とか回避する事が出来ました。ですが、被害が全く無かった訳ではありません。例えば、森への間道沿いの農民の方々の家は、その殆どが破壊されてしまいました」

 そこまで言って、支部長はドレイクの顔を見る。

 ドレイクは思わず「うっ」と呟きを漏らした。

「ただ、そちらはアーラ様が保障して下さった事で、今着々と復興作業が進められております。奮闘して下さった自由騎士への手当ても、ギルドが費用を捻出し賄いました。額にして銀貨八百程になりますか…………。おっと、申し訳ありません。詮無き事を申しました。忘れてください」


 今日は涼しいくらいの気温だが、ドレイクの額からはだらだらと汗が流れている。

 この場の人間は、先の問題の事情の大凡を知っている。

 なので、支部長が暗に何を言おうとしているのか、分かっていた。

 グラストスは気の毒そうに、命の恩人を見つめる。


「ともあれ、その問題の原因となった者達は既に捕らえられ、今は自警団に囚われております」

 一瞬、アーラの表情が曇ったが、それには誰も気づかなかった。

 支部長の話は続く。

「そして、その者達の犯行に、間接的に関与することになった自由騎士達は、今現在、反省と称して復興作業に奉仕しています。初めはどうかと思っていたのですが、思っていた以上に熱心に作業されているようです。自分達の行いを、余程悔いているのでしょう。彼らの行った事は、決して褒められた事ではありませんが、その償いとしては十分であるように、私は思います」


 その時点で、ドレイクは完全に己の負けを悟っていた。

 ドレイクは『アンタはいつか酒で身を滅ぼす』と、友人の誰からもそう言われ続けてきた。

 しかし、今まで酒は自分の友であった事しかなく、皆の忠告は話半分に聞いていた。

 ――――のだが、どうやら自分は長年の友人から、三行半を告げられる事になったようだ。

 ドレイクとしては裏切られたような心境だったが、それを誰に対して苦情を言える訳でもなく、立場でもない。


「ただ、彼らの話を更に聞いた者達から、非を負う責任がある人物がもう一人だけいるのではないか。と言う、そんな話が挙がってましてね……」

「わ、分かった。俺っちが、嬢ちゃんを護衛してやる」

「護衛してやる……ですか?」

「う。い、いや。お嬢さんを護衛させて頂きます……」

 俯き滂沱の涙を流しながら、ドレイクが囁くように言った。

 その様子にギルド支部長は満足気に頷くと、アーラに穏やかな表情を向けた。


「アーラ様。お聞きの通りです。この二人を護衛としてお連れ下さい」

「あ、ああ。助かる……」

 アーラは今の支部長の問答に、自分が最も恐れる人物(ヴェラ)と同じ匂いを感じ、声を震わせて答えた。


 これで護衛の問題は解決したと、グラストスが思った直後、マリッタが思い出したように父親に声をかける。

「……そう言えば、ドレイク連れて行っていいの? 奥での作業はどうするの?」

「そ、それだ! 俺っちが居ないと、拙いんじゃねえですかい?」

 マリッタの言葉に飛びつくように、声を張るドレイクだったが、

「ご心配には及びません…………アーラ様。護衛の任は、どれ程の期間でしょう?」

 支部長は笑みを絶やさず、アーラに尋ねた。


「え、そうだな……。順調にいけば、十日程だと思うが……」

「三十日を超えることは考えられますか?」

「いや、それは無い。フォレスタまでを往復するだけだ。向こうで逗留するにしても、数日であろうし。余程何かない限り、三十日は考えられない」

 アーラは断言する。

 フォレスタまでは、歩きなれた者であれば、徒歩で四日掛からない。

 ましてやアーラは、馬車で行くつもりだった。更に要する時間は縮まるだろう。

 そう考えた末の判断だった。


「と、言うことです。何の問題もありませんね?」

 一方、支部長はドレイクの最後の頼みの綱を、笑顔で一斬りに断つ。

 ドレイクも、再びガックリ項垂れた。


「今のは何の話だ?」

 事情の分からないアーラは、マリッタに尋ねる。

「ええと……近々中継基地で、ちょっとした行事がありまして……」

 マリッタは言葉を濁すように答えた。

 それを聞いていたグラストスは、多少興味を引かれた。

 ただ、中継基地の事ならば自分には関係ないと、忘れる事にした。

 アーラも、先の話か、と大して気にしなかった。



***



 共にギルドを出た後、出発は明後日という事をアーラが二人に告げると、ドレイクは颯爽とその場から去っていった。

 逃げたのではなく、暫く堪能出来なくなるかも知れない、裏切られてもやはり大好きな親友に、愚痴がてらお別れしに行ったのである。

 言い換えるなら、自棄酒を飲みに行ったと言う事になる。


 マリッタも、父親から今日明日の事務業は免除して貰え、旅の準備をする為に自宅に戻って行った。

 それらを見届けて、二人も屋敷に戻る事にした。


 その帰り道。

 大通りの十字路に差し掛かった際、北の山を見つめながら、サルバにも来て貰おうかとアーラが言い出した。

 恐らく、アーラが頼めば喜んでサルバは付いてくるだろう。

 アーラの頼みであれば、あの偏屈なサルバの父親も、考える間もなくそれを認めるだろう。

 なので、グラストスはアーラに忠告する事にした。


「今。鍛冶屋はこの前の騒動の際に痛んだ自由騎士達の剣の修繕作業で、てんやわんやの状態だそうだ。そんな状態で、サルバに抜けられては、鍛冶屋の主人も困るだろう」

「なるほど。そうだったのか……ならば、声をかけぬ方が良いな」

 本人達からすれば余計なお世話なのかも知れなかったが、アーラはすんなりとグラストスの発言を認めた。

 アーラは一瞬残念そうな表情になったが、

「旅をするのに、サルバの明るさが無いのは残念だが、護衛が三人も居れば十分か」

 そんな事を言って笑う。


 サルバは戦力と言うより、賑やかし目的だったようだ。

 哀れではあったが、グラストスは不憫には思わない。

 何故なら――――

(当然のように、数に入れられている俺の方が切ないだろう……)

 ヴェラは恐らく、屋敷に残る事になる。

 ドレイク、マリッタ、これで二人。

 ならばあと一人は……自明の理だった。



***



「お帰りなさいませ」

 戻った二人を待ち構えていたように、ヴェラは慇懃に出迎える。

 グラストスの事を警戒するように進言していたヴェラであったが、グラストスの居る場ではそれをおくびにも出さず振舞っていた。

 使用人としての矜持なのかもしれないし、グラストスの正体が何であれ、直接的にアーラに危害を及ぼすとは考えていないからかもしれなかった。

 少なくとも、アーラはそう思っていた。


「護衛の当ては付きましたか?」

「ああ。父上はホアキン殿にも文を送っていたらしい」

「なるほど……流石は旦那様です。では、護衛はマリッタさんと、ドレイク様。と言う所でしょうか」

 ヴェラはまるで全て見ていたかのように、淡々と告げる。

 しかし、アーラはそれには驚かない。

 この程度の推測は、ヴェラにとっては大した事ではないのだ。

 それに、正確とも言えなかった。

「それにグラストスも加えた、三人だ」


 アーラの訂正に、ヴェラは微かに表情を変える。

 それはグラストスどころか、長年の付き合いがある侯爵にすら分からないであろう微かな変化だった。 だが、アーラには分かった。


 その表情は、非難の色を帯びていた。

 父親が居ない今、この屋敷を空にする訳にはいかない。

 アーラが旅立つのであれば、ヴェラは残っておく必要がある。

 つまり、自分の管理出来ない所で、グラストスと接触するのは危険だと言いたいのだろう。

 それに対して、アーラは強い目でヴェラを見返すだけである。


 それはほんの僅かな時間の間だったが、二人の意思を確認しあうのには十分な時間だった。

「……分かりました。では、私は馬車の手配と、食料の調達に行って参ります」

 ヴェラは微かに嘆息すると、小間使いとしての役割を果たしに屋敷を出て行った。

 確かに、そういう方面の準備は二人には出来ない事だったので素直に見送り、それぞれ自分が出来る事を始めた。

 とは言え、アーラは着ていく服の選定。

 グラストスは武器の手入れ位しか出来る事はなかったが……。


 互いに私室に戻りそれを行っていたが、グラストスはある事に気づいて、アーラの部屋の扉を叩いた。

「何だ?」

 部屋の前に出てきたアーラに、グラストスは一本の剣を差し出す。

 それは、昨日修理が終わった『ジェニファー』だった。

 その代金で、グラストスはこれまで稼いだ資金の殆どが消え去った。

 ただ、これはケジメだと諦めていた。


「今まで助かった。あの二人組から奪った剣があるから、もう剣を借りなくて良くなった」

「そうか…………」

 そう言いながらも、アーラはグラストスの差し出した剣を、受け取ろうとせずにジッと見つめる。

「どうした?」

 一向に受け取ろうとしないアーラに、グラストスは首を傾げた。

 暫くそのままの状態で固まっていたが、アーラはようやく顔を上げたかと思えば、戸惑いを覚えさせるような事を言ってくる。

「…………それは、お前が持っていてくれ」


「いや、もう剣は二本もあるから……」

 そう返答するグラストスだったが、

「いいから!」

 アーラは強く口調で、再度念を推すように言う。

「しかし、またボロボロになってしまうかもしれないぞ?」

「大丈夫だ。そうなったら、またイゴーリに修理して貰えばよい」

 その費用が痛いんだが……とでも言いたげな視線をグラストスは送る。

 だが、アーラは強く頷くだけだった。


「はぁ。分かった。じゃあ、これは預からせてもらう事にする」

 遂に根負けして、グラストスは剣の所持を認めた。

 その言葉にアーラは神妙な顔で頷く。

「ああ。きっとその剣がお前を護ってくれるだろう」

「ははっ。この剣にはそんな加護があるのか。なら、それにあやからせて貰おうか」

 グラストスは一種の願掛けの様なものだろうと思い、冗談ぽく笑った。

 アーラはそれには応えず、ただ柔らかく笑うだけだった。



***



 酒場の奥の席で、一人座して木製の酒器を傾け続ける男が居た。

 先程から何やらぶつぶつと、愚痴を漏らしている。

 酒は楽しく飲むものであるという信条を持つ男だったが、暫くお別れする事になるのが決定している身では、陽気になれよう筈も無かった。

 今は長年想い合っていた恋人と別れるような心境だった。

 だが、それは男が勝手に思っているだけであって、相手は別れられて清々しているのかもしれなかった。


 そんな男の前に、一人の女性が立った。

 魅力的な女性ではあるが、酒場には場違いな服装である。

 どこかで見た顔だったが、思い出せない。

 必死に考えて、男は記憶の底からその女性の事を呼び起こす。

「確かアンタは……」

「はい。ご無沙汰しております」


 二人が顔を合わせたのは二十日程前の事だった。

 しかし、二人が会話したのはもうかなりの昔の話になる。

 顔を合わせた時も、あくまで他の人間も何人か居た同じ場所に居合わせた、という程度に過ぎない。

 要するに、直接的な面識は殆ど無かったのだ。


「俺っちに何か用かい? 察するに、明後日からの事かな?」

 酒器を傾ける手はそのままに、男が尋ねる。

 男の周囲には空になった小さめの酒樽が、既に二、三転がっていた。

 かなりの酒量になっている筈だが、男の言動はしっかりしている。まだ酔いは廻っていないようだ。

 とは言え、男の周囲に漂う酒気は消せようも無い。


 微かに女性は眉を顰める。

 ただ直ぐに無表情を貼り付けて男の言葉に頷くと、女性は静かに言った。

「はい。図々しい頼みではありますが、どうしてもお頼みしたい事柄があって参りました……」

 

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