第16話 廃村マインツ村奪還作戦②
スコープの無線からの指示で、巡回するレギオンを躱しつつ、教会から中央にある村長宅へ続く坂を下るアタシとキーパー。
レギオン。
この前ちょこっとは見たけど、よく見ると人型ではあるが人間じゃないみたい。
でも二人体制で巡回するあたり、多少の知恵はあるらしい。
そんなレギオンを興味深そうに見ていると、キーパーが教えてくれた。
レギオンは知能を持たない魔獣のような存在だと。
なら、この統制された動きは何なのか。
どうやらレギオンを使役する隊長格のドミニオンが指示を出しているからだと。
ドミニオンならこの前戦った奴だし、多少理解はある。魔法を使って喋る奴だ。
キーパーの補足によれば、ドミニオンもレギオンと同じ魔将から生み出された存在で、備わった魔法は違えど見た目は皆同じらしいね。
そんなガイドを受けながら進んでいると、気づけば目的の場所まで辿り着いていた。
村長の家の前にはレギオンが多数配置されている。外から見たままだ。だけど動きはなく、じっとしたまま。
まるで石像みたいな……。
「スコープ。ドミニオンは確認できたか?」
『いや。ここからじゃ見えないな。キーパー、ゲスト。そこからは見えないのか?』
そう言われても、見渡す限りレギオンの突っ立った姿しか見えない。
中央広場にはいないのかもしれない。そうなると森の中かな?
【気】さえ察知できれば探すのも容易いんだけど、こいつら【気】そのものがないのか、一切感じ取れないんだよね。
魔族って、そこんとこアタシ達とは別の存在だってことを思い知らされるよ。
「ゲスト。この辺りで村を一望できる場所はあったりするか?」
一望ねぇ。確か魔獣を監視する高い櫓があったはずだけど……。
アタシは自分の世界で見た村の櫓を探す。村の構造自体は同じようで、すぐに見つけることができた。
櫓の上には小さな……男の子? みたいな姿が見える……。気のせいかな? こんな場所に子供がいるわけが――
「どうした?」
「いや……アタシの目がおかしいのかな? 櫓の上に子供の姿が見えるんだけど――」
瞬間、キーパーの顔が引き攣った。
アタシ、何か変なこと言った!?
「おいスコープ! そこからゲストの言った櫓が見えるか!?」
『ああ。見えたぞ。建物と伸びまくった木の枝で隠れちゃいるが――確かにゲストの言った通り、子供みたいな姿をしたヤバい奴がいるな』
ヤバい奴? アタシにはただの子供にしか見えないんだけど……。
目を凝らす。そこにいる子供の肌は色白だ。色白? いや、真っ白だ。血色が悪いなんてもんじゃない。
そんな子供が頬杖をつきながら向こう側の空を眺めている。
なんとも可愛らしい見た目なんだけど――
「まさか魔将がこんなとこにいるなんてな……」
「魔将!? それってさっき言ってた――」
「ああ。ドミニオンを生み出す、魔王に次ぐ実力者共だ。あんな子供の見た目してるが、人類の六割を葬ったバケモンだぞ」
「あれが……」
そうは見えないけど、キーパーが言うなら事実なんだろうね。
アタシは息を呑んでクラフトアックスに手をかける。
すると、その子供の目がチラリとこっちを向いたように見えた。
「気づかれた! 来るぞッ!」
「えっ!? なになに!?」
キーパーがアタシの体を抱え、全力で前にダイブした。
すると、アタシ達が立っていた場所を――浮かび上がった建物が叩き潰すように撃ち下ろされた。
間一髪……。キーパーがアタシを庇ってくれなかったらミンチにされてたわね。
「あ、ありがと――」
「礼は後だ! ほら、魔将様のお出迎えだぜ……」
前を向くと、空からふわりと櫓の上にいた子供が着地した。近くで見ると、その白さがより際立って見える。
そして赤い瞳。この暗い空間でその目が怪しく煌々と輝く様は、背筋を凍てつかせるような悪寒を走らせた。
「やっぱり来たね。待ってたんだよ〜君達が上に耐えきれずここに来るのをさ」
「よお、クソ魔族……こんな辺鄙な場所に配置されてるなんざ、可哀想な奴だな? そのチンケな見た目通り、下っ端かなんかか?」
ちょっとキーパー、何挑発してんの!?
だけど、この魔将はそんな挑発を笑って返してくる。
その様子に全身から鳥肌が立った。こんな感覚は初めてだ。今までいろんな強者と対峙してきたけど、コイツは違う。
本能が逃げろって叫んでるのかな。戦うことを頭が全力で拒否してくるような……そんな感じだ。
「いいね。久々の獲物が意気の良いバカで助かるよ。そうなんだよ。僕さ? 他の将に比べて生まれたてほやほやだからさ〜。みみっちい仕事しか回してもらえなかったんだよね〜。可哀想だと思わない?」
「けっ。お前みたいなバケモンのどこを可哀想だと思えと? 冗談は見た目だけにしてくれや」
「ぶー。可哀想って言ってくれないなんて嫌な汚染体だなぁ。まあ良いや。じゃあ早速仕事に取り掛かろっかな。じゃあ――」
死ね。
という言葉と同時に、辺りの建物が子供の腕に吸い寄せられていく。それは巨大な腕のような形に整えられていく。あれが――魔法だっての?
「スコープッ!」
キーパーが叫ぶ。
瞬間、アタシ達の後ろからボウガンの矢が子供の眉間目掛けて放たれた。
容赦ない一撃――どんなに脅威的な存在だったとしても、この不意打ちは避けようがないはず。
それほどまでの速度だったのだが――
ガキン。
と、矢が子供の眉間に当たる寸前で砕けた。
いや――何かに当たった? 小さくてよく見えないけど、当たった瞬間、何かが弾けたように見えたけど――
『何ボーッとしてんだ! さっさと動け! 潰されるぞ!』
スコープの声が鼓膜を破る勢いで耳の中に響いた。
「いくぞ!」
キーパーに腕を掴まれ、その場を駆け出す。
同時に、動きを止めていたレギオン達が一斉にアタシ達に向かってくる。
「動き出したぁ!!」
「そら大将が自ら出張ってきたんだ! 部下であるこいつらも動き出すだろうよ!」
キーパーが手をレギオンに向けると、その内の一体が宙に浮かび上がる。それをレギオンが一か所に固まる場所目掛けて放り投げた。
これがキーパーの魔法……すごい。
って惚けてちゃダメだ! アタシも全力出さないと!
「【ムスペルヘイム!】」
両腕を広げて炎の波動を辺りに振り撒く。その波がレギオン達を飲み込み、吹っ飛ばし、焼いていく。
やっぱりアタシの【神気】はこいつらにめっちゃ効いてるみたい! これならやれる!
「へ〜。レギオンがこうも簡単に倒されるなんて……。お姉さん何者なのかなぁ」
子供がニヤニヤと笑いながら、アタシのすぐ後ろに降り立った。
振り返りざまにクラフトアックスを汲み上げ斬り掛かるが、建物の集合体――瓦礫の腕でいとも簡単に受け止められてしまう。
硬い……。ただの建物なのに!?
今の一撃なら建物ぐらい簡単に砕けるはずだった。
それが砕けない……ってことは、何かしらの力を込めてるってことね。
「すごいすごーい! 炎の無詠唱魔法に剛力! 俄然興味が湧いてきた! 名前! 名前を教えて欲しいな!」
「あっそう! でも生憎様……魔族には名前をバラしちゃいけないって、隣の怖いおじさんから言いつけられてんのよっ!」
クラフトアックスを強引に振り払ってアタシは子供の体を後退させてやった。
子供は面白おかしそうに笑う。何がそんなに面白いのか……。そんなコイツは言った。
「悲しいなぁ。でも僕は自己紹介しちゃう! 僕の名前はグリダリアだよ。さあ遊ぼう。君達人類が一人残らず消去されるその日までさぁ!」
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