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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
117/121

112: 薬

 

 グラストス達は戦闘を続ける生徒達の間を縫うようにして、崩れた一角に向かう。

 前方では巨大なウォーバットが周囲の生徒達を威嚇するように唸り声を上げている。迫力に押されているのか、生徒達も手が出せないようだ。

 そう見てとったグラストスは、一気にウォーバットの前へと駆け抜けると、躊躇うことなく斬りかかった。

 不意をついた形になったが、羽ばたき一つで躱され、虚しく虚空を斬った。

 逆に回り込まれ、横から体当たりされる。巨大な体躯の衝撃には耐えることも出来ず、グラストスはその場に倒れ込んだ。

 上に圧し掛かられそうになるが、

「ごのおっ!!」

 遅れてきたサルバが大斧を振い、ウォーバットを飛び下がらせた。

 グラストスは直ぐに起き上がると、視線は魔物に向けたまま礼を言う。

「すまん。助かった」

「でも、もう無理だぁ」

 ウォーバットは二人を警戒してか、空に昇ってしまった。とても剣は届かない高さで羽ばたきながら、こちらを見下ろしている。


 二人は空を見上げ、大きく口を開いたウォーバットを悔しそうに眺めていた。

 ――――口を開く。

 その行為の後にもたらされるものは、この場の誰もが身を持って知っている。周囲に居た者達は皆、慌てて距離を取った。

 だが生憎、合流したばかりの二人はそれを知らなかった。

「何をしている! その場を離れるのだっ!」

 アーラの必死の呼びかけは二人の耳にも届いたが、意図が分からないのでその場に立ち尽くしたままアーラの方を見つめ――――

 "咆哮"が放たれた。


「な、ぐっ!?」

「いでええぇ!!」

 突然の衝撃に耐えることも出来ず、二人はその場に蹲った。

 動く事もままならず呻く二人の前に、巨大なウォーバットが再び降り立つ。

 もう一度"咆哮"を放つつもりなのか、大きく口を開いた。


「はあぁっ!!」

 その隙を狙って、横合いからアーラが斬りかかる。

 気負ってしまったのか、大振りとなった一閃はウォーバットに察知され、あえなく空を斬った。

 逆に注意を引いてしまい、ウォーバットは標的をアーラに代えたようだ。漆黒の双眸をアーラに向けている。

 僅かに遅れて斬りかかろうとしていたリシャールは、その様子を見て慌てて立ち止まった。


「せやああああっ!!」

 自分に意識が向いた事を悟りながらも、アーラは構わず追撃する。

 横薙ぎの一撃は空へと上がった魔物の僅か下の宙を刈り取った。

 思い切り空振ったことで少し体勢を崩したアーラに、今度は魔物の爪が迫る。

 鋭利なそれは棒立ちになったアーラの顔目掛けて振るわれ――――


「っ」

「ヴェラっ!?」

 アーラを庇うように身を投げ出したヴェラの肩を抉った。

 爪はヴェラの肌を易々と引き裂き、そこから溢れ出た血が腕を伝って地面に落ちる。


 ウォーバットは助走をつけるように一度距離を取った。そして、解き放たれた矢の如く、先程よりも更に勢いを増して二人に迫る。

 剣を構えて対峙したアーラは、しかしヴェラに両肩を抑えられた。そのまま抱きすくめられる。

「!? は、放せヴェラ!」

 アーラはもがくが振りほどけず、ウォーバットの一撃が再びヴェラを襲う。


 その鋭爪は確実にヴェラの柔肌を貫く筈だったが、その前にグラストスがフラつく足で両者の間に割って入った。

 身を投げ出しつつも、爪の一撃を受けないように剣を構えるが、四肢に力が入らない。

「ぐあっ!」

「グラストスっ!?」

 致命傷は辛うじて免れたものの、胸部を浅く切り裂かれ出血する。また衝撃に握力が負け、『ジェニファー』が手から離れ地面を転がり、生徒達の集団の中に消えた。

 

 ウォーバットはそのまま頭上を通り越し、三人の背後に降り立った。

 動かない三人に向かって大きく口を開く。

 だが"咆哮"は放たれなかった。その前にウォーバットは飛んできた炎を避け、上空へと浮遊したからだ。そこに今度は水の刃が飛ぶ。

 更に高く飛翔すると、ウォーバットはそのまま何処かに飛び去っていった。


 三人を援護したのは十数名からなる教師達だった。

 一時避難していた教師達の片割れである。

 突然現われた教師達の無事な姿を見て、多くの生徒達は知らずの内に喜びの声を上げた。

 その声は伝染していき、ウォーバット達の"鳴き声"を跳ね返すほどの喝采となる。

 合流した教師達は、直ぐに散開すると各々の役割を果たし始めた。

 回復魔法や土魔法での後方支援、攻撃魔法で魔物を殲滅する攻撃役。

 教師の加入によって、飛躍的に一団の構成力は上がった。


 そして、集団の抵抗力が急に増したのを感じたのか、魔物達の攻勢も緩んでいく。

 ここにきて戦い続きだった生徒達も、何とか一息吐ける程度の戦況を得られていた。



 明るい表情になった生徒達とは対照的に、アーラは険しい顔で自分を庇った相手を見つめていた。

「余計な事はするなといつも言っているだろう!」

「申し訳ありません」

 出血はまだ続いているが、傷を痛がる素振りも見せずにヴェラは謝罪する。

「お前は……っ!」

 アーラは苛立ったように眉を吊り上げる。

 憤りのままに感情を吐露しようとするが、ぐっとそれを飲み込んだ。

「いや……すまぬ。全て私の所為だな」

 ヴェラは何時如何なる時もあらゆる災厄からアーラの事を護ろうとしてくれる。己の身を盾にしてでも、だ。

 それは何より自分を大切に思ってくれる故ということはわかっていたが、それでもアーラは悔しかった。

 一人でも巧く立ち回れると信じてもらえない事が。そして何より周囲にそう思わせてしまう自分の力の無さが。

 だが今は考え込んでいるような時間はない。


「傷は痛むか?」

「いえ、出血こそしていますが、大した傷ではありません」

 ヴェラは平然と告げる。

 やせ我慢なのかは、その無表情からは読み取れない。

 仕方なくアーラは足取り重そうなグラストスに向き直った。

「グラストスはどうだ?」

「傷よりも……頭がふらついている……何なんだ、あれは?」

 グラストスは痛みを振り払うように頭を振りながら答える。

「あれが『ウォーバット』の持つ能力らしい。あのデカイのは特別みたいだがな……気をつけるのだ」

「ああ、十二分に分かったよ」

 二度と喰らうのはご免だ、というような表情でグラストスは頷いた。

 サルバも頭を擦りながら近づいてくる。その後ろにリシャールが続く。


「はぁ~~い。もう大丈夫ですよぉ~~」


 唐突に場違いな明るい声が差し込まれる。

 特徴的な声なので、見ずとも相手は知れた。

「エレーナ師? どうしたのだ?」

「見てましたよぉ。傷を見せてくださぁい」

「傷を? 医術の心得があるのか?」

「はぁい。本業ではないですけどねぇ~~」

 エレーナはそう言うと、トコトコとヴェラに近づいてくる。

 目の前に立つが、身長差があり傷が見れないらしい。仕方なくヴェラはその場にしゃがみこんだ。

「ありがとうございますぅ」

 エレーナはにっこり微笑みながらヴェラの腕を掴む。と、徐に取り出した短剣で、ヴェラの傷口付近の服を引き裂いた。血の付いた片方の袖を強引に千切り取ると、ヴェラの白く細い肩が露になった。

 あっけに取られた一同を尻目に、エレーナは満足気に頷くと傷の処置を始めた。

 珍しく一瞬呆けていたヴェラは、肩口まで肌を晒された事に不満を抱いたようだ。凍りつくような冷たい視線をエレーナに送るが、当の本人は鼻歌交じりに処置を続けている。不毛だと悟ったのか、小さく溜息を吐く。


 傷の処置に来たというだけあって、エレーナの処置は的確で迅速だった。素早く処置を終えると、どこからか取り出した包帯で傷口を覆い始める。

「何処にそんなものを……?」

 アーラの問いに、

「えへへ、乙女の秘密ですぅ」

 笑顔で答えながらも手は止まらない。程なくして包帯を巻き終えた。

「これで終わりでーす」

「見事なものだな」

 アーラは感心したように何度も頷く。今朝からの数々あった彼女の奇行は、忘却の彼方に押しやられていた。


「有難うございます」

 ヴェラは深々と頭を下げた。

 だが、再び頭を上げるその前に。

「ぱっぱっ、とぉ」

 エレーナは腰に提げていた瓶を手に持ち蓋を開けると、ヴェラの頭に二度三度中身を降りかけた。

「エ、エレーナ師? 何をしているのだ?」

 ヴェラは静かに身体を起こす。

「…………」

 流石に今度は許容できなかったらしい。

 意味も分からず頭から水を掛けられたヴェラは、垂れる雫そのままに凍て付くような視線を向けている。

「……臭い」

 しかも掛けられた水は、ただの水ではなかったようだ。

 鼻につく嫌な臭いを発している。

 傍に居るだけでも微かに漂ってくる臭いに、アーラとグラストスは顔を顰めた。

 もはやヴェラの視線は羽虫が、殺せる程の強烈なモノとなっている。


 そんな威嚇に全く気付いていないエレーナは、今度はグラストスに向き直る。

 瓶片手に近づいてくるエレーナに、グラストスは「お、俺はいい」と首を振るが、エレーナには聞き入れられず傷口を処置された。

 服の襟口を大きく切り裂かれ、ヴェラと同じく臭い醸すことになったグラストスは、力なくエレーナに礼を言った。

 その後グラストスは臭いを身に纏ったまま、先程手放した剣の行方を捜すが、人ごみに紛れて見つけられなかった。仕方なく腰に佩いていた剣を手に取る。


「何なのだそれは?」

 二人から気持ち距離を取るようにしながら、アーラはエレーナの持つ瓶を指差した。

「これですかぁ? 虫除けですぅ」

「虫除け?」

「はあい。どうやら蝙蝠さんにも効くみたいなのでぇ」

「む?」

 確かにエレーナからはヴェラやグラストスと同じ臭いが微かにする。

 改めて全身を見てみるが、エレーナは土埃で汚れている以外、目立つ外傷はなかった。

 アーラ達を含めた周囲の人間を見回してみても、無傷の人間はいない。

 そのことから考えてみても、まるっきり出鱈目な話という訳でもなさそうだ。


「虫除けの薬が効くなんて……そんな話は聞いたことがありませんけど?」

「ワタシが作った薬なのです」

 不思議がるリシャールに、エレーナは自慢げに胸を張って答える。

「作ったとは……エレーナ師よ。貴女は薬学士か?」

「ほえ? やくがくし? よく分かりませんけど、薬草についての研究をしているのです」

「なるほど」

 まるで子供のような言動のエレーナだが、これでも『学校』の教師であることをアーラは今更ながら思い出していた。

 ふと或ることが頭に浮かぶ。

「エレーナ師、貴女は…………ん? 待て。この魔物に効く、だと?」

「そうですよぉ」 

「ならばその薬を使えば、この場を凌げるのではないか?」


「ほえぇ?」

「お前はどう思う?」

 本当に魔物が臭いを嫌がっているのであれば、この場の全員に薬を振り掛けるとどうなるか。

 誰も襲えなくなり、いずれは去っていくのでは。アーラはそう考えたのである。

 ヴェラは肯定こそしなかったが「状況が変わる可能性はあります」とは答えた。アーラの思い付きを否定する材料はなかったのだろう。ただヴェラは悪い方向に転じる可能性もあるとも内心考えていたが。


 そんな内面は知らずにも、アーラはヴェラに否定されなかったことで、自分の考えに自信を持ったようだ。

「ふむ。やはりそうか! エレーナ師よ! その薬を皆に振りかけて廻るのだ!」

「でもぉ、あとちょっとしかありませぇん」

「何ぃ! ちょっととはどれ位なのだ?」

 エレーナは瓶を振りながら、指折り数える。

「え~とぉ……四回分くらいでしょうかぁ?」

「ぬぅ、他には持ってないのか?」

「持ってないですぅ……あ、でもぉ」

「何だ!?」

 思わず身を乗り出したアーラがエレーナを問い詰める前に、リシャールが何かに気付いたように口を開いた。

「あ、マリッタさん」

「ぬ!?」

 アーラは返答の続きを訊くか迷いながらも、一旦エレーナから視線を切り、いつの間にか近づいて来ていたマリッタに向き直った。

 小さく手を挙げながら、マリッタが少しホッとしたような表情をアーラに向ける。

「無事でしたか、お嬢さん」

「マリッタこそ、苦労をかけるな」

 アーラは労うように、マリッタの腕を軽く叩いた。


 マリッタが戻ってきたことに気付いたのか、オレリア達も近づいてくる。

「マリッタ! 大丈夫だった!? 怪我はない!?」

「無事だったかい!? あんなに魔物に囲まれて……」

「マリッタさん……」

 三人とも疲労の色は隠せないが、それでもマリッタを気遣っている。

「……ええ、まだ大丈夫よ」

 マリッタは言葉少なげにそう答えるのみだった。

 ただ三人を見る目は、どこか柔らかい。


 そして照れ臭そうに顔を背けたマリッタは、グラストス達の姿を捉えた。

「なんだ。アンタらも来てたの」

「この状況下で役に立てるか分からないが、一応な」

 グラストスが応える。

 特にそれ以上マリッタは何も言わなかったが、少しホッとしたようにマリッタの表情が和らいでいた。アーラを護る役割を分担できることに安心したのだろう。

「…………」

 そんなマリッタの様子をオレリア達は静かに見つめていた。


「で、どうしたのだマリッタ?」

「いや教師達も復帰しましたし、流石に疲れたので休憩をかねてこっちの状況を確認しようと……お嬢さんはこんな所で固まって何を話してたんです?」

「ああそれは……っとそうだ! エレーナ師、話の続きだ!」

 アーラは大事を思い出したように、エレーナを見つめた。

「?? ええぇと、ワタシの好きなお菓子の話でしたっけぇ?」

「何の話だ!? 違う! 薬の話だ!! 奴等に効く薬だ!」

「……………………ああ! そうでしたぁ。えっとですねぇ。薬は研究室に作り置きしているのが沢山ありますよぉ。樽にいっぱいです」

「研究室? 校舎の中か!?」

「そうですぅ」

 アーラは校舎の方に目を向ける。

 一同へ向き直った時には瞳に決意が宿っていた。鼻息荒く主張する。

「ならば、急いでそこに向かうぞ!」

「危険すぎます。お嬢様」

 今、魔物は校庭に集っているが、校舎の中に残って居ないとは限らない。もし中で襲われた場合、密閉空間での"鳴き声"は校庭で受ける影響の比ではない。

 ヴェラが危険性を説くが、

「しかし行かねばならぬ!」

 アーラは頑として聞き入れない。

 だがここはヴェラとしても素直に認める訳にはいかない。言葉を弄して引止めに掛かる。

 二人の押し問答が続く中、事情を知らないマリッタは怪訝そうに尋ねた。

「話が見えませんが……?」

 割り込んだ声に反応してマリッタを見たアーラは、ハッとしたように目を見開く。

「そうだマリッタ! ならばマリッタに頼む。それなら良いであろう?」

「はい」

 ヴェラは主張を一転して、躊躇うことなく同意した。

 マリッタの事を案じていないということではなく、マリッタなら無事に役目を成し遂げられると信じているのだろう。


「はぁ?」

 ただ当の本人は益々意味が分からず、眉を顰める。

「今すぐエレーナ師に同行して、薬を確保して来てくるのだ!」

「?」

 と言われても、当然それだけは意味は分からない。

 興奮している為か、マリッタの様子に気付かないアーラは「頼むぞ」とだけ繰り返す。

 益々困惑を深めるマリッタに、ヴェラが事情を説明した。


「話は分かりましたけど……」

 "めんどくさい"。そう続けたそうなマリッタの表情である。

 だが今は数かな希望にも縋るしかない。マリッタもそれは分かっているのか、嫌、とは言わない。はっきり"無駄"と言わない所からすると、マリッタも可能性が全くないとは思っていないのだろう。


「ならば急げ! 時間が無い」

 夜の訪れが少しずつ近づいてきている。

 そうなれば視界が閉ざされる上に、相手は本来夜行性だ。抵抗は更に難しいものになるだろう。それまでに打開策を見出さなくてはならない。

 マリッタは渋々、といった表情で頷く。

「はぁ……分かりました。じゃあ先生、案内して」

「はぁい、付いて来てくださぁい……ああ、その前に。マリッタさんしゃがんでくれませんかぁ?」

 エレーナは腰を屈ませたマリッタに対して、先程と同様に瓶の中身を降りかけた。

「ちょっ何!? うわっ、くさっ!」

 自分から醸されている臭いを嗅いで、マリッタは思いっきり顔を歪めた。

「我慢するのだ。サルバ、お前も手伝ってやってくれ。運び手が必要になるかもしれん」

「わがりましだぁ! お姫様の頼みなら!」

「えぇっ!?」

 満面の笑みで応えるサルバに対して、マリッタは心底嫌そうに叫ぶ。

 だが運び手が必要なのも事実だった。マリッタもこのような状況下で重い荷物を持ちたいとは思わない。諦めたような表情で、マリッタはガクッと項垂れた。

 エレーナはサルバにも薬を降りかけた後で、アーラ達に向き直った。


「では、いってきまぁす」

「中はここ以上に危険かもしれん。十分気を付けてな」

「まがせで下せぇ!」

「はい……」

 アーラに心配されはりきるサルバとは対象的に、マリッタは疲れたように返事をする。

 そんなマリッタの前にオレリアが進み出る。その背後ではカリーヌとヴェルナルドも不安そうに見つめていた。

「マリッタ。エレーナちゃんも。二人とも気を付けてね」

「……そっちもね」

 マリッタは目を細めて頷く。

「ありがとうございますぅ。でも、先生を『ちゃん』付けしたら駄目ですぅ」

 そうして、マリッタ、サルバはエレーナに従い、校舎に向かって走り出した。


 走り出して直ぐ、集団の元に戻って来ていたエルネスタとすれ違う。

 怪訝そうに大男(サルバ)を見ていたエルネスタだったが、その隣を走るマリッタの姿を見つけ、驚きの表情で声をかけてきた。

「ん? あ、貴女! こんな時にどちらへ!?」

「ああ、煩いのが……ちょっと野暮用よ」

 マリッタは、構うな、と言わんばかりに、しっしっと手を振る。

 まるで犬に対してのような扱いに、エルネスタは瞬時に不快そうな表情で覆われる。何か不満を言おうとして――――

「一緒に行きますかぁ?」

 その前にエレーナがのほほんと問いかけた。

 エルネスタは間髪入れずに返答する。

「もちろんです。こんな時に戦線を離れて何処に行こうとしているのか、興味があります」

「来なくていいって」

「貴女の指図は受けません!」

「じゃあ、仲良くいきましょーー」

 仲違いする二人を尻目に、エレーナはそう呼びかけると再び校舎に向かっていった。ドタドタとサルバがその後に続く。

 睨み合っていた二人だったが、置いていかれるわけにはいかない。互いへの視線を切ると、同時に後を追って走り出した。


遅くなり申し訳ありません。

とりあえず5章は後4・5話で終わる予定です。

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