第26話 SランクVS田舎娘
はっきり言って手も足も出ないどころか、攻撃が届かない。霧の中でサルフォッサスの動きを探ろうにも気配を捉えられず、更には攻撃が飛んできた方向に拳をぶつけても空を切るばかり。
一方的ってやつだ。こんな感覚、生まれて初めてだ。
今までもアタシより強い人と戦ってきたけど、今回はジャンルが違う。技と技のぶつけ合いとか、魔法に正面からぶつかっていくのとは違う。
完全なヒットアンドアウェイ戦法。攻撃が飛んでくる瞬間だけは捉えられる手でなんとか回避できるものの、焦ったくてイライラする!
「アタシがテロリストだから処刑しに来たのは分かるけど! 話を聞いて! アタシはサーシャを誘拐なんてしてない!」
アタシの必死の叫びにサルフォッサスは攻撃で応える。っていうか言葉を交わすつもりがないみたいだ。この真面目な仕事人め!
【鬼焔羅刹】さえ使えたらこんな霧、一気に払えるのに。
でも今アタシにはマロン達が作ってくれた籠手はない。
マーガレットさんとの戦闘で完全に壊れちゃったからね。だから今のアタシは【覚醒】した瞬間死んじゃう。
情けないことに本気を出せないのがもどかしいよ!
「だけど、そんなアタシでもたった一つ、アンタの居場所を探るいい案を思いついたわよ!」
相手が本気でアタシを殺しにかかってくるなら、アタシだって本気で抵抗するわよ!
「拳でね!」
思いきりアタシは地面の高速道路に拳を叩きつけた。
するとドゴン! と大きく砕け、亀裂が走りガタガタな状態になった。
ここを利用する人たちには申し訳ないけど、こうするしか今は助かる手段がないから許して。
カコ、カコと霧の中から小さな瓦礫が動く音が聞こえる。狙い通り、砕けた地面の上を移動するサルフォッサスの動きが耳で捉えられた。
これがアタシの考えた策。砕けた瓦礫の上で動く音から察知する作戦よ!
「そこぉ!」
足音を目指して走りクラフトアックスを叩きつけると、ゴシャッと何かを砕く手応えがあった。
「やった!」
そう思ったが、よく見てみるとそれは砕けた雪の塊だった。
「足音聞こえたのに!?」
雪の塊の近く。そこには数本のナイフが瓦礫に突き刺さっている。
やられた! アイツ、アタシの狙いに気づいてナイフでわざと居場所を知らせるような音を出したんだ!
「くっ!」
アタシは急ぎその場でしゃがんだ。予想通りサルフォッサスのナイフが頭上を横切っていく。
何がなんでもアタシの首を落としたいみたいね!
ヒリヒリするような緊迫感と緊張。気を抜けばすぐに死ぬという現実に、アタシ……恐怖し始めてる?
「【風が薙ぐように】」
「また!?」
目の前からカマイタチが放たれた。咄嗟に腕を交差して防御するが、皮膚が切り刻まれてすごく痛い。
これには堪らず後退するが、アタシの背中に何かを押し付けられ――
「あががががが!!!!」
電撃が身体中を駆け巡った。
「ぬううあああああ!!」
痺れる体に鞭を打って強引に捻り、回し撃を後方に放つ。
「おっと」
どうやらそこにはサルフォッサスがいたようで、この電撃は奴の武器による攻撃ってことだろう。
ナイフとハサミ、それに【風魔法】ばっかりに気を取られてたけど、まだ武器を隠してたみたい。
っていうかそう思わされてた。これが【無尽】――相手を殺すためならどんな手段も武器も問わないってことか。
「だけど今ので分かった! アンタはアタシと撃ち合うだけの力はない。こうしてアタシに居場所を悟られないようにして、一方的に攻撃してくるあたり、間違ってないでしょ!」
「…………」
「答えなさいよ! 寂しいでしょっ!」
腕を薙ぎ払って【神気】による炎を辺りに振り撒いた。
全体に対しての攻撃なら、避けるなり逃げるなりするでしょ!
そう思ったのだが、右肩から腕にかけてナイフで斬り付けられてしまう。
信じられない!? コイツ、今のを避けるんじゃなくて、掻い潜りながら攻撃してきたんだけど!?
そして腹に両手を当てられ――
「【突破せよ。荒れ狂う暴風】」
「あああああ――っ!」
風が一気に爆発し吹っ飛ばされた。
腹に受けた魔法のダメージもだいぶ大きい。骨か内臓がちょっとやられたかもしれない。
そう思えるほどに口から血が込み上げてくる。
着地しながらプッと血を吐き、クラフトアックスを右腕に装着しなおした。
大振りの攻撃じゃ絶対に当てられない。だったら格闘主体で、最小限の動きと最速の動きで対応する。
次……奴の攻撃が来た時に掴んで地面に叩きつけてやる。さすがにそうすれば奴の動きも封じられるでしょ!
今のアタシにできることはカウンターだけだ。
なんにせよ、この視界不良の状態をなんとかしない限りサルフォッサスの独壇場から抜け出すことができない……。
「【覚醒】が使えたら……」
使えば死ぬ脆い体を恨んだ。鍛えてもどうしようもないらしいけど、だからこそ今のこの状況が煩わしかった。
――――――――――――――――――――――
「オッポさん! 戻して! このままじゃティナが!」
後部座席から見える濃い霧は未だ晴れない。つまり、あのティナが苦戦しているのだとミシェルは感じることができた。
「ですが私達が戻ったところでどうしようもないでしょう!?」
「だからボスを見捨てて逃げるの? あなたそれでもオーガファミリーの幹部?」
「ぐっ……うぅ」
酷い意地悪だ。彼はボスであるティナの指示に従って行動しているのに、私ったら感情に任せて好き勝手言っちゃった。
今すぐ戻りたいのはオッポさんだって同じはずなのに。それに彼の言う通り、今私達があそこに戻ってもティナのために何かできるのかと言えば、何もできないだろう。
それどころか足手まといになる可能性の方が遥かに高い。
「ごめんなさい。言いすぎたわ……」
「いえ。いいんです。実際、臆病に逃げるしかできない私の無力さは事実ですし」
「無力……そうね」
歌しか歌えない。しかも誰彼構わず苦しみを与える歌しか歌えないとなると、私だって無力だ。人にとやかく言える資格なんてない
本当にこのままティナを置いていくことしかできないの? 私にもできることって、本当にないの?
『ミシェル。人ってどんな時に頑張れると思う?』
ふと、そんな言葉を思い出した。
これは確かママの言葉だったはず。
なんで今頃ママの言葉なんか思い出したんだろう。
そう思いつつも、その言葉に何かヒントがあるかもしれないと思い、私は遠い過去にママから聞かされた話を思い出そうと瞳を閉じた。
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