第26話 キーパーとティナ①
そんな訳で共和国側から選ばれた偵察部隊の人員は、まず欠かすことのできないアタシだ。
なにせ魔将が出てきた時に戦える人員を入れておいた方がいいと満場一致で決まった。
次にスコープ。まあ彼も言わずもがな偵察のプロだからね。
次にモルト、コイツはR.O.Dの扱いに長けた存在として、そしてエスカイトとの戦闘で無傷で生還したという実績から選抜された。
そして最後に……
「俺だな」
キーパーである。
キーパーはアタシの方にキツい目で一瞥しては顔を背けて、エレオノーラの前に立った。
「作戦は偵察であって戦闘じゃないんだよな? 団長」
「ああ。だから今回はティナと組んでくれ。嫌なら拒否してもいい」
「馬鹿言え。今は戦時中だぞ? 個人の問題を持ち込んでたら勝てるもんも勝てやしないさ。受けるよ」
「助かるよ」
エレオノーラはホッとしたように柔らかな表情を浮かべた。どうやらキーパーはまだアタシの事を認めてくれないみたいらしく、なんだかいたたまれない気持ちになってしまう。
そんなアタシを見かねたのか、スコープがキーパーの元に向かって何やら話し始めたが、ここからでは聞こえない。
そんなアタシとキーパーの様子に気づいたモルトが耳打ちしてくる。
「んだ? あいつとなんかあったんかよ」
「まあね。強いて言えばアタシの覚悟のなさがキーパーの機嫌を損ねちゃったみたい」
「ほぉ〜。なるほどな」
モルトは妙に勘の鋭い男だ。
今だってアタシのちょっとした仕草とキーパーの様子からギクシャクした空気を感じ取ったのだ。
これはなんだか申し訳ないような、気まずいような気持ちだ。
「まあお前はガキだからな。大人に迷惑かけちまうのは理解できるが……戦時中だもんな。俺様達みたいな平和ボケした世界の住人からしたら、覚悟の無さなんて言われても仕方ねぇと思うぞ」
「励ましてくれてるの?」
「まあな。今の状態のまま戦闘になりでもしたら危ういから励ましてやってんだよ」
理由はある励ましってことね。
だけど味方がいるってその事実がなんだかアタシの胸をポカポカさせてくれる。
なんだかんだでコイツは安心できるのよね。
そんなモルトは「そうだ」とニヤリと笑い、キーパーの元へ向かいだした。
「ちょ、ちょっと!?」
アタシは止めようとしたが、モルトは手を振ってニヤけ面を向けた。
「まあこれからキツい任務を共にするからな。挨拶だよ挨拶」
絶対ただの挨拶じゃない……。アイツが言葉通りの行動をした試しがないもの。
絶対何か企んでるはず。あの笑顔がその証拠よ。
「よー。おっさんこれからよろしくな」
「お、おう。確かモルトだったか……」
突然モルトがキーパーに肩を組んだからか、キーパーはかなり警戒したような顔をしている。
スコープすら「何してんだこいつ?」みたいな顔を向けてアタシに目を向けてきた。
アタシを見ないでよ……。コイツの行動なんてアタシには理解できないことが多いんだから。
「おっさん〜。なんだ〜? ティナの野郎となんかあったんか?」
ど直球すぎる。さっきアタシがやらかしてギクシャクしてるって話したのに、コイツときたら何言ってくれちゃってんの!?
モルトの言葉にキーパーはため息を吐いて答えた。
「なんだ、ゲストから仲裁を頼まれたのか。そうだよ。あいつが魔将の始末を戸惑いやがったから注意したまでだ。仲裁されてもこればかりは許すわけには行かないな」
ま、まだ根に持ってた。まあ分かってたよ。多分アタシがこの世界にいる間ずっと許されることはないんだろうね。
「おいおい。それはちょっとセコいんじゃねえの?」
「せ、セコいだと!?」
モルトはキーパーの言葉にわざと驚いたような顔を浮かべては、挑発するような一言を吐いた。
案の定キーパーはムッとした顔をモルトに向けたが、奴はそんなの気にも留めずに話を続ける。
「そうカリカリすんなって兄弟。考えてもみろよ。アイツ見た目通りのガキだぜ? しかも俺様達の世界は戦争なんてずっと前の時代の産物だって状態だったんだ。そんなガキがいきなり戦場にほっぽり出されて敵を殺せって、できると思うか?」
「む、むう」
で、出た。モルトお得意の言いくるめ。さも当たり前だろ? 常識だろ? と相手に思い込ませる話術だ。
これにはキーパーも反応に困ったようにただ返事を返すだけだ。
「出来ねぇよな? 俺様だって冒険者だ。10にも満たねぇガキを魔獣と戦闘させろってなって『殺したくないよ〜』なんざ言われた暁には腹も立つさ? 覚悟もない奴が冒険者になるなってな。だがよーく考えたらよ〜。俺様もこのガキに何期待してたんだってなったわけよ」
「だが戦争は魔獣討伐とは訳が違う。それに年齢だって関係がない! 俺はガキの頃から毎日戦いの中で育ったんだ。お前……何が言いたいんだ……?」
「つまりか? つまりだな、お前はティナに期待しすぎなんだよデカブツ。なにが神気がなきゃ魔将は倒せねぇだ。勝手に期待して勝手にキレてんじゃねぇよ肉ダルマ」
「お、お前!?」
な、ななな、何言ってくれちゃってんのこの馬鹿モルト!!?
挨拶だって言ったじゃない。え? アタシ聞き間違えた? それともこれがモルトの挨拶だっていうの?
いやいやいやあり得ないでしょ。ただの喧嘩を売りに行ってるだけじゃん! 馬鹿じゃん!
これにはスコープも「クレイジーな男が来たもんだ」と顔が引き攣っていた。
そんなモルトの襟をキーパーが掴み上げた。
彼の眉間にはくっきりと血管が浮き出ていて、それはそれはかなりご立腹なようだと見て取れる。
「どうした? 図星突かれてキレたか? 情けねぇ大人だなぁ。どうだ? 俺様が平和な世界のギルドで学んだアンガーマネジメントでも聞いてみるか? 怒りのコントロールだよ。ほら目を閉じて10数えな。次に目を開けた時には怒りはスッキリさ」
「こ、このぉ!!」
キーパーがモルトを殴ろうとしたその時。
「モルト!! キーパー!! 止めないか!」
過去と未来のエレオノーラが同時に2人に声を張り上げた。
ピタリとすんでの所でキーパーの拳が止まる。
モルトはピュー♩を吹いて「俺様悪くありましぇ〜ん」と言った顔を浮かべている。
「お前達は一体何をしているのだ。これから大事な偵察任務を共にする仲間だというのに」
とエレオノーラ。隣に立っているノーラも「そうだそうだ」と仁王立ちで頷いている。
流石同一人物。何もかもがシンクロしていて見事だと言える。
「え〜。だってよ〜。俺様とティナは仲良くやろうってしてんのにこのおっさんがツンケンしてるもんだから。何キレてんの? もしかしてお腹痛いの? って聞いてやったんだよ」
「なっ!? お前!」
しれっと挑発するモルトはまさにクズ人間の鏡といえよう。だけど、そう言ってくれたモルトに心の底では感謝してる自分がいるわけで……。
「そんなにティナが気にいらねぇなら戦ってみろよ。紅龍と王国で活躍したあいつに勝てるならお前の文句も聞いてやってもいい」
「そ、それは……神気があるゲストの方が――」
「有利って言葉で逃げんなよオーバード。お前もあいつには無い魔法の力があんだろ? 条件は同じじゃねぇか」
「だ、だが……」
「煮え切らねぇおっさんだな。実力不足かどうかを確かめるには殴り合った方が早えだろうが。それともなんだ? 実力ではティナの方が上回ってるのに認められないって言ってたのか? だったらちゃんちゃらおかしい話だぜ。俺様から言わせりゃ醜い嫉妬に他ならねぇな」
悔しげに拳を震わせているキーパーは何も言い返さずにいた。この様子を見たエレオノーラは頭を掻き、キーパーへ告げた。いや……命令した。
「不服だというなら戦え、キーパー」
「団長!?」
「言い方はキツいがこの男の言う通りだ。お前も良い加減今のティナを見てやるべきだ。彼女は2国を救った英雄だ。あの討伐することすら厳しいと言われたエスカイトですら倒したのだからな。生半可な覚悟では無理な事をやってのけたのだ。そんな彼女を見る良い機会ではないか」
「さっすが未来のノーラだぜ! 話のわかる美人は言うことが違うねぇ」
「お前は少し黙れ」
ぼか! とモルトは自慢のリーゼントが揺れるほど強くエレオノーラに殴られた。
キーパーは少し悩んだ末に、答えを出す。
「分かった……戦ってやる。お前がゲストではなく、真に仲間だと認められる力を持っているか確かめてやろうじゃないか」
なんだか偉いことになった気がするけど……。これはアタシの実力を改めてキーパーに示すチャンスだ。
それをモルトは曲がりなりにも整えてくれた。
このチャンス、逃す手はない。そう考え、アタシはキーパーと小屋の外へ向かった。
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