第8話 あり得たかもしれない世界
悩んだ末アタシはR.O.Dの存在。携帯型端末型魔法の杖をレイチェル――未来のマロンが作って普及している事。
モルト達との出会いからこれまでの冒険の全てを話した。
R.O.Dの存在には首を傾げる2人。やっぱりこの未来には存在しないみたい。だけど実物を見せて魔法を実演したら、納得してくれた。
「マロンか……懐かしいな」
エレオノーラが小さく笑った。
「やっぱこの時代でもノーラと友達だったのね」
「友というより仲間だな。彼女達は奴隷出身だがまあ頭がキレる。それも理解ができないほどのレベルでな」
「ど、奴隷だって!?」
「? 何を驚いている。〈オーバード〉は皆奴隷ではないか」
奴隷という言葉を口走るエレオノーラにアタシは開いた口が塞がらない。
「もしかして貴様の来た過去の〈オーバード〉の扱いは違うのか?」
「あったりまえでしょ! 奴隷制度なんてアタシが生まれる前に廃止されたって聞いたわよ!?」
「なんと……。ふむ」
エレオノーラは考え込む。フェイに至っては記録を紙に取っていたが話が突拍子もなさすぎて手が止まってしまっている。
考え込んだエレオノーラは何か考えついたのか口を開いた。
「貴様の話を聞いて大体分かってきたぞ」
「分かったってなにが?」
「貴様の来た過去と今の時代が歩んできた歴史の相違点についてだ」
そこまで分かっちゃったの!? アタシの話を聞いただけで!? やっぱノーラは未来でも頭いいみたいね。
「まずは私の仲間であったガンテツ姉妹について話そうか」
「マロンとイデアね」
「ああ。イデアについてはまあ今は置いておいて
まずはマロンだ。彼女とはもう随分と前に別れたのだが最後に言い残した言葉があってな」
別れた。そう言ったエレオノーラの顔は悲しげだ。何かあったのだろうか。イデアもああなってた程だし、間違いなく何か良くない事があったんだろうけど。今は聞いても答えてくれなさそうだね。
「過去に行って未来を変える手段を見つけてくると言ったのだ。だがそれから何年も彼女は戻ってこなかった。私はきっと彼女は死んだ物だとばかり思っていたが――」
そう言ってアタシを見るエレオノーラの顔はなにやら確信めいたものに見えた。
「未来を変える手段というのは、過去を改変してこの滅びの世界を救おうとしたという事だろうな」
「改変?」
アタシが首を傾げるとハッとしたフェイが教えてくれた。
「改変ですよ! この滅びの世界の過去に飛んだマロンさんが過去の歴史を作り変える。するとそこから歴史が変わってこの世界も救われるって事ですよ!」
「へ、へー。詳しいじゃん」
「SF小説は好きですから! ふふん!」
どうやら未来のフェイは相当な本の虫らしい。
SF小説自体アタシの時代にもあったけど話がややこし過ぎてチンプンカンプンだったからあまり馴染みがないのよね。
「今まさにフェイが言った通りだ。だが不思議なことに過去は改変されても未来は変わっていない。それも一切な」
「そうです! そこなんですよね。今の話からマロンさんがレイチェルとして過去を改変に成功していたのなら。僕たちの記憶にもレイチェルの存在が焼き付いているはず。なのにその記憶も存在も知らないままです。なので――」
フェイはスラスラとメモ帳に何か書き始めていく。
ひとしきり書いてメモを千切り机の上に置いたのをアタシ達は覗くように見る。
そこには丸の図形が2つ描かれていて過去と未来で別れていた。
「いいですか? まず僕たちの生きているこの世界。フォルティナさんから見て未来の世界についてです。現状何もかもに失敗した世界で、魔法技術もあなたの話で聞いたほど高くはありません」
そうそう。確かこの時代にはテレビも無いみたいなんだよね。あってもラジオとかそれぐらい。通信機もないから離れた場所と連絡を取り合う手段も手紙みたいだし。
「それに対してあなたがやって来た過去の世界はマロンさんの知識で技術が発展した世界。ようは改変されつつある世界ですね。きっとあなたの世界は僕たちの世界のような運命とは別の道を歩むことになるんでしょう」
ふんふん。それで? とアタシとノーラは頷いた。
「この2つですが、結果から見て、繋がりがないものと僕は考えます」
「繋がりがない?」
「はい。まあ過去と未来って言い方がややこしいんですが。僕があえて言うのなら僕達の居るここが、オリジナルの世界で、フォルティナさんが生きて来た世界は、あり得たかもしれない世界だってことですよ。つまり【イフワールド】です」
ああだめだこりゃ。これだからSFは苦手なんだよ。もう話のほとんどがわかんなくなってきた。
「なるほどな」
エレオノーラは理解したみたい。いいよね頭のいい人ってさ。こういう意味不明な話も簡単に飲み込んじゃうんだもの。
「そう難しい話ではない。ようは完全に別の世界という話だ。貴様の世界は私たちの世界をベースに作り変えられたあったはずの可能性だ。その証拠にフォルティナ・ロックスが神官の道を歩まずに冒険者の道を歩んでいるわけだしな」
「そうなると。アタシの子供の頃から本来の歴史と違ってたって事なのかな」
「冒険者を志すきっかけが幼少にあったのならそうだろうな」
アタシが冒険者を志したのはあのおじさん冒険者に助けられたからがきっかけだ。それは間違いない。
ならあの日、おじさんに出会わなかったらアタシは神官になったって事なのかな?
「ノーラ。こっちのアタシの過去って知ってる?」
「いいや。フォルティナの奴。昔話は嫌いだとあまり話してくれなくてな。すまないが把握していない。それ以外の話なら無駄に聴かせてきたから話せるぞ? ジャガイモ料理に、斧術、あとは経験が無いのに恋愛話だな。それも鬱陶しいほどに」
お喋りなのは変わんないのか。でも昔のことを話したくない……。つまりは過去に何かあったってことだ。それはきっとあの日おじさんに出会わなかったからかもしれない。
あの猪魔獣にアタシが襲われて酷い目にあったんだろうね。アタシが思い出したくないレベルの話なんだもの。自分のことは自分が1番よく理解してるから、なんとなく分かるんだよね。
「まあアタシのことはいいか。どの道マロンが過去を作り替えて発展した世界なのは変わりないんだし」
「だな。その結果悲しいかな彼女は未来を変える手段を見つけることは出来なかったというわけだ……」
凄く悲しそうにエレオノーラが言った。
嫌な答えだ。これにはフェイも子供のような無邪気さも消え失せメモ帳ごと手をダランと落とした。
どう言っていいかわかんない。こういう時励ますのが良いんだろうけど。仲間の努力が無駄になった事を知って、魔族に襲われる世界を救う手が見つかんない事をアタシが励まして良いものだろうか。
無理だ。どう考えても部外者のアタシが励ますには無責任すぎるよ。
「すまないな。貴様に余計な気遣いをさせてしまった」
「いいよ。気にしないで……」
「まあこの話は終いにしよう。これからは魔族だけでなく貴様を元の時代に返すことも考えなければ」
「あ、アタシを!?」
「なんだ。帰りたくないのか?」
ブンブンと首を振って答える。「全然!」と。
「でも忙しいのにそんな事させちゃうなんて申し訳ないよ。変える手段ならアタシ1人で探すから――」
「探すって言ってもどこも魔族に支配されたこの世界でか?」
「うっ。ちなみに支配って……どれくらいされてるの?」
恐る恐る尋ねてみた。
こんな小屋を作戦司令部にするぐらいだ。
きっととんでもない被害規模なんだろう。
それを覚悟してエレオノーラの次の言葉を待ったが――
「帝国、王国、中立都市は既に奴らの手の中だ。それに占領されてから人類の7割は殺されたからな。残った人類が共和国に逃げ延びて必死に奴らの侵攻を防いでるぐらいだ」
「ま、まじですか……」
もはや絶滅寸前じゃん。ならエレオノーラも相当厳しい戦いを強いられてきたはず。それなのに戦争と並行してアタシを過去に帰らせる手段を探すだって?
なんてお人よしなんだろうか。
アタシの知ってるノーラも正義感に厚いけど、成長したらここまでになるの?
「それなら尚更アタシ1人でなんとかするよ」
「なんだ。遠慮してるのか? なに貴様1人の帰り道ぐらいきっちり探してやるさ。それに手掛かりもあるのだからな」
「手掛かり?」
「ああ。過去に飛んだマロンの痕跡を辿れば良いだけの話だ。それには私も心当たりがある。心配するほどじゃない」
「ならそれを教えてくれるだけでも――」
「諄いっ! 私が貴様を帰らせてやると言ってるのだ! 黙ってのんびりしてろ! いいなッ!」
そう言ってアタシはエレオノーラに小屋からつまみ出された。
これ以上の問答はしたくないといったように。
ちょこんと座るアタシに後から出てきたフェイが苦笑いを浮かべながら頭を下げた。
「ごめんなさい。団長頑固なんですよ」
「いいよいいよ。アタシの知ってるノーラも結構頑固だから」
そこは成長しても変わらなかったてことだ。いやより悪化してるといって良いかも。力もかなりつけて摘み出すって選択肢が増えてるぐらいなんだしね。
「ありがとうごごいます。そう言ってくれて助かります」
フェイは小屋を振り返り語る。
「団長……。きっとあなたに昔の仲間の姿を重ねたんだと思います。あそこまで感情を曝け出した団長は今まで見たことがありませんし」
「仲間……」
つまり未来のアタシの事なんだろう。イデアは言ってた。未来のアタシが死んだと。だからイデアはアタシのフリして天火大帝って名乗ってる。
きっとあの子も未来を救うために必死に考えて動いているんだろう。
そうさせてしまう程の死……。
「フェイ。良かったらなんだけどこの時代についてもう少し教えてもらえるかな?」
「良いですけど……。なぜです?」
「なぜって。あの団長になったノーラもアタシの親友に変わりはないもの。その人が疲れるまで必死に戦ってるんだもん。確かにアタシは過去に帰るよ? でもそれまではアタシもノーラの力になりたい。この世界の状況をなんとかしたいの!」
その言葉を聞いたフェイは少し考え――
「分かりました。そういう事ならいいですよ」
「やった! ありがとう!」
「これも魔族を退けてくれた恩ですから。ここで話すのもなんですし街の方に行きましょうか。こちらです」
そうしてアタシはフェイの案内で未来のラングの街へと向かうのだった。
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