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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
116/121

111: 合流

 

 圧力は徐々に増していく。

 洞窟に居た生徒達、教師達の加入で一時は盛り返したが、やはり物量が絶対的に違う。次第に押され始めていた。


 このような消耗戦では脱落者を出さない事。戦力を減らさない事が何より重要だとアーラは考えている。そうするには如何すれば良いか。正解と言える程の確信はなかったが、自分でも意識しないままに、呼びかけが口を吐いて出る。

 声量のあるアーラの叫びは、戦場に響く騒音の中にあって辛うじて周囲に届き、生徒のみならず教師達までもが、その指示に縋るように従い始めていた。

 アーラの指示が至極明快なものだったことも大きいだろう。

 指示は単純。周囲の人間達の傍から離れないようにして戦え。

 ただそれのみだった。

 この戦いを生き残る為には、各人が孤立しないように一丸となり、その陣形を崩さない。それが重要だと考えたのである。


 激流に晒された時、幅広いが薄い堤防より、地に根付いた岩石の方が持ちこたえ易い。

 今の状況は正にそのような状態であった。

 ただそれも時間の問題だというのは、この場の誰もが分かっていた。

 なのでその時を迎える事を少しでも先延ばしにする為に、誰もが手を休めなかった。


 アーラも自分で満足に魔法が使えぬ分、一層声を張って指示を送り続けていた。

 分断されそうな生徒が居れば、その周囲の生徒達に注意を呼びかける。火力が下がった一団が居れば教師達にそちらへの援護を頼む。

 アーラ自身は気付いていなかったが、素早く的確な指示は確実に一団の力となっていた。

 ある種、今この時点ではアーラがこの一団の中心的存在であると言っても過言ではない。

 皆、応戦に必死で冷静に考える暇もないこともあり、その事に気付いている者は殆ど居なかったが。


 突如戦線を離れていた巨大なウォーバットが、再び一団の前に姿を見せる。

 ”咆哮”と共に速度を上げ、一団からの魔法の雨を容易く掻い潜っていく。


 大物の極端な接近に気付いた者達は、嫌がおうにも鼓動が速まった。

 だが彼らの動揺とは裏腹に、ウォーバットは何をするでもなくただ一直線に進む。周囲に居る人間など、まるで取るに足らない存在だと思っているかのように。

 そして、アーラの直ぐ目の前に悠然と降り立った。

 反射的にアーラの近くに居た生徒達は後退し、図らずもウォーバットが行動をしやすい状況を作り出してしまった。魔法を放つのも忘れ、ただ呆然と巨大な体躯を眺める。

「ア、アーラ様!?」

 リシャールの口から驚愕が紡がれた。


 アーラもまた、突然自分の目の前に現れたウォーバットに動揺し、動けないでいた。

 我に返ったのは、相手が顎を大きく開いた時だった。

「ま、拙い! 皆、私から離れろっ!」

 鋭利な牙を覗かせると、そのままその奥から”咆哮”が放たれる。

 これまでで最も強力なそれは、一団を不可避の衝撃で貫いた。


 残念ながら呼びかけ虚しく、反応出来た生徒は居なかった。

 アーラもろとも至近距離で”咆哮”の直撃を受け、その衝撃の影響でその場に倒れ込む。

 ”咆哮”は放射状に拡散し、その範囲に居た生徒達は皆被害を受けていた。


 唯一、アーラの傍で戦っていたリシャールだけは、呼びかけを受けて直ぐに身を伏せ、耳を覆ったお陰で気絶は免れていた。とはいえ、そうして尚影響は軽微ではない。立ち上がる事もままならない。

 それ以外で巻き込まれた者達は、誰一人起き上がれないでいた。

 中にはオレリア達の姿もある。ぐったりと倒れたまま動かない。完全に意識を失っているようだ。

 不幸中の幸いは、この時アーラの位置は一団の中心より少し外れており、”咆哮”は外側に向けて放たれていた事である。影響を受けなかった者の方が多数を占めていた。

 とはいえ、確実に数は減らされてしまった事も事実であった。

 そんな惨状の中、巨大なウォーバットはゆっくりと倒れたアーラに近づいていく。


「ぐ……か、身体が……」

 最も近くで直撃を受けたアーラは、辛うじて意識を失っていなかった。

 距離が近すぎた事が、かえって良かったのかもしれない。

 或いは幼い頃よりサルバやその父イゴーリの大声に接しており、普通の人よりは”声”というものに対しての耐性が出来ていたという可能性もある。

 だが、それだけだった。身体は動かず、気を持っていなければ意識が直ぐに飛びそうになる。

 そんな蓑虫のような状態で、近づいてくる魔物を睨み続けていた。

 

 魔物はアーラの目の前まで移動すると、ゆっくりと口を開く。抵抗の出来ないアーラを無機質な瞳で捉えながら、顎を寄せていく。

 鋭利な牙の先から唾液が滴り落ちる。


「ア、アーラ様、に、逃げて下さい!」

 必死にリシャールが呼びかける。何度も立とうとするが、足に力が入らず何度もその場で尻餅をつく。

 ”咆哮”の影響から逃れた者達の助けも期待は出来ない。

 彼らは彼らで、ポッカリと開いた一団の穴を塞ぐのに必死だった。隙を狙ったかのように、大群が怒涛の勢いで迫って来ていたからである。

 

「アーラ様、に、逃げて下さい!」

「無理だ……う、動けぬ」

「そんな……!?」

 必死に周囲を見回すリシャールの視界に、遠くマリッタの姿が映った。

 あちらはあちらで大群の勢いを殺そうと奮闘していた。こちらの状況にも気付いていないようだ。

 リシャールにしても、マリッタの所まで届くような大声は今は出せそうに無かった。

「だ、誰か、アーラ様を!」

 出せる限りの大声を出して呼びかけるが、虚しい程に反応は返ってこない。

  

「ぐっ!」

 魔物は尖った前足の爪で、アーラの身体を押さえ込む。その握力は非常に強く、アーラの身体に爪が深く食い込んでいる。

 アーラは出せる力を振り絞り、振り払おうとするが魔物は微動だにしない。抵抗らしい抵抗も出来ないまま、その白い首筋へと牙を立てられ――――辛うじてウォーバットの顔を押し止めることに成功する。 


 だが痛む肩に耐えながらという状態に加え、体勢も悪い。

 直ぐに押されていく。首筋をヒタヒタと牙の先が触れる。

「く、あ」

 限界まで必死に耐えていた腕は、やがて限界を迎えた。

 魔物の牙がアーラの柔肌をいとも容易く貫き、首筋に侵入する。

 と、ほぼ同時だった。


「させるがあああああああああああああああああああっ!」


 突然大男――――サルバが集団の中に乱入し、魔物に向かって大斧を振り回した。

 魔物は自分の身体に斧の刃が触れる前に、素早く飛び下がる。

 が、サルバが追い払ったと思った直後に、再び魔物は襲いかかった。今度はアーラではなくサルバの方へ。

 追い払えた、と思い脱力してしまっていた為、サルバは反応が遅れる。

「だから一人で行くなって言っただろうが!」

 サルバの背後から現れた、もう一人。グラストスが剣を魔物に向かって突き出した。

 これで仕留めようという意志は見られない。単に魔物への牽制だろう。

 その思惑は成功し、魔物は後ろに飛び下がった。


 二人の男は後ろ背にアーラを庇うようにして、魔物と対峙する。

 そして、更にもう一人。現われたオーベールがアーラの傍に寄り添い、剣を抜く。

 両者の間に緊張が走る。ただ、よりそれを感じていたのは男達の方だろう。

 そのまま対峙を続けたが、魔物は急に増えた異質な敵に警戒したのか、空に浮かびこの場を離れていった。


 それを最後まで見届けることなく、サルバは慌てて振り返る。

「お、お姫さまおうあっ!!」

 アーラに縋りつこうとするが、アーラの手を握り締める前に、背後から現れたヴェラに突き飛ばされた。

 その細腕の何処にそれ程の力があったのか。サルバは地面をゴロゴロと転がった。そして、”咆哮”の影響からようやく脱し、震える足で立ち上がろうとしていた少年(リシャール)を巻き込んで、二人揃って地面に倒れ付す。


「お嬢様、ご無事ですか?」

 アーラの首筋からは一筋の血が流れ出していた。ヴェラは急いで傷を改めるが、さほど深い傷ではなさそうだった。

「来て、くれたのか…………。すまぬ。だが、私は……大丈夫だ」

「そう……ですか」

 痛みに顔を歪めてはいるものの、アーラの声に力があるのを感じたのだろう。緊張していたヴェラの表情が微かに緩む。


「良かった。アーラさん」

「オーベール殿も来てくれたのか」

「はい。当然です」

 微笑むオーベールの表情は明るい。校庭の惨状を見て以来、つい先程まで青ざめていた顔も、今は喜びに包まれている。

アーラも自然と表情を綻ばせた。


 少女が無事な様子を見て、思わず目を細めていたグラストスだったが、直ぐに表情を引き締めた。

「……だが安心ばかりしてもいられない。アーラ嬢、立てるか?」

「グラストス……うむ、心配、ない」

 ヴェラの手を借りるようにして、アーラは立ち上がった。

 微かに足が震えていたが、徐々にそれも収まっていく。

 胸の内に僅かにあった不安も、今はない。仲間が傍に居る事の心強さを、アーラは改めて感じていた。


「状況は……訊くまでもないか」

 グラストスは周囲を見回し……呆れたように笑った。

「あれは……マリッタか? 流石に全開だな。って、リシャールはどこだ?」

 辺りに倒れる人間を見やっていき、

「は、早くどいてよ!」

「お前ばっかりズルイぞぅ! お姫様とずっと一緒に!」

「そ、それは仕方ないでしょ! サルバは魔法が使えないんだから」

「ちぎしょう! 俺にはわがっでんだがらな!」

「何をさ!」

 縺れ合ったまま、なにやら下らない言い合いをしている二人を見つけて、直ぐに視線を戻した。

 

「この物量差では苦しいな」

 まだ先程の”咆哮”の影響が抜けず、立ち上がれずに居る生徒達は多い。アーラの傍を離れ、そういった者達への介抱を行い始めたオーベールを遠目に眺めてから、グラストスは前方に広がる大群へと焦点を移した。

「一体これはどういうことだ? 何でこんな大量の魔物に襲われてるんだ?」

「切欠は私も分からん。何せ突然の事だったのだ」

 グラストスの問いに、アーラは首を振る。

「だがそれでも何とかせねばならん。私はまだこんな所で死ぬ予定はない……ヴェラ」

「はい?」

「如何すればよい?」

「……急に言われましても」

 いつもの平静さを取り戻したヴェラは、困惑したように眉を顰める。

「しかし、何かしら思うところはある筈だ」

「またそんな無茶な振りを……」

 ともかくアーラと合流することを最優先に行動していたので、合流した四人はこの場の事について、見て分かる以上の情報は持っていない。

 グラストスはアーラの断言に苦笑する。

「はぁ。数点ですが」

「あるのか……」

 驚くより疲れたようなグラストスとは対照的に、アーラは当然だとばかりに頷く。そのヴェラの思い付きを問い質そうとした時。

 一団の一角から悲鳴が上がった。

 急に勢いを増した魔物に押され、瓦解しそうになっていたのである。見るとあの巨大なウォーバットが猛威を振るっていた。


「っ! ともかく、その話の披露はあれを何とかしてからだな!」

 グラストスは剣を構える。

 手に持っているのは『ジェニファー』。その腰にはもう一本別の剣が下がっている。

 この剣はここに来る途中で落ちていたのを拾った。『魔法剣』に利用できそうだ思い、と回収したのである。グラストスは知る筈もなかったが、門衛の一人が落としていた剣だった。


「うむ! ヴェラ! 私の(エリザベス)は!?」

「ご、ごごです! お姫様ぁ!」

 リシャールと口汚く罵り合っていたサルバだったが、アーラの言葉を耳に入れるなり、口論していた相手をほっぽり出してアーラの目の前に参上した。

 背中に担いでいた剣を抜き取ると、その内の一本をアーラに差し出した。

 アーラは扱いなれたそれを頼もしそうに握り締めると、鞘から抜き高らかに吼えた。

 ”学校”は原則武器の持ち込みは禁止だが、こんな状況ではそれを咎める者はいない。


 言い合いをしている間に調子を取り戻したリシャールも、物欲しそうにサルバに問いかける。

「ぼ、僕のは?」

「あん? ああ、ごれか?」

 そう言うと、サルバは手に残ったもう一本の剣をリシャールに放る。

 運悪く空中で鞘から抜け、剣先がリシャールを襲った。反射的に身を捻るようにしてそれを躱す。正に皮一枚、鼻先を掠めながら、前の地面に突き刺さった。

「うわわっ! な、な、何するんだよっ! 危ないだろ!」

「がはは。わりぃ、わりぃ」

 あっけらかんと笑うサルバを、ひとしきり睨みつけながらも、リシャールは地面に刺さった愛剣を拾った。地面に落ちた鞘を腰に括り付け、ようやく落ち着いたような吐息を漏らす。


「では行くぞ!」

 アーラの号令によって、グラストス達の表情が引き締まる。リシャールだけは直ぐに我に返り、不安そうにしていたが。

 それぞれ得物を握り締め、誰とは無く大群に向かって走り始めた。


「お待ち下さい」

 が、アーラだけはヴェラに阻止される。

 正に走り出そうと足を上げた際に、服の裾を引っ張られた為、アーラは耐えることも出来ずに地面に尻餅を付いた。

 その間にもグラストス達は巨大なウォーバットに向かっていく。

 打ち付けた尻を気にしながらも、一人置いていかれたアーラは直ぐに起き上がった。苛立った表情で振り返る。

「ぐっ! 何だ!? 出鼻を挫きおって!」

「……そんなもので一体どうなさるおつもりでしょうか?」

「無論、奴を倒すのだ! あのデカイのは早めに何とかしなくてはならん」

 アーラは迷い無く言い切った。

 対して、ヴェラも淀みなく言い切る。

「お嬢様の腕では、かえって皆様の邪魔になります」

「ぐっ……そ、そうかもしれないが……!」

「剣を振るうだけが戦いではありません。お嬢様に出来ることを為さいませ」


 ヴェラの言葉に、アーラは悔しそうに呻く。

 言い分の正しさは認めるが、アーラとしてはここまで役に立ってこなかった分を、剣がある今こそ取り戻したいと思っていた。

 僅かの逡巡の後。

「私の腕が未熟である事は重々承知しているが、それでも何かの役には立つ筈だ!」

 アーラはそう言い残すと、ヴェラの制止を振り切り、巨大なウォーバットへ向かって行った。

 苦々しい表情でその後ろ姿を見つめていたヴェラは小さく溜息を吐くと、その後を追った。



***



 奮闘していたマリッタとエルネスタだったが、最初の勢いもいずこへか。魔物の大群によって、徐々に押し込められていた。

 魔物が強くなった訳ではない。

 マリッタ達の方が衰え始めているのだ。


 援護もなくば、休憩する暇もなく、二人だけで戦い続けるのは幾ら魔法に堪能な二人でも厳しかった。

 最初こそ頻繁に交わされていた軽口も、今は両者の口から消えている。ただ黙々と作業のように魔法を放つだけだった。その間隔も少しずつ開いてきている。

 そうして二人は知らずの内に後退し、校舎の方へと追いやられていた。


「……何ですか? あれは」

 何かに気付いたエルネスタが呟く。

 『送信(センド)』を通さなかったのでマリッタには聴こえなかったが、直ぐにマリッタも自分でそれに気付いた。

 二人の視線の少し先。一部の地面がこんもりと隆起している。

 その周囲を覆うように『ウォーバット』がびっしりと張り付いていた。


 魔物の奇怪な行動を見て、エルネスタは警戒するように首を捻る。

「……何でしょう?」

「『旋風(ウィールウィンド)』!」

 そんなエルネスタの疑問を嘲笑うかのように、マリッタは魔法で取り付いた魔物を一掃した。

「なっ!?」

 エルネスタは考え無しに映ったマリッタの行動に驚愕する。


 だがそれも直ぐに収まった。

 魔物が取り払われ、露になった地面は、恐らく土魔法(ソルム)によって隆起されたものであろうことが分かったからである。

 二人は直ぐに”洞窟”を想起した。

 

「……中に誰かいらっしゃいますの? 無事ならお出でになりなさい。今は一人でも多くの人手が必要です。返事は無用です。今私は返事を聴ける状態ではありませんから」

 エルネスタは一方的に呼びかける。

 今『受信(レシーブ)』を解く訳にはいかないので、そう言う他なかったのだ。


 ただ呼びかけ虚しく、誰も出てくる気配は無かった。

 外に出たくないのか、はたまた出てこられるような状態ではないのか。

 何れにせよ『ウォーバット』に場所が知られている以上、中に居るのは危険である。

 それを悟った二人は、大群への攻撃の合間を縫うようにして、交互に盛り上がった地面へと魔法を放った。


 どうやら『硬化(ハーデン)』は使われていなかったようだ。二人の魔法によって、あっさりと隆起した地面の天上が崩れる。

 しかし、想像と反して中には誰の姿もなかった。

 ただその代り、ぽっかりと”穴”が開いていた。

 どこまで続いているのか。地中を少し潜った場所から横に伸びている。まるで巨大な土竜が掘り進めた穴のようだ。


 理解の及ばない状況に困惑しながら、二人は穴の続いていると思われる方を眺めていく。すると穴から大分離れた地点の地面が盛り上がり始めているのに気付いた。

 それはどんどん膨らんでいき――――やがて蕾が花開くように、地面がパッカリと開いた。

 そして、裂けた地面の中から何かが飛び出してくる。


「っ!?」

「何です!?」

 思わず身構えた二人だったが、直ぐに杞憂であること悟った。

 飛び出してきたのは、教師達だったからだ。


 恐らく分断されたという教師達だろうと、マリッタは思い至った。

 魔物に追いやられ、緊急避難で逃げ込んでいたのだろう。

 出てきた教師達は十名以上居り、全員無事そうである。


 教師達は近くにいるマリッタ達に気付くと、二人の元に走り寄ってくる。

 ただ二人が大群を相手にしている事を悟ったのか、その場で立ち止まった。

 何かを協議すると二手に分かれ、その一方が再び近づいてくる。

 もう一方は、生徒達の一団の方へ向かって走っていった。


「君達! 大丈夫か!?」

「今、そちらに向かう!」

 教師達の呼びかけが二人の耳に届く。

 ということは教師達は『送信』で呼びかけている、ということに他ならない。

 加えて『送信』で呼びかけるということは、二人が『受信』を使っていることを察したという事だ。

 どうやら風の属性の教師達らしい。

 こちらに近づく教師達は、大群の”鳴き声”を前にしても、影響を受けているように見えない。

 『受信』を使用して、遮断しているに違いなかった。

 これなら戦力としては十二分に期待できる。二人の口からは思わず安堵の吐息が漏れた。


 しかし、辿り着いた教師達は二人を確認し――――一方がマリッタだと知ると眼を大きく見開いた。

 数名、マリッタの事を知る教師が居たようだ。

 それらの教師は何か言いたそうにしていたが、

「今はそれどころではありませんでしょう?」

 というエルネスタの一言により、その通りだと思い直したのだろう。

 特に何も言う事なく魔物に向かって攻撃を始めた。

 そこは教師だけあって、使う魔法の威力も二人に劣らない。みるみる内に押し返していく。


 自分を知る教師達と肩を並べることに気まずさは感じたものの、とは言えこれで――――

「休める……」 

 マリッタはようやく休息の機会を得たことを悟り、もう一度安堵するのだった。


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