■■ あらすじ 【ネタバレ含む 現在二章まで記載】
ここでは章ごとのストーリーを紹介します。
本編を読まなくても良いように、重要な所を押さえて、
章の最初から最後までのストーリーを全て記載しているので、
ネタバレ上等の方や、
長すぎて最初から読んでられない!という方のみ
お読み下さい。
■■一章【辺境の自由騎士】 約55000文字
男が目を覚ますと、そこは見知らぬ屋敷だった。
何故か左腕を骨折しており、何故こんな場所に寝かされていたのか分からない。
疑問を浮かべながら屋敷の外に出ると、そこが高台の上に建てられて居るかなり大きな屋敷である事が分かる。
そして、どこからか人の声が聞えてきた為そちらに向かうと、そこには一心不乱に剣を振る少女アーラと、その小間使いのヴェラの姿があった。
アーラは自分の正体(領主の娘であること)を明かし、この地はビリザドという小国パウルースの辺境であることを伝える。
今度は男が自分の事を告げようとするが、男は自分が自分のことを何も覚えていないのに気付く。
アーラは男の言葉を信じ、自分の名前も覚えていない男に『グラストス』という名前を授け、自分の客人として屋敷への滞在を認める。
グラストスはアーラに自分の命を救ってくれた恩人は別であることを聞き、アーラに道案内されながら、その恩人達に礼を言いにいくことにする。
その恩人たちは『自由騎士』と呼ばれる、魔物を狩ることで生計を立てている根無し草の騎士達だったので、彼ら自由騎士達を束ねるギルド。『魔法ギルド』に向かう。
そこで、グラストスはビリザド支部長の娘で、アーラの魔法の師でもある魔法使いマリッタと出会う。
マリッタに連れられて、彼らがいるという酒場に向かい、そこで恩人の一人であるドレイクと顔を合わせる。
グラストスはドレイクに命を救って貰った礼を言い、自分を発見した時の話をドレイクから聞いていると、そこに一人の少年が駆け込んでくる。
少年はリシャールといい、グラストス以外の三人とはよく知る間柄だった。
リシャールは父親の厳命で、他の自由騎士に手伝われることなく一人で、ギルドの依頼の等級では下から2番目の難易度が設定されている区分Dの依頼をこなしてこい、と魔物討伐に行かされる事になったと、自由騎士を除けばビリザド1の魔法の腕を持つマリッタに泣きつき助けを求める。
マリッタは激しく嫌がるが、代わりにグラストスが同行を申し出る。
客人であるグラストスが行くなら自分もと、アーラも同行を主張し、アーラが行くならその護衛としてマリッタも渋々参加することになる。
翌日、四人は始めドタバタがあったものの、無事に街の南に広がる大森林。ネムース大森林の前に立っていた。
目的の魔物はその森の浅い地帯に生息が確認された、スライムハウンド、と呼ばれる液体状の魔物だった。
四人は森に入り報告のあった泉に向かうと、そこには一体のスライムハウンドが居た。
あっけなくこれを討伐し、続いて沸いた十数体のスライムハウンドを倒して、一行は帰路につこうとする。
しかし、その道中、獲物を求めて森の深部から現れたと思われる、グレーターベアと呼ばれる危険な魔物が立ち塞がった。
自分たちではとても適わないと悟ったグラストスとマリッタは、囮となってアーラとリシャールを先に逃がす事にする。
二人がこの場を離れたことを確認して、グラストスは死を覚悟して自分が囮になるからと、マリッタにも撤退を勧める。
しかし、マリッタは魔物を倒すことの出来る魔法を習得しているので、その魔法の発動まで時間を稼いでくれればこの場をしのげると提案する。
その言葉を頼りに、グラストスは一人で魔物の相手をする事にする。
文字通り必死に魔物の猛攻を防いでいたが、肝心の剣が壊れてしまう。そこを魔物に襲われそうになったところで、マリッタの風魔法『竜巻』が発動する。
その魔法は魔物の肩を掠めただけで、肉を抉り、魔物を後方まで吹き飛ばすほど強力だったが、仕留めるまでにはいかなかった。
今度こそ、死を覚悟しグラストスはマリッタが逃げる時間を稼ぐ為に、鞘を持って魔物に挑む。
しかし、元来格上の相手である上、片手であるグラストスは適う術もなく、遂に魔物の狂爪を目の前で振り上げられ――――
そこに、逃げたと思っていたアーラとリシャールが走り込んできて、魔物に斬り付ける。
そのお陰で間一髪、危機を脱したグラストスだったが、マリッタと二人で戻ってきたアーラ達を咎める。
が、アーラは「民を助ける事こそ、領主の娘である私の務めだ」と息巻き、魔物が傷ついているのを見て、徹底抗戦を主張する。
二人に呆れながらも、護らなければいけない対象が出来たグラストスとマリッタは俄然奮起し、逃げる時間を稼ぐのではなく魔物を倒す事を決意する。
グラストスはアーラの持っていた剣を借り、リシャールと二人で魔物を押し止める。
マリッタは再び『竜巻』の準備して、そして魔物の態勢が崩れた隙を見て再び発動する。
それはそのまま魔物を貫くかと思われたが、魔物も既に学習しており、樹に跳び登り進路から逃れる。
絶望に包まれる一同だったが、グラストスが突然『竜巻』の進路に己が持っていた剣を翳す。
すると、魔法はグラストスが差し出した剣に吸い込まれてしまった。
代わりに剣からは勢いよく風が吹き出し始める。
グラストスがその剣を、樹に登った魔物に向かって振り上げると、先程のマリッタの竜巻が剣から解き放たれ、魔物を貫き空へと消えていった。
その後、アーラの屋敷に戻った一行は、前庭で先程の話をする。
グラストスの見せた術は、『魔法剣』と呼ばれる先天的に備わる技術であること。
その使用には特別な調整を行った剣でないと、ボロボロになってしまうこと。
その言葉通り、アーラから借りていた剣はボロボロになっており、アーラの悲鳴が木霊する。
そこに、家に帰っていったはずのリシャールが、泣き叫びながら現れる。
曰く、父親が書置きを残して出て行ってしまったと、涙ながらに語る。
既に資金が尽きていたため、これからの生活をどうすればいいのかと、リシャールは悲哀にくれる。
そんなリシャールに、グラストスは自分もこの地の自由騎士になろうと思っていたことを告げ、一緒に狩りをすることを提案する。
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■■二章【森林の巨獣】 約135000文字
森での騒動から一夜明けて。
早速グラストスとアーラは『魔法剣』の影響で壊れた剣を直しに、北の山の中腹に存在する鍛冶屋の庵に向かう。
その鍛冶屋の主イゴーリは、厳格で知られる男だったが、アーラにはとても甘かった。
そして、何故かグラストスのことを非常に警戒する。
アーラにグラストスと離れることを提案するが、アーラの叱責を受けて、渋々グラストスのことを認める。
その後、剣の修理と魔法剣用の剣の生成のことを依頼するが、後者は一から生成すると100日は掛かるとの回答だった。
ただし、魔法剣用の剣の修理であれば、ずっと短い期間で修理が可能であるとのこと。
グラストスはグレーターベアに折られた剣が、森に放置されたままであることを思い出し、泣く泣く森に取りに戻ることを決める。
そこに、イゴーリの息子である大男サルバが庵に戻ってくる。
サルバはグラストスと共に森に向かう事を快く承諾する。
街に戻り、森へ付いていくと駄々を捏ねるアーラと別れ、二人は森に向かう。
結局、折れた魔法剣の剣身は見つからず、二人は街に戻り、偶然を期待して武器屋に行くことにする。
すると、そこには一本の魔法剣用の剣が売られていた。
ただし、金額が銀貨30枚というとても手が出ない額で、仕方なく二人は解散する。
翌日、グラストスはアーラと共に魔法ギルドへ自由騎士の登録に行く。
その道中マリッタと出会い、自由騎士の登録には自分の魔法の適性を告げる必要があることを聞く。
記憶を失っている為、自分の属性が分からないグラストスは、その言葉に従い属性を調べる事が出来る場所、教会に向かう事にする。
教会に着くと、属性を知る為に調合された水を飲まされる。
この水は、もし魔法使いが飲めば、属性が火なら赤、水なら白、風なら緑、土なら黄、という具合に体が発光する特別なものだった。
そして、アーラが見守る中、飲み終わったグラストスの体は黄色の光に包まれていた。
つまり、グラストスの属性は土だった。
教会を出ると、土魔法を見たことがないアーラの要望に従い、魔法を使って見せようとするグラストス。
しかし、自分が魔法の使い方を覚えていない事に気付いた。
悄然としつつも、グラストスはそのままギルドに登録に向かう。
ギルドではマリッタが待っており、書類に個人情報を記入し諸注意を受けた後、グラストスは晴れてビリザドの自由騎士となる。
早速何か依頼を受けるかと聞かれ、グラストスが口を開こうとしたところに、リシャールが駆け込んでくる。
リシャールは街の三人の自由騎士と揉めてしまい、区分Cの依頼を二件受けることになったと嘆く。
哀れに思ったグラストスは同行を申し出たが、リシャールの本命はマリッタだった。
マリッタは嫌がっていたが、アーラも同行を主張した為仕方無しに認めようとした所に、サルバが現れる。
マリッタは自分の代わりにサルバを連れて行くことを提案し、サルバとグラストスの了解を得る。
それならば邪魔になってはいけないと、アーラも辞退し、リシャールは男三人で森に向かう事になった。
一つ目の依頼は、薬草の採取だった。
中々見つからず、森の奥へと進む三人。疲れ果てていたが、やがて目的の数分の薬草を集める事が出来る。
嬉々として帰路につく三人だったが、その三人の前に一匹の魔物が現れる。
その魔物の額には一本の角が生えており、その魔物を見るなり、サルバとリシャールは『一角だ!』と興奮し、魔物に襲いかかろうとする。
普段は好戦的ではない二人がそうなったのは、その角には百薬の効果があるためか、高額で取引されているからだった。
ただ、グラストスはその魔物を見るなり、激しい頭痛に襲われる。
程なくして頭痛は治まったが、逃げた一角の魔物を追って森の奥に消えたサルバが、再びグラストス達の元に走って戻ってくる。
サルバの後ろから数匹の別の魔物『フォレストウルフ』の姿が現れ、サルバを罵りながらグラストス達も慌てて逃げ出すが、フォレストウルフの足は速く逃げられそうにもないので交戦する。
何とかそれらを倒すも、その過程で傷を負ったサルバが体調の不良を訴える。
どうやら、傷から毒素が入った事が原因らしく、必死に集めた薬草をサルバの治療に使う事になり、グラストス達は再び薬草を採取しなくてはいけなくなった。
七難八苦乗り越えて、何とか薬草を集めたグラストス達は疲れ果てた体で森を出ようとする。
その帰り道、不審な二人組みの男達と出会い、声を掛けたグラストス達は一方的に襲われる。
メイジであった男達に、魔法の使えないグラストスとサルバ、怯えたリシャールが適うわけもなく、そのままグラストス達は一方的に痛めつけられる。
怪我を負ったものの何とか大怪我をしなくて済み、三人は今の出来事を不安に思ったものの、今度こそ森を出た。
その後、マリッタに授業を受けるアーラの様子を眺めたり、アーラと街を散策したりと、グラストスは穏やかな数日を送っていた。
その頃森の深い場所では、リシャールと揉めた三人の男達が、グラストス達を襲った二人組みと密会を行なっていた。
三人は二人組みに依頼されていたある物を渡し謝礼を受け取るが、予定額より少なかった為不満を訴える。
しかし、二人組みに奇襲を受け、三人は傷を負ってしまう。
何とか命は助かったものの、一人は歩けない程の重傷だった。その時初めて、男達は思っていた以上に危険な相手だったことを知る。
その二日後、ビリザドの街の平穏は破られる事になった。
普段は大人しく、日がな一日寝て過ごしている筈の巨大な体躯を持つ魔物『ドーモン』が、怒り狂った様子で森から出てきたのだ。
森から出たドーモンは、街から森へと続く間道の傍に立つ農家の家々を踏み潰し始めた。
農家からの報を受けたアーラは、住民の非難、ギルドへの連絡をヴェラに指示した後、グラストスと共に現場に向かう。
途中合流してきたマリッタと三人で魔物の元に向かったが、あまりに巨大な魔物である為、きちんと対策を練らねば自分達にはどうしようもないことを悟る。
再び街に戻ると、グラストス達は他の自由騎士に介抱されていた、傷ついた三人の自由騎士を発見する。
三人はリシャールと揉めていた男たちだった。
その三人の言動から、グラストスは彼らが以前自分達が襲われた二人組みの男達に襲われたこと、そして、魔物が暴れていることと何か関係があることを見抜く。
三人は周囲の自由騎士達に詰め寄られ、二人組みの男達にドーモンの巣の場所を教えたことを明かす。
ドーモンが怒り狂うなど、自分の子供に何かが起こった時くらいである。
当然の帰結として、ドーモンが暴れているのは二人組みに子供を連れ去られた、ないしは殺された為だろうという話になる。
一同は前者である事を期待しながら、恐らくまだそれほど遠くには行っていない筈の二人組みの男達を探す事にする。
だが、彼らの顔を知っているのは、傷ついた三人と、グラストス、サルバ、リシャールだけだった。
その為、グラストスとサルバ、三人組の一人で比較的軽傷だったルードが探索することになる。
アーラに頼まれ、グラストス達は早速探索に向かう。
残されたアーラは万が一に供え、森の奥に存在する『中継基地』にいるドレイクら腕利きの自由騎士達に連絡をとることにし、マリッタに伝令役を任せる。
マリッタを見送ったアーラは、その場にいた自由騎士達に、街に居る全ての自由騎士達をギルドに集めるように要請する。
半刻後、集まった80人程の自由騎士達を前にして、アーラは演説を行なう。
このビリザドを護ってきたのが、本当は一体誰であるのか、という事。
この地を災いをはらう為に力を貸してくれ、という事。
それらを拙い表現で自由騎士達に伝えるも、賛同を得られたのは約半数というところだった。
人数が足りないと焦燥感を募らせていたアーラの前に、一人の男が現れる。
その男は魔法ギルドのビリザド支部長であり、マリッタの父でもあるホアキンだった。
ホアキンは自由騎士達にドーモンと戦った場合、特別報酬が用意されていることを告げる。
その額は自由騎士達にとってかなりの額だった為、アーラの時には渋っていた自由騎士達も次々と参戦を表明し、ようやく人数が確保できる。
どこか釈然としない想いを抱きながらも、アーラは戦場となる間道に向かった。
一方、二人組みを探索していたグラストス達は三方に別れて、捜索を行なっていた。
その内、街の近くでの見張りをしていたルードは、視界の端に何かを捉える。
まるで何かの合図を送っているような光の輝きの元に近づいていくと、その場所に二人組みの男を発見した。
ルードはグラストス達と合流することも忘れ、怒りのままに二人組みに斬りかかるが、あえなく撃退される。
だが、倒れる直前に空に向かって魔法を放つことには成功し、その合図を見たサルバがその場に合流し、男達と対峙する。
程なくしてグラストスもその合図に気付き、ルードの元に向かった。
その頃、アーラ達はドーモンを相手に厳しい戦いを強いられていた。
皮膚のあまりの固さに、剣が通らず魔法も効かない。
まるで足止めも適わず、ジリジリと後退することになっていた。
更に悪い事に、森の奥からもう一頭のドーモンが姿を見せる。一回り小さい体躯から、つがいの雌であろうと推測できた。
焦るアーラ達だったが、状況をどうにも出来ぬまま雌ドーモンが戦場になだれ込んでくる。
二体の巨大な魔物が居ては、もう自由騎士達にはどうしようも出来ない。
加えて雌ドーモンは家屋ではなく、自由騎士達を狙っていた。
戦線は瓦解し、自由騎士達は逃げ回る事になった。
このままでは本当に拙いという時に、一台の馬車が間道になだれ込んでくる。
その馬車は銅鑼を鳴らして雄ドーモンの注意を引く事に成功し、再び雄を森のほうまで誘導しようとする。
そして、今の作戦の考案者であろう人物は、その前に馬車から降り立ち、アーラの元に近づいてくる。
その人物とは、ヴェラだった。
ヴェラはドーモンを倒す策を持っているとアーラに告げる。
再び場面は変わり、二人組みを探索していたグラストスが、ようやくルードの元に現れる。
そこに広がっていたのは、ルードは行動不能の状態、サルバも傷ついて倒れこんでいる、という光景だった。
二人組みの男達の元に魔物の子供らしき存在が確認できた為、グラストスは最悪の事態は免れた事に先ずは安心する。
魔物を渡してくれと交渉するも、当然の如く拒否される。
仕方なくグラストスは、起き上がったサルバと共に、二人組みに挑む。
が、メイジである二人に対して、魔法の使えない二人が適うわけもなく、両者共に返り討ちに合ってしまう。
ただ、二人組みの男達は、連れ去ってきた魔物の子供を取引相手に渡す刻限が迫ってきていた為、内心焦っていた。
その為、グラストス達にこのまま消えるなら見逃してやると、提案する。
しかし、グラストス達はそんな提案に承服する訳にはいかない。最後の反撃の準備を整えて、グラストスは再度立ち上がった。
再びアーラ達。
ヴェラの策は、複雑なものではなかった。
先ず自由騎士達を一箇所に集めること。
次に土魔法の使い手たちにドーモンの進行上に落とし穴を作らせ、その穴に落としたところを全員で一斉に攻撃する。
その為に、パウルースで最も度の強い酒を用意しており、それを魔物に浴びせて火属性の魔法で攻撃。ドーモンを一気に炎上させる。
ヴェラが立案したのは、その繰り返しの策だけだった。
だが面白いようにその策は嵌まり、銅鑼に釣られなかった雌ドーモンはみるみる弱っていった。
やがて雌ドーモンは倒れ、遂に起き上がらなくなる。
勝利は目前だったが、アーラは雌ドーモンに止めを刺す事を躊躇う。
そうした中、離れていた雄ドーモンが再び戦場に乱入してきた。
グラストス。
立ち上がったグラストスは、二人組みの男達をわざと挑発するような言葉を吐き、男達を逆上させる。
怒りのまま放ってきた火魔法を、持っていた剣で防いだ(魔法剣を発動させて)。
グラストスが魔法剣の使い手であることに二人組みが驚いた隙に、グラストスは間を詰めて、一人を撃退する。
残った一人に向かう素振りを見せ注意を引いた直後、グラストスはサルバに合図を出す。
サルバは既に男の懐近くまで忍んでおり、男が慌てて放った火魔法を左腕を盾にして防ぎ、右の拳を男の腹に深々とめり込ませる。
あえなく男は倒れ、グラストス達は何とか、魔物の子供を取り返す事に成功した。
気絶した男達の見張りをグラストスが引き受け、サルバは急いでアーラの元に魔物の子供を運んでいった。
戻ってきた雄ドーモンは、悲しげな様子で雌ドーモンに体を摺り寄せる。
自由騎士達は既に勝利を確信していた。
だが、これ以上ドーモン達を傷つけることを、アーラはどうしても決断出来なかった。
とはいえ、このままこまねいていては街に被害が出るかもしれない。
領主代行であるアーラにとって、それは何があっても避けなくてはいけないことだった。
決してアーラの感傷で、引き起こしてよい事ではない。
その様なことを、ヴェラは冷静な口調でアーラに語りかけた。
その言葉に納得したアーラは遂に覚悟を決め、最後の交戦の合図を自由騎士達に出そうとした。
そこに、大音声のダミ声が響き渡る。割り込んだのはサルバの声だった。
待ち望んでいた声に、アーラは縋るようにサルバの元に向かう。
そして、魔物の子供を受け取ると、アーラ自ら親ドーモンの元に向かい、謝罪後、子供を放した。
ドーモンの親子は再会し、喜び合う素振りを見せる。もう戦意は感じられなかった。
だが傷つきすぎた雌ドーモンは既に動く事が出来ず、そのまま死を待つだけの身だった。
雌ドーモンを見て、悲しげな雄叫びを上げる雄ドーモン、子ドーモン。
そんなドーモン達を見て、アーラを含めた自由騎士達は勝利の余韻に浸ることもなく、悲痛な面持ちのまま戦いの終わりを悟った。
後日、街の人間は総出で復興作業を行なっていた。
グラストス、サルバ、リシャールも借り出されて、作業を行なっていた。
そんなある日、アーラの元に知らせがヴェラによって届けられる。
一つは朗報、アーラの父、ベッケラート侯爵が間もなくビリザドに戻ってくるという知らせだった。
喜ぶアーラだったが、その後に続いた話を聞いて愕然とする。
その内の一つは、グラストスの身元調査のために、以前魔法学校に送っていた文の返信がきたことのことだった。
それだけでは悪い話ではなかったが、その内容がアーラを動揺させた。
グラストスの容姿に近いとされる人物が、アーラが憎んでいる『あの男』だったからである。
人相書きも同封されており、確かにグラストスの顔に似ていた。
グラストス=あの男、である事を否定しながら、アーラは最後の報を聞く。
そして、更に驚愕する事となる。
昨日グラストス達のお陰で牢に捕らえられていた二人組みの男が、今朝何者かに殺害されていた、というのである。
ヴェラははっきりとは言わなかったが、グラストスが怪しいと暗に示す。
二人組みが入れられていた牢は自警団の地下にある隠し牢で、その存在を知る者は限られている。尚且つ、二人をそこに捕らえていることを知っている者は、その中でも数名だった。
挙げると、アーラ、ヴェラ、信頼できる自警団員の二人(見張り)、グラストス、の五名である。
ヴェラも確信があって言っている訳ではないが、消去法で考えるとグラストスが残ってしまうのだった。
だが、アーラはそのヴェラの意見を激しい口調で退け、グラストスのことを信じることを心に誓うのだった。