第22話 敵意……あなたは誰?
保安官全員の協力もあり、2人は城塞屋上まで無事にやって来る事ができた。
フォルティナはポケットから取り出したコンパスを確認すると目の前を差している……そして前方にはコートにフードを被り姿が分からない人物が1人両手を優雅に動かしながら地上を眺めていた。
「居た!あの人が犯人よ!」
「あからさまな格好してやがる……違いねぇ」
2人は目の前の人物が騒動の犯人だと判断しモルトが声を掛ける。
「おい!お前! お前がこの乱痴気騒ぎの犯人か?」
フードの人物は手を下ろし2人の方に振り返り答える。
「あらあら 私のお人形遊びが何故か思った通りに楽しめないと思えば、今度は、もうここまで来る人達がいるなんて……」
「お前が犯人かと聞いてんだ! とっとと答えやがれ!」
声は若い女性である事を認識したが姿は分からないモルトは怒鳴るように問うと女は軽く笑いながら答える。
「ふふ……えぇ。そうよ 私がやったと言えばそうよ? だから何?」
女は悪びれる様子も無く聞き返してくる。そんな様子にフォルティナが問う。
「だから何?って何よ! アンタが売り捌いた香水とか、お香で街のみんながおかしくなってるんでしょ!反省もないの!?」
「反省? あるわけ無いじゃない! むしろ反省するのは旧人類の貴方達の方よ?」
女は怒りがこもった声でフォルティナに反論する。
「旧人類? 一体アンタ何を言ってるの?」
フォルティナは理解が出来なかった、女の態度そして旧人類という言葉に……モルトが話しだす。
「旧人類……なるほどな。おいガキンチョ……こいつは超大物案件だ……こいつは大陸テロ組織【エクリプス】の構成員の1人だ!」
「大陸テロ組織? 【エクリプス】? それがなんなのよ!」
フォルティナの疑問にモルトは汗を垂らしながら女から視線を外さずに答える。
「【エクリプス】は先天的に体内に宿る魔気が人より数百倍多い人間達で構成された組織だ……つまり、あいつはR.O.D無しで魔法がバンバン使える化け物だ!」
モルトの言葉にフォルティナが答える前に女が怒り話し出す。
「〈化け物〉……また貴方達は私たちの事をそう呼ぶのね? 私達は貴方達に何かした? ただ産まれて生きてただけで虐めて! 迫害して! 体を弄りまわって! 貴方達の方がよっぽど化け物よ!!」
フォルティナはモルトとその女の言葉に理解が追いつかず聞いていることしかできない……
モルトは女と会話を続ける。
「知らないね! 俺様はお前に何もしてねぇのに被害にあったぞ! この街の連中もお前に何かしたってのか? 答えろ!」
「なにもされてないわ……ただね……憎いの! 私達はただ生きるだけで精一杯なのに旧人類ときたらなに? 観光? 豪華な食事に娯楽三昧!! 私達にはそんな時間は無かった! 今もね! だから成り代わるの! 私達こそが新たな人類であることを証明して!貴方達旧人類を支配するの! これはその為の力よ!!」
「違う!!」
2人の会話にフォルティナは叫び割って入る! そして女に語り出す。
「力はそんな支配してされての為に使うものじゃ無い!! なんでその力を人の為に使おうとしないの?なんで人を傷つける事にしか使えないの!?」
「はぁ……やっぱりティナちゃんは頭がお花畑ね……」
女はため息を吐き呟いた……その言葉に疑問を持ったフォルティナは女に問いかける。
「な……なんで……アタシの名前を知ってるの?」
女はふふッと笑いながら答える。
「貴方の事はよく知ってるわ だけど残念厄介な人が来ちゃったから私はここで帰るわね?」
「待ちやがれ!! 逃すと思ってんのか!!」
モルトが走り出し拘束しようと女を掴もうとするが……手が体をすり抜けた……
「なに……!」
体をすり抜けたのではない! 女の体が空気に溶けモルトの手をすり抜けた! そして女は空に座るように浮かんでいた。
「ざんねん! 惜しかったわね?」
「こいつ……」
何が惜しかっただ……ヤロウと俺様との力の差は歴然……勝てるイメージが湧かねぇ……
「まぁ。せっかくここまで高めた【憎悪】ですもの……このままハイ終わり! じゃ、つまらないものね……そこで私から貴方達にサプライズプレゼントを用意したわ!」
「何を!」
モルトが問おうとするが女は空中で何かを唱える。
「【来たれ憎悪の具現……ランドール!】」
そう唱えた女は空に両手を掲げ紫色の糸のような光を束ね……巨大な球体を精製する!
「あれは一体なんだ!」
モルトが問うがフォルティナがモルトに告げる!
「モルト! 街のみんなが!」
フォルティナの言葉にモルトは下にいる観光客と保安官に目をやる……そこには観光客のみ倒れている光景が目に映った。
「テメェ!何しやがった!!」
モルトの叫びに女は光の玉を維持しながら答える。
「ふふふ……これは街中の【憎悪】を束ねたエネルギーよ? 今まで高めた憎悪をこの街から回収したの そして……見て? 出てくるよ!」
女が話し終えると光の玉から手が生える! いや出てきたのだ! 続いて憎悪に満ちた表情の顔が出てきて……光の玉は霧散し中から全身が現れる……
それは顔以外を鎧で固め表情は憎悪に歪んでいたが美男だったはずの顔……そしてマントを羽織った巨大な人物だった。
「お前……まさか……」
モルトが驚きを隠せず口を開く……それを見た女は笑いながら答えを告げる。
「あははは! えぇそうよ! 集めたエネルギーで勇者ランドールを召喚したわ! プレゼント喜んでくれたみたいで良かったぁ」
「そんな……」
女の召喚した勇者ランドールにフォルティナは絶望しかける……自身の体の4倍近い巨体が現れた事に……
「うふふ……それじゃ私は行くわね? バイバイ うるさいおじさんに……ティナちゃん」
「待ちやがれ! うおっ!!」
モルトは女が飛び立つのを手を伸ばし止めようとするがランドールの腕に阻まれる!
女は空を飛び追いつけない場所まで移動していた、悔しげな表情をした後、巨大な勇者ランドールに向き合いフォルティナに語り掛ける!
「やべぇぞ……ティナ……おい!ティナ!」
フォルティナは女の正体について考えていた……何故自分の名前を知っているのか……何より
アタシの事をよく知ってるって……誰なの……?
「おいティナ! この馬鹿野郎!! 避けろぉ!!」
判断が鈍りランドールの腕の振り下ろしに気付けないフォルティナ……モルトは走り飛び込んでフォルティナを突き飛ばす!
――ドオォォォォォン!!――
「モルト? モルトォ!」
モルトが居たはずの場所はランドールの腕に潰されていた……
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