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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
115/121

110: 避難者

 

「あぁん。何だぁ?」

 能天気な声に、馬車内に居たグラストスとオーベールが反応する。

 サルバが真っ直ぐ前方を眺めているのを見て、二人もそちらに視線をやった。

「……避難者のようですね」

 サルバと同じものを視界に収めていた御者のヴェラが、荷馬車の速度を落としながら推察を述べる。


 見ると進行先の方向から歩いて来ている人の行列があった。

 二百人は優に超えるだろうその人々は、ギルド員の法衣と似通った服装をしている。歳もグラストス達と同年代程で若い大勢の集団とくれば、考えられるのは学校の生徒しかありえなかった。

 恐らく魔物に襲われた学校から逃げてきたのだと思われた。


「そのようです。中の状況が分かるかもしれません。どなたかに話を伺ってみましょう」

 ヴェラに同意すると、オーベールはそのように提案した。

 誰も異論は挙げなかった。再びヴェラは手綱を引き、人の歩行速度と同程度まで馬車の速度が落ちる。

 速度が安定するのを待って、オーベールは御者台に移った。

 ヴェラと位置を入れ替えるようにして、人の列側に座る。その背後にサルバが中腰で立ち、ヴェラの背後にグラストスが立った。


「……ふんっ」

 一人馬を操るジョルジュは、馬車を挟んで列の反対側へ廻った。

 ただそれは生徒達に道を譲った訳でも、オーベールが質問しやすいように移動したという理由でもなさそうだ。

 何か不愉快そうな顔で、生徒の列を見据えている。


 生徒達の方でも、前から来る荷馬車の事は気付いていたらしい。

 こちらが尋ねに行くまでもなく、ある程度距離が縮まると、先頭を歩いていた数名の女子生徒達が小走りに近寄ってきた。

 それを見たヴェラは素早く馬車を操った。

 荷馬車が完全に停止するのを待たずに、女生徒達は興奮した表情で話しかけてくる。

「あっち行っちゃ駄目だよ!」

「凄っごい数の蝙蝠に襲われてんの」

「違うって。蝙蝠じゃなくて魔物だって」

「私らはみんな逃げてきたんだ」


 各自が矢次に話し始めたので内容を聞き取るのは大変だったが、彼女達はこの先に魔物が居ることを教えてくれようとしている事だけは分かった。

「高い所からで申し訳ありません。念の為に確認したいのですが、皆さんは『学校』の生徒さん……で間違いないでしょうか?」

 着ている法衣からもそれは明らかだったが、律儀にオーベールが確認する。

 女生徒達は「そうだよ」と綺麗に唱和した後で、何故かピタリと固まった。信じられないものを見た、というような目でオーベールを凝視する。

「な、何か?」

 女生徒達の突然の変貌に、オーベールは気圧されたように腰を引く。

 そのまま僅かばかりの無言の時が過ぎてから、女生徒達は一斉に火が付いたように喋り始めた。

 皆、瞳が爛々と輝いている。興奮していて要領は得ないが、こちらの力になってくれようとしている事は何となく伝わる。


 そうこうしている間に、少女達の後ろを歩いていた生徒達も続々と馬車に近づいてきていた。

 皆、馬車の横を通り過ぎようとして、何事かと立ち止まっている。

「す、すみません皆さん。学校の中がどんな様子だったか、ご存知でしたら教えて頂けませんか?」

 女生徒達の嬌声を遮るように、オーベールは珍しく大きな声で質問を被せた。

 少女達は一瞬だけ押し黙る。が、再び我先にと話し始めた。少しでもオーベールの目に良く映りたいと思っているのか、互いに貶し合いながら早口で説明する。

 もはや苦笑いするしか無いのか、オーベールは力ない微笑みを浮かべるだけだった。


 結局、女生徒達の話で分かった事は”魔物は蝙蝠に似ている”という事。”学校を出た時は数百匹位だった”という事。”半数以上の生徒達はまだ学校で戦っている”という事だった。

 ただ先程、北の空から大量の魔物が侵入している様を目撃している。

 その数が数百という事はありえないので、今の学校内は彼女達が居た頃とはまるで違う状況だろう。となると、女生徒達の情報の鮮度は大分古い可能性はある。

 無意識にオーベールの表情は少し翳った。

 仕方なくオーベールはアーラの特徴を伝え、その動向を知らないか尋ねたが、女生徒達から求める答えは返ってこなかった。

 また、周囲にいる他の生徒達にも呼びかけてみたが、結果は同じだった。


「これ以上聞いても、大した情報は得られそうにないな」

 グラストスが苦々しい顔で小さく呟く。

 その意見に同意だったのか、ヴェラは静かにオーベールを見つめた。感情の読み取り難い瞳の中に、"早くお嬢様の元に向かいましょう"という苛立ちを感じた気がして、オーベールは「そうですね」と小さく頷いた。

「お姫様のとごへ行くぞぉ!」

 痺れを切らしたサルバも騒ぎ出し、一行は女生徒達に別れを告げて再び街道を進むことにした。


 女生徒達は最後まで必死に危険を訴えていたが、

「心配して頂いて有難うございます。ですが、知人が学校に居ますので」

 オーベールの優しい声の中に決意を感じたのか、それ以上止める術をもたないようだった。

「危険ですから、皆さんはもっと遠くへ逃げて下さい」

 オーベールは女生徒を含む、周囲の生徒達全員に呼びかける。

 そうして、女生徒達の後ろ髪引かれるような眼差しを幾重にも向けられながら、一行はこの場を後にした。



+++



 生徒達の列を抜き去ってから少しした所で、グラストス達は荷馬車を止めた。

 他の三人をその場に下ろし、グラストスは街道から外れ、膝丈程の草が茂っている草原にぽつりと立っていた樹の根元に馬を誘導した。

 街道から見て樹で隠れるように荷馬車を配置すると、次に馬達を解き放った。

 放たれた二頭の馬達は逃げるでもなく、解放感に浸るように、荷馬車の辺りでのんびりと寛いでいる。

「危なくなったら逃げるんだぞ」

 グラストスは馬達にそう声を掛けながら首筋を撫でると、「お前も気を付けてな」とでも言うように、馬達は二度三度尻尾を左右に振った。

 それに目を綻ばせると、グラストスは再び街道に向かった。


 三人に近づいていくと、何やら少し揉めている。

 サルバが何か訳の分からない事を言い出したのだろう、と思ったグラストスだったが、近づくにつれそれが誤解だと分かった。

 意外にも揉めているのはオーベールとヴェラの方だった。

「どうした?」

「オーベールをこごに置いでいぐって、ヴェラさんが」

 サルバにしては珍しく明快な回答に驚きながらも、グラストスは二人に視線を移す。


「ご心配して頂いているのは重々承知していますが、でも僕は行きますよ」

「危険すぎます」

「僕の家の事でしたら気にしなくても構いません。例え何があっても皆さんが責任を取られることはありませんから」

「しかし……」

 歯切れの悪いヴェラに対して、穏やかな表情でいながら、一歩も考えを曲げる気は無いという姿勢のオーベール。

 グラストスは二人の様子を見て、短く嘆息する。

「来る、というからには自分の身は自分で護れるんだろうな? あの数だ。俺達も人に手を貸す余裕はないぞ」


 オーベールは身体をグラストスに向ける。

「はい。僕の事は気にしないで下さい」

 周りを気遣って言っているのは分かっていたが、グラストスは少し苛立った表情を浮かべる。

「そうは言っても、もしお前の身になにかあったら、立場的にヴェラは問題にされるだろ。もし一緒に行こうと言うなら、ヴェラの心配が杞憂に終わる事に全力を尽くすんだ」

「それはもちろん……」

「なら"気にしないで下さい"なんて下らない事を言うなよ。気にするに決まっているだろう。お前が自分の事をどう思っていようと、お前は侯爵の一人息子に違いはないんだから」

「…………そう、ですが」

「お前に何かあったら残された俺達全員が問題視される。お前とアーラの家との関係も、今通りという訳にもいかないかもしれない。悲しむ人も大勢居る。唯一の跡継ぎをなくした領地の今後も未来が曇る。それでもお前は一緒に行くって言うのか?」

 嫌らしい言い方だったが、その裏にある思いは届いたのだろう。

 オーベールは真摯にグラストスの言葉を受け止めて、そして、迷いの無い目で言った。


「それでも……それでも、僕はアーラさんを助けに行きたいと思います。とは言っても、僕が行っても何の役にも立てない可能性の方が大きい事は分かっています。ですが、それでも何もせずに一人安全な場所から、危険な場所へ向かう皆さんの無事を願う、何てことは僕には出来ません」

 穏やかだが、そこにははっきりとした意志があった。

 グラストスは一度溜息を吐いたが、それは悪感情が発したものではなかった。

 むしろ困ったような喜ばしそうな笑みを浮かべる。

 ヴェラへ向き直ったグラストスは、オーベールの決意を認めようというような事を言おうとしたが、


「分かりました。そこまで仰られるのでしたら、私がこれ以上申し上げることはありません」

 その前にヴェラはあっさりとそう言った。

 もういつもの無表情に戻っており、考えていることはまるで読めない。

 オーベールも申し訳無さそうに微笑む。


 ともかく話は纏まったと判断し、グラストスが早速行動を再開しようとした時、後方から声が上がった。

「なぁ。置いでって、ほんとに大丈夫がぁ?」

 どうやら盗まれる事を心配しているらしいサルバに、表情を変えずにヴェラが返答する。

「問題ありません。連れて行く方が危険でしょう」


 あの馬達はベッケラート家でも特に賢い馬達だった。なので逃げ去る心配は低いが、確かに街道を通った人が連れて行かないとも限らない。

 だがそれも普段の状況ならの話だ。

 今、学校前の街道を通ろうとするのは、学校から逃げる者達か、自分達位のものである。それ以外の人間は、遠目に見える魔物の姿に恐れを為して、近づこうとはしない筈だ。

 なので今考えるべきは馬が連れ去られることより、馬が魔物に襲われてしまうのを防ぐことだ。ヴェラはそう判断していた。

 

「じゃあ行こうか」

 今度こそ話は終わったと、グラストスが告げる。

「おう!」

 元気よく返事を返したのはサルバだけだが、他の二人も異論は無いようで、小さく頷き返していた。

 そして、いざ移動を開始しようとしたグラストスだったが、ふと違和感に気付いた。

「ん? そういえばあいつはどうした?」

 いつの間にかジョルジュの姿が見えない。

 ここまで道は一本道だったので、逸れる心配は無い筈だったが、現に今は姿がない。

 サルバもオーベールも首を振る。いつから姿が消えていたのか知らないようだ。

 だがそこは流石のヴェラ。ジョルジュの動きに気付いていた。

「先程の場所に残られたようです」

「何でだ? まぁ、理由は分からないが、そうなら心配することもないか。ともかく俺達は先を急ごう」

 そして、グラストス達は小走りに"学校"へと向かった。



***



 グラストス達を乗せた馬車が遠ざかって行く中、ジョルジュは馬に跨ったままその場から動いていなかった。

 何故か厳しい表情で、徐々に小さくなる荷馬車をただ眺めていた。


 普段は全く言う事を聞かない馬が、今はまるで自分の想いを汲むかの様に、その場から動こうとしないのが癪に障った。

 或いは、ただ単に動きたくないだけなのかもしれないが。

 どちらにせよ腹立たしい事には変わりはない。

 ジョルジュはそんな苛立ちを胸の奥に燻らせながら、生徒達の行列に目を向けた。

 いや、睨み付けた、というのが表現としては正しい。


 馬上から剣呑な目を向けてくるジョルジュを、生徒達の方でも快く思わなかったようだ。

 その場で動かずにいる事にしても、気味悪く映るだけなのだろう。

 女生徒達は嫌そうな目でひそひそと密談しており、他の生徒達にしても視線は厳しい。


「ちっ」

 ジョルジュは舌打ちする。

 グラストス達の後を追いかけるような素振りも見せるが、結局止めた。

 何かが気になっているのか、生徒達の列へ苛立った眼差しを向ける。

 どうすべきか。それが決められず、ジョルジュはイライラしたように赤毛の髪を掻き毟った。

 直後、険しい表情で生徒達を見つめていた目が、急速に細まる。

 その目に映るのは、列を成す生徒達の中で笑顔を浮かべた生徒の姿。

 ジョルジュは知らずの内に、その生徒の方へと進んでいた。

 馬も何故か今は素直に指示に従う。それを不満に思う事も忘れ、ジョルジュは無言のまま生徒を間近に捉えた。


 生徒の方は、友人と思わしき相手と談笑しながら進んでいた。だが急に自分の身体に影が落ちたのに気付いて、そちらへ視線を向けた。

 そこにはまるで仇を見るような目で見下ろす、ジョルジュの姿があった。 

「な、何だよ?」

 引き攣った顔で尋ねる男子生徒に向かって、ジョルジュは躊躇う事無く唾を吐きかけた。

「う、うわっ!! 汚ねえっ! くそっ、いきなり何すんだっ!」

 咄嗟に跳び避けたお陰で、男子生徒に唾は直撃しなかった。

 だがホンの少し前の地面に残る唾の跡を見て、男子生徒はいきり立つ。

 ジョルジュを馬から引きずり下ろそうと近づいていくが、ジョルジュが腰の剣を抜き放ったのを見て、動揺したように立ち尽くした。


「黙ってろ、糞野郎!」

 その怒声が届く範囲に居た生徒達は、ジョルジュの手に握られた剣を見るなり、小さな悲鳴を上げた。係わり合いになりたくない、というように必要以上に距離を取る。

 その所為で、ジョルジュの前で生徒の列が歪な形を描いていた。

 怯えた目を向ける男子生徒のみならず、それ以外の生徒達にも向けて、ジョルジュは叫んだ。 


「貴様ら全員屑だ!」

 ジョルジュの罵倒が直ぐには理解できなかったのか、周囲の生徒達は唖然とした表情を浮かべる。ただ同じ言葉をジョルジュは何度か繰り返したので、表情が曇るのも直ぐだった。

 列を成す生徒達は不快そうな面持ちで、ジョルジュを見つめている。


 しかし、それと分かる負の感情を向けられても、ジョルジュは一向に動じなかった。寧ろ、眼光は益々鋭くなっていく。

「仲間を見捨てて逃げてくるとは、貴様等それでも貴族か!? 魔法使い(メイジ)か!?」

 ジョルジュは叫ぶ。

 言い方に腹は立つが、逃げてきたのは事実なので何も言えない生徒達の中、先程の女生徒の一人が反抗するように声を上げる。

「だってそう言われたんだから、しょうがないでしょ! あの魔物に詳しい人が戦っちゃいけないって!」

「ふんっ! それを言った奴がどこの愚か者かは知らないが、人に言われたくらいで、同じ場所で過ごした仲間を見捨てて来たって言うのか? まだ中で戦っている奴等も居る中で、自分の身可愛さに逃げ出しただけだろうが! 反吐が出るぜっ! "学校"には優秀な人材が集まっていると聞いてたが、実際は臆病者ばかりとはな!」

「そんな言い方……っ!」

「そうだ! 偉そうにお前は何様だよ!」

 ジョルジュの過激な言葉に、周囲からは非難の声が次々に上がる。

 状況を見てもいない人間が口だけなら何とでも言える、それが彼等の主張だろう。


 俄かに殺伐とし始めたこの場の空気に、だが怯えを微塵も覗かせず、ジョルジュは再び怒号する。

「うるさいっ! 自分の身が安全じゃないと強気になれない弱虫共の戯言なんて、不快なだけなんだよっ! 供に過ごした仲間を見捨てるような奴等のなんてな!」

 一息に言い切ると、ジョルジュは肩で息をする。


 正直ジョルジュは今まで"学校"の生徒達に対しては、それなりに敬意の念を抱いていた。自分と同年代の若者達が、パウルースの将来を担う存在になる為に日々研鑽を積んでいる。

 それは自分の為になるというのはもちろんの事。新しい力の息吹は次代の国を護る為に必要な事だ。

 そのように"学校"の生徒達とは、パウルースの宝とも言うべき存在であり、希望だった。

 家の事情により、ジョルジュは"学校"に入ることは出来なかったが、だからこそ期待感は増した。

 何れ相見えるかもしれない"彼ら"と比肩しうるように、自身の向上へと心血を注いできた。と、そういう一面が全く無かったと言えば嘘になる。


 だが、実際はどうだ。

 ジョルジュが蔑んでいる自由騎士の連中よりも唾棄すべき輩達ではないか。少なくとも自由騎士達は、自分の仲間を見捨てたりはしない。

 もちろん全員が全員そうというわけではなく、学校に残って戦っている生徒達は、ジョルジュが思い描いていた通りの存在なのかもしれない。

 かといって、今目に映る生徒の数は、例外というには多すぎる。

 自然、彼等に対して不快感は募っていく。


 一方、ジョルジュの言葉に不満はおおいにあっても、生徒達は誰も言い返すことが出来なかった。ただその代わりとでもいう様に、皆は眉間に深い皺を作り、馬上のジョルジュを睨み上げていた。

 そんな多くの険しい視線を一身に集めながらも、ジョルジュは全く怯えた様子を見せない。

 その肝の据わり方は、流石に"パウルースの鷹"と呼ばれるケーレス騎士団の団員だけの事はあった。


 ジョルジュは、ふん、と鼻を鳴らすと、

「腰抜けどもはとっとと消えろ! 貴様等は無様に逃げるのがお似合いだ。よく考えれば居ても邪魔になるだけだ」

 言いたい事を全て言い切ったからか、少し気が晴れたような表情である。

 そのまま反転すると、ジョルジュを乗せた馬は列の横を通り過ぎながら、学校の方へ進んでいった。


 後には悔しそうな生徒達が残された。 

 離れていくジョルジュの背中と学校に入り込んでいる大量の魔物の姿を見比べながら、または周囲の人間と気まずそうに視線を交わし、彼らはただ立ち尽くしていた。



***



 程なくして、グラストス達は"学校"の正門前に辿り着いた。

 昨日まで居た門衛の姿は何処にも見えない。恐らく中に居るのだろう。

 代わりに通行を管理する者の居ない大きく開かれた正門から覗く校内は、はっきりと分かる魔物の大群で覆われていた。

 こうして目の当たりにすると、流石に緊張でグラストスの顔は強張っていく。

 高い塀の上空を飛び交う魔物達の姿を凝視しながら、口を硬く引き締める。

 同じくオーベールやサルバも気圧されている。どちらのものか喉をゴクリと鳴らす音が聞えてきた。


 そんな男達を尻目に、ヴェラは淡々と告げる。

「魔物に遮られ視界が悪く、はっきりとは確認できませんが、校庭の中央付近に人の集団らしき影があります。とりあえずそちらに向かってみましょう」

「そ、そうだな」

 確かに薄っすらと集団の影が見える気がする。

 が、その事よりも微かな恐怖の色もその冷静な表情からは見受けられないヴェラの胆力に、三人は目を見張らずにはいられなかった。

 魔物への恐怖よりもアーラへの心配の方が上なのだろう。

 それを思うと三人も恐れている場合ではないと、己を奮い立たせ、各自手に持った自分の得物を握り締め直した。


「……行くか」

 グラストスは自分に言い聞かせるように低く呟くと、ゆっくりと正門の前に移動する。躊躇う事無く有象無象の魔物が荒れ狂う学校の敷地へと足を踏み入れた。

 その背を追う様にして、他の三人も直ぐ後に続いた。


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