表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無知な田舎娘は未知に憧れを抱く!  作者: ギトギトアブラーン
第1章 冒険者認定試験編
22/477

第20話 ブルーメの意志

 バエル・アルジェイドの試験は過酷を極めた……

 最初の男性、2番手の褐色の男性に続いてバエルに挑んだ受験者たちは、ことごとく一方的に叩き伏せられていた!


 それだけならまだよかった。だが、バエルは戦う受験者の尊厳を踏みにじるような発言を繰り返し、肉体的に追い詰めるだけでなく、心までも追い詰めてくるのだ……


 フォルティナたちのグループには20人がいたが、気絶者12名、逃亡による失格者6名という結果で、残る受験者はブルーメとフォルティナの2人だけとなった。


「はぁ〜あ……どいつもこいつもR.O.Dに頼ってばっかで、つまんねぇよ……お前ら、冒険者に憧れてたんじゃねぇのかぁ? 俺が相手した程度で諦められるくらいの覚悟じゃ、この先何をやっても上手くいかねぇぞ……はははははは!」


 アイツ……認めたくないけど、実力は確かだ。R.O.Dという魔法の縛りがありながらも、判断力・反応速度・身体能力、どれをとっても一級品だ……


「さて……次は……もうどっちでもいいか……そこのメガネの女ぁ! 次はお前だ。どうする? 逃げるか?」


「…………やります!」


 ブルーメが呼ばれ、優しかった目に決意の光が宿る。逃げずに戦うことを選んだようだ。

 だが、それでも恐怖を感じているのだろう。体が震えていた。


「ブルーメ! アタシ見てるから! しっかり見てるからね! 負けないで!」


 フォルティナは、今の自分にできる精一杯のエールを送った……あとはブルーメ次第だ。

 頑張れ!


「さて、お前の武器は? まぁ、どうせR.O.Dだろ……最近の受験者はR.O.Dばっかりだ。お前は女だしよ……体を見れば分かるぜ? 武器をまともに握れる体じゃねぇな?」


「そうですね……私はR.O.Dを使って戦います。でも、絶対合格して、憧れの冒険者になるんです!」


 何か地雷を踏んだのか、ブルーメの覚悟を聞いた途端、バエルの表情が険しくなる。


「憧れ……ねぇ? ……お前と、そこのお前」


 バエルは、ブルーメとフィールドの外にいるフォルティナを見やる。


「お前ら、試験前に協会前で話してただろ……?」


「それが、なに?」


 フォルティナが応える。


「ちょ〜っと聞いちまってよ? 母が冒険者で、見たことない大地に憧れてる馬鹿と? 見ず知らずのオッサンの与太話に憧れたお花畑? お前らの話を聞いてると心底腹が立つんだよ……だからよ、縛りがあるとはいえ――本気でいくぜ。さあ、構えろ」


 バエルの言葉に、ブルーメがR.O.Dを構える!

 何か秘策があるのだろうか? その目には確かな気合が宿っていた。


「いつでもどうぞ……」


「なら――試験開始だァ! 【ストーンバレット!】」


 バエルが仕掛ける! 正面に生成された岩の塊が、ブルーメに襲い掛かる!


「迎え撃ちます!【アクアストリーム!】」


 バエルが放った岩と、ブルーメのR.O.Dから放たれた水流がぶつかり合う!

 だが、バエルの岩の威力の方が高いようで、徐々にブルーメへと迫っていた!

 それに気付いたブルーメは横に走り出し――


「なら!【アクアバレット!】」


 追加で魔法を唱え、水の球がバエルに放たれる!

 岩とぶつかり合っていた水流が、バエルの魔法の威力に競り負け、2つに裂けた!

 岩が勢いよくブルーメのいた場所へと放たれる!――が、既にそこにブルーメの姿はない!


「おっと? 【ストーンガード】」


 岩を避けたブルーメが唱えた魔法を、バエルが生成した岩で防いだ!

 バエルは少し口角を上げ、足を“トン”と音を鳴らすように踏んだ。


「惜しかったねぇ! でも当たるわけないでしょ!」


 惜しい! あと少しで当たってたのに!


「なるほど……あなたの魔法の強さが大体分かりました……」


「ほぉ……なら言ってみろよ! 大丈夫! 当たったとしても、お前には勝てないからさ!」


 ブルーメは、バエルの魔法の本質に気付いたようだ。さすがR.O.D使い!


「貴方のR.O.D……恐らくコスト3の高性能品ですね……インストールされている魔法は【岩魔法】、そして2コスト分を強化に当てていますね? 違いますか?」


 パチパチパチパチとバエルが手を叩いた。


「ほぉ? 今の時代に魔法の強さを測れる奴がいるとはな! 正直驚いたぜ! 当たりだ……お前の言うとおり、俺の魔法は2段階強化された中級威力の【岩魔法】さ……なんで分かった?」


 バエルは拍手をしながら理由を聞いた。


「1つ目は簡単です。岩に関する詠唱の多さから、これは単純に【岩魔法】だと分かりました。そして一戦目で見せた岩の柱の規模、2戦目で見せた岩のガントレット……あそこまで緻密な操作はコスト1の魔法では不可能です。なので強化されていると判断しました。

 私の【水魔法】はコスト1の小魔法ですので、最初の魔法同士の競り合いで負けたこと、岩の防御を貫けなかったことで確信しました……」


 でも、それって……ブルーメの魔法じゃ、アイツの魔法と撃ち合えないってことじゃ……


「俺のR.O.Dとお前のR.O.Dの性能の差に気づいたんならさ! もう諦めなよ! お前にどうやったって勝ち目はねぇよ! 貧乏な生まれを呪いな!【ストーンターレット!】」


 絶え間なく岩が生成され続け、そこから石つぶての連射がブルーメに襲いかかる!


「……ッ‼︎【ウォーターヴェール!】」


 急ぎブルーメが唱え、地面から湧き出た水流の壁で凌ごうと試みるが……バエルの【岩魔法】の威力が高すぎる! 多少は威力が落ちているが、石つぶては水流の壁を貫通し、ブルーメに浴びせられる!


「ほらほらほら! そんなんじゃもたねえぞ!!」

「くぅぅ!」


 あれでは防御の意味があまりない! かといって魔法を解除すれば、致命傷は免れない!


 必死にブルーメは【ウォーターヴェール】で威力を落とした石つぶてに耐えていたが……唐突に水流の勢いが落ち……本来の威力の石つぶてが襲いかかる!


「きゃああああ!」


 被弾と同時に水流の壁が崩れ、ブルーメの周囲が水浸しになり、石つぶてが全弾命中する!


「はっはっは! もう魔気切れか? 随分としょぼいR.O.Dだな〜? 中古品か?」


 絶え間なく続く石つぶての嵐に、ブルーメは撃ちつけられ続けていた! 身体中に石が強く突き当たり、頭にもくらったのか血を流しているのが見える!


「ブルーメ! 頑張って!」


 フォルティナは友人の頑張りに応援を送り続ける……が!


「ははははははは! おい女ぁ! 聞いたかよ? 『頑張って!』だとさ! 残酷だよな? こんなにも痛いのに、まだ戦わせようとしてるんだぜ?」


 ……そうかもしれない……アタシは『頑張って』なんて言っちゃいけなかったのかもしれない……けど!


 石つぶての攻撃を止め、バエルがブルーメに歩きながら近づく……


「ありがとう、ティナちゃん……あなたの応援は力になってるよ? 落ち込まないで? 私、まだ諦めてないから……【ウォーターバレット!】」


 膝をつくブルーメは、片腕をバエルに伸ばし水を放つ! が……あっけなく避けられてしまう……結果は岩だらけとなったフィールドに水たまりが一つ増えただけだった……


 そしてバエルはブルーメの髪を掴み上げ、罵声を浴びせる!


「諦めていない? 今の攻撃程度しかできないお前に何ができる! R.O.Dの魔気残量は尽き、体もズタボロ! 大体なんだ? そのR.O.Dは! まだ試験開始から10分ほどしか経ってないのに魔気切れだと? たしか……父親が買ってくれたんだったな? こんなしょぼいR.O.Dしか買えないなんて、相当貧乏な家で育ったんだなぁ! 母親もそうだ! 冒険者になって、知らない大陸でみんなのために死んだって? 違う違う! 使い物にならない足手まといだから捨てられたんだよ! 現実を見ろよ!」


「違う! お父さんは私のために一生懸命働いてR.O.Dを買ってくれた! 応援してくれたの! お母さんも、みんなのために戦ったんだ!」


 バエルはブルーメがなかなか折れないことに腹を立て始め、目を細めて睨む。


「【ストーンピラー!】」


 バエルが魔法を唱える! 膝をつくブルーメの下から石柱が勢いよく突き上がり、顎に直撃し、宙に投げ出された!


 地面に全身を強く打ちつけるように落下するが……

 それでも立ち上がろうとする姿に、バエルはさらに憤る。


「早く諦めろよ! クソみたいな親父から与えられた使えないゴミと、ババァに憧れた結果がこのザマだろ?」


 いい加減にしろ……!


 フォルティナはバエルの言葉に怒りを覚える!


「どんだけ頑張ったとしても、娘のお前がこの程度じゃ、死んだババァも浮かばれないよなぁ! はははは!」


 アンタなんかがブルーメの憧れを笑うな!


「ぐっ! うぅ……」


 バエルの言葉にブルーメは涙を流し始める……

 自分が馬鹿にされるのは耐えられた。だが、自分の憧れのために少ないお金でR.O.Dを買って応援してくれた優しい父親。


 未知の大陸を歩き、パーティのみんなを守るために死んだ憧れの母親を馬鹿にされたことが悔しかった……


 ごめんなさい……ごめんなさい……私に力がないばかりに! ごめんなさい……


「うぅ……」


「今さら泣いたって何にも変わんねぇよ!」


 バエルがブルーメの泣き顔を蹴ろうと足を振り上げ……


 ガツン‼︎


「あ?」


 足先から岩みたいな感触……バエルは確かにブルーメの顔面を蹴りつけた……はずだった……


「ごめん……ブルーメ……試験の邪魔しちゃった……」


 フォルティナが我慢の限界を迎え、フィールド内に乱入。ブルーメを庇い、バエルの足蹴りを背中で受けた。


 ブルーメは意識を失っていた……その頬には涙の跡が見えた……

 それはきっと、自分の力ではバエルに敵わないこと。憧れを侮辱された悔しさだと、フォルティナはその涙から確信した!


「アンタ、いい加減にしなさいよ……」


「あん?」


「アンタがアタシ達の憧れを! 夢を! 馬鹿にするんじゃないわよ!」


 ブルーメを抱えながら、顔をバエルに向けて言い放つ!


 受験者たちの夢や覚悟を侮辱したこと! そして、なにより友達をこんなに泣かせたことに怒りを覚え、バエルに向き合い、指を突きつけて宣言する!


「アンタみたいなクソ野郎は! アタシがブッ飛ばす!」


「へぇ……面白いじゃないかクソガキ……」


 バエルはこの威勢のいいフォルティナに腹を立てる……

 ガキがこの俺をブッ飛ばすだと……? 現実を知らないクソガキが!


 アタシ、絶対負けない! こんな奴に……夢や憧れを否定するコイツにだけは、絶対に負けられない!

ここまで読んで頂きありがとうございます!

至らない部分があると思いますが温かい目で見ていただけるとありがたいです。

それでも面白いと思って頂けたら評価、ブックマークをよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ