第29話 作戦開始
あの後もグラと紅龍散策してたんだけど、おかしな発言はなかった。子供だし、不意に思いついた事を口走っただけなのかもしれない。
かなり遊んで仲良くなれたしね。
宿はどうしようと思ったけど、警備隊詰め所に戻ると泊まって良いって事だったから遠慮なく泊まらせて貰った。
かなりの人数と雑魚寝する環境だったけど、この際贅沢は言ってられない。
アタシはグラと一緒に眠りについた。戦いから休む間もなく移動に会議と続いたから疲れてたみたいで、すぐに夢の世界に入っちゃった。
朝起きると疲れは綺麗さっぱり取れていて、作戦開始時間の1時間前に目が覚めた。
グラが居ない……。一緒に寝てたはずなのに……。トイレかな?
「ゲスト。時間だ……どうした?」
警備隊員達がまばらに起き出して身支度をする中、グラを探していた所にスコープがやって来た。
「いや。グラが居なくて……」
「グラが?」
「夜まで一緒にいたのよ? ここに……。朝起きたら居なくなってて……」
「トイレじゃないか? まあ問題ないだろ。この街に居れば心配はない。気になるならここに残る隊員に探してもらう様に伝えておくが……」
「そうね。お願い」
「了解」
作戦開始時間は迫ってる。グラの事は気になるけど、もう行かなくちゃいけないし、ここは隊員に任せることにした。
アタシはクラフトアックスとグローブの調子を確かめる。マロン達の調整がない分、問題なく動くか心配だったけど、装着も出来るしどこも異常がなさそうだ。
「よし。準備出来たわ」
「なら早く来い。ガジェットの野郎はとっくに方舟に向かったぞ」
「早いわねぇ……作戦開始時間までまだ余裕はあるんでしょ?」
明朝5時だったはず。R.O.Dを確認すると3時と表示されている。なのにガジェットはもう方舟に向かったって、相当気合が入ってるわね。この作戦にそれほど集中してるって事なんだろうけど。
「時間に余裕はある。ただあいつ……方舟の事を相当気に入ったらしくてな。記録に残すんだ〜っつって出ていきやがった」
「あー……そういう」
魔具が好きな人間ってみんなこうなのかな? イデアはまだマシだったけど、マロンは目の色変えて見た事ない魔具に張り付く勢いで食い付いてたけど。
未来のマロンはガジェットと仲が良かったってガジェット本人から聞いた。なんでもマロンに魔具生産の基本をレクチャーしたのも彼らしい。
要は師匠だね。マロンの――レイチェルの師匠。
ガジェットが居なかったらアタシの世界にはR.O.Dが生まれなかったってことだ。
「そんなわけだからさっさと行くぞ。あの魔具マニアが勝手に方舟を操作して飛び立つ前にな」
「そうね。さっさと行きましょ」
体の調子も良い。悩みは……まだ昨日のグラが言った言葉が気にかかってるけど、後で考える様にしよう。
敵はすぐ目の前に居るんだ。ここで一気に攻勢に出なくちゃね。
――――――――――――――――――――――
方舟を起動して空に飛び立ったアタシ達は最後のブリーフィングを行っていた。
目標は魔族の巣である海上の塔。あそこに存在する魔将の討伐、そして巣の破壊だ。
2人の話によるとあの巣は魔王の【防御魔法】である【ファイアウォール】を強化する触媒の可能性が高いとの事らしい。
確証はないけど、エレオノーラが魔王と戦った際、他の巣を無視して奇襲を掛けた結果、魔王に全ての攻撃が弾かれた。その時に見えた波紋が巣の天辺、空に拡散する波紋と瓜二つだった事からそう考えたってエレオノーラは言ってた。
「まあ技術者の僕から見てもその仮説は正しいと思うよ。あの巣から発せられる波紋の反応は、団長達が魔王と戦闘していた時に微量だけど観測された物とそっくりだったからね」
ガジェットが言う。
弱点である【神気】を防ぐ手段を持つ魔族は居ない。なのに魔王の【ファイアウォール】は【神気】すら通さないほどの強度を誇っていた。
そんな事1人の魔族だけで成り立つはずがない。つまり何か強化している可能性がある。
それがあの巣であると見たらしい。
「各国に設置された巣を全部壊せば魔王の防御も弱まるはず。だからこの作戦は必ず成功させないといけない」
「そう言うこと。まあここを壊したとしても残り王国、中立都市の2つを破壊しなきゃね〜」
先は長そうね。
ブリーフィングを行っていると、巣が迫ってきた。もうすぐ到着だ。
方舟から見下ろせる海上では警備隊とモンク達を乗せた連合軍船団が、魔族の船団に向かって魔法を打ち込み、飛び移っては敵を蹴散らしていく様子が見える。
海が……燃えてる……。
戦況は劣勢みたいだ。連合軍側の魔法は魔族の船に直撃する前に見えない壁にぶつかり無効化している。
「やはり【ファイアウォール】を備えてるか……」
スコープが険しい顔して言った。
あれが……。巣が近くにあるから展開できてるのかも……。ならアタシ達が巣を破壊しない限り連合軍に勝ち目はない。
こうしてる間にも人が死んでいってる……。目を逸らしたい光景だけど、皆覚悟してこの作戦に臨んでるんだ。
「早くなんとかしなきゃ……」
「ああ」
「さあもうすぐ巣に着くよ」
巣との距離もかなり近づいた。
アタシは方舟の操縦席に座りパネルを操作して着陸可能地点を検索する。場所は巣の裏側の海上。そこには魔族の数が少なく比較的安全そうだったから、そこを着地地点としてマーキングした。方舟はすぐに降下体制へ移行する。
「後ろのハッチが開くわ」
方舟の後部ハッチが開く。外からの風が戦闘で巻き上げる熱を帯びて血の香りと共に鼻腔に突き刺さる。
「おし。なら飛び降りるぞ? いいなガジェット、ゲスト」
アタシとガジェットは頷いて返事を返した。
礼儀正しく着地してから降り立つなんて真似はしない。この瞬間にも攻撃が飛んでくるかもしれないしね。
だけど、巣には中に入り込めるだけの入り口が見当たらない。入り口が元から無い?
「どうやって中に?」
「そうだな。ここは我らが技術者のガジェットに開けてもらうとしよう」
「オーライ。任せて」
ガジェットがニヤリと白い歯を見せて、装備してある魔具を動かす。スーツに取り付けられた筒状の魔具が巣に向けられた。その先端に光が収束していく……。ってこれっまさか!?
「開け……」
光が一際輝きを放ったと同時、筒状の魔具から極太の光線が巣へと伸びた!
その反動でアタシ達を乗せた方舟が大きく揺れる。
この威力……マロン砲とかイデアルキャノンの比じゃない!?
ドゴオオオオオオオオオン!!!
ガジェットの放った光線が鋼鉄の壁を砕き、大穴を開けて中の様子が伺える。真っ暗だけど少し赤く照らされてる……。フェイから聞いたエレオノーラが魔王城に侵入した光景と同じね。
「よし突入だ!」
スコープがワイヤーを大穴に向かって射出し、飛んで向かう。ガジェットもその後に続いて装備された飛行魔具で飛んで向かってく。
アタシも負けてられない。
【神気】を足の裏側に集中させて爆破。爆風の威力で大穴へと突入するのだった。
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