第7話 旅立ちと出逢い
早朝、両親、ジル、マルクス、ミリィに見送られながら、フォルティナはラングを目指す。
「パパ! ママ! みんなも見送りありがとうね!」
「いいかい? ティナ? ラングまでは遠いから、村とラングの間にある小さな街を最初に目指すんだ。村を出てまっすぐ進めば着くから、迷わないはずだよ」
父からの助言を聞き、母からは手に500ゴールドの入った袋を握らされる。
「これ! 少ないけど、大事に使うんだよ!」
「うん! ありがとうママ! 大事に使うね!」
シスターの姿は見えなかったが、このまま旅立つ。次に帰ってくる時は、冒険者になった時だ。そう意気込み歩み始めると――
ゴォーン……ゴォーン……
鐘の音が鳴る。フォルティナにはこの鐘が、シスターの見送りの挨拶だと理解できた。
「シスターったら、直接来てくれたらよかったのに!」
そうして、フォルティナはラングを目指すのだった!
――時は戻り現在――
「懐かしいなぁ……な〜んてね! まだ村を出て1日しか経ってないけど!」
8歳からの記憶を思い出しながら、コンパスの指し示す方向へ森の中を歩いていた。
「かなり歩いたから、そろそろ出口が見えていいはず……」
「出口だ!」
森の木々の隙間から光が差し込んでいるのが見えた! 出口だ! そうに違いないと走り、森を抜けた。
「やっと出られた〜! フォルティナ・ロックスの旅が森で終わるところだったけど、なんとかなったわね! ありがと、コンパスさん!」
コンパスに頬ずりしながら感謝し、地図を見ながら現在地を再確認する。
どうやら予定通りまっすぐ森を抜けられたようで、奥に見える大きな街が目指していたラングらしい。
「ほぇ〜……おっきい街〜……不思議な形した建物もある〜。わっ! すごいデッカい時計の塔がある〜!」
地図を買った街よりもはるかに大きい街並みに、村の外へ出たことがなかったフォルティナは感動した。
だがそんな感動に浸る暇もなく――
「うああああ! 誰か助けてえええええ! 誰かあああああ!」
男の子?の悲鳴が聞こえた! 声の元を辿り……街道沿いで、フォルティナと同じくらいの大きさの二足歩行のトカゲ型魔獣が、青黒い髪の少年に襲い掛かっていた!
だが不思議なことに、魔獣と少年の間には〈半透明な壁〉があり、魔獣の攻撃を防いでいた。
あの透明な壁は不思議だけど……今はそれより!
フォルティナは背負っていたリュックを地面に降ろし、駆け出した! 幸い、現場までは下り坂ということもあり、かなりの速度が出た!
「どぅおおおおおりゃあああああああ!」
走りながら、シスターの教えを思い出す!
『いいか? ティナ? 敵に遭遇したらとりあえず叩け。敵が湧いてもとりあえず叩け! 叩いてダメなら叩きながら考えて叩け! だいたいこれでどうにかなる!』
呆れるほどの脳筋思考だが、今なら理解できる。
そうね……シスター! 考えて手遅れになるぐらいなら叩いて、叩いて、ダメならそこから考えたらいいだけよね!
走っているうちに魔獣との距離が目の前に迫り、そして――
「でりゃああああああああ!」
勢いよく飛び、ドロップキックを二足で立っていた魔獣の横腹に叩き込んだ!
鍛え抜かれた肉体と下り坂の勢いが加わり、魔獣は少し離れた場所に吹っ飛んだ!
「ボク? 大丈夫?」
フォルティナはへたり込んでいる少年に安否確認のために話しかける!
「ご……ごごご……」
「?? 大丈夫? 頭でも……」
頭を打ったのかと思いかけたが、それを遮るように――
「ゴリラあああああああああ!」
「誰がゴリラじゃあああ!」
少年は叫んだ。無事なようだが、いきなりのゴリラ発言にフォルティナは即座にツッコんだ!
16歳になったレディに「ゴリラ」はなんて失礼な! と思いつつも、戦闘はまだ終わっていない。
フォルティナは、飛ばされた魔獣が立ち上がるのを捉え、背中の斧を構える!
「ボク? 安心して? お姉ちゃんが今、助けてあげる!」
後ろを振り返らず、魔獣を見据えたまま少年に語りかける。
「うん……わかった……」
その言葉で少年が理解したことを知ったフォルティナは、斧を前に構え……
アイツはまだ立ち上がったばかり! ……叩くなら今!
深い前傾姿勢で駆け出す! 魔獣もフォルティナに向き直り――
「ギシャアアアアア!」
前足を上げ、威嚇するような咆哮! だが怯まず、斧を振る構え!
魔獣の眼前で急停止し、足で地面を踏みしめ、腰を入れ――全力で斧をフルスイング!
あまりの速さに、魔獣は反応できていない!
「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙!」
唸り声と共に、斧が魔獣の胴体に食い込む。
「りゃああああああ!」
掛け声と共に斧を振り抜く! 硬い鱗か斧の切れ味かは分からないが、魔獣は吹き飛ばされ、泡を吹いて絶命していた。
「ふぅ……あいつ、蹴り飛ばした時に意外と飛んだから、アタシでも倒せそうって思ったけど……思った通りいけたわね! シスターの言ってた通りだわ! 叩けばだいたいどうにかなるのね!」
戦闘終了を確認し、フォルティナは少年の元へゆっくり手を振りながら戻る。
「お〜い! ボク〜? もう大丈夫だよ〜」
「ありがと……おねえちゃん……」
少年はうまく立ち上がれないようで、フォルティナは手を取り手助けをし、身体に怪我がないか観察する。
「どうしたの? おねえちゃん?」
少年が警戒気味に尋ねる。いきなり体を見つめられれば、警戒も無理はない。
「ごめんごめん。怪我があったらいけないからさ、身体を見てたの。嫌だったらごめんね?」
「そ……そう? 怪我はないよ。ちょっと擦りむいたくらいだから大丈夫」
少年の顔は赤く染まっていたが、フォルティナは気づかずに尋ねる。
「ところでボク? どこから来たの?」
「ラングだよ……薬草を取りに外に来たんだ。そしたらあの魔獣が襲ってきて……それで……っ!」
恐怖を思い出したのか、顔が青ざめる少年。
見かねたフォルティナは抱きしめ、背中をさする。
「もう大丈夫だよ。もう大丈夫……」
落ち着きを取り戻した少年は、お礼を言い自己紹介する。
「ありがと。もう大丈夫だよ。自己紹介がまだだったね! ボクはフェイ! 12歳だよ! おねえちゃんは?」
「アタシはフォルティナ! フォルティナ・ロックス! 冒険者になるためにラングまで来たの! よろしくね? フェイ!」
自己紹介を終え、フォルティナはどうしても気になっていたことを尋ねる。
「ねぇねぇ! フェイ? さっきの透明な壁! あれってなに?」
「壁? あっ! 魔法だよ? 【防御魔法】だよ?」
「魔法? 嘘言わないでよ! 魔法って【止血魔法】しか人間は使えないじゃない! アタシ詳しいんだから! そんな嘘言っちゃダメよ!」
フォルティナの主張はもっともだった。この世界では、人体に宿る【魔気】では【止血魔法】3回分が限界。しかも発動に時間がかかり、実戦には不向き――その常識を覆すようにフェイは語る。
「嘘じゃないよ。この携帯端末! R.O.Dっていうんだけど、これを使えば魔法の名前か設定した言葉を言うだけで発動できるんだ。お母さんから持たされたR.O.Dだけど、何かあった時のために【防御魔法】がインストールされてるんだ」
フェイは胸ポケットから四角い魔具【R.O.D】を見せる。
「ろっど? 【防御魔法】をいんすと〜る……?」
混乱するフォルティナ。知らない言葉が次々と飛び出し、頭がついていかない。
村の外の人ってみんな魔法使いなの? それともフェイがすごい魔法使いってこと? てか、いんすと〜るって何?
フォルティナは完全に情報の海に溺れかけていた。
「おねえちゃん……一体どんなところから来たの? R.O.Dは大体一家に一台はあるんだけど……」
「一家に一台⁉︎」
その言葉はトドメの一撃だった。
村では誰もそんなもの持っていなかった……ミリィですら見たことがない。ということは、自分の村は相当な田舎だったのか。
フォルティナは情報の波に飲まれ、魂が抜けたように虚空を見つめる。
「お……おねえちゃん? とりあえず街に行こ? もうすぐ夜になるしね」
「あ……あわ……あわわ……」
夜も近い。もはや言葉も話せないゾンビと化したフォルティナの手を引きながら、フェイはラングの街へ歩き出す。
フォルティナはまだ知らなかった。
これから目の当たりにする“文明”という名の衝撃の数々に、何度もメッタ打ちにされることを……
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ようやく現在に戻りました! ショタとの出逢いですよ!
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