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無知な田舎娘は未知に憧れを抱く!  作者: ギトギトアブラーン
第13章 天魔大戦 滅びの未来編
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第21話 心のない魔族達

 左腕を失ったグリダリアは、同族である魔族が占領したフロンタイタス、その中央に聳え立つ塔の中まで戻っていた。中はただ鉄で出来た空間に幾何学模様のラインが真ん中にある容器へと伸びている。

 ――培養ポッドだ。そんなポッドに向かって左腕を押さえながらなんとか辿り着く。



「痛い、痛い痛い痛い! なんなんだあの汚染体は! なんで僕の体がこんなになっちゃってるんだよ。僕の体は汚染体の攻撃なんか効かないはずなのに!」



 培養ポッドの前にあるコントロールパネルを片手で操作し、起動させた。

 この中に入れば損傷した体はどんなものであれたちまち再生する。それはそうとさっきからなんなんだ、この胸をモヤモヤする感じは……。わかんない。わかんないよ!



 操作を終えるとポッドが開いた。その中に入り込もうとした時、部屋の中央に白い少女の姿が投影された。

 僕と同じ白い体、赤い瞳。一見幼い少女のように見える彼女は、人類が魔王と呼ぶ存在でありママだ。



『グリダリア。戻ったか』


「今帰ったよ……ママ」



 魔将と呼ばれる僕らの存在はこの人から生み出された者。故にママだ。

 胸の奥から湧き上がった正体不明の気持ち悪さは、ママの声を聞いて和らいでいく。

 挨拶もそこそこに僕は容器に入る。すると橙色の液体が頭の先まで満たしていく。呼吸は出来るように調整された特殊な液体だ。

 プカプカとポッドの中で浮かびながらでも会話はできる。

 ママはそんな僕の体を見て口を開いた。



『随分と損傷しているようだが、何があったか報告しろ』


「うん……。ママの言ってた通り、村に汚染体が攻め込んできたんだ。でもその中の1人が頭おかしくて……。僕らと同じように無詠唱魔法を使って、しかも炎の魔法まで! しかもその力が僕の体を傷つけたんだ!」



 ママから汚染体が食料を求めて最前線付近の村を奪還に来ると聞いて村の警備の命を受けたっていうのにこの有様だ……。ほんとあの汚染体のお姉さんは何者なんだよ。



『ほう……無詠唱魔法に炎の力だと?』

 


 ママは興味が湧いたような顔で首を傾げる。ママは変わった。僕が生まれた時のママはこんな顔をする人じゃなかった。もっと怖くて、冷たい感じの人だった。

 時が経つにつれてなんだか優しくなったり、何かに興味を示すようになってきた気がする。

 今回もそんな顔をしてる。



『興味深いな。我々の肉体を損壊させる力を持ったのは【偽神】と呼ばれる過剰データ体だけだと思っていたが……』


「【偽神】なんて僕知らないよ! でもあいつは危険だ!」


『だが、お前はそんな奴から生きて帰ってきたではないか。母は嬉しいぞ? お前の無事が』


「うれ、しい?」



 なんだよその言葉。わかんない。嬉しいってなんだ。その笑顔はなんだ。ママは一体何を感じてるんだ?



『そうか……お前はまだ嬉しいを知らないのだな。ふむ。どうやら我も随分とこの世界に毒されたようだ』


「そんな事ない! ママはどこもおかしくなってないよ!」



 毒されたって、どこか悪くしたって事だよね!? でもママはどこもおかしくなったりなんかしてない!

 そう必死に答えると、ママはふふっと笑って答えてくれた。



『ありがとう。だが事実だ。感情というシステムを埋め込まれていなかった我々が、徐々にこの世界の影響を受けて感情を手にし始めている。それは我も他の魔将も同じ事だ。お前はまだ生まれて日が浅い。故にまだ汚染されていないのだろう』


「なら僕もいずれは……」


『例外なく汚染されるだろうな。だが別にそれが我々にとって不利益に働くものでもない。やる事は変わらず汚染体の削除だ』


「うん……」



 要は別に深く考えなくて良いって事だね。

 ホッと息を吐いて僕は液体に身を委ねる。シュワシュワとした感覚が損壊した左腕を刺激する。

 目を移すと、塵のように少しずつだが肉体が再生していっている。完全回復までそう時間はかからないだろうね。



 そう考えていると、この部屋にもう1人、白い体の少女が入ってきた。しかもスキップしてだ。

 天真爛漫。そう言われたらそんな印象を受ける一見陽気なボブカットの少女。



「お兄ちゃんおかえり〜。ってあれあれ〜? 左手どうしちゃったの? 吹っ飛んじゃった?」


「グラリュース……。なんでここにいるの? 共和国の汚染体の削除に忙しいはずじゃ」



 グラリュース。僕より少し後に生まれた魔将が負傷した体を見てはくすくすと笑ってる。

 なんだかムッとしてしまうけど。こいつのこの調子はいつものことだし、お兄ちゃんだし、気にしないようにしよう。

 そんなグラリュースはママから汚染体の生き残りが蔓延る共和国に送り込まれてたはず。

 だと言うのになぜフロンタイタスに?



「えー。お兄ちゃんが怪我したって感じたから戻ってきたんだよ〜? お兄ちゃん思いの妹にその言い方なくな〜い?」


「なにがお兄ちゃん思いだよ。感情も無いくせに汚染体みたいなこと口走っちゃってさ」


「えへへ〜。良いじゃん別に〜」



 グラリュースはどこか汚染体に興味があるようで、こうして汚染体の言葉をよく語ってみせる。

 正直僕には理解できない。あんな消されるべき存在のどこに興味が湧くって言うのか……。



「あ! ママ!」



 そんなグラリュースもこの部屋に投影されたママの姿に気づき、抱きつこうとダイブしたが、まあ実体の無いホログラム故、すり抜けてゴテンと床に頭を打っている。



「いたた……」


『グラリュース。我は映像であると気付いて何をしている……。しょうがないやつだな』


「えへへ……」



 ママもママでそんなグラリュースに笑みを向けている。

 僕の怪我の方が酷いのに、なんでそっちの方を心配するのさ。

 むぅっとしていると、グラリュースがニマァっと僕に顔を向けて――



「お兄ちゃん、羨ましいの〜?」



 ドキッとした!



「な、ななななんだよそれ! 羨ましいってなんだよ! 意味分かんないこと言うなよ!」


「あはは〜。図星図星〜」



 こ、こいつ! 僕の体が本調子だったら今すぐぶっ壊してやりたいところだよ!

 そんなグラリュースをママが諭した。



『グラリュース。あまり兄を揶揄うものではない』


「は〜い。ごめんなさいママ」


『してグラリュース、貴様に与えていた命令だが、ここにいると言う事は順調なのか?』


「ん〜ん〜。ちょっと厳しいね〜。共和国の汚染体ってさ、地味に強くてやりづらいんだよね〜。魔法主体の王国、帝国と違って野生的な汚染体が多いからさ〜。レギオン程度じゃてんで敵わないのなんの……」


『そうか……それは大変だな』



 グラリュースは僕と同じ子供だけど、魔将としての戦闘能力はかなり高い。それなのにこう言うって事は、それ程厄介な汚染体が多いんだろう。



『まあゆっくりやると良い。どの道、共和国の占領は他の地方のテラフォーミングが完了してからでも遅くは無いのだから』


「は〜い! まあボチボチやるよ。安心しててマーマ」


『ああ。貴様のことだ、きっと上手くやると我も信じている』



 ママの言葉にグラリュースは惚けた顔でニヤついている。なんだよその溶けた感じの顔は。だらしのない……。



「なら本当にここに来たのは僕のことを心配して?」


『それもあるけど〜。私的には〜? お兄ちゃんをそこまで追い込んだ汚染体のことが聞きたいかな〜なんて』



 そっちの方がメインじゃないか。なんだよ……。僕のことが一番じゃないのかよ……。



「いいよ。今データをサーバーに送ったから。アーカイブで覗いてみて。僕は疲れたからスリープモードに入る。おやすみ、二人とも」


『ああおやすみ。グリダリア』



 ママの言葉を聞いて僕は目を閉じた。これ以上の会話は意味がない。知りたい情報なら魔族間で共有された仮想データサーバーに意識を集中させてアクセスすればいつでも閲覧できる。

 何も直接話を聞きに来る必要なんかないのに。



「えー! せっかく来たのにもう寝ちゃうの〜? お喋りしよ〜よ〜! ね〜え〜!」


『こらこらグラリュース。兄は酷く損傷してるのだ。そっとしておくのが妹というものだろう。我はそう学習したぞ?』


「そうなの?」


『そういうものだ。では我も仕事に戻る。貴様も自分なりに命を果たしてくれ。ではな』



 フッとママの姿が消えた。

 残されたのはグラリュース一人……。



「お兄ちゃんも寝ちゃったし……。ん〜」



 どうしようか悩んだ末にグラリュースは一つ閃いた。

 そうだ……。どうせまともにやり合っても倒せないんだし。汚染体のところに行って遊んでこよっかな〜。



 そう考えたグラリュースはスキップしながら部屋から出ていくのだった。

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