第7話 逆襲
かなり時間をかけたけど、このままだと子供達の生活も成り立たない事を全面に出して伝え続けると、なんとかアタシの提案をアンナは飲んでくれた。
これで当面は生活に困らないだろうけど、いきなり大金が入ったからといって贅沢するわけにはいかないらしい。
それはこの街が犯罪者の街であって金の匂いを嗅ぎつければどんな輩が孤児院に押しかけてくるか分からないからだとアンナは言う。
それにこの大金は現物支給ではないからこそ危険だとも言った。
アタシにはその言葉の意味はわからなかったけど。
なんにせよ受け取ってくれてよかった。
「ラーララー♩」
そんなこんなで今は鼻歌を歌うミシェルと、アルを含めた子供達と街のスーパーまで食料の買い出しに出掛けている途中だ。
なんでこんなにのんびりしてるかって言えば――
「ミシェル機嫌いいね?」
「それはそうでしょ! だって歩きでこんな地下を歩かなくて済んだもの!」
これが理由だ。アタシはお金をアンナに渡して街を出ようとしたんだけど、アンナが歩きでここから首都を目指すのは流石に無理があると止めてきたのだ。
急ぐから仕方ないと答えたんだけど、それなら3日後にこの街に物資補給の車両が首都からやってくるからそれに乗り込むと良いと教えてくれた。
そんな事ができるのかと聞いたが、どうやら荷物に紛れて乗り込むという意味だったらしく、その手筈はアンナ達孤児院の子供達が何とかしてくれるらしい。
お金のお礼との事だ。
そう言うわけでアタシ達はアンナの好意に甘えて孤児院で世話になることにして、今はその夕食の買い出しに出掛けているってわけだ。
「まあ。魔獣に襲われなくて済むならこれ以上ないぐらいに楽になるのは確かよね〜」
「うんうん! てかずっと歩きで首都を目指そうとしてたティナが頭おかしいのよ……。コーラルからラードリッツェまで何キロあると思ってんの?」
「キロ?」
首を傾げたアタシにミシェルは呆れてアル達に顔を向けた。「アル達子供達も流石にそれはないよ」アタシに冷たい目を向ける。
「お姉さん。今どき距離の単位ぐらいどんな子供でも習ってるよ? なんでお姉さんが知らないのさ。もしかして馬鹿なの?」
「アハハハ! ばかばーか! お姉ちゃんはばーか!」
アルの真っ当な意見と純粋な子供達の暴言が胸に刺さる。子供とは無邪気ゆえに悪魔にもなれるのかとアタシは少しだけ涙した。
「何泣いてるのよ。ティナのことだからどうせ勉強が嫌いで覚えてないだけでしょ? 本当のことじゃない」
「なんで分かるの!?」
ミシェルは鼻で笑って子供達に顔を向けて、
「誰でも分かるわよ。ね〜?」
そう言った。すると子供達は同じように顔を傾けて「ね〜」と答える。
たった半日でミシェルったら子供達とここまで距離を縮めてる事にもアタシは驚いた。
どうやらアタシがアンナと話をしてる間に、歌を教えたり色々な遊びをしてたら仲良くなったらしいけど、いくらなんでも仲良すぎじゃない?
そうこうしているとこの犯罪者が蔓延る街、唯一の食品を扱うスーパーマーケットに到着した。
地下の暗い街だと言うのに、このスーパーとか言う店はえらく光り輝いていて目が眩しい。
看板の文字の明るさ、自動扉の先の店内の照明のあかるさだけでここまでの輝きを放っているのか。
まるで虫のように街の住民がスーパーに飲み込まれるように入っていく。
まあ。アタシ達もそんな住民と同じように中に入るんだけど……。
中ではカゴに数日分の食材を詰め込みレジへ進んだ。
途中子供達がアタシ達の目を盗んでお菓子や玩具などをカゴの中に忍ばせようとしていたが、これはアルが阻止していた。
「ターラ! ポーメット! ダメだろ? お菓子は年に一回6月だけだって言ってるじゃないか!」
「え〜」
ブーブーとアルに子供達が文句を垂れる。
アタシとミシェルはお金があるんだし少しぐらい――とアルに声を掛けたが――
「お姉さん達は黙ってて! これは孤児院に住む僕たちの問題なんだから!」
と一蹴されてしまい黙る事にした。
よその家計事情にとやかく口出しするほどアタシ達は愚かじゃない。
お金がない苦しみはランブルから出たてのアタシも味わった事がある。
あの時はマロンとイデアに出会わなかったら一文無しの状態で飢えて死んでたかもしれない。
ゆえにここはアルの言葉を尊重するのだ。ゆるして子供達……。
文句を垂れる子供達をあしらいながら商品をレジ袋につめてスーパーを出る。
あとは帰るだけ。そう思っていたのだが、アタシ達の目の前にある男が立ち塞がる。
「ようやく見つけたぞ。お前! 昨日はよくも俺の店の評判を下げるような事を言ったな」
現れたのは昨日アタシ達が泊まろうとしたあの危険な宿のスタッフだった。
彼は怒りの形相でアルを指差した。
アルは口笛を吹きながら「え〜。人違いじゃないですか〜?」としらばっくれている。
「ぐ、ぐう! お前だお前! その生意気そうな面と化け物の耳をつけたお前の顔を忘れるはずがないだろう!」
火に油を注がれた男は地団駄を踏んでいる。
まあこの男がアルを見つけれたのは多分、隣にいるミシェルの記憶が強く残ってたからだろうね……。あれだけ激しい口論をしてたんだし。
「めんどくさ……。でおじさんは僕に何の用があってそんなにブチギレてるの?」
アルは鼻をほじり、鼻くそを吹き飛ばしながら男に答えた。
「お前がそこの女どもにいらん話をしたせいで店の評判はめちゃくちゃだ!」
「だから落とし前をつけにきたって?」
「そうだ!」
「そうだって……。おじさ〜ん? 商売ってのは信用が大事なんだよ? それなのに宿泊客の荷物を盗んで、女性だったらそのまま誘拐してマフィアの奴隷にさせてるなんてさ〜。はっきり言ってめちゃくちゃじゃないかな?」
ごもっとも。これにはアタシ達もあるの意見に大賛成だわ。だけど男はそれでもアルに食い下がる様子はない。
「なーにが信用だ! この街はカースドシェルター……いわば犯罪者の街だ! 騙し騙されが当たり前の世界で信用だと? そんなふわついた言葉で食っていけるほどこの街は甘くないんだよ!」
そう言って口笛を吹いた男。
建物の影から鉄パイプやバールを手にした男達が出てくる。そんな彼らを見ただけで、アタシはこれから何をしようとしているのか簡単に予想できた。
「アル……さすがに挑発しすぎたんじゃ――」
「お姉さん何言ってるのさ! この街では騙し騙されの以前に態度で負けたら何もかも負けるって言葉もあるんだよ! いくら子供の僕だからって明らかキモい商売をしてるおっさんに言葉で負けたくないよ!」
諭そうとしたが、どうやら無理だったようだ。
その言葉を聞いて男はさらに怒りの形相を浮かべ、周りの男達に「やってしまえ!!」と手を伸ばした。
するとアル達はアタシの後ろに隠れて、
「お姉さん! あとは任せたよ!」
そう言ってアタシの体を前に押してきた。
「は、はあ!? なんでアタシが――」
「お姉さん冒険者なんでしょ!? だったらいたいけな子供を助けてよ!」
人任せなのは癪だけど、確かにアルは間違った事を言ってない。間違っているのはこの男の方だ。アタシは仕方ないと拳を鳴らして襲いかかる男達と喧嘩をおっ始める事になってしまった。
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