第7話 本物の証明
小屋の中は大きな机が一つとその上に地図や資料が散らばっていて、見るからに忙しくて整理する暇がないといった状態だった。
騎士達はこの場には最低限の人数しか居ないけど、ここがエレオノーラが言っていた連合軍の作戦司令室だという事かな。
「すまないな。散らかっていて」
中に入ったアタシにエレオノーラが少し恥ずかしげにそう言った。
戦時中だものね。片付ける余裕がないのは仕方ないよ。
「そのままでは不便だな。フェイ。拘束を解いてやれ」
「良いんですか!?」
「ああ。ここには私がいる。こいつが不審な動きを見せた瞬間首を叩き潰してやるから安心してくれ」
「あの〜。それアタシはちっとも安心できないんですけど……」
目の前で首を叩き潰すって言われて安心できる人間がどれだけ居るだろうか。
もしそうなった場合もちろん抵抗するよ? 拳で。
「不審な動きを見せなければ良いだけの話だ。それに拘束を解いてやるだけましだと思ってくれ。さっきも言っただろうがまだ貴様を完全に認めたわけじゃないのだからな」
フェイがナイフでアタシの拘束を解いてくれた。
手首から先に血が巡る感覚が巡ってジンジン痺れていく。相当キツく縛られてたみたい。
「はいはい。いいですよー。どうせアタシはこの時代じゃ信用されてない存在みたいだし……」
「拗ねるな。どんな形であれ街を救ってくれたことには感謝しているんだ。これだけな」
そう言って親指と人差し指をちょこっとだけ開いて見せたエレオノーラ。
全く信用されてないことだけは……分かったわ。
「そこで貴様を信頼する為にも幾つか質問させてほしい」
「質問……」
「そう構えなくていい。貴様が本当にフォルティナ・ロックスなら知っていて当たり前の質問ばかりだからな」
なら大丈夫か。アタシ以上に自分のことを知ってる人なんて絶対にいないんだから。
「分かった! まあこれで信頼が勝ち取れるんなら簡単な話よ! なんせアタシは正真正銘フォルティナ・ロックスその人なんだもの!」
「ふっ。ならまず初めに……。貴様は大陸聖導教会――ノア教の聖女【偽神スルト】で違いないか?」
「え? 聖女? 【偽神】? いやいやアタシただの冒険者だけど……」
「ちっ。やはり偽物か。フェイ縛りなおせ」
「了解!」
あっれぇぇぇぇ。なんでなんで!?!?
てかフェイもフェイでアタシを拘束し直さないで! って痛い痛い! なんでさっきよりもギュッてキツく締め上げんの!? 鬱血しちゃう!!
「待って待って待って!! この時代のアタシってば冒険者じゃないの!? 今の引っ掛け問題でしょ! ねぇ!?」
必死に弁明を図るも、舌打ちしては冷めた目をエレオノーラは向けてくる。
「そんな真似する訳がないだろう。【偽神】という教会に隠匿された存在なら今ので全ての答えが出る手っ取り早い質問だったのだ。それを否定した時点で本人ではないことは明らか。以上証明終了。死ね」
即断即決すぎる! 立て掛けた大剣を手に取ろうとしないで!? まずいまずい。このままじゃアタシ未来で勘違いされたまま死んじゃう!
「嘘じゃないもん! アタシはフォルティナ・ロックス16歳! 共和国マインツ村ジャガイモ農家の娘……」
「そんな事は誰でも調べればすぐに分かることだ――」
剣を振り上げないでぇぇぇぇ!?
「こ、これを見て!」
アタシはポケットに入れていたライオネル家の家紋が施されたバッジを机の上に叩きつけた。
それを見たエレオノーラは大剣を振るう手を止めてくれた。
「それは……我がライオネル従騎士の証!? なぜこれを貴様が!?」
「これはタグラスさんから貰ったんだよ? 覚えてない? ほら初めて出会った夏のフロンタイタスでノーラがアタシを騎士学校に誘ってくれて――」
「私が? ハッ。なにを馬鹿な。私とフォルティナが初めて出会ったのは秋の王都だぞ? だがこの証に施された装飾――紛れもない本物だ……。どういう事だ?」
「アタシの方こそ意味分かんないよ。何? アタシとノーラは夏のフロンタイタスで戦って……」
「いったい何年前の話だ?」
「今が何年か分かんないけど……。確かノーラは高等部3回生だったよ?」
「その時期なら確かに腕試しで競技には参加したが貴様のような女とは当たらなかったぞ?」
「嘘でしょ!? マイナーリーグの! 第2試合だよ!?」
「第2試合? それならよく覚えているが出場してたのは男だ。忌々しい男。口が悪く、私の体をいやらしい目で見てくるヘンテコな髪型をした男だったな! ふんっ!」
相当嫌ってる男がいたもんだ。ってアタシの存在が無くなってる!? なんで!?
従騎士の証を見たエレオノーラもアタシの話を存外嘘でもないと考え始めたのか大剣を壁に立て掛けて「ふむ」と考え込み始めた。
「この証を貴様が持っていたということは、我が屋敷に足を踏み入れたことが?」
「あるある! ノーラの部屋にも入った事あるもん!」
「ほう。なら私の家にある物なんでも良い。言ってみろ。それが我が家にしかない物であれば貴様が過去から来た存在だということを認めてやろう」
家にある物って……。皿とか椅子じゃどこ人でもあるから信用に値しないだろうし。ノーラの屋敷にしかないもの……う〜ん。
何があったか思い返す。記憶に出てくるのは豪華な装飾が施された獅子の像や本。あとはタグラスさんの自画像ぐらいか。どれもピンと来ないなぁ……。
あっそうだ。確かマロンとイデアがノーラの部屋から発掘した――
「そうだねぇ。ノーラに部屋の本棚――」
「私の部屋の本棚だと?」
「うん。その下の段の――」
「なっ。それはまさか――」
エレオノーラの顔が青ざめていく。
「前列に隠れるように後ろの列にあった確か――」
「お、おい! もう十分だ! やめろ!」
「男と女が裸で――」
「わあああああッ! わああああーーーー!!」
エレオノーラが咄嗟にアタシの首を締め上げては口を塞いできた!? 鎧のゴツゴツが首を締め上げて窒息しそうだ。 く、苦しい!
「だ、団長?」
そんなエレオノーラを心配そうに見つめるフェイ。
「気にするな! 問題ない。全くな!」
「で、ですがその様子は明らかに――」
「問題ないと言っているだろうッ!」
「は、はい! すみませんでしたッ!」
フェイが頭を下げると同時にエレオノーラがアタシに小さく耳打ちする。「貴様を信じてやる。だからその本の事は話すなっ」と念入りに威圧を込めて。
アタシはただ頷くしかなかった。だってこれ以上首を絞められたらマジでポックリあの世に逝っちゃいそうなんだもの。
「分かればよし」とエレオノーラがアタシを解放してくれた。フェイに再度拘束されたロープもナイフで切ってくれた。
どうやら信頼を勝ち取る事ができたらしい良かった。
「貴様が私の屋敷に来た事があるのは分かった。つまり過去の私は貴様を信用したということだろう」
「信じてくれるんだね!」
「ま、まあな。だが私の歩んできた歴史と貴様の過去には相違が幾つかありそうだ。そこで貴様が居たと言う過去について話してくれないか?」
「良いけど。どこから話そうかな……」
そうして信頼を勝ち取る事ができたアタシはエレオノーラとフェイに、自分が居た過去について話した。
R.O.Dって言う携帯型端末の魔法の杖をレイチェル――過去のマロンが作って普及している事。アタシがマインツ村で過ごした日々、冒険者を志した事にモルト達との出会いの全てをね。
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