第5話 シスターとの出会い
駆けっこで惨敗したフォルティナは家に戻り、夕食を食べながら将来冒険者になりたいと両親に話をした。
「反対だ!」
そんな父の強い言葉が部屋中に響いた。
「そうよ! 危ないんだからやめなさい!」
母も同じ意見のようで、フォルティナは反対されてしまった。ここまで強く反応されるとは思っていなかったフォルティナは、言葉が出てこなかった……
「冒険者なんてのは毎回命を賭けるんだぞ! そんな危険な仕事に、俺たちはついてほしくないんだ……わかってくれ……」
それもそうだ。命を賭ける仕事に笑顔で「いってらっしゃい!」と言える親なんて、どこにいるだろうか。
「どうしてあんたは、そんなに冒険者になりたいの!? 村で、うちで、安全に生きたいとは思わないのかい!」
母の問いかけに、フォルティナは正直に、冒険者になりたい理由を語ることを決めた。
「アタシね、将来のことなんてなんにも考えてなかった。村で、パパとママと畑仕事をしながら、村の人と結婚して、一生村で生きていくんだって……そう思ってた。……でも! 冒険者のおじさんに助けられたあの日! いろんな話を聞いたの! 夜も眠らない街のこと、古代の遺跡のこと! アタシは見てみたいの! 危ない仕事だってことはわかってるよ? 魔獣に襲われた時みたいなことが、当たり前の世界なんでしょ? でも、それでもアタシは冒険者になりたいの!」
言った……心からの本心だ。嘘偽りのない、アタシの想い――
「それでもアタシは!」
母も諦めなかったが、父が優しくその言葉を遮る。
「母さん、そこまでにしよう……そこまでの覚悟があるなら、応援はしよう。……だが、パパとママを安心させられるまで、特訓や勉強をすごく頑張ってみせなさい」
父は渋々認めてくれたが、本当は冒険者になってほしくないのだろう。複雑な表情をしていた。そんな父に、フォルティナは答える。
「わかったわ! いっぱい特訓して、勉強もする! パパもママも安心できるぐらい強くなってやるんだから!」
覚悟も決まり、特訓あるのみ! と意気込んでいたところに、父が続けて言った。
「パパもママも戦いのことは分からない……特訓だけじゃ、戦い方なんて身につかないだろう?」
たしかにそうだ。どれだけ鍛えても、戦い方が分からなければ意味がない……
「じゃあ……どうしたらいいの?」
困ったフォルティナは、啖呵を切ったばかりにも関わらず父に尋ねる……あれだけ意気込んでおいてこの調子である。
「協会のシスターに戦い方を教えてもらいなさい……」
協会のシスター? 神父様なら日曜学校で見たことあるけど、シスターなんていたかしら?
「シスターは普段、村付近の魔獣を狩ってるから滅多に教会にいないんだ。朝一番に行ってみなさい。朝なら、教会にいるはずだから」
「分かった! 朝行ってみるね!」
どんな人か気になって仕方ないフォルティナ。そして、夢に一歩近づいたことが嬉しくてたまらず、体いっぱいに喜びを表現して飛んだり跳ねたりしていた。
「朝早いから、早く寝なきゃだね! おやすみ、パパ、ママ! 話を聞いてくれてありがとう!」
明日の朝早く教会に向かうため、この日も早めに眠りについたフォルティナだった。
翌朝
早朝、マインツ村の教会にやってきたフォルティナは、正面入り口から入りシスターを探す。すぐに見つかった。どうやら祈りを捧げているようだ。
フォルティナに気づいたシスターが立ち上がり、こちらに歩いてくる。
後ろ姿は綺麗だったのだが……近づいてきたシスターは背が高く、より正確に見ると――恐怖が芽生えた!
「おい、迷えるクソガキの子羊! 今は神に祈りを捧げる神聖な時間だ……一体なんの用だ? クソボケ」
ベールから覗く赤く長い髪。スリット入りの修道服。スタイルも良く、一見すごく美人なのだが、片目の眼帯に、かなりご立腹なのか眉間のシワ、そして威圧感のある言葉遣い……フォルティナは恐怖していた。
「あ、あ……あの! ア、アナタがこの村の近くで魔獣を狩ってるシスター……?」
精一杯、恐怖に抗いながら聞いてみる。
「あ〜? そうだが? 何だ? 苦情か? もっと丁寧に狩ってほしいのか? 静かに狩ってほしいのか? いちいち注文が多くてムカつくぜ……子どもを使わせるなんて呆れた迷える羊野郎どもが……」
苦情が多いのだろうか。相当ストレスが溜まっている様子だ。
「苦情はないよ? ア……アタシ! シスターに戦い方を教えてほしくて来たの……」
そう告げた瞬間、シスターはしゃがみ込んでフォルティナと視線を合わせ、じっと顔を見つめる。
「ほう……憧れに、夢が詰まった真っ直ぐな目ぇしてやがる……覚悟もそれなりにあって……なにより頑固そうだ……ふむ、悪くねぇな……」
めちゃくちゃ近いよ……こわいこわい! ダメかな? ダメなのかな? こんなにシスターさんって怖いの〜?
ひとしきりフォルティナを観察したシスターは言った。
「いいだろう……稽古をつけてやる。お前はこの村のクソガキどもの中で一番骨がありそうだ……」
「断らないの? 断られると思ったのに……」
まさかの了承にフォルティナは驚いた。
「オイオイ、俺はシスターだぜ? 道に迷える子羊を導くのが役目なんだ……お前は道に迷い、ここに来て、俺に戦い方を聞いた。懺悔を聞いて教え導くのと、何の違いもねぇよ」
いやいや、全く違うでしょ! と思ったが、変に突っ込んで怒らせてはまずいと判断したフォルティナは、そうです! と言わんばかりにブンブンと首を縦に振る。
「アタシ、フォルティナ! フォルティナ・ロックスって名前! よろしくね!」
「俺はシンシア。シスター・シンシアだ! よろしくな、迷えるラム肉」
子羊からラム肉になってるんだけど!? まあ……この際どうでもいいや!
細かいことを気にしないのが、フォルティナの長所であり短所だった。
「とりあえず今から狩りだから行くぞ!」
……ん? 今なんて? 狩りに? 今から? アタシも?
展開が急すぎて頭が追いつかないフォルティナだったが、シスターは構わずフォルティナの手を掴み、村の外へ走り出す!
速い速い! あまりにも早すぎて、アタシの体が水の中を泳ぐ魚みたいにユラユラしちゃってるよ! ここ地上だけど!
あっという間に村の外に出て、魔獣が3匹徘徊している少し離れた場所で止まった。慣性で吹き飛ばされるかと思ったが、シスターの手がしっかり握られていたため、引っ張られるように止まることができた。
「フォル〜……なんだっけ? まあいいや! おいラム肉! あれが見えるか?」
ラム肉? アタシのこと!? 名前、教えたはずなのに! あれって……向こうにいる魔獣のことかな?
「ニワトリみたいな大きい魔獣がいるね」
魔獣まで距離があるためか、こちらには気づいておらず、フォルティナに恐怖はなかった。
「今からあのジビエを狩るから、見てな?」
そう言ったシスターは駆け出す! 武器は持っていないが、どうやって倒すのだろう?
シスターは高速で魔獣との距離を詰め――
勢いそのままに、一匹のニワトリ型魔獣の心臓に拳を叩きつけた!
何ということでしょう……魔獣は、自分の身体にシスターの腕が貫通し、心臓を潰されたことにも気づかぬまま、息絶えたのです……
「どぉおおおりゃああああああああ!」
腕にぶっ刺さったままの魔獣を使い、近くにいた2体目の魔獣をぶん殴る! 魔獣がグチャァっと合挽き肉に!
3体目は、この惨状に気づき逃げようとしたが……
「ばぁ!」
追いついたシスターが、横並びで「いないいないばあ」をするように禍々しい笑顔を向けた直後、その魔獣の顔を地面に叩きつけてミンチにしてしまった!
これが……狩り?
どっちが魔獣か分からない戦い方だったこともあり、フォルティナは「教えを乞う人を間違えたかも……」と若干後悔しはじめた……
「終わったぞ〜! んじゃ、今から稽古つけてやるぞ〜」
シスターが全身血塗れの状態でそう告げた。
本気で言ってるの? アタシ、今からこの血まみれの人に稽古つけてもらうの?
「シスター? 今から?」
「当たり前だろうが! 俺は忙しいんだ。時間がもったいないから、ここまで連れてきたんだ。なんか文句あんのか? あァ?」
「ありません! ありません!」
そう言うしかなかった! むしろそれ以外の言葉を口にしたら、ミンチの仲間入りしそうな気がしたフォルティナなのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
スリットタイプの修道服シスターっていいですよね…
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