第19話 時代遅れの魔法が未知の魔法を砕く
【伸縮魔法】――魔法黎明期に開発された人類史上最も最古の収納系魔法の一つ。
【魔気】の消費が少なく、一度付与すればサイズは固定される画期的なものだった。
しかし時代が流れるにつれ、同系統魔法【圧縮魔法】が生まれる。
【伸縮魔法】とは違い対象全体のサイズを調整できるのだ。対する【伸縮魔法】直線上にしかサイズを調整できない。どちらが人々に選ばれるかは結果は見えていた。
そんな【圧縮魔法】は鞄、リュック、服のポケットにまでこの魔法が付与され始めると、かつて皆が使っていた【伸縮魔法】は人々の記憶から消えていくことになった。
時代遅れの収納系魔法。こんなの使うぐらいなら別の魔法を入れた方がいい。
そう言われてきた魔法を、1人の少女が魔法技術が発展した時代に愛用し始めた。
皆からは馬鹿にされ、魔法を変えた方がいいと言われながらも少女は聞かず使用し続けた。
それは自分が選んだ最初の魔法をあまりにも馬鹿にされたことに対してヤケになったからかもしれない。
だが少女はこの魔法を信じて使い続けた。
まるでその魔法が体の一部のように自然と扱えるまでに……。
――――――――――――――――――――――
巨大な瓦礫で出来た体が唐突に崩れ落ちていく。別にアタシが打撃を加えたとかすごい魔法でぶっ飛ばしたってわけじゃない。
ただ手を伸ばして唱えただけ――【伸びろ】ってね!
「なんで!? なんで僕の体が壊れるの!? 計算が狂った? いやそんなはずない! ちゃんとデータ量を把握して接続したはずなのに!」
グリダリアが崩壊する瓦礫の体から響いてきた。
アイツは今混乱してる。だってアタシの魔法がアンタの魔法を侵蝕してるなんて思いもしないんだろうからね!
「【伸びろ伸びろ伸びろ!】」
続けてアタシはスコープの突き刺したボウガンの矢に手を伸ばして唱え続ける。
伸ばして1m。瓦礫の体のあちこちから棘のように矢伸びると、同時に体のどこかが崩れ落ちた。
上限オーバーだ。矢に蓄積されたアタシの【神気】が【接続魔法】の上限をオーバーさせたって事だ!
アタシは駆け出してアイツの体に登り始める。凹凸を掴み、足を引っ掛け上へ上へと。
途中スコープの矢が突き刺さる。
アタシの狙いは出来るだけ、グリダリアの体に接触してマーキングを施すってものだ。
小さい物なら離れた場所でも遠距離で発動することが出来るけど、大きいとそうはいかない。接触してアタシの【魔気】をマーキングする必要がある。
まあ途中でスコープの矢のサイズを変えて妨害もしちゃうんだけどね。
「そうか、そういうことか! お姉さんやってくれたね!」
気付かれた……。流石魔族って名前だけあって魔法関係には強いみたい。
グリダリアは腕と頭部の瓦礫の接続を切り自ら崩壊させる。考えたわね。接続を自分から切って空き容量を確保してきた!
「でも仕掛けに気付けば!」
接続を切られた瓦礫のうち小さな破片だけがアタシの元に迫ってくる!
再接続ってやつね! 上限をオーバーしない程度を選んで遠距離攻撃に切り替えてきた!
「スコープ! 手当たり次第にアタシの側に矢を打って!」
『了解だ! ゲスト』
説明不要! 流石精鋭だね。言った通りアタシの近く目掛けて迫る矢。グリダリアの攻撃よりも早く精確だ!
「キーパー! 今いける?」
『レギオン共を潰しながらできる範囲ならな!』
地上をチラリと見ると、キーパーが飲まれそうな勢いで迫るレギオンの大群を魔法とと槌を上手く使って1人で相手してた。余裕なんて有りそうに見えないのに、それでもサポートに手を割けるなんて、流石ね。
まあ遠慮せずお願いしちゃうんだけど!
「スコープの矢を空中で固定して! 今すぐ!」
『歳上使いの荒い嬢ちゃんだ。了解した! 少し待て!』
キーパーが槌での大振りでレギオンを蹴散らしアタシの方へ手を向けた。するとスコープの矢がピタリと空中で動きを止める。
迫る破片! アタシはスコープの矢に向かって飛んで破片を交わしながら上へ目指し続ける!
『ひゅ〜♩ サーカスかよ』
キーパーが茶化してくる。
結構余裕そうだし、もっと要求しても良さげね。
「スコープ。どんどん打っちゃって? キーパーの馬鹿がサボろうとしてるみたいだから」
『オーケー。任せな!』
『おいおい。誰も手なんか抜いたりしてないぞ。俺だって必死なんだぜ? まあやってやるけどな!』
心強いじゃん! 王国で習った連携とはまた違った連携だね。しかもこっちは味方が精鋭な分余計な説明がいらないし、アタシの考えを察してくれる早さが尋常じゃ無いほど早い。やり易くて助かるよ!
追加で固定された矢に捕まり、足場にして飛んで進む。
グリダリアの魔法により破片が追加されたみたいで、魚群のように迫ってくるけど――
そうやって意識をアタシに向けてばっかでいいのかな?
「縮め!」
バカンッ!
グリダリアの巨大な体を支えて立ってた足が圧縮されたように砕けた!
「今度はなに!? コストは余裕を持たせてたはず! なんで壊れた? なんで――」
「上限を管理してたとしてもさ、アンタの汲み上げたその体、元のサイズを考えて汲み上げた物なんでしょ?」
アタシはようやくグリダリアの胸部にもう一度辿り着くことができた。そんなアタシは【神気】を腕に集めつつ、解き放つタイミングを見計らって、続ける。
「そんな体の一部が突然小さくなったら? まあ足の骨がいきなり抜け落ちたみたいになって崩れるわよねぇッ!」
「ッ!!!?」
声にならない驚きがグリダリアから漏れた。
コイツは接続って未知の魔法を使う魔の真髄を会得してるのに、アタシの使う時代遅れの魔法についてなんにも分かってないみたいね!
「なんなんだよ! その魔法は! そんなチンケな魔法が僕の【接続魔法】より優れてるなんて有りえないよ!」
「別に優れてなんかないわ。だってこれ、アタシの知り合いみんなが言うには時代遅れの使い物にならない魔法って言われてるんだから!」
アタシはグリダリアの胸に向かって【伸びろ!】と叫んだ! そこにはアレが埋まってる。アタシが後生大事に握り続けた相棒――クラフトアックスが!
「しまっ――」
ズガガァァァン!!
胸部からクラフトアックスの柄が何十mも伸びて奴の上限を突破し体を粉砕した。
だけどまだ――まだグリダリアの本体は見えない!
アタシはスコープの矢を踏み込み、クラフトアックスの柄に飛び移る!
【接続魔法】が【魔気】の量で構造を左右するんだったら。全部盛り盛りでぶっ込んであげる!
掴んだ柄――ハンドル部分を一気に捻り刃裏に備え付けられたブースターが点火される。
そうこれも【魔気】だしね!
200%の出力で放出された【魔気ブースター】に耐えきれず、グリダリアの【接続魔法】の上限を遥かに突破したのか、奴の瓦礫の巨体は全て崩れて、胸部に残った小さな体が空に浮かんでいた。
本体だ! 今の奴の顔を見るに相当焦って見える!
やるなら――今!!
スコープの矢がアタシの目の前に道を作るように固定された。阿吽の呼吸――スコープとキーパーもこれがチャンスと見てすぐに対応してくれた!
アタシはクラフトアックスのサイズを戻して、その矢の道を駆け抜ける!
「くそ! 嫌だ……やだやだ! 僕はこんなところで――」
「うおおおおおおおおお――――ッ!!」
あらかじめ腕に注いでた【神気】をクラフトアックスに流し込む! もうアイツを遮る瓦礫も防御もない! ぶち抜いてやる! そしてアタシ達は村を取り戻――
「死にたくないッ!!」
「!!?」
その時見えた……。見てしまった。
グリダリアの目から流れる涙を。震えて縮まる体を。
必死に手で顔を覆ってアタシの攻撃から目を背けるように――その姿はどうしても幼い子供にしか見えない。そんな叫びを聞いてアタシは――
『迷うな! やれぇぇぇ!!』
キーパーの叫びにハッとした!
そうだ。コイツは子供じゃなくて魔族だ! それも人類を絶滅寸前まで追い込んだ。子供なのは見た目だけ……。見た目だけなんだッ!!!
「――ッ!! 【破砕龍!!!!】」
アタシの全力の一撃がグリダリアの――左腕を砕き抜いた。
『この馬鹿が!!』
キーパーの恫喝が耳に届いた。
躊躇ってしまった……。魔族って分かってても無理だ。どんなに相手が残忍な存在でも、この子だけは――どうしてもアタシには本当の悪人には見えない!
「くっ!!」
ドゴォォォォン!!
グリダリアの体ごとアタシの攻撃が地上に突き刺さった。クラフトアックスの下にはグリダリアが涙を浮かべて嗚咽を漏らしている。
やっぱりどこからどう見てもアタシの目には年相応の子供の姿にしか見えないよ。
「どうして……」
嗚咽を漏らしながらグリダリアが聞いてきた。
「うっさい。アンタ達魔族は心の無い殺戮魔獣だって分かってる……だけど、今のアンタを見たら本当にそうなのかなって思っただけ……」
「後悔するよ?」
「かもね……。でもアタシはアンタ達のことをまだ話でしか知らない。ここでアンタを殺したら――その涙の意味を分からないまま殺したらアタシもアンタ達と同じ殺戮人間になる。そっちの方が後悔するって思っちゃっただけよ……」
インカムからキーパーとスコープの怒声が響き続けてる。分かってる。アタシの今やってる事はエレオノーラにアンタ達2人を裏切る行為だってことは……。でも無理! どうみてもこの子が心のない魔族だって見えないんだもの。
「行って……。行ってもう2度と帰ってこないで! 次にアタシの前に出てきたらその時は容赦なくアンタをぶっ壊してやるんだから!」
「くっ!」
グリダリアは悔しそうな顔を浮かべたまま瞬時にアタシの前から姿を消した。まるでハヤトの【テレポート】のように……。
今のアタシのした事は絶対に許されない事なんだろうね……。でも……。
『死にたくないッ!』
【破砕龍】をぶつける瞬間に見せたグリダリアのあの顔……。あれは感情がない存在のものなんかじゃなかった。
もしかしたら心があるのかも知れない。
そうだったら戦い合う必要もなくって、言葉で分かりあうことができるんじゃない?
そう思っちゃったのよ……。ごめんなさい……。みんな。
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