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無知な田舎娘は未知に憧れを抱く!  作者: ギトギトアブラーン
第13章 天魔大戦 滅びの未来編 1
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第9話 追憶。苦い思い出

『魔王? そんなのアレでしょ? 魔獣で一番強いだけの存在じゃん。アタシ達なら絶対に倒せるよ! ね? ノーラもそう思うでしょ?』


 

 一人小屋に残ったエレオノーラは、昔の仲間の言葉を思い出していた。

 それはついさっきまで、その仲間の過去の姿と言葉を交わしたからかもしれないし、彼女の纏う【気】にあてられた影響かもしれない。


 

 だが、彼女は私の知るフォルティナとは違う。

 


 考え方も、口から出る声音も見た目も全て似ている。

 というより、過去に私が見たフォルティナそのままだ。

 だが、自分の魂が強く呟くのだ。あれは全く異なる存在だと。


 

 それでも同時に、今回は彼女のために力を尽くしたいとも思っている自分がいる。


 

 椅子に座り、薄いコーヒーを一口啜る。

 このご時世、まともなコーヒーを飲めるほど物資は豊かではない。食事に至ってはなおさら酷いものだ。


 

 ラングの街から出れば、魔族が徘徊する魔境故に食料の供給は途絶えている。仮に食べられる魔獣が現れたとしても、それが敵の罠である可能性がある。

 今までにも仲間達は空腹に耐えきれず、街のそばに現れた魔獣を狩りに出た瞬間、魔族に殺され、その身を塵へと変えられてしまったのを私はこの目で見ている。

 まるで魚を釣るかのようにだ。

 


 そんな中、コーヒー豆を融通してくれるのは正直ありがたい。長い戦争の中での唯一の癒しだ。

 そんなコーヒーの味は、苦く美味しかった。


 

「なんとかしなければな」

 


 さっき追い出したフォルティナの協力を受け取れば、間違いなく都市の一つは奪い返せる自信があった。

 何故なら彼女には【偽神】の力がある。

 【神気】だ。


 

 仲間だったフォルティナにもその力が備わっていて、なぜか魔族の硬い外殻をその力で砕くことが出来ていた。


 

 彼女は言うには、【神気】は【魔気】を消滅させる効果があるらしい。そしてその力が一番強く反映されているのは【スルト】だけだと。

 


 だから過去の私達は、無謀とも言える魔王強襲作戦を呑み実行に移した。

 結果――惨敗だったがな。

 


「苦いな……」


 

 コーヒーの味がではない。この記憶がだ。

 あの日、私達は何を間違えたのだろうな……。


――――――――――――――――――――――――


 17年前。エレオノーラが18の歳。

 魔族が出現し、各都市を攻め落としていく苛烈な戦に、私達も連合軍の一員として参加していた。


 

 アイデンティティだったショートリーゼントを崩し、無精髭を生やしたクソ野郎で女ったらしのモルト、【偽神スルト】の神官フォルティナ、奴隷の身でありながら卓越した魔の知識と技術を有するマロンとイデア。そして私の5人は小隊として行動していた。


 

 戦争の前までは、偶然の出会いから色んな場所へ冒険して、それは楽しかったことを覚えている。

 夜も眠らない帝国。王国最西端にある黄金郷。未開拓の場所をよく探索したものだ。

 


 全てはモルトが知らない間に買っていたコンパスの針に従って旅先を決めると言った自由気ままな旅だった。

 まあ安物だったせいか壊れていて、旅のほとんどが行き当たりばったりなものだったがな。

 


「連合軍第407戦闘行軍隊! 準備は良いか!」

 


 昔の思い出に浸っていると、男の声が響いた。

 ハッとすると、前の壇上に険しい顔を浮かべた眼帯の男が私達に向けて言っていた。

 


 ここは連合軍最前線。中立都市フロンタイタスの野外司令部だ。空は暗く、魔法の輝きで閃光が走っている。

 その下で私達は、攻勢作戦【オペレーション・サジタリウスの矢】の開始を、将校である眼帯の男から命じられている最中だ。

 


「事前に伝えた通り、今作戦は貴様ら小隊を魔族軍の根城である呼称【魔王城】への強襲作戦であるッ!」


 

 魔王城。魔族どもが帝国に築き上げた塔のような建造物だ。そこから魔族は湧いて出てくるし、天を穿つ塔の先端から、なにやら禍々しい波紋が広がっている。

 あれが何かは調べがついていない。だが魔族のことだ、あの波紋にも何か効果があるのだろう。それも私達人類にとって不利なものが。

 


 将校は唾を撒き散らしながら続ける。

 


「貴様らを魔王城へ行軍させるために、残る部隊は撹乱に回らせるッ! 前線で魔族を引き付ける部隊、その裏を描いたように背後を取ろうと動く部隊。全部だ!」

 


 その全てが囮であり、真の狙いは魔王城への強襲にあるという、一か八かの作戦。

 それを私達若手の部隊に任せるのは、今までの活躍や功績が関わっているからだろう。

 


「これより30分後! 貴様達は予定通り地下壕を通って帝国領旧街道を目指せ! 旧街道を偵察に出た諜報員によれば、魔獣は点在しているものの魔族の姿はないということだ。つまりこの作戦は奴らには悟られていない! 勝てる戦いだッ!」

 


 勝てる戦い……。

 魔王と呼ばれる魔族の存在について、私達は何一つ情報を得られていないというのによく言ったものだ。

 


 魔王――魔族将校である魔将が口々に語る奴らの親玉。その力はきっと魔将を遥かに超越したものだろう。

 それなのに勝てるだと? レギオン、ドミニオン相手に苦労して勝ち、魔将は果てしない程犠牲を払って尚、未だ1体も討伐出来ていないというのに……。

 


「前線にも立った事もないクソ共め……」


「シッ! ノーラ、聞こえるよ」


 

 悪態をついた私を諭すのは、ノア教会から派遣された【偽神スルト】であるフォルティナだ。

 スリットタイプの修道服に、背中には無骨な斧が背負われている。目は昔、魔獣にやられたのか眼帯がされていて一見強面だが、口を開けば陽気な16の少女だ。

 


「だが事実だろう。大体この作戦は無謀すぎる。魔王の存在自体、調べがついていないというのに、魔族から聞いた断片的な情報だけで強襲とは……自殺行為だぞ」


 

 小声で将校に聞こえないよう話す。

 将校は指示を出すことに気持ちよくなっているのか、全く私達の話に気づく素振りがない。

 


「自殺行為……だとしても、このままただ魔族と戦ってるだけじゃ、きっとアタシ達は勝てないよ」


「だとしても!」


「師匠。ノーラさん。どうかしましたか?」


 

 私が声を上げ過ぎたせいか、イデアが聞いてきた。

 彼女は魔法技術に精通していながらフォルティナから武術の指南を受けていて、それなりの実力者だ。

 


 奴隷なのによくこの作戦に参加したものだと私は思うが、彼女と姉のマロン曰く、知り合いが命懸けで戦っているのに自分達だけ安全圏で成果を待つというのが耐えられないとのことだ。

 なんと高潔な少女達だろう。世が世なら私はこの2人を奴隷から解放してやりたい。

 


 だが今はそんなことに時間を割く余裕はないし、奴隷商も『今はそんな時じゃない』と話を聞いてはくれないだろう。

 


「いや、イデア。すまない。なんでもないんだ。私が勝手に熱くなっていただけで……」


「珍しいですね、ノーラさんが熱くなるなんて」


「だよねだよね〜。あれだけ『貴族は感情を表に出さない!』って言っときながら、ここ一番で熱くなっちゃってるんだもんね〜」


「だ、黙れ!」

 


 ギュッとフォルティナの尻を抓ってやった。

 


「いだだだだッ!!!」


「そこッ! 今はブリーフィング中だぞッ!!」


 

 流石にはしゃぎ過ぎた。将校に怒鳴られ、私達は一斉に姿勢を正す。

 並んで立っていたモルトもマロンも、そこで私達が無駄話をしていることに気づき、呆れた目を向けてくる。


 

「ちっ。こんなガキ共に大陸の命運を賭けることになるとはな……」


 

 聞こえたぞ。

 まあ将校の言う通り、本来こんな作戦は名のある武人に任せるべきだろう。だがそんな武人は皆死んだ。【偽神】も残すはフォルティナ1人。それほどまでに魔族の力が脅威すぎるのだ。

 


 魔法を詠唱なしに手足のように扱い、恵まれた体から繰り出される技の数々。

 それだけじゃない。奴らは狡猾で、私達の最も嫌うことを全て実践してくる。

 


 家族を人質に取り、飢えを利用し、仲間割れを引き起こすなど様々だ。

 いかに武人とはいえ、戦争という理不尽の前では無力ということだろう。それほどまでに魔族と私達の間には、戦争の経験、技術の差が開き過ぎていた。

 


「まあいい。予定通り作戦は開始する。それまで精々準備を怠るな。もう一度言っておくが、今作戦は我々人類の命運が掛かっているのだからな」

 


 そう言い残して将校は壇上から降りて去っていく。

 その後ろ姿を睨む私に、フォルティナが肩に手を置いた。


 

「まあまあ、そう構えないでよ。なんたってアタシがついてるんだからさ!」


「そうだそうだ。この貧乳シスター様がいれば、俺様達の勝利も硬い! そうカッカすんなよな」


「誰が貧乳ですってッ!」


 

 モルトがニヤけ面で言って、フォルティナから足蹴りを食らわされていた。

 いつもの光景だ。モルトが嫌味を言ってフォルティナがキレる。イデアが側でアワアワと2人を収めようと気を伺い、それをいつもなら私が叱って止める。

 


 だが今日は叱れる気分ではなかった。

 


「やっぱ怖いんか?」


 

 そんな私の顔を覗き込むように見てくるのはマロンだ。不安にさせてしまったようだ。

 


「ああ、マロンの言う通り、私は怖いのかもしれない」


 

 皆が動きを止めて私に顔を向ける。殴り合っていたモルトとフォルティナですら手を下ろした。

 それでも私は、出してしまった弱音が止まることを知らず、吐き出し続けてしまう。

 


「自分が死ぬかもしれない以上に、お前達を失う可能性があることの方が怖いんだ。私は弱い。いつもお前達に頼ってばかりで……そんな私が魔王と対峙する? これが怖い以外になんて言えばいいんだ!」


「ノーラ……」

 


 涙が溢れる。

 恐怖で今まで押さえていた感情が決壊したのか止まらない。そんな私の背中をモルトがダンッと強く叩いた。


 

「弱腰になんなよ! 確かに怖ぇよ? 死ぬかもしんねぇ。でも同時にチャンスなんだぜ? 奴らは俺様達が圧倒的弱者って決めつけて油断してやがる。そこでこの作戦だ。成功は目の前だ。その恐怖を乗り越えて、魔王ってクソ野郎の喉元をひっ裂いてやろうぜ? な!」


「ああ。そうだな」


 

 モルトが拳を出してきたのを、私は拳で叩き返した。

 涙を拭う。


 

 そうだ。モルトの言う通り、これはチャンスなんだ。勝つも負けるもこの作戦にかかっている。

 弱気になっている暇はない。

 


 そうしてる間にも作戦開始の時間は迫ってくる。

 私達はそれまで、できる限りの準備に向かうのだった。

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