第32話 愛の逃避行
――ブオォォォン!!――
「こいつは快適だぜぇ!!」
大通りをモルトとヤンバルは喧嘩夫妻……奥さんが運転する赤いワゴン車に乗り全速力で資料館に走らせていた!!
「口を開かないで下さい!! 舌を噛みまずッッ!!」
そう旦那が忠告しようとして舌を噛んでいた。
「あなたが噛んでどうするの! ほら!気絶してる人たち避けながら走るんだからみんな協力して!! はい!右ぃ!!」
「「「はいぃ!!」」」
奥さんの掛け声と同時に車が右に曲がり他3人は車が傾く様に一斉に右に体を寄せる!!左側の車体が浮き人々を躱しながら車は進み続ける!
「それにしても旦那が保安局員だったとはな! おかげで助かったぜ!」
「いちち……良いんですよ! あなた達にはお世話になりましたから! これぐらい協力させて下さい!」
モルトの話を旦那が舌の痛みを我慢しながら答える。奥さんも最初の雰囲気から打って変わり姉御って感じに変貌していた、そんな奥さんからも運転をしながらモルトに話す。
「旦那のR.O.Dに緊急要請が流れてね! 冒険者2人が事件解決に奔走してるって! 1人が資料館に向かってるって聞いて私達も飛び出してきたのよ!」
「なるほどな! ってか!奥さん性格変わってね!? こんな感じじゃなく大人しい人だったよな!」
モルトは旦那に奥さんの代わりようを聞くと旦那は半笑いで答える。
「実は……みなさんが帰った後に夫婦で話し合いまして……それから嫁の今までの鬱憤を吐き出すと……こうなっちゃいました! テヘ!」
「テメェのテヘ!っは見たくねぇ!! てかどんだけストレス溜めてたんだよ!! ジャブジャブだよ! ストレスという水が我慢って名前の蛇口を捻ったみたいにジャブジャブだよぉ!!」
「アンタらうるさい!!舌噛み切って死にたいの!? 死にたくないなら黙ってなさい!!」
「「はい……ごめんなさい」」
奥さんが怒鳴り旦那とモルトは黙る。ワゴン車は車体を傾けたり道を跳ねながら大通りを進む!
車道用に整備されていない+大雨でスリップしやすい為、奥さんの技術の高さが伺える……さては走り屋だな?っと思ったモルトだが怖くて何も言えずただリーゼントを揺らしながら乗っていた。
「よし! 大通りを越えるよ! 後は一本道だ!全速力で資料館に向かうからね!」
奥さんがそう告げるとアクセルを思い切り踏み魔導エンジンがブオォォォン!!と高い悲鳴を上げる!まるで馬を操る女騎士のようだ!
――ゴロゴロ……ピシャァァァァァンッ!!――
ワゴン車が一本道を走っていると雷がすぐ近くに落ちてくる!
明らかに周りの様子がおかしい事に気づいたヤンバルは窓を開け空を見る……そこには人のようなものと銀色の物体がぶつかり合っていたのが見えた!
「モルトさん!モルトさん!! 上! 上に何かいます!」
「黙ってろ!怒られるぞ!! 上って……?」
ヤンバルの言葉を聞き窓を開け外に顔を出し上を見ると!
ドガンッ!!!
女の尻が目の前に落ちてきた!!!
「ちっくしょ〜っ!! あの屑鉄野郎がッ!! んぁ?」
ワゴン車の上に着地したスリットタイプの修道服を着た赤髪の女をモルトは見た!
「わ〜お……すげぇ美人……お姉さん! 良かったら今度俺様とお茶を……」
――ズガァァァァァン!!――
モルトがシスターを口説こうとするとワゴン車の前方に銀色の人形が落ちて飛びながらワゴン車に突っ込んでくる!
「チッ! ボケはすっこんでな!! それと逃げろ!!」
シスターに即振られたモルトは目の前から迫る銀色の高速飛行物体に視線を移し悲鳴を上げる!!
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「口を開かないでって言ってんでしょ!!はい! 右ぃ!!」
奥さんの掛け声と共にモルト側……右に車内全員が体を寄せワゴン車は右側のタイヤだけで走行し高速飛行物体を躱す!!
「マジか! あれを避けんのかよ! やるなぁ お前!」
車上にいるシスターから奥さんを称賛する言葉を投げかけられ奥さんはイカつい笑顔で応える!
「どうもありがと!!」
「お前ら何でここにいる! ここは危ねぇからさっさと家に帰りな! 迷えるラム肉共!!」
シスターからの暴言?のような警告の言葉にモルトが窓から顔を出し答える!
「南で勇者が暴れてんだよ! 俺たちはそれを止める為に資料館に向かってんだ!!」
「南? そうかそういうことか!」
シスターはニヤリと笑顔になりながら運転する奥さんに協力を求める。
「お前らが迷えるラム肉じゃねぇ事は分かった! だがここはあの鉄屑が居て危険だ……そこでお前! しばらくあいつの攻撃を避けながら走ってくれ! そうすればここを安全にしてやるよ!」
「分かりました!やってみます! アナタ!後ろを見てて!!」
「は!はいぃ!!」
完全に尻に叱れてやがる……にしても何なんだこのシスターは?
「よし頼んだぜ! …………コォォォ……」
シスターは車上に立ちながら目を閉じ精神統一し始める……すると辺りがバチバチッと光が弾け出した!
「オイオイオイ!! ほんと何なんだよ!!」
モルトが叫ぶがヤンバルの叫びが勝る!
「来ましたよ!!後ろ!右によけて下さい! 違った!左です! ひだりぃ!!!」
「右か左かどっちなのよハッキリしなさい! はい!! 左ぃ!」
「「「はいぃ!!」」」
後方から放たれた白い光線が左に傾いたワゴン車の下を通り過ぎ爆発する!!
車体が爆発の衝撃で浮くが奥さんは気にせずアクセル全開!!着地しギャリギャリとタイヤが悲鳴を上げながらまだ爆発で燃える空間に突っ込む!!
「おい奥さん! 上に人が!」
「俺の事は気にすんな! 好きなようにやれ!」
モルトの心配をシスターが気にするなと遮る! 爆発を通り過ぎ……遂にそのシスターから待ちに待った言葉が飛ぶ!
「よっしゃ!!これでいける!!ありがとよお前ら!! ここから先はさっき言った通り安全地帯にする! お前らはお前らのやる事をやりな! 主の導きあれ!! じゃあな!」
言葉の終わりと同時にワゴン車に衝撃が走る!シスターは後方の飛行物体に飛び掛かったようだった……
「何だったんでしょうかあの人は……モルトさん?」
「いやぁ……良い尻だったなぁ……でへ!でへへ」
ヤンバルの言葉が聞こえていないモルトはシスターのお尻に夢中になり鼻の下が伸びていた。そして後方から衝撃波が飛んできてワゴン車が加速する!!
「見えたよ!!」
奥さんの言葉を聞き全員前方の資料館を見る!
「着いたか!よし!!降ろしてくれ!」
「それが〜……」
「どうした?」
先程までの威勢は何処へやらオドオドした奥さんがモルト達全員に告げる……
「勢い強すぎて……どう止まっても資料館に突っ込んじゃいそう……テヘ!」
「お前〜♡このお馬鹿さん!」
「あなたったら……もうっ!みんなが見・て・る……」
「イチャついてんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「総員衝撃に備えて!!」
――ガシャァァァァァァァンッ!!!――
ちちくり合う夫婦にツッこむモルト!そして真面目なヤンバルは資料館に突撃した。
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