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The Left Arm Wars  作者: 過酸化水素水
【5章 偽りの想念】
106/121

101: 回顧伍


【風の月 ○○日】

 入学してから、もう随分経った気がする。そう思えるくらいには、学校生活にも慣れたみたい。

 こんな大勢の同年代の人間と一緒に生活するなんて、まるで考えられなかった当初が嘘のよう。

 日記を書くのも順調に慣れてきた。

 家では考えられなかった事だけれど、折角無償で供給されるのだから活用しないと損。ここでは今まででは考えられなかったような出来事が、きっと沢山起こる筈。

 その時に私が何を感じていたのか、後で家族に話す時の為にも出来る限り毎日残す事にしよう。



【風の月 ○×日】

 ここでは貴族と平民が平等に扱われる。

 外の世界では信じがたい事だ。

 平民が貴族に抗えないのは決まりきっていて、きっと誰にもそれを覆す事はできない。

 仮に蛮勇を振りかざして、貴族に楯突いた平民が居たとして、その人がその後も健やかに生活していけるなんてありえない。必ず貴族の厳しい仕打ちが待っているから。

 少なくとも私はそんな世界しか知らなかった。


 でもここでは違う。

 貴族と平民が平等なの。

 貴族の生徒が間違ったことをしたら、それは間違っている、と指摘できる世界だ。


 ただしその代り、ここでは実力が全てを支配している。

 成績の優秀な人、より魔法が達者な人が何より優遇される。他人の間違いを指摘できるのは、そんな力のある人間だけ。

 という事は、家の手伝いに追われていた平民の生徒より、幼い頃から教育を受けてきた貴族の生徒の方が優秀なのは必然で。

 結局ここでも、貴族と平民の力の関係は変わらないみたい。

 

 ここで出来た平民の友人の多くは、そんな状況を半ば諦めてしまっている。

 だけど、私は違う。私は諦めていない。

 ここで変われなければ、この先何処に居ても変われないんだ。

 私だけは貴族にも負けないように、より高みを目指そう。



【風の月 ×△日】

 友人がどんどん増えていく。

 地元には殆ど居なかった同世代の子と触れ合うのは楽しい。

 田舎出の私には、時折彼女達が何を言っているのか分からない時もあるけれど、きっとその内に分かっていけるでしょう。


 そう言えば今日、印象深い女の子と目が合った。

 それは一瞬の間だけだったけど、何だか私の心奥を見透かされたように感じた。

 気のせいなのは分かってる。

 でも、あの切れ長の目は、私にそう思わせる何かがある気がした。



【水の月 ○日】

 研究に煮詰まっている。

 いや、それは正しい言い方じゃない。研究自体は順調。

 予想と結果は私の想定と殆ど乖離していない。考えていた通りの結果。恐らくこのまま進めば、私の評価は十二分に期待できるだろう。全くもって順調だ。


 だけど……駄目。

 順調すぎて、やりがいが無いのが原因なのかもしれない。私の胸に残る物足らなさ、といったシコリがどんどん大きくなっていく。

 やっぱり、私は煮詰まっている。


 だからといって今更違う研究を行なって、現在の評価を無に帰すのも勿体無い。

 でも、このままじゃあ心は満たされない。

 どうすればいいのだろう?

 明日、先生に相談してみようかな?



【水の月 ×日】

 明日はオレリア達の勉強を手伝うことになっている。

 これで何度目だろう?

 彼女達はあまり勉強はできないから、時々苛々させられる事もある。

 それは、

 何故こんな事が分からないんだろう?

 貴女達はちゃんと学習しているの? 

 何の為にここに来たの?

 って思う時だ。


 だけど、それを度外視すると、息抜きになるのも事実。頼られるのも嬉しい。

 彼女達に信頼と尊敬の篭った眼差しを向けられるのは気分もいい。

 私が私で居られる気がするから。

 だから少し面倒だけれど、明日もいつものように頑張ろう。



【水の月 ××日】

 以前見かけたあの娘が居た。

 あの娘が勉強会に参加するのは、今回が初めてだ。

 でも、オレリア辺りに無理やり連れて来られたからか。彼女はあまり乗り気じゃなかったみたい。

 輪に入ろうとしないで、隅の方で一人窓の外をぼぉっと眺めているだけだった。


 正直、あまり印象は良くない。

 話しかけようかと思ったけど、先生役で皆に教える立場の私がそれをするのも違う気がした。

 だから結局、彼女とは一言も話さなかった。

 そんな彼女にオレリアはよく話しかけていた。大抵、一言二言の返答しか返ってきていなかったようだけど……。

 なんでそんな娘を構おうとするのか、私には理解できない。



【火の月 △日】

 今日は外で実技の授業があった。

 私は研究科なのに、どうして魔法の実技をやらなくてはいけないのか。

 と言っても、別に私は身体を動かすのは嫌いじゃない。

 ――――今日みたいな暑い日でさえなければ、だけど。

 

 でも久しぶりに魔法を使ってみたけれど、やっぱり少し鈍っていた気がする。風を集めるのに少し苦労した。

 やっぱり時々は実習も行った方が良さそう。

 魔法使い(メイジ)が魔法を使いこなせないなんて、何の為の力なのか分からない。


 あと気になった生徒が、数名居た。

 その中で特筆すべきは、やはりあの貴族のお嬢様(エルネスタ)だ。

 ずっとしかめっ面をして、極力身体を動かそうとしていなかったけれど、魔法使用の滑らかさは、教師達にも劣らないように見えた。

 きっと幼い頃から、魔法の英才教育を受けてきたに違いない。

 悔しいけれど彼女には敵わない。それがよく分かった。そもそも平民とは下地が違うのだ。私だけでなく平民は誰一人敵わないだろう。

 だから今後は、彼女は敵に廻さないように気をつけよう。


 

【土の月 ×日】

 今日はこの地方の収穫祭。

 普段は厳しい学校も、今日だけは無礼講。お祭り騒ぎだった。

 でも周辺の村々とは違い、学校は別に何も収穫しないのに、何で祝うんだろう?

 同じヴェネフィム公領内にあるからかしら?

 確かに息抜きにはなったから、気にしないでおこう。

 

 今日は沢山の人に話しかけられて、本当に疲れた。

 特に知らない男子生徒が多くて大変だった。なるべく角が立たない様に誘いを断わるのは、神経を使う。

 他の女生徒のところに行ってくれれば良いのに。

 男の子には余程、私が魅力的に見えるのかな?

 


【土の月 ×△日】

 今日はもしかしたら私にとって、記念すべき日になるのかもしれない。

 または、只の平凡な一日になるかもしれない。

 そんな一日だった。 

 何が起こったのかを、これから記そうと思う。


 それは今日のお昼過ぎの事だった。

 廊下を歩いてる時に、今平行して進めている内の一方の研究資料を落としてしまった。

 運悪く風に煽られ、数十枚からなるその資料は、バラバラに散らばった。

 こっちの資料はあまり人には見られたくなかったから、私は慌てた。

 だから必死に資料を集めていた所に、彼女が偶然通りかかった。

 以前、勉強会に来たあの子だ。

 そして彼女は惨状を見るなり、拾うのを手伝ってくれた。 

 いきなり無言で拾い始めたのには驚いたけれど、今思い返すとどこか微笑ましさも感じる。


 集め終わった後、彼女にお礼を言うと、どこか神妙な顔で彼女が話しかけてきた。

 先ず彼女は集めた時に資料の内容が目に入ってしまった事を詫びてくれた。

 そして、その上で私に研究の事を尋ねてきた。

 どうやら彼女は私の研究に興味を持ったらしい。


 信じられなかった。

 私の新しく始めた方の研究は、普通の生徒に興味を持たれるような題材じゃない。寧ろ、笑われる可能性の方が高い。自分自身このまま本当に進めていいのか、まだ迷っている位だ。

 だから私は気が動転して、彼女に上手く話を返せなかった。

 自分がその時何を言ったのかすら、よく覚えてない。


 それから一言二言言葉を交わした後、彼女とは別れた。

 何か変な事言ってなければいいけど……。

 


【風の月 ○○日】

 彼女とよく顔を合わせるようになった。

 よく考えたら限られた校舎内。もしかしたら今まではすれ違っていた事に気付いていなかっただけで、別に頻度が増えた訳ではないのかもしれない。

 でも、言い換えれば、今はそれに気付くだけ彼女のことを意識しているってことになる。


 お昼に、中庭で話をした。

 お互いにまだ相手のことをよく知らないからか、主に私の研究についての話題になった。

 私が五話すと、彼女が一を返す。

 そんな割合だったけど、話は不思議と弾んだ印象がある。


 彼女はあまり言葉多い人ではないみたい。

 でも、意外と言っては失礼かしら。彼女の話は的を射ている、というか的確だった。

 話をしていて、これほど楽しいと思った相手は居ない。

 彼女は成績は良くないという事だったけれど、頭の回転はそこいらの生徒達よりよっぽど速い。

 落ち着いた今考えてみても、久しぶりに楽しいと思える一時だった。

 出来れば彼女とはまた話をしたい。



【風の月 ○×日】

 ここ最近は彼女の事ばかり書いてる気がする。


 今、日記を見返してみたけれど、その認識は間違いじゃなかった。

 彼女と親しくなっていくにつれ、彼女の名が日記に登場する機会はどんどん増していってる。

 それだけ彼女が私にとって大切な存在になってる、っていう事なのだろう。

 こうして冷静になって考えても、それを否定出来ない。否定するつもりもないけど。

 折角だから、今日は彼女の事だけを書く事にする。

 

 彼女とは良く話をするようになった。

 お昼も一緒に摂る事が多くなったし、中庭で話し込むこともある。彼女と話すのは正直楽しい。

 聞いたところ、彼女は私と同じ年齢だった。そして、彼女も平民で地方の出だという事だ。

 兄弟がいない一人っ子である事も私と同じ。

 魔法の属性が『風』であることや、研究科であることも同じ。

 という具合に、私達には共通点が多い。

 それらも親しみを感じる要因なのかもしれない。


 近くにいて改めて彼女を見ると、彼女の肌がとても繊細で綺麗な事に気付く。

 身長が私より高く、近くに居ると目線を上げないといけない同世代の同性は初めてだ。

 ほっそりしている様に見えるけれど肉付きは良く、体型は私が知る中で誰より女性らしい。

 そして何と言っても、思わず手にとって見たくなるほど綺麗で長い黒髪は、珍しさもあってとても印象深い。どうして私は彼女のように髪を伸ばしていなかったのかと、悔やまれる程だ。

 切れ長の目の奥の瞳の色も黒。

 法衣の色も黒だから、全身が黒で統一されている。そして、それがよく似合っている。

 彼女の事を『黒い魔女』って陰口を叩いている人が居るようだけれど、ある意味それは的を射ているかもしれない。

 もちろん、そういう人達が暗に込めている、不名誉な意味での『黒』という表現は除いて。

(各学期ごとに配布される評価表の最低評価である『黒』丸が、彼女の評価表に多いようで、彼らは暗にその事と彼女の髪の色を掛けているらしい)


 人付き合いは苦手なようだ。

 見たところ、彼女が自分から話かける生徒は限られている。

 私を除けば、オレリア位だ。

 あと数名、会話をしている所を見たことがある人は居るけれど、私達二人程親密そうではない。

 

 でもオレリアはああいう性格だから、他にも友人は多い。彼女にだけ特別親しい、という訳じゃない。

 私も友人は多い方だと思うけれど、最近は彼女と居る機会が一番多くなってきている。

 だから恐らく、彼女にとっての一番の友人は、私という事になるだろう。

 彼女自身もそう認識してくれていたら、私は嬉しい。



【水の月 ○日】

 今日は一日中彼女と一緒に過ごした。

 彼女が私の研究の手伝いをしてくれたからだ。


 アーと言えばツェーという仲というのかしら。

 私達は多く言葉を交わさずとも、少し言えば互いの言いたいこと大体分かるようになっている。

 そのお陰か、今日一日で研究資料作りは大分進んだ。後は総論を記述して、最後にもう一度見直す作業を残す程度だ。

 本当に彼女はどうして成績が悪いのだろう。

 彼女の能力からすると、とてもそうであるとは思えないのだけど。


 そして、どうして彼女はあんなにも嫌われているのかも分からない。

 今日だって、彼女は嫌な顔を一つしないで手伝ってくれた。

 他の人たちは一体、彼女の何を見ているのだろう。本当に腹が立つ。

 確かに、彼女は誤解されるような言動をする事がある。

 でも彼女が誰かの陰口を言っているところなんて見たことがない。

 本当に信頼できるのは、彼女のような人間だと、私は思う。

 

 だけど、このままで良い。

 彼女の事を本当に分かってあげられているのは、私だけで良い。

 きっと彼女もそう思ってくれている筈だから。



【火の月 ○日】

 今日……いえ、ここ最近だと思う。

 どうにも目に付くようになった子が居る。

 その一人目はオレリアだ。


 私の居ない所で、よく彼女と話し込んでいる。決まって私が傍に居ない時に。

 まるで私を蚊帳の外に追いやっているみたいに。

 話しかけたら話の輪には入れてくれるけど……白々しい。

 それに彼女は貴女のような阿婆擦れじゃないの。一緒に居る事がそもそもおこがましいのよ。


 もう一人は確かカリーヌという名前だったと思う。

 小柄で、栗色の髪の女の子だ。大人しい子で、いつもか細い声で何を言っているのかよく聞き取れない。

 いつもオレリアの後ろに引っ付いてるので、必然的に彼女と一緒にいる所を多く見かける。

 ただオレリアとは違い、彼女に積極的に話しかけている訳ではない。

 でも羨望に満ちた視線はいつも彼女を捉えている。

 他の人は誰も気づいてないのかもしれないけれど、私は気付いている。

 なんと言うか……邪魔な子。


 お願いだから、彼女の邪魔をしないで欲しい。

 そうすれば彼女の時間はもっと私に振られて、その方が彼女にとっても為になるのだから。

 


【火の月 △日】

 彼女の事が頭から離れない。

 あのつやつやと輝く綺麗な黒髪。風に靡く様がとても優雅に感じられる。

 しなやかに伸びる肢体。あの細い両腕に抱きすくめられたら、どんなに甘い匂いがするだろう。

 薄く、花開いたばかりの蓮の花ような、薄桃色の唇。

 そこから紡ぎ出される、私の耳朶を打って止まない意志を感じさせる声。

 黒真珠のような瞳に見つめられると、息が詰まるよう。


 …………駄目。きっと今日も眠れない。



【火の月 ○×日】

 どうして私は彼女と、もっと早く知遇を得ようとしなかったのだろう。

 そうすれば私達はもっと長い間共に生活できて、もっとより互いの事を知りえたでしょうに。

 もっと深く。

 彼女の全てを。


 いえ……今からでも遅くない。

 今までの分を、これから取り戻していけばいい。

 疎遠だった分を、より密度の濃い関係に。



【火の月 ××日】

 明日は彼女と一緒に過ごす事にしよう。

 そして、私達は未来永劫、離れることない契りを交わすの。

 彼女もきっとそれを望んでいる。

 

 そうと決まれば、明日の為に今日はもう休もう。

 ああ、明日が待ち遠しい。


 

【火の月 ×△日】

 許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。裏切られた裏切られた裏切られた。裏切られた。裏切られた裏切られた裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた。裏切られた。裏切られた。彼女に裏切られた。裏切りやがった。あの女。私を。どうして。裏切ったの。どうして。どうして。どうして。どうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないもう許さない。絶対に。這いつくばって、私に許しを請わない限り。

 そう。私の足を舐めて、私に今日の事を謝罪して、もう二度と拒絶しないと誓うなら、許して……許す? 許さない。許さないわ。

 私の事を騙してたあの糞女を。許せない。絶対に許さない。殺してやりたい。殺してやる。そうだ殺す。殺してやる。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。


 絶対にこのままでは済まさない。

 


【土の月 ×日】

 あの女を貶める案を練った。

 後は実行に移すだけ。

 あの子には少し気の毒だけど、仕方ない。恨むならあの女と親しくしていた事を恨みなさい。


 ふふ。

 どうなるのか。結果が楽しみで仕方ない。

 


【土の月 ○×日】

 あの女……騙していた。

 私だけじゃなく、この学校の全員を。

 何が劣等生よ。ふざけるな。

 あのエルネスタでさえ敵わない。相手にもならないなんて、そんな人間がこの国にどれくらい居ると思っているのか。


 あんな実力を持ちながら、劣等生を気取っていた。私を騙していた。私を。

 ふざけるな。

 もしかして、腹の底ではいつも嘲笑っていたのか。私を。

 死ね。



【土の月 ××日】

 こんなに嬉しい日はない。

 それを聞いた時、私は思わず腹の底から大笑いしてしまった。

 淑女のする振る舞いではないけれど、今日ばかりは大目に見てもらおう。

 こんなに楽しいことはないのだから。


 あの女が、居なくなった。

 この前の騒動で退学になったのだ。 


 字で書いてさえ、尚面白い。

 人はこういう時に言うのだろう、「ざまあみろ」と。

 やはり、悪は滅されるのだ。運命を司る神(アルプト)も、彼女の悪事を見過ごさなかった。

 ああ。正直今日ほど神様に感謝した事はありません。

 あの悪女の運命を狂わせて頂いて、本当に有難うございます。

 

 あの女はこれから自分の家に戻るのだ。すごすごと。その後ろ姿を思うだけで、腹がよじれる。

 惜しむらくは、いつの間にか居なくなっていた所為で、その実物を見れなかったことだ。

 誰にも告げないで去っていったらしい。

 オレリアがやたらと憤慨していた。

 カリーヌなどは何が悲しいのか泣いてさえいた。どうして泣く必要があるのか。こんなにも楽しいのに。


 これでようやく、私の心の安寧は守られた。

 これからはあんな悪女に邪魔される事も、騙される事もない。

 祝福された素晴らしい日々が、私を待っていることでしょう。


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