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無知な田舎娘は未知に憧れを抱く!  作者: ギトギトアブラーン
第1章 冒険者認定試験編
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第28話 気

 警備隊の詰め所に来たフォルティナに気付いた隊員たちは駆け寄り、実技試験での戦いの話で盛り上がっていた。


 フェイは昼食を買うため、一旦別行動することにした。警備隊の強面の大人たち、怖いもんね?


「ティナちゃん! あんたすげぇよ! 俺も見てたけど、あのバエルって奴にムカついてたんだ……でもティナちゃんがぶっ飛ばしてくれて、スッキリしたぜ!」


「ティナちゃん! あの冒険者ってBランクだったんだろ? 今までの試験じゃ気絶か降参が当たり前だったのに、ティナちゃんが初めて冒険者を倒したって聞いて震えたぜ!」


「えへへ〜 初めてのことなんだ〜 でへへ」


 隊員たちに囲まれながら、試験での戦いぶりを讃えられ、にやけ顔が止まらないフォルティナ。そこにアンガスがやって来た。


「お前らぁ! 訓練をサボってんじゃねぇ! ……と、いつもなら言うところだが、今回は許してやろう。俺も嬢ちゃんと話がしたかったからな」


「あ! アンガス隊長! さっきは応援と、医務室で看病してくれてありがとね!」


「ティナさん、その様子ですと見事合格したようですね。おめでとうございます」


「サイモン副隊長もありがと!」


 アンガスのそばにいたサイモンからも労いの言葉をもらい、嬉しくなっていたところで、アンガスが話を切り出す。


「まずは嬢ちゃん、合格おめでとう! 冒険者認定試験は中々合格者が出ないんだが、嬢ちゃんは見事それを成し遂げた!」


「いやいや……ギリギリだったよ。悔しいけど、あのバエルって人……本気じゃなかったんでしょ? もし負けてたら不合格だったかもしれないし……」


「嬢ちゃん、聞いてないのか? 冒険者認定試験の実技試験の採点基準を?」


「え? 相手を倒すことじゃないの?」


 あれ? でもそれだとブルーメは不合格なはず……でも合格してたし、何を見て判断してたんだろ?


「嬢ちゃん……合格発表の時の説明、ちゃんと聞いてなかったろ……」


 ぎくっ! だって難しい話多かったんだもん……仕方ないじゃん……


「まあいい、俺が教えてやろう。……まあ、俺も昔の採点基準しか知らんから、今も同じかは分からんが……実技試験は、相手を倒すことで合否を決めてはいない。試験官が見ているのは、圧倒的な脅威に対して決して折れない心……諦めない気持ちを保ち続けられるか、それと、現時点での自分の実力でどう立ち向かうか、だ」


 そっか! だから高ランクのBランク冒険者を相手にしたんだ!


「だからあの試験で、戦う前から辞退した奴、心が折れた奴は悲しいかな不合格なんだ。なぜこんな採点法か分かるか?」


「分かるような……分かんないような……」


「答えはな、冒険ってのは未知を切り拓いたり、圧倒的な魔獣や事件に立ち向かう時に、簡単に諦めちゃいかんからだ。そうだろ? 怖いからやらない、勝てないから戦わない、死ぬかもしれないから守るべき人を見捨てて逃げる……そんな心が弱い奴は、冒険者になれる訳がないんだ」


 なるほど……と、アンガスの説明で採点基準を完全に理解したフォルティナだった。


「その点、嬢ちゃんは実技試験においては満点だったと思うぜ! あのバエルって野郎の侮辱を受けた友人や他の受験者のために立ち上がり、自身より圧倒的に強い相手に全く臆することなく立ち向かい、また考えながら戦った! そして何より最後の最後まで諦めず、まさか倒してしまったんだからなぁ! がっはっは!」


「でも最後はフェイの落としたR.O.Dのおかげで勝てたし……運が良かったんだよ!」


「それは違うな……あの坊主は嬢ちゃんの知り合いだろ? その坊主をあそこまで動かしたのは、嬢ちゃんという存在が坊主の中で大きかったんだ。冒険者ってのは、人との交流も大事にしなきゃならんからな!」


 アンガスの評価を聞いて誇らしくなり、照れるフォルティナに、アンガスはさらに続けて、試験で見て気になっていたことを聞いてきた。


「ところで嬢ちゃん……お前の格闘術だが……どこで習ったんだ?」


「あぁ! あれはアタシの村のシスター、シンシアって……アタシの師匠かな! その人に教えてもらったの! 確か『すべての武の基本は格闘術にある!』って言ってたから、シスターとの鍛錬はほとんどが格闘術だったよ!」


 アンガスは、間違いないと確信した様子で答える。


「嬢ちゃんが使ってたのは格闘術だが、厳密に言うと“拳法”だ。共和国の東の端にある龍仙峡にある武館の拳法……《楼凛拳ろうりんけん》だ。かなり長い年月修行した者は、一瞬の間に急所を叩きつけられ、勝負にすらならないほどの高速の技を多く持つ……恐らくお前の師匠のシスターは、そこの門下生だったんだろう……」


 シスターから教わった格闘術がそんなに凄いものだったなんて! でも思い返せば、シスターの戦い方って、どれもあっという間に心臓とかぶち抜いてたから納得かも〜!


「あと嬢ちゃん……これはさっきの《楼凛拳》とは違う話だが……試験の最後【絶技】を使ってたな……あれは突然閃いたのか?」


 ぜつぎ? あ! あぁ……あれか……なんか突然頭に浮かんだから叫んじゃったけど、思い出すと恥ずかしいんだよね……子供っぽくない? 自分で思いついた技名を叫ぶのって……


「うん……恥ずかしいけど……頭の中で浮かんできたの。そしたらビックリ! いつも以上の力が出たのよね〜」


「あれは、自身から放たれた【気】から生まれた自分だけの技だ」


「気?」


「【気】は本来、人類が潜在的に持っている生体エネルギーだ。簡単に言えば――やる気! 根気! 負けん気! いわゆる“気持ち”が【気】の正体なんだ。今まで感じたことがなかったか?」


 そういえば……8年前の魔獣に襲われた時も、みんなが危ないからアタシがやらなきゃって勇気が湧いて体が動いてた……今回の試験も、絶対に負けたくないって気持ちがあった……


「【気】はただのきっかけに過ぎん……“絶対にここだけは譲れない”という気が湧けば、体の奥から力がみなぎる! 例えば、やる気がない時は何もしたくないだろ? あれは【気】がない状態だな。でも、やる気にあふれている時は、なんでもできそうになるだろ? 嬢ちゃんはあの時、人一倍のやる気にあふれて【気】に目覚めたんだ!」


「でも、そんなに強い力なら、なんでみんなその【気】を使わないの?」


 フォルティナのもっともな疑問に、アンガスはあっさりと答えを出した。


「それは……これだ」


 アンガスはポケットからR.O.Dを取り出す。


「R.O.Dがどうしたの?」


「こいつが普及し始めてから、人類は【魔気】に頼りきるようになってしまった……【気】は、過酷な身体強化の鍛錬に心を鍛えた上で目覚める力だ。だが、【魔気】は違う……【魔気】は自然界に溢れるエネルギーだ。昔は魔法使いしか使えなかったエネルギーだったのが、今では誰でも、何の鍛錬もしなくても使えるようになってしまった……便利すぎるが故に、【気】は廃れたんだ」


 そっか……アタシは田舎で魔具もあまりない場所で、シスターからの厳しい鍛錬を続けたからこそ【気】に目覚めたのね……


「そして【絶技】だが、あれは努力と根性を重ねると刹那的に閃いて使える、本人にしか使えない技なんだ。他人にも真似はできるが、性能は段違いに落ちる……技の名前に関しては、覚えた本人の生き様が現れるって感じだ!」


「アタシの技【破山墜はざんつい】って名前なんだけど……斧なのにぶっ叩くような技なのは、つまりシスターから教えられた槌術の影響がデカいってことなんだ」


「まぁ、そういうことだろうな」


 自身の身につけた技が、シスターとの今までの繋がりが強く現れた証だと気づき、嬉しくなった……


 ありがとうシスター……アナタがアタシに鍛錬をしてくれたからこそ、合格できたよ!


 フォルティナは村に帰ったら、シスターに試験での話をたくさんしようと決めた! アンガスはさらに言う。


「まあ、俺とサイモンも【絶技】を持っとるぞ! つまりだ! 世の中の鍛え上げられた武人ほど技を多く持っとる! まあ……極みレベルの達人の技は俺でも理解できんが……」


「極みレベルって例えば?」


「俺が見たのは1回だけだが、東洋の剣豪が刀を振るった途端に龍が出てきたのを見たぞ! 話で聞いたものだと、正拳突き1発で山に穴を開けたってのもあったな……やばいだろ?」


「凄いね! 刀ってのは分かんないけど、アタシもいつかそんな技が使えるといいなぁ」


 そんな不思議パワーの技をいつか夢見ながら、警備隊で談笑し合い、詰め所を後にする。


 商店街で待っているフェイと合流し、ブルーメの家に向かいながら、フェイが厳選したおすすめ屋台の食べ物を食べつつ向かっていった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

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