第31話 魔将グラリュース
「あーあ。お気に入りの面だったのに。こんなになっちゃった」
グラが砕けた能面を拾い上げた。女の人の面がバラバラと崩れて消えていく。まるで砂のように……。
「な、なんでグラが――」
「なんでって。見たらわかるでしょ〜? 私は魔族なんだし、ここにいても不思議じゃないじゃん。それと、私の本当の名前はグラリュースよ? よろしくね? お姉ちゃん」
本人は紅龍にいたはず。いや、アタシたちが街を出る頃には行方不明だったけど。
動揺するアタシに、グラは片手に幾何学模様の数字を集め、新たな能面を生み出していく。
今度の面は怒っているような、悲しんでいるような面だった。
「ゲスト。どうやら俺たちは騙されてたらしい」
「のようだね。今思えば、街から離れた場所の教会に子供一人でやって来られるわけがなかったんだよ」
ならグラは、初めからアタシたちに近づくために嘘ついたってこと? でも、ただ近づくだけなら街を一緒に散策するなんて真似しないはずじゃ。
「アンタは何がしたいのよ? なんでアタシたちに近づいたの?」
「なんでって、興味? いや、この感覚はよく分かんない。でもデータにはそう書いてあった。だから興味があってね。それに退屈だったから遊ぼって思って」
プーっと頬を膨らませて、足で地を蹴ってそう言った。
興味? 退屈? 魔族って感情がないんじゃなかったの?
「出鱈目言うな。お前ら魔族に人間の感情なんかあるわけがない」
「ありゃりゃ。そこの怖いお兄ちゃんは私の言うことを信じてくれないのね。まあ無理ないか。確か私たち魔族には感情がない。いいや、無かったって言うべきかな〜」
「無かっただと? なら今はあるとでも言うのか!?」
「あるかは分かんない。だから興味があったって言ったでしょ? この気持ちが興味っていう好奇心だとしたら、私たち魔族にも感情が芽生えたってことになる! それってと〜っても素敵なことじゃないかしら」
グラが面を被る。何が興味だ。その面から感じるのは怒りと悲しみだ。全く意味が合ってない。感情について何にも分かってない証拠じゃない!
面を被ったグラが動いた。と同時に消えた!? どこ?
辺りを探すが見当たらない。
「ぐあっ!?」
「スコープ!?」
突如スコープの体が宙に叩き出された。彼が立っていた場所の背後を見ると、グラが足を高く上げていた。蹴ったんだ。
今の一瞬でアタシたちの前から移動して回り込み、攻撃したってことだ。速すぎる……。いくらなんでも異常だ!
「んのぉっ!」
スコープは空中で体を捻り、ボウガンを撃った。攻撃されたというのにすぐに状況を分析、理解し、反撃。流石精鋭だ! 戦いに一切の無駄がない。
だが放たれた矢はグラに当たることなく床に突き刺さる。
一瞬だけど、矢の動きが遅くなったような……。
「私はね。怒ってるの」
「怒ってるだって!?」
声だけが響く。アタシたちの周りをぐるぐる回っているのか、グラの幼い声だけが反響するように耳に入ってくる。
「お姉ちゃん言ったでしょ? 魔獣を殺すことに深い理由はないって」
「それがどう怒ってるってことに繋がるのよ」
「魔獣はこの世界を正しい形に作り変える存在だっていうのに、それをぽんぽん削除してくれちゃってさ」
「それは魔獣が人を襲うからでしょうが!」
グラの声から位置を絞り出し、先回りするようにクラフトアックスを振るった。
ガチン! と肉に激突した衝撃が腕に返ってきたが、ぶつけたのはグラの体じゃなく、狼型の魔獣の体だった。
また魔獣の召喚!?
距離感ミスった。グラに当てるつもりだったのが、大きさの違う魔獣だったせいで仕留めきれない!
狼が反撃で噛みついてくる。アタシは咄嗟に腕で防御を取ろうとしたが、ガジェットが腰の魔具にある噴出口から火を吹いて迫り、狼を蹴り飛ばした。
狼の姿が塵となって消えていく。
「ありがと!」
「お礼は後! 次が来るよ!」
ガジェットはすぐさま飛び上がり、空へ逃げると、すぐそこにグラが拳で床を貫いた。
間違いなく何かしてるはずだけど、タネが分かんないから対処のしようがない。今は動きが超絶速い人間だと思ってなんとかするしかない!
動き出す前に殴る――いや、とっ捕まえれば動きを止めることができるよね!
アタシはグラを掴もうと腕を広げて駆け出した。
グラの体が目の前まで迫り、両腕で捕まえようとした時、今度はグラじゃなくアタシの動きが遅くなった!?
全力で足を動かしてる感覚はある。でも水の中で動いてるみたいに重い。これ以上頑張っても早く足を前に踏み出せない。
「こんのぉ!」
「無駄だよお姉ちゃん」
グラが乱打でアタシの腹をマシンガンのごとく打ちつけてくる。子供の体してるくせに、なかなかいいパンチを打ってくるじゃない。
足はグラの攻撃と入れ違うように元の速さで動くことができたけど、この高速のパンチを前にアタシは釘付けにされた。
「遅い遅い」
「この程度の速さなら――」
見えないほどじゃない。正確すぎる打撃ゆえに狙ってくる場所が絞れる。
楼凛拳なら対処も容易い!
が――またもやアタシの動きが遅くなった。グラの攻撃は止まっている。アタシの腕はまだグラの打撃に対して防御しようと動いてる。気持ち悪い感覚。
頭では防御はやめてるのに、体が脳の反応に遅れて通達されてる感じ。
「どう足掻いても無駄よ」
ガジェットの打撃にレーザーを躱し、防御しつつグラが言ってくる。合間にスコープの射撃が放たれていたが、どれもグラの手に掴まれて手折られてしまう。
「くそ魔族め!」
「クソはどっちかな。私から言わせてもらえば? お姉ちゃんたちの方がクソよ。この世界にとってもね」
折った矢をグラは放り投げてきた。最初は普通の速度――それが突然ギュン! と素早くなってアタシの頬を掠める。
反応が一瞬でも遅れてたら今のでやられてた!
だが何度もグラの魔法を見たおかげで大体の効果が見えてきたわよ。まずは高速移動と相手の鈍足化。一つ一つは脅威だけど、同時に展開はできてない。
次に魔獣の召喚だけど、面を手のひらに生成してたところから察するに、魔将に与えられたデフォルトの能力の可能性があるわね。
だったら一番考えるべきは高速化と鈍足化の魔法。
でもこの動き、何かに似てるような。どこかで見たような気がするんだけど、アタシたちの世界で……そうだ!
「動画だ!」
グラがピクリと反応した。
そうだ動画だ。R.O.DとかDVDでアニメとか動画を見た時にある倍速と低速にそっくりだ。
それに今の反応からしてビンゴなんじゃない?
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




