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無知な田舎娘は未知に憧れを抱く!  作者: ギトギトアブラーン
第11章 復讐と未来。帝国編 2
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第23話 ミシェルの過去。母の言葉

 王国領バーンザックスでの毎日はミシェルにとって忘れることが出来ない思い出の詰まった地だった。

 昼は暑く、夜は凍えるほどに寒い。都会ほど遊ぶ場所もない寂れた砂漠の真ん中にある街だったけど、そこでママからたくさんのことを教えてもらったのを覚えてる。

 そして私は幼いながらもそんなママの仕事姿を見るのが好きだった。


 

「ミシェル。今日も見にきてくれたの?」

 

「うん!」


 

 そんなある日のこと、ナオちゃんの酒場で一仕事終えたママが歓声を受けながら大はしゃぎする幼い私に歩いてくる。

 


「ふふ。いつも見に来てくれてありがとう。でも毎日同じ曲ばかりだから、さすがに飽きるんじゃない?」

 

「飽きるだなんて! 絶対ありえないわ。だってこ〜んなにも楽しくてみんなが盛り上がってるってのよ? つまらないって思うことの方が難しいわ」

 

「あらそう? それなら良かった」

 

「にしてもいい曲だよね。その歌を歌い続けるのってさ、何か理由があったりするの?」


 

 私は当時興味本位で聞いてみた。

 ママはいくつかの曲を知っているはずなのに、なぜか毎日いつも決まってこの【目覚めの歌】を歌うからだ。


 

「まあ私のオハコってのもあるんだけど、この曲を歌うのはこの曲にしかない魅力があるからってのが大きな理由かしらね」

 

「理由?」

 

「そ。大事な理由よ?」


 

 ママが私の隣に座ってナオちゃんに水を注文しながら言った。


 

「この曲はね。みんながしんどくて辛い時、もうだめだ〜って落ち込んだ時に立ち直れるように、立ち上がれるように作曲したの」

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

「ねーなんでなんで〜?」

 


 当時の私はなんでも聞きたがる癖があった。純粋にママの声を聞きたかったからってのが大きな理由だったけど、そこで聞かされた話は今の今まで忘れてしまっていた。

 いいや。きっと蓋をしてしまっていたんだろう。

 ママがあの日、飲んだくれに刺されて死んでしまってから思い出したくない。思い出すと立ち上がれないと思ったからだ。

 そんなママは確かこう言っていたはずだ。

 


「ならミシェル? 人ってどんな時に頑張れると思う?」

 

「どんな時って……ママとか先生に怒られた時かな〜?」

 

「ミシェル……あんたそれは……はぁ、私ったら育て方間違えたかしら」


 

 ママは呆れたようにそう言った。

 私が頑張る時って大体そういう時だったから仕方ないじゃない。むしろそれ以外に頑張れる時ってある?


 

「いい? 人が頑張れる時ってのはね、誰かに見ていてもらってる時よ」

 

「誰かに見ていてもらってる時って、そんなのおかしくない? 私、先生とかにつきっきりで勉強見てもらってる時地獄だよ? 頑張りたくないよ?」

 

「ミシェル。あんたにはあとで勉強がどれぐらい出来るかしっかり見る事にするわ……」

 

「えー」


 

 迂闊だった。言わなくていいこともつい言ってしまう。これも自分の悪い癖だね。

 


「話を戻そっか。まああんたが勉強を見てもらってる時は地獄でもね、頑張ってる人とか一生懸命な人ってね、誰からも見られてないと心が折れちまうものなのよ」

 

「ふうん」

 

「まだちっこいあんたには分からないでしょうね。だけど大人になるとどれだけ好きでも、どれだけ完璧な人でも頑張ってる姿を見ていてくれないと『自分のやってる事に意味はないのかな?』って感じるものだと私は思うのよ」


 

 そう言ってママは私の頭を撫でた。

 そのガサツな撫で回し方に髪が乱れてしまうけど、ママのあったかい手に触れられるって事実が幼い私の心を満たした。

 


「だからこの歌の歌詞には『いつもいつでも貴方のことを見ている。今は辛くてもきっと才能が目を覚ます』って入れてるのよ」

 

「才能ってアレでしょ? 生まれた時から持ってる天才って人の持ってるやつ!」

 

「世間ではそう言われてるわね〜。だけど私はそう思わない。才能ってのは何かのきっかけで目覚めるものだと私は思う。苦手なものでも続けてやってみれば意外と目覚めるかもしれないだろ? 現に私だってそうさ。私は歌が大の苦手でね?」


「うそ〜!?」

 

「嘘じゃないわよ。私がミシェルに嘘言ったことある?」


 

 ない。なかったはずだ。いつも約束も破らず、正直に全てを話してくれるからきっとこの話もおんなじなんだと思う。


 

「ならなんでママはお歌を仕事にしてるの? なんでこんなに上手なの!? なんでなんで!?」

 

「それはね……私にはあんたが――ミシェルがずっと、ずっとそばで見ていてくれるからよ? あんたが生まれた時からずっと私のことを見て私はあんたを楽しませようと歌って、それが楽しくて仕事にしたの。でもそれが今は楽しいんだ。でもそれでも辛い時はある――上手く歌えない時や、人から嫌なことを言われた時なんかはね」

 

「な、なによそれ! 誰よママにそんなこと言うやつは! 私が怒ってあげる!」

 


 腕まくりしながら席を立ち、さっきまでママの歌にお熱だった客達の元に殴り込もうとすると、ママが慌てて私の体を止めてきた。


 

「やめてちょうだい! どうしてあんたはそう喧嘩っ早いのよ」

 

「あら。それはあんたに似たからじゃな〜い」

 

「ナ、ナオ……」

 

「はいお水」


 

 ナオちゃんがコップ1杯の水を持ってきてはママの前に置いた。

 


「も〜。ナオ? 娘の前で変なこと言わないでよ〜」

 

「あら事実でしょ。昔なんて――」

 

「ちょっとちょっと! 今は親子で大事な話してるんだからやめてよ!」

 

「ははは。そうね私ったらついお邪魔しちゃってごめんあそばせ〜」


 

 そう言ってナオちゃんは他の客のところへ。

 私はそんなナオちゃんに手を振ってしばしの別れを告げていると、ママがため息を吐きながらさっきの話の続きを話し始めた。

 


「飛んだ邪魔者が入ったけど。おほん。そんな嫌なことがあった私がこうして歌を歌い続けていられるのはね――」


 

 ママはコップに入った水を一気に飲み干して私に顔を向けた。その真っ直ぐで輝くほど眩しい瞳をどうして今まで忘れていたんだろう。


 

「ミシェル。あんたがずっと私を見ていてくれたからだよ」

 

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