幕間 みんなの心配事
夜、父と母は、明日ラングへ旅立つフォルティナについて話し合っていた。
「いよいよ明日だな……シスターに8年も鍛えられたんだ。道中で死ぬことはないだろう」
「そうねぇ……あのシスターが来てから、村は魔獣に襲われる回数も減ったしね。そんな人に鍛えてもらったんだもの。不安はあるけど、きっと大丈夫さね」
父と母は、明日出発する一人娘を元気いっぱいに送り出そうと話し合っていたが、2人ともひとつだけ心配していることがあった。
「……あの子、筆記試験、大丈夫かしら?」
そうなのだ。父と母の二人とも、鍛錬に励むフォルティナの姿はよく見ていたが、筆記試験に向けて勉強しているところは一度も見たことがなかったのである。
「落ちたら、精一杯励ましてやろうな? 母さん」
「そうだねぇ……」
落ちてほしいという気持ちが少しあったのも事実だったが、それ以上に、8年間の努力が報われなかったら可哀想だとも思っている両親だった。
一方、友人たちも夜、同様の心配をしていた。
「ティナの奴、俺より強くなったのは分かるけど……日曜学校でも寝てばかりだったしな……俺よりテストの点数低かったし……試験って筆記もあるんだろ? 大丈夫かよ……」
自室のベッドで天井を見つめながら、ジルは独り言をつぶやいていた。
ジルの家の隣に住むマルクスも、本を読みながら考えていた。
『ティナちゃん、昔から頭が冴えてるところはあったけど、「勉強は嫌い! こんなの絶対役に立たない!」って言ってたし、多分勉強してないよね……』
村一番の綺麗な家に住むミリィも、窓から星を眺めながら思いを馳せていた。
『ふふふ、ミリィちゃん、斧を喜んでくれてよかったな〜。試験、うまくいくといいな……あら? そういえばティナちゃんが勉強してる姿……見たことないかも……日曜学校でも居眠りばかりだったし』
「「「筆記試験で落ちないよね……」」」
3人はずっと村で一緒に過ごしてきただけに、心配していた内容も、タイミングもまったく同じだった。
一方、教会で祈りを捧げていたシスター・シンシアは、神に向けてこう祈る。
「神よ……どうかティナに祝福を……」
祈りを終えて外に出ると、星を見上げながら、フォルティナと過ごした日々を思い出していた。
「俺から教えられることは全部、あいつに叩き込んだ。絶対大丈夫だ。あいつは絶対、合格する。なんたって、あいつは元々──」
両親や友人たちが筆記試験を心配していた中、シスターだけは確信していた。
「あいつは元々、頭がいいからな!」
それは、初めて出会ったときの顔つき、目つきに宿る覚悟。そして今まで何度も出してきた、2秒以内で答える数々の問題への的確な回答が何よりの証拠だった。
フォルティナの知らないところで、さまざまな不安と期待が交錯しながら、夜は更けていく。
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